1996年にインディーでDim Mak Recordsをスタート、現在はEDMシーンのトップDJ/プロデューサーとして大人気となっているSteve Aoki(スティーヴ・アオキ)。ここ日本での人気も絶大です。DJ中の“ケーキ投げ”パフォーマンスや、セレブリティであることがあまりにも有名なので、パーティ・アニマルのイメージが強いかもしれませんが、実はLAのハードコア・シーンにルーツを持つ、芯の太いアーティストでもあるのです。
2012年にはグラミー賞にノミネートされたデビュー・アルバム『Wonderland』を、2014年にはセカンド・アルバム『Neon Future I』を、2015年にはサード・アルバム『Neon Future II』をリリースし、アーティスト活動も勢いを増すばかり。2016年3月には『ネオン・フューチャー・オデッセイ』で、さらなる新曲も披露しました。
ここでは、ゴールデンウィークに再来日を果たしたSteve Aokiが、現在制作中だという新作、シーンの動向について、Tomo Hirataの質問に答えてくれました。
Steve Aoki、来日インタビュー 2016
__『Neon Future I』、『Neon Future II』は、チャートアクション的にも成功を収め、その総括とも言える『Neon Future Odyssey』もリリースされました。コラボレーションを中心とした、これらの収録曲は、様々な音楽的要素を融合することで、独自の音楽的境地を切り開くことに成功したとも言えると思います。このプロジェクトには、現時点で満足していますか?
どんなアーティストでも、作品をつくっていって振り返ってみるときには、“ここはさらに手を加えて、ここも、ここも…”ということが延々とあるものだよね。だから、作品を完成させる上で何が鍵になるのかというと、どこで止めるかってことだと思う。僕は、いま『Neon Future III』を制作中なんだけど…『Neon Future I』について振り返ってみると、当時の自分の“音”を写したものになっているなって感じるね。『Neon Future I』と『Neon Future II』は、その時の自分のサウンドをそれぞれ表現した内容になっているよ。で、『Neon Future Odyssey』は、その二つの世界観を集約したもので、そこまでの最後、終着点の要素も持ち合わせたものになっていると思う。
__なるほど。もう『Neon Future III』の制作に取りかかっているんですね。
僕がいま制作している、来年リリース予定の『Neon Future III』は、全く新しい音のパレットを使ったものになっているんだ。まずベースの音が前二作とは違うものになっているし、サンプルをベースにしたサウンドとシンセサイザーのサウンドを組み合わせたような手法/プロダクションなんだよね。これまでとは全く違うレイアウトだよ。曲のテンポもダンス・ミュージックの枠にとらわれていない。つまりクラブでプレイされるか否かを気にすることなく、自分の世界とダンス・ミュージック以外のアーティスト達の世界の双方にとって何がハッピーなのかを模索したような、そういったことを目指した作品になっていると思う。『Neon Future I』と『Neon Future II』で他のアーティストとコラボレーションしたときは、彼らを自分の世界に引っ張り込むようなかたちだったけど、今回は自分の世界の外に飛び出していってつくったような曲があるんだ。だから僕としては、コラボレーターと一緒に自由を感じながら制作しているところだね。今回の日本のギグでもプレイしたんだけど、これまでとは違う楽しくてエキサイティングな音になっているんじゃないかな。
__では『Neon Future III』でのコラボレーターは、これまでとはかなり異なる人選なんですか?
そうだね。けっこう仕上がってきてる曲の中で言える範囲だと、blink-182、Wale、Migos、Little Yardie、2 Chainz、DVBBSらとやった曲があるね。シングルに関しては、最初は『Neon Future II』のサウンドを継承したWalk The Moonとの「Heaven Knows」、あとAdam LambertとFelix Jaehnとの「Can’t Go Home」といった具合に、幅広いアーティスト達とコラボレーションしてるよ。自分の曲以外にも、プロデューサーとして新人ラッパーのLil Uzi Vertと5曲やったり、5 Seconds of Summerともスタジオに入ったりしたね。だから、日本のアーティストともコラボしてみたいって思ってるよ。クラブ向きだとかは意識せず、広くいろんなアイデアを試してみたいんだ。クラブ用にはリミックスをすればいいんだし。
__『Neon Future』シリーズは、コンセプトアルバムで、『Neon Future I』にはRay KurzwellやAubrey de Greyが、『Neon Future II』にはJ.J. AbramsやKip Thorneが象徴的に参加していました。『Neon Future III』には誰が登場するのでしょう?
まだ曲には全くしていないんだけど、科学者のビル・ナイ(Bill Nye)を登場させようと思っているよ。あともう一人誰か、だね。そこは、アルバムの最後の段階でやるんだ。J.J. Abramsもアルバムが仕上がる直前にお願いして、まさに彼が『スター・ウォーズ』を手がけているときだったんだけど、快諾してくれて嬉しかったよ。音楽シーン以外の人達をフィーチャーしていくのは、僕としては面白いから続けていきたいね。
__先日リリースされたFelix Jaehn、Adam Lambertとの「Can’t Go Home」はハウス・トラックでしたけど、いまは具体的にはどんなサウンドに興味があるのでしょうか?
うーん…最近はヒップホップっぽいものかな。いまプロダクション的には、サンプリングをベースにした、ヒップホップの伝統を取り入れたものを自分なりに消化しながらやっているところだからね。で「Can’t Go Home」に関しては、僕としてはクラブっぽいものというよりも、ストリーミングで聴くようなポップのカテゴリーに入るようなイメージのものかな。それでFelix Jaehnに声をかけて、僕らしいエネルギッシュな要素と彼のトロピカルな要素を上手く融合させて、そこにAdam Lambertのボーカルが入って、よりポップでエレクトロニックな曲にできたと思う。満足いく仕上がりだよ。
__ヒップホップっぽいということは、例えばSP-1200のような機材も使ったりしようとか考えているんですか?
ノー・ノー・ノー(笑)。僕としては、効率性が大事だよ。機材に凝るのが魅力的なのはわかっているんだけど、僕はやっぱり作業をしていくにあたっては効率を重んじてるから、もっぱらAbletonさ。だからサンプリングといっても僕が言っているのは、誰かの楽曲から音源を抜き出して、その音源のライセンスをクリアして…というのではなくて、例えば自分のボーカルを録音して、それを加工してサンプリングして、みたいなことだね。で、ベースやドロップをつくるのにはシンセを使って、それらを組み合わせていって、というようなイメージだよ。スタジオでは限られた時間の中でたくさんつくっていかないといけないから、集中力やスタミナも必要だし、面白いからといって、あれこれ音で遊んで結局何もできないっていうのではなく、確実に曲を完成させていくという点を重視しないとダメなんだ。だから、限られた作業環境の中でMIDIキーボードとプラグインとスピーカーがあることの方が重要かな。
__ここまでの話の感じでは、フューチャー・ベースやトラップを進化させたようなサウンドを期待していていいのでしょうか?
たしかにフューチャー・ベースやトラップからも刺激を受けているし、刺激を受けた音は自分の音楽にも反映させたい、発信したいって思うものだから、新しい音のパレットの一つにはなるだろうね。僕は、夏に新しいEP『4OKI』を出そうと思っているんだ。以前やった『3OKI』と同じように、1ヶ月に4曲を連続で出していくんだ。毎週、Dim Makのアーティスト達とコラボしてね。それにはハウスっぽい曲やフューチャー・ベースっぽい曲があると思う。
__EDMシーンは、今年大きな転機を迎えていて、多くのプロデューサーがこれまでのビッグルーム・サウンドからハウスやトラップの要素を強くしているように見えます。シーンと音楽的な現状認識について教えていただけますか?
変化が起こっているのはたしかで、僕も世界をまわっていて肌で感じてるよ。ヨーロッパでは、例えばOliver HeldensやDuke Dumontなどがピークタイムでプレイしていて、人々もそれを求めているよね。僕は、そういった変化は喜ばしいことだ思っている。で、そういったアーティスト達の音を聴いて、これはエレクトロ、これはフューチャー・ハウス、これはフューチャー・ベースみたく区別していけるとは思うんだけど、でも一番大事なのは曲そのものにあるエネルギーだと思う、ジャンルや音の傾向に関係なくね。その曲が持っているエネルギーでみんなを動かせるかどうかが重要で、それをちゃんと出せるアーティストであれば、メインステージでプレイできるんだよ。だから逆に、どんなアーティストだって自分の音は常に前進させていかないといけない、じゃないと取り残されるってことだね。それで僕も作品をつくり続けて、出しているわけさ。
__では、EDMシーンの将来については楽観的ですか?
とてもヘルシーだと思う。変化は必要だよ。新たなアーティスト、新しいサウンドを迎え入れることによって将来が明るくなるからね。一方で、もちろんここまでシーンを大きくしてきた人達もいるわけで、彼らは彼らでさらに自分達を新しくしていかないといけないと思う。新たなサウンドを吸収、昇華させながらね。Dim Makはレーベル20周年を迎えるんだけど、僕もレーベルをやっていく中で新たなアーティストからの刺激は歓迎しているし、彼らを成長させたいって思いも持っているし、僕自身もサウンドを進化させていきたいって思っているよ。
__これまでのメインストリームのEDMシーンは、言わばスーパー・パーティー・ピープル達が支えてきたわけですが、今後はより音楽的な側面にスポットがあたっていくと思いますか?
そうかもしれない。さっきも言った通り、新たなアーティストや新しいサウンドが出てきてシーンが活性化していくことは、民主主義の社会と一緒であって当然のことだと思う。僕は全体主義的な社会よりも、自分達は自分達の好きなことをやっていくんだっていうアナーキスティックな精神の方を歓迎するよ。もともとDim Makだって、自分達の独自のコミュニティの中でやりたいことをやりたいようにやって、変化、進化し続けてここまできたんだからね。自分達がリスペクトしていたレーベルは消えていったりしてしまったけど、自分達は生き残った。やっぱりアンテナを張って、いま何が起きているのかを感じ取って、変化していくのは大事なことだと思う。実際に僕が刺激を受けているものだって常に変わっていて、去年刺激を受けていたものと、いま刺激を受けているものは全く違うんだ。
__そうですね。
だからリリースに関しても、“いますぐ出さなきゃいけない、出しちゃおうぜ”ってことで出してしまうことだってある。いま感じたことは、いま出したいからね。でもマネージャー・サイドとしては“いまできるのはここまで”ということもあるわけで、その辺のバランスをとるのは難しいよ。常に刺激を受けて変化しているから、できることならつくったらすぐに出していきたいんだけど。
__以前のインタビューで、「自分のやっていることには犠牲が伴うって感じている。でも、ケーキなんか投げてるのにまともに受け取ってくれって思う方が間違ってるだろ」と自分の音楽の受け止められ方について語っていましたが、これからもケーキは投げ続けますか。
日本では間違いなく投げるよ! なぜなら、日本は世界中でも最高のケーキを作っているからさ。用意されるのは、柔らかいし、絶対に“イチバン、サイコーの”ケーキなんだ。日本のペーストリーを愛しているよ。誰も、日本のフレイヴァーには近づけない。誰もだ!フランス人、イタリア人、他に誰かうまい人いたっけな?スイス人?ベルギー人?誰も日本人には勝てないよ!だから、日本にいる限りはケーキを投げるよ!」
__では、他の国ではやめるかもしれないんですか?
イギリスでは、あるかなー。ケーキがとても硬いんだよ。レンガや椅子を人に投げてるみたいになって危ないんでね。“アブナーイ”(笑)。
__ははは(笑)。最後の質問です。Tomorrowlandで、あなたのパフォーマンスを三度見ているのですが、それはイベントのコンセプトにもある’Music Unites People’にぴったりのものでした。そういった音楽の力を心から信じていますか?
Tomorrowlandには、みんなが国を代表して来ている。もっと多くのフェスティバルが、そんなユニティを持っていたらいいなと思うよ。世界的なユニティをね。君がヨーロッパのどこかの小さな国から来ていても、彼らは国旗をまとっている。そこには、ほんとにたくさんの国旗がある。信じられないほどだ。どんな集まりに行っても、あれほどのユニティを感じることはなかった。スポーツ?あぁ、スポーツ・イベントに行ったら、実際は二つの国が戦ってるだろ(笑)。基本的に競い合ってる。Tomorrowlandにあるのは“Love”だけなんだ。みんなで楽しんでいる。テロリズムも、宗教の問題も、ブラックだろうがホワイトだろうがレッドだろうがパープルだろうが、そんなことは考えなくていい。日本人の隣にイスラエル人がいて、その隣にインドネシア人がいて、サウジアラビア人がいて、オーストラリア人がいて、ヨーロッパ全域から来た人がいて、全員がハッピーなんだ。それは驚くべきほど最も感動的な光景だよ。美しい瞬間だ。忘れられないね。それが僕にとってTomorrowlandが世界最高のフェスティバルである理由なんだ。そこには世界的なユニティがあり、引きつけ合う力がある。
__その通りだとおもいます。
アーティストとして僕が望むことは、もっと多くのフェスティヴァルにそんなパワーを持ってもらいたいってこと。Tomorrowlandに限らず、日本のフェスティバルにもアジア全域をひとつにして欲しいな。ベトナムや韓国や中国や日本の国旗が同じ場所でふられていて、みんながハッピーだったら、すごくグレートじゃないか? かつては戦争していたり、30~40年前には殺しあっていたかもしれない人々が、いまでは手を握り合うために集まってくる。それは100%現実だし、すばらしく美しいことだよ。
interview: Tomo Hirata
interpreter: Banno Yuriko
photo: Eisuke Asaoka
live photo: @caesarsebastian
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Steve Aoki
Neon Future Odyssey(ネオン・フューチャー・オデッセイ)
発売中(3/2リリース)
(JPN) SONY / SICP-4634~6(完全生産限定盤 2CD)
※スティーヴ・アオキ顔ロゴ入り特製トート・バック付
http://www.sonymusic.co.jp/artist/steveaoki/discography/SICP-4634
(JPN) SONY / SICP-4637~8
(通常盤 2CD)
http://www.sonymusic.co.jp/artist/steveaoki/discography/SICP-4637
DISC1
1. トランセンデンス feat. レイ・カーツワイル (Intro)
2. ネオン・フューチャー feat. ルーク・スティール
3. バック・トゥ・アース feat. フォール・アウト・ボーイ
4. ボーン・トゥ・ゲット・ワイルド feat. ウィル・アイ・アム
5. レイジ・ザ・ナイト・アウェイ feat. ワカ・フロッカ・フレイム
6. デリリアス (ボーンレス) feat. キッド・インク / スティーヴ・アオキ、クリス・レイク & トゥジャーモ
7. フリー・ザ・マッドネス feat. マシン・ガン・ケリー
8. アフロキ feat. ボニー・マッキー / スティーヴ・アオキ & アフロジャック
9. ゲット・ミー・アウタ・ヒア feat. フラックス・パヴィリオン
10. ビヨンド・バウンダリーズ feat. オーブリー・デグレイ
11. ボーンレス スティーヴ・アオキ、クリス・レイク & トゥジャーモ
12. ザ・パワー・オブ・ナウ スティーヴ・アオキ & ヘッドハンターズ
13. レイジ・ザ・ナイト・アウェイ feat. ワカ・フロッカ・フレイム (Milo & Otis Remix)
14. デリリアス (ボーンレス) feat. キッド・インク (Reid Stefan Remix)
15. デリリアス (ボーンレス) feat. キッド・インク (Chris Lorenzo Remix)
16. ゲット・ミー・アウタ・ヒア feat. フラックス・パヴィリオン (Botnek Remix)
17. ボーン・トゥ・ゲット・ワイルド feat. ウィル・アイ・アム (Dimitri Vegas & Like Mike vs Steve Aoki)
DISC 2
1. タイム・カプセル (Intro)
2. アイ・ラブ・イット・ホウェン・ユー・クライ (モキソキ) [Radio Edit]
3. ユース・デム (ターン・アップ) feat. スヌープ・ライオン
4. ヒステリア feat. マシュー・コマ
5. ダーカー・ザン・ブラッド feat. リンキン・パーク
6. ライトニング・ストライク feat.ナーヴォ & トニー・ジュニア
7. TARS feat. キップ・ソーン (インタールード)
8. ホーム・ウィール・ゴー (テイク・マイ・ハンド) feat.ウォーク・オフ・ジ・アース
9. ヘヴン・オン・アース feat. シェリー・サンジェルマン
10. ホールディング・アップ・ザ・ワールド feat. ハリソン & アルビン・マイヤーズ
11. ライト・イヤーズ feat. リヴァース・クオモ
12. ワープ・スピード feat. J・J・エイブラムス (Outro)
13. フェノメナ / スティーヴ・アオキ & ボルゴア
14. インターステラー
15. タイタニック
16. ケーキ・フェイス
17. ホーム・ウィール・ゴー (テイク・マイ・ハンド) [Genairo Nvilla Remix]
18. ライトニング・ストライクス [Lambo Remix]
19. アイ・ラブ・イット・ホウェン・ユー・クライ (モキソキ) [Yasutaka Nakata (CAPSULE) Remix]
【オフィシャルサイト】
http://www.sonymusic.co.jp/artist/steveaoki/
http://steveaoki.com/