「EDMっていう言葉は知っているけれど、実際どういう音楽なのか定義がよくわからない」 「音楽的な背景がわからない」という声はよく聞きます。 そこで、簡単な歴史とジャンルのマップをつくってみました。 この手のジャンルは便宜上あるだけなので、細かいつっこみはいくらでも入りますが、大局をとらえるものとして見てください。
まず、多くの人が“EDM”と思っているビッグアーティストのほとんどは、この図の左側“BIG ROOM”というところに入ります。 これは遡るとハウス・ミュージックにたどりつきますので、赤枠内のハウス・ミュージック・グループです。 このグループの大御所は、ポップ・シーンでEDMを大ブレイクさせたDavid Guetta、トランス時代から活躍していてBig Roomに転向したTiesto、ハウス系本流にあるSwedish House Mafia(2013年に解散)が御三家です。 deadmau5は、それ以前にElectro Houseを人気にしたパイオニアということで、別枠でリスペクトされています。 BIG ROOM、FUTURE HOUSEといったドンドンドンドンという四つ打ちのEDMは、ハウス・ミュージックが、よりわかりやすい形に発展したHouse系EDMと考えてよいでしょう。
もうひとつの大きな流れは、ルーツをブレイクビーツ系のサウンドに持つものです。 この流れにUSのエモが合流したところにハードなダブステップのBrostepができ、Skrillexが生まれました。 また、雑食のDiploはヒップホップからの流れをくんでいます。 Trapは、もともとヒップホップのサブジャンルで、現在大人気のFUTUREやMIGOSもそこに入りますが、EDMシーンではBIG ROOMやPOPの影響が強いものを(EDM)Trapと呼ぶことが多くなっています。 こうしたDubstep、Trap、Future Bassなどの非四つ打ち系のEDMは、Bassmusic系EDMと考えることができます。
一般に’EDM’と呼んだ場合は、この二つの大きなグループのうち、黒枠の部分、つまり2000年代中後半以降のものを指します。 なぜ、最近のものだけなのか?ということですが、これは’EDM’という言葉が、2000年代終盤にUSで使われはじめたということと関係があります。 それ以前には’Electronic Dance Music’という言葉はあっても、’EDM’という言葉はほとんど使われていなかったのです。
もっともUSでは、メディアも含め、この図のうち茶枠の「祖先」にあたるものを除いて、すべてをEDMと思っている人が多いようです。特にトランスは間違いなく’EDM’扱いです。
ではなぜ、ヨーロッパや日本とUSで、言葉の範囲が違ってくるのでしょう? これは、近年のEDM人気以前に、各ジャンルのシーンに存在感があったかどうか、から来ています。 ヨーロッパでは、1990年代にハウス、テクノ、トランス、ドラムンベースといったジャンルの大きなシーンが形成されました。 それらはすでに一般レベルで定着していたので、それらをとりまとめるような’EDM’というジャンルの定義は、ヨーロッパでは受け入れられなかったのです。 一方USでは、EDM以前にはこうしたシーンがアンダーグラウンドにしか存在しなかったため、大きな枠の’EDM’に違和感を感じる人が少なく、’EDM’は広義に使われるようになったというわけです。
EDMの波は、Guettaらがブレイクした2009-2011年頃を第一期、フェスとの相乗効果でHardwell、DVLMらの巨大会場向けサウンドが人気となった2012-2014年が第二期、ストリーミングサービスなどでポップミュージックとしてMajor LazerやThe Chainsmokersが人気となった2015年からが第三期と見ることもできます。 これからは、Rock、Pop、Hip Hop/R&B、EDMという分類が定着していくことになるかもしれませんね。
Tomo Hirata