Big Pineapple – Another Chance (Don Diablo Edit) で思うこと

Don DiabloのHexagonからリリースしている、顔出しNG(パイナップルスカルのイラストのみ)の新人Big Pineappleは、デビューシングルとなる、Roger Sanchezのカバー「Another Chance」がヒット中ですけど、ちょっとおもしろい話が。

YourEDMによると、これはDon Diablo本人じゃないかと。
で、Instagramで間違って自分のアカウントで、Big Pineappleあてのコメントに返信しちゃったんじゃないか(つまりBig PineappleはDon本人じゃないか)とのことです

こういう、実在しないアーティストのリリースは、AR的な方向で発展していって、人間自体のビジュアルや素性と音楽の関係は、いずれなくなるだろうと予想します。
それは、ハウスが匿名性を武器に強烈なカウンターカルチャーとして登場したことと重なるし、音楽と人間のビジュアルが切り離されるのは素晴らしいことだと思うんですよね。
そうなれば、文字通り「あらゆる人に平等に」音楽と関われるチャンスが生まれるんですから。
まあこれはアンダーグラウンドのダンスシーンでは、すでに普通のことなんですが、音楽産業全体がそうなっていく可能性があると思うわけです。
生身の人間じゃないものがフロントマンになる例は、Daft PunkとかGorillazとか元気ロケッツとか過去にもあるのですが、そのコンセプトを再考するときがやってきていて、そこに次の大きなムーブメントがあると思います(Big Pineappleは簡素化されすぎですが笑)

このマーケティング重視の時代に、個人のビジュアルは過大評価されすぎていますが、その是正は、皮肉なことに同じマーケティングの中で行われるのです、たぶん。

Hi! I am Big Pineapple. Nice to meet you 🍍💀 How's your day?

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Big Pineapple – Another Chance (Don Diablo Edit) | Official Music Video
Roger Sanchez – Another Chance

MarshmelloとMoe ShaliziとBass Music

Marshmello & Moe Shalizi Play 'Never Have I Ever' | Billboard

EDMがブレイクしたのは2000年代末~2010年代初めの期間で、’EDM’というのは米語です。それまでの間、’EDM’という言葉を使っているメディアは、ほぼ皆無でした。’EDM’というのは、アメリカの音楽業界が、最近のエレクトロニックなダンス・ミュージックを取りまとめるために作った言葉なのです。ヨーロッパの業界では、いまだに’EDM’という言葉を使いたがらない人も多く、彼らは「EDMってのはアメリカ産のダンスミュージックのことだろ?」なんて冗談を言うほどです。Tiestoも’EDM’ではなく’Electoro House’という言葉をつかうことがあります。

その点で、アメリカ産のエレクトロニック・ダンス・ミュージック、Bass Musicは、実は真正の’EDM’です。世界中どこにいってもSkrillexもmarshmelloもOokayもIlleniumも’EDM’扱いです。日本では最近Bass MusicとEDMを区別しようという謎の動きがみられますが、EDMという大きなくくりの中に、USを中心とするBass Musicとヨーロッパを中心とするHouse系のEDMの二大勢力があるだけです。
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ビッグルームEDMは、なぜ失速したのか?

EDMと言えば、日本でみんながまず思い浮かべるのは’1-2-3-Jump!’の、フェスティバルでアゲまくるための四つ打ちのビッグルーム・サウンドやバウンスではないでしょうか?
ところが、このビッグルーム・サウンド、2016年くらいからDJチャートで人気がなくなったばかりでなく、リリース自体が激減しています。
2017年の夏も、ダンスフェスのメインステージではヘヴィープレイされていたのに、2016年以降なぜ失速してしまったのでしょう?これは実は僕も疑問に思ってましたが、先日ヨーロッパの業界の人と話す機会があり、謎が解けました。以下のような流れなのだそうです。

EDMブーム→
プロデューサーがビッグルーム量産→
ダンスフェスブーム→
音楽自体は買わないが、フェスには行く人たちが増殖→
ビッグルームという音楽自体は(フェスは巨大化しているのに)思ったより売れない→
レコード会社は売れないものは出さない→
プロデューサーは出せないものはつくらない→
ビッグルームのリリースが激減→
かけるものがなくなったDJは他のジャンルをプレイせざるをえない / トップDJは自分の曲だけでセットが組めるようになっているので、それで問題ない→
しかし、その状況でフェスはトップDJに今までのギャラは払えない→
この状況で新進DJはビッグルームDJになろうとは思わない

EDM自体は、ポップフィールドとクロスオーヴァーして、ストリーミングを中心に勢いを増していますが、ビッグルームは、この悪循環を壊さないと復活は難しいのかもしれませんね。それには、まったく新しいビッグルーム・サウンドを誰かが提示しないといけないのかもしれません。まあ、EDM=ビッグルームではないわけで、USではベースミュージックがEDMのサブジャンルでは急伸しています。このへんのお話はまた次回。

*写真はイメージです。
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