Beatportが好調らしい

Music Business Worldwideによると、USのダウンロードセールスは2015年の半分以下になってしまったが、ダンスミュージックのダウンロードプラットフォームであるBeatportのセールスは2018年の上半期で8%も伸びていて、USやドイツ、UKといった主要国(ここに日本は入らない)でも同様の伸び率だという。

好調の要因は、DJマーケットにターゲットを絞り込んだからだそうで、それはチャートを見ていてもわかる。
今やBeatportのチャートはテックハウスとテクノに席巻されている。
これらは、Tomorrowlandではメインステージでもプレイされるが、ULTRAやEDCでは基本的にサブステージの音楽で、アンダーグラウンド・クラブを中心にプレイされている。
ダンスフェスのメインステージでプレイされているようなBig RoomやElectro Houseは、いまやBeatportのTop 100内にわずか5曲しかない(2018/10/5現在)。

この現象は、Fisher – Losing Itの爆発的ヒットに象徴されているだろう。
このテックハウスは2018年最大のクラブヒットで、2018年のTomorrowlandで最もプレイされた曲だった。
当初はBeatport Exclusiveでリリースされ、現在ではストリーミングサービスでも数百万という再生回数に到達している。

Fisher – Losing It

Beatportはこの好調を、クラブやフェスのDJから、オープンフォーマット(日本でいうオールミックス)やモバイルDJのような、商業ディスコや結婚式などに呼ばれるDJたちにも広げたいと考えているようで、彼らがプレイするPop、Hip-Hop、R&B、Latinといったジャンルを拡充するようだ。

世界的趨勢だとデジタルダウンロードはオワコン(日本には結局本格上陸しなかったw)なのだが、趣味でDJをやっている人たちも含めて、一般の音楽ファンではなく、世界中のDJをターゲットにするというBeatportのニッチ戦略が成功しているのは興味深い。これは、音楽発信の起点となる人たちの数が増えていることも意味するわけで、SNSマーケティングが生んだスーパースターDJブームが一段落した現在、見逃せない動きだと思う。発信者がいれば、その周辺にはコミュニティも形成されていくわけで、その小さなコミュニティの集合体が大きなシーンを形成するというのは、実はかつてのダンスミュージックシーンの在り方で、原点でもある。歴史は繰り返すのだろうか?

では、両手ほどのスーパースターDJを生み出したEDMシーンは、どうなっていくのだろう?
これはすでに答えが出ていて、Calvin HarrisやZeddのような優れた作曲、プロデュース能力を持った人たちがポップフィールドに組み込まれて発展していく。そもそも彼らはDJ出身ではなく、DJはライヴパフォーマンスの代わりとしてやっているだけだ。
彼らのストリーミングサービスでの再生回数はFischerと二けたも違うわけで、
EDMは、DJミュージックとしての存在感は薄れてしまったけれど、ポップミュージックとしては、これからも盤石なことだろう。

ハウス?EDM?

このところずっと下がってばかりだったポップミュージックのBPMが再び120付近まで上昇するトレンドを予想
ファッションもそうだけど90’s Revivalは、はっきりした形で出てきている
その中でHouseやRaveに注目が集まっていて、ポップとのクロスオーヴァーも起きてる
それをEDMと呼ぶかどうかは、各自の視点で違うけれど、Calvin Harrisは、「なんでEDMをプロデュースするのやめたんだ?」というファンの問いかけに「“EDM”っていう言葉に“ハウス”は入ってるよ。君が言う“EDM”が厳密にProgressive Houseだけなら、別の言葉を探さないとだね」って答えてる
アメリカでは“EDM”は、なし崩し的にClaude VonStrokeからThe Chainsmokersまで示す広義な単語になっているし、そもそも“EDM”は米語だから、それに従って広義に使うのが正解だというのが最新の風潮
ヨーロッパでは、最近は“EDM”っていう言葉自体を使わなくなってきている気がする
DisclosureはHouseなんだし、HardwellはBig Roomでしょ、っていう感じで

参考:EDMとは?ジャンルと歴史で見てみました

ジャンルの定義っていうのは音楽の変化とともに変わっていくものだ
だって、そもそもジャンルなんて存在しないんだから
それはコミュニケーションに使うために仮に作られたものにすぎない

Silk City, Dua Lipa – Electricity (Official Video) ft. Diplo, Mark Ronson
Calvin Harris, Sam Smith – Promises (Official Lyric Video)

ダンスミュージックアーティスト=’DJ’ではない

一般メディアやロック系メディアに多いのだけれど、ダンスミュージックアーティストを’DJ’と表記していることが多い。
たとえばAviciiを’世界で最も成功したDJのひとり’とか。
これは、日本でも海外でも見られる現象だ。

しかし、Aviciiは’DJ’として特別な才能があったわけでもなく、’DJ’として人気が出たわけでもない。
彼にたくさんのファンがいるのは、楽曲が素晴らしいからにほかならない。
それはCalvin Harrisでも、The Chainsmokersでも、Zeddでも同じことだ。
‘DJ’は、彼らにとってライブパフォーマンスの一手段でしかなく、メインの要素ではない。
実際、Kygoは’自分をDJだと思ったことはない’と発言しているし、Zeddも自分はミュージシャンであると言っている。

楽曲が活動の主軸になっているダンスミュージックアーティストは、ポップやロックのアーティストと同列に語られるべきで、そのパフォーマンス形態を肩書にされるのは不本意だろう。

HardwellやSteve AokiやAfrojackといったアーティストは、DJが活動の主軸で、そのDJプレイゆえに人気を獲得しているわけで、彼らを’DJ’と表記することは適切だと思うが、楽曲メインのダンスアーティストをDJと表記するのは、ロックバンドをライブパフォーマー集団と表現するくらい的外れなことだ。

DJと表記すべきかどうかは、そのアーティストがDJプレイのために曲を書いているのか、それとも自分の曲をみんなに聴いてもらうためにDJをしているのかという点で、実は容易に区別できる。特にメディアにかかわる人は、そこに注意を払ってもらいたいものだ。

photo:Drew Ressler/rukes.com