Aviciiショックの意味するもの

Aviciiの日本公演が終了した。
三度三年に渡る来日キャンセル、そして年内でのツアー引退宣言を受けての、まさに最初で最後の来日公演だった。

公演が発表されたとき「どうせまたキャンセルでしょ」という声まで出ていたのも事実だった。
数週前のラスヴェガスをすべてキャンセルしたあたりで、その雲行きが怪しくなっていたのも否めない。

僕はAviciiがキャンセルをするたびに、「自己管理ができていない」「マネージャーが甘やかしすぎ」とかツイートされるのを見ては、「彼はアーティストなのだから僕らの基準で考えてはいけない。体調が悪いのだからしょうがない」というコメントをBlockFMの自分の番組で連発していたのだけれど、番組の相方の谷上君に「そのコメントはファン心理を考えるとよろしくないですよ」とたしなめられる始末だった。

しかし、今回は来た。
ついに彼は約束を果たしてくれた。

僕はTomorrowlandで彼のプレイを見たことがあったのと、昨今の日本のEDMイベントの状況を考えると、まあ無難な感じになって終わりかな?と、たかをくくって行ったのだけれど、驚愕する結果となった。

今回のAviciiのライブは、Ultra Japanの一回目に匹敵する、日本のEDMイベント史上もっとも素晴らしいものだった。
まずなんといっても、Aviciiが2時間にわたって披露した楽曲のクオリティの高さがものすごかった。プレイした曲は、おそらく1曲を除いて、ほぼすべて自分の曲やリミックスだったのだが、iPhoneやPC、クラブで聴くのとは完全に別物になっていた。Aviciiの音楽には、一般の方がEDMと聞くと連想するような’Put Your Hands Up’や’1-2-3 Jump’、パーティの要素は一切無い。美しいメロディとハーモニー、ハウスビートがあるのみなのだけれど、それが大音量で流れ、精細かつ巨大なLEDに映し出されるComixの映像や、ライティングと連動したとき、そこにはこの世のものとは思えない空間が形成されていた。

そのライブを完璧なものにしていたのは、集まっていた素晴らしいオーディエンスだった。
未成年の若者たちから年配の方まで、普段はEDMイベントやクラブに行かない(行けない?)人たちが多数派に見えたのだけれど、彼らは「Levels」はもちろん、「Fade Into Darkness」まで大合唱するほどの熱狂的なファンだった。
アーティストにとって、自分の古い曲までファンが歌ってくれることは、ものすごくうれしいことだと思う。
そこにAviciiとオーディエンスの気持ちが通い合っていたのは間違いないところで、それゆえ会場には、まれに見るポジティブなバイブスが形成されていた。
イントロや曲終わりに歓声が上がるたび、そのバイブスは強力なものになっていった。

このライブから、僕は音楽のパワーのものすごさを再び感じることができた。
それは、とてもとてもすばらしい経験だった。

ここで話は終わりではない。
EDM PRESSのFacebookページに投稿されたアフターレポートには、現時点でなんと2000を超える「いいね!」が集まり、記事のリーチも155シェアで12万を超えているのだ。
これは、Ultra Japanページの「いいね!」が11万台であることを考えると、どれだけものすごいことであるかがわかる。
この数字は、EDM PRESS上ではUltra Japan関連やトップEDM DJのインタビュー記事をもはるかに上回るもので、見方によっては今回のAvicii来日公演は、日本のEDMイベント史上最大の事件だったとも言える。なので、僕はこれを「Aviciiショック」と呼んでみた。

冷静に分析すると、今回のAvicii単独公演は、EDMという音楽が次の段階に移行したことを決定づけたものだと思う。つまり、DJカルチャーからバトンを譲り受けたプロデューサーカルチャーが、コンサートという舞台をパフォーマンスの場にする段階に到達したということだろう。EDMにはもともと、映像、ライティング、特殊効果、観衆まで含めた総合舞台芸術の要素が強く、そこが魅力でもあったのだが、それが単独公演で成立する段階にすでに到達しているのだ。これからのEDMシーンは、優れた楽曲を持つアーティストがライブコンサートを行う形で発展していくのだろう。ZeddやKygoの成功例を見るまでもなく、それは明らかだ。僕の予想では、次にその域に到達するのはMartin Garrixだと思う。

この歴史的転換期に、最高のEDMアーティストの一人であったAviciiがライブシーンから去っていくのは、象徴的でもある。Aviciiはアーティストとして、常に心身ともに極限のところで創造と戦ってきたのだろう。だから、ときにはもう疲れきって戦えなくなり、現実の仕事をキャンセルせざるをえないこともあったのだろうと思う。僕らが日常の生活では手に入れることができないものを、彼は全力をふりしぼって取りに行ってくれて、力尽きたのだ。そのアーティスト精神に、心から「ありがとう」と言いたい。

最後に、日本のEDMシーンに大きな希望があるとすれば、それはAviciiの公演に、彼らにとって安くはないであろう入場料を払って来て、「Fade Into Darkness」を歌っていたような未成年の存在だろう。今回ライブに行けなかった人も含めて、彼らのような存在が、Aviciiのような素晴らしい音楽をつくって、あんなバイブスをつくってみたいと思うところから、次のステージは始まる。

そのカルチャーがうまく育つように、僕にはどんな手助けができるだろう?と今は考えている。

(2016/06/08 Tomo Hirata)

「パリピ経済」の原田曜平さんとTwitterでお話しました

原田曜平「hirataさんのような真の音楽好きがパリピを批判されるのも想定済みです。hirataさんの立場からすれば至極当然です。しかし、立場によって、パリピの評価は変わると思います。少なくとも、彼らが日本の消費に与えている影響はでかくなりつつあります」

Tomo Hirata 「原田さんのマーケッターとしての着眼点はすばらしいと思いますし、おっしゃるとおりだと思います。資本主義の価値観では、パリピに「功」の部分は大きいと思いますし。一方で、彼らがEDMシーンという文化を短期的消費物にしてしまう可能性も否定できないかと」

原田曜平「それも否定しませんが、まあ、認知度が上がれば全てのものがもともとの人から見たら汚された感覚になると思います。また、クラブでお金をとってる以上、全て資本主義です」

Tomo Hirata「基本おっしゃるとおりだと思います。ただ、お金をとってはいても「金では動かない」、それが最優先ではない人たちがいるのも、このシーンでして、僕はそこに大きな魅力を感じて仕事をしています :)」

原田曜平「ただそれが悪いこととは言い切れないとも言っています。音楽愛は理解できますし、素晴らしいと思いますが、やや主観的に読解されてしまう傾向があるので、是非、客観的に、パリピの皆さんも巻き込んで素晴らしい音楽業界を作っていって下さい」

Tomo Hirata 「パリピの皆さんの中にも、ほんとに音楽が好きな人はたくさんいると思いますし、イベント会場で迷惑行為のようなことをしているのは一部の人だと思うので、おっしゃるとおりだと思います。良し悪しの判断も個人の主観ですよね。おつきあいいただき、ありがとうございました」

原田曜平「😄」

原田さんはマーケッターなので、「利益追求」の立場からマーケット分析をされているわけです。
一方で、僕はEDMシーンを文化ととらえているので、そこにマーケッターから見て「おいしい」ポイントがあっても、僕の価値観とは相容れないこともあるわけです。
それが明快になったのが、この会話だったと思います。

僕の立ち位置を「真の音楽好き」と認めていただき、パリピが「EDMシーンという文化を短期的消費物にしてしまう可能性も否定できない」ということも否定できないという認識を共有できたのは大きな収穫だったと思います。

原田さん、お忙しい中、ありがとうございました。

Tomo Hirata (2016/05/01)

EDMイベントとParty People

音楽フェスは「無礼講のお祭り」じゃないので、知識はなくともマナーは必要です(知識は重要ではないのです。そこで新たにその音楽に触れる人もいるのですから)。
とりあえず同じ音楽が好きならば、その音楽の本質に敬意を払って遊び、楽しむのが最低限のマナーだと切に思います

現状の日本のEDMイベントには、フランス料理のお店に来て、大声で騒ぎながら食事をしているような人がたくさんいすぎると感じます。そうすると、そのフランス料理店には、本来のお客さんは行かなくなりますよね。下手すると、フランス料理はもうだめだ、ってうわさになりますよね。では、その大声で騒ぎながら食事をしていた人たちは、そのフランス料理店に行き続けてくれるでしょうか?

結果的に、そのお店はつぶれてしまうのです。

本場のParty Peopleは、とてもよく音楽を知っています。
音楽フェスには、みんなで音楽を楽しみに行きます。
車椅子の人がいたら、みんなで車椅子をリフティングしたりします。
耳の聞こえない人がいたら、なんとかしてバイブスを伝えようとしたりします。
え?って思うようなマイナーな曲をシンガロングしたりします。

だから、日本語で言うところの「パリピ」=Party Peopleではないと僕は思います。
少なくとも英語で言うParty Peopleには「若者トレンドの伝道者」なんていう意味は、まったくありません。
最高にかっこいいParty Peopleは「国籍も、人種も、性別も、年齢も超えて楽しめる音楽フェスは最高だ」と口をそろえて言うものです 🙂

Tomo Hirata (2016/04/20)

原田曜平さんの「パリピ経済」とEDMを考える

博報堂ブランドデザイン若者研究所リーダーという肩書きの原田曜平さんが書かれた「パリピ経済 – パーティーピープルが市場を動かす」という本を読みました。

そこに書かれていた内容で興味深かったのは以下のとおりです。

(5/4追記:原田さんから一部説明をいただきました
05については、以下のとおりです。
原田曜平「EDMを発見したのはもちろんパリピではありません。何故だかhirataさんの読解では私がそう思ってるようにブログに書かれていましたが。。。」
Tomo Hirata「あれ、38Pに「EDMという音楽ジャンル自体も…日本のパリピが目ざとく見つけ、国内のシーンに持ち込んだものです」とあるので、そう思っていました」
原田曜平「文字をそこだけそのまま読み過ぎです。では、何故、フィクサーがいると思いますか?消費者として見つけ、という意味以外では読み取れないので曲解、誤解は困ります」
Tomo Hirata「お返事ありがとうございます。ということは、フィクサーが日本に持ち込んだと???」
原田曜平「持ち込むのは常にプロであることが多いかと」)
EDMを日本に持ち込んだのはパリピではなく、パリピがフォロワーであることでは見解が一致しました)

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01.「ハロウィン」は「単なるコスプレイベント」として定着した

02.靖国神社の「みたままつり」が「様々なトラブルや事件が続発」して休止に追い込まれた

03.「パリピはコミュニケーション力に長け、外交的かつ博愛主義者であり、人と人をつなぐことに無上の喜びを見出します」

04.「マスコミを通じて我々の耳に入ってくる頃には、既にパリピの間ではホットでなくなっている」

05.「パリピが流行らせたもの」というところに“ULTRA”というのがあって、「EDMという音楽ジャンル自体も、もともとは欧米のパーティーやクラブシーンでのムーブメントを、日本のパリピが目ざとく見つけ、国内のシーンに持ち込んだものです」という記述がある

06.“SENSATION”については参加者の発言として「パリピも多かったが女子はギャル系、男子はマイルドヤンキー系が目立った印象」、「選曲がミーハーなので、音を聴きたいパリピは物足りない」とある

07.パリピの特徴は「家が裕福」「読モ、ダンサー、DJが多い」

08.「EDMer」と呼ばれる、EDMを愛する人たちを総称する呼び方が広まっています

09.2015年3月の調査時点で「既にパンピーにまで行き渡った」と認定されたアイテムに「EDM」がある

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まず前提として、原田さんは代理店のマーケッターとして状況分析をされただけであり、その調査、分析力には敬意を表したいと思います。

その上で順番に、ハウス・ミュージック以降のダンス・ミュージックをリアルタイムで見てきた、“(パリピが大好きだという)EDM”のスペシャリストでもある僕がどう思ったか、書かせてもらいます。

まず、01と02は、いかにパリピと呼ばれる人種が物事の本質を無視するかを如実に表しています。それは若者の特権でもあるでしょうが、本質を無視するということは、根の無い植物を育てているようなもので、結果は「短期間での終了」か「激しく曲解、商業化された形での継続」しかありません。それによって問題が発生して、「みたままつり」のようにイベント自体が休止に追い込まれるという最悪の結果を招いた実例まであるということを認識するのは大切だと思います。

03は「博愛主義者」であるなら、相手の立場を尊重した行動ができるはずで、残念ながら同意できません。学生サークル的な集団づくりに長けているのは事実でしょうけれど。

04は、パリピの行動が浅く刹那的であることを物語っています。

05は、僕も含めてこのシーンにいる人なら誰もが間違いであると指摘できます。パリピはEDMに後乗りしただけです。そもそもEDMはハウス・ミュージックの系譜の伝統あるダンス・ミュージックであり、EDMイベントは’90年代のUKレイヴに原点を置くアンダーグラウンド起源のものです。EDCは、もう20周年なのですよ。日本にもちゃんとその流れのシーンはありました。それを、Lady GagaをEDMと思っている(苦笑)ような連中が日本に持ち込んで流行らせたとするのは、あまりに暴論でしょう。実際、僕がageHaさんと一緒にEDMイベントを始めた2012年当時に’EDM’という言葉を使っている人は、日本ではほぼ皆無でしたし、EDMという言葉は2009年頃のDavid Guettaあたりから使われだしたものです。EDMイベントが世界中で爆発的に広がったのは、その根底にPLUR思想があったからであり、ハウス以降のダンスミュージック、30年にもおよぶ歴史が、アメリカの資本力の元でマス化されて花開いたと考えるのが世界的共通認識です。Hardwellは最近のインタビューで「アメリカはやっと追いついたね」とまで語っています。実際、2014年のULTRAには昨年ほど、いわゆる“パリピ”的な人はいませんでした。まあ、本質論はパリピには、まったく意味がないのでしょうが、とりあえず“EDM”を彼らが見つけて国内に持ち込んだという誤った認識だけは訂正していただきたいと思います。

06は参加者の発言なので文責はないかと思いますが、“Sensation”の選曲がミーハーというのは、ありえないです。プレイしたDJは全員オランダのトップDJで、全員ふだんとあまり変わらないしっかりとしたセットでした。ヒット曲を連発している人などいなかったことは、ちょっと音がわかる人なら同意してくれるはずです。ちなみに、よくトップ40の仲間と誤解される“EDM”ですが、オールミックス・カルチャーとは本来ほとんど接点がありません。

07で「DJ」が出てきてしまうところに危うさを感じます。EDMのトップDJは、従来の意味での「DJ」ではなく、全員がプロデューサー/アーティストDJです。思いつきでパリピが手を出せるような代物ではありません。おそらくただPCで有名な曲をかけるみたいなことを「DJ」としているのでしょうが、それはEDMの世界では「ままごと」です。

08は、パリピの間で使われているのでしょうか? 僕の周囲の人間は誰一人、その言葉を知りませんでした。もちろん海外でも目にしたことはありません。僕らは一部のパリピが、実に自分勝手で粗暴なふるまいをすることにより、自分たちの築いてきた大切な音楽やイベントのイメージが悪化し、「みたままつり」のようになることを恐れています。「後乗り」でシーンに入ってきた人たちが荒らしまくったあげくに誰もいなくなった、では笑えないではありませんか。

09は、そのような短期的消費行動のもとに音楽文化を置かないで欲しいのです。前述したとおり、このシーンには30年の歴史があるのです。そもそも’EDMイベント’なんてものは実はないんです。あるのは’ダンスミュージック・フェスティバル’なのです。

いま“EDM”は、音楽面でもイベント面でも、世界的転機にさしかかっています。でも、その根底にあるのは’Music Unites Us All’という思想であり、それは永遠になくならないでしょう。“EDM”は、そもそもが“Electronic Dance Music”の略なのです。そこにはハウスもテクノもトランスもドラムンベースも流れを注ぎ込んでいます。文化を消費財のように見たり扱ったりしないでください。パリピとEDMを結び付けないでください。もう一度言わせてもらいます。彼らは、後乗りで入ってきただけなのです。認識を改めてください。お願いします。

Tomo Hirata (2016/04/17)

EDM終わりか?バブル崩壊?

2016年に入ってからのEDMシーンには、EDM終焉待望論者が喜ぶようなニュースがあふれかえっています。

そのうち最大のものは、“TomorrowWorld (Tomorrowlandではない)”、“Electric Zoo”、“Sensation”などのビッグ・フェスティバル、世界最大のダンスミュージック配信サイトbeatportなどを所有していたSFX Entertainmentが、本拠地のアメリカで連邦倒産法第11章(日本の民事再生法に同等)の適用を申請、それに基づき、再建に向けて努力することになってしまったことがあります。

続いてのニュースは、世界最大のエレクロニック・ミュージック・イベント“EDC Las Vegas”などを運営するInsomniacが、EDC Puerto Rico、Beyond Wonderlandをキャンセル、日本のEDC Japanも延期にしたというものでした。

そして、ここに来て、オーストラリア最大のダンス・ミュージック・イベント“Stereosonic”にも休止の報道が流れています。

さらに、Las Vegasに新しくオープンするクラブは、いわゆる“スーパースターDJ”をブッキングしないとコメントし、Aviciiはライヴ・パフォーマンスからの、今年限りでの引退を発表しました。

これだけのことが短期間で起きたら、それは「EDMはもう終わり」という論調は当然出てくるでしょう。

そこで、ちょっと冷静に状況を分析してみたいと思います。まず、SFXの破綻ですが、これは“EDM”だけではなく、“ダンス・ミュージック”全体にとって影響のある出来事です。大きなフェスのメインステージがEDM系のトップDJに占められているから、SFX=“EDM”と考えるのは間違いです。実際、ほとんどのダンス・フェスでは、サブステージでハウスやテクノ、ベース・ミュージックなど、幅広いダンス・ミュージックが展開されています。SFX傘下のフェスティバルには“Rock In Rio”、“Mayday”、“Q Dance”なんていう、メインストリームEDMとはあまり関係のないものまであります。実際に、SFX関係のイベントで、チケットの売れ行きが思わしくなくてキャンセルになったのは、EDM系ではなくテクノ・ハウス系フェスの“One Tribe”でした。これはbeatportにも、SFX傘下で連邦倒産法の対象にならなかった“Stereosonic”にも当てはまります。ちなみに“Stereosonic”休止の理由は、収支ではなく、死者が出たからと伝えられています。

Insomniacは、今回のキャンセルに関して、他の都市、他のイベントに力を注ぎたいという声明を出しており、こちらも入場者数とは関係がなく、それらのイベントはいつも好調であったと述べています。

Las Vegasの件は、Wynn Las Vegas関係者の発言なので、David Guetta、Avicii、Alessoらが出演するXS Las Vegasには影響してくるでしょうが、Las VegasのEDMシーンに大きな影響力を持つHakkasanやOmnia、The Lightからのコメントではない点に注目です。Page Sixの記事は、いかにもLas Vegas全体がスーパースターDJを排除するような見出しになっていますが、Wynnがライバルとのブッキング競争から降りただけとも言えます。実際、Hakkasan Groupが発表した2016年のラインナップは、Calvin Harris、Tiëstoをはじめ、EDM系のスーパースターDJで固められています

Aviciiは、mixmagの記事にもありますが、超人的なスケジュールをこなすのが無理だったというだけで、これもEDMブームの終焉を意味するものではありません

では、EDMはまだまだ好調なのか?という話になるわけですが、音楽としてのEDMと、イベント関連のEDMシーンとは別物なわけです。イベント関連は、SFXが破綻したことにより、ダンスミュージック・イベント・シーン全体の成長が止まるので、アメリカで一時的に下降線になることは避けられないでしょう。とはいえ、SFXは再建中ですから、来年以降どうなるかは誰にもわかりません。EDMシーンの市場規模は2013年までは爆発的な勢いで伸びており、2014年以降は成熟期に入っていると見られ、これ以上の急速な巨大化はほぼ見込めないと思いますが、それはEDMシーンがなくなることを意味するものではありません。2015年のアメリカでは140万人がダンス・ミュージック・イベントに参加しているとのことで、これだけの規模になったものが消滅した例は過去にありません。ダンス・ミュージック・イベントは、すでにロック・フェスのように独自の地位を確立していると言ってよいはずです。さらに、数年遅れでシーンが進行しているアジアや南米には、まだ大きな伸びしろがあり、世界的にはピークを打っていない可能性もあります。

では、音楽としてのEDMはどうかと言うと、EDMはすでにセールス的に大きなシェアのジャンルとなっていて、これももはや消滅すると考えるほうに無理があります。こちらは、昨年の「Lean On」の大ヒットにも見られるように、まだ成長する余地さえあります。将来的には、ロック、ポップ、ヒップホップ+R&B、EDMの4ジャンルが、若者向けの音楽という形で定着することになると考えるのが自然です。

まとめると「イベントを中心とするEDMシーンは北米では停滞、下降する可能性が高いが、世界的には、アジア、南米を中心に、まだ成長の余地がある。音楽のEDMには、現時点で失速の兆候はない」というのが、僕の主に客観的事実に基づく見解です。

一方で、DJの出演料高騰などによる、プロモーターの収支悪化は、SFXの破綻を見るまでもなく、事実としてあるでしょう。その点では、DJ出演料のバブル崩壊はありえます。実際、北米ではBass系ローカルDJのブッキングが増えていますが、それが収支改善のための策であろうことは、容易に想像がつきます。もっとも、EDM DJの出演料が高いのは、彼らが自分たちのヒット曲を中心にプレイする“アーティストDJ”だからであり、その金額が、曲をつないでいく従来のDJのギャラより高いのは当然のことです。集客力も違うのですから。

では、DJ出演料のバブルが崩壊したら、スーパースターDJ達は、Page Sixが言うように50%ものカットという条件をのむでしょうか? 僕は、そこには?がつくと考えます。というのは、現在トップDJとして活躍しているのは、ほとんどがヨーロッパのDJだからです。ヨーロッパには、北米とは違い、’80年代からのハウス・ミュージックの流れにあるダンス・ミュージック・カルチャーが定着しています。実際、夏のイビサでは、彼らはLas Vegasのクラブと交わすような高額の契約条件を要求せずプレイします。彼らにとっては、本拠地はあくまでヨーロッパであり、Vegasでのプレイは好条件の季節労働的なものでしかないのです。Vegasのクラブが「DJはもはや最も重要な要因ではなくなった」、EDMクラウドを「クールではない」と酷評するのは自由ですが、ヨーロッパのDJたちにとって、Vegasはそもそも音楽的には重要な都市ではないのです。EDM Chicagoは「ベガスのクラブにとって、EDMは死にかかっているアトラクションかもしれないが、それは生きていて、呼吸していて、アイディアを拡大している」と述べ、beatportは「ベガスではトレンドに乗って儲けるのはいつものことだ」と記しています。ストリップやカジノに加わる形で流行した、EDM DJというアトラクションがベガスで終了したとして、そこには音楽的に大きな意味はないのです。これはベガス・スタイルを見本とする多くのアジアのクラブにも当てはまるお話でしょう。そこには音楽文化はないのです。

(4/7追記:“STEREOSONIC”から「2016年は休むが、2017年にはより大きく、良くなって戻ってくる」という公式アナウンスがありました。“TomorrowWorld”も来年以降の復活には含みを持たせており、2016年は、2017年以降に向けてダンスミュージック・フェスの再編が行われた年として記録されることになるでしょう)

(4/9追記:Hakkasan Groupが新しくオープンするJEWELのGRAND OPENING WEEKENDはSteve Aoki, The Chainsmokers, Lil Jonなどということで、Las Vegas全体がEDM離れしているわけではないことは、ここでも明らかですね。また、Hakkasan Group創業メンバーの一人、Alex Codovaさんってのが、いまはWynn Group所属なんですよ。ニュースの裏を読むのも大事ですね)

Tomo Hirata(2016/04/07)