The History of EDM – 3 (’90年代)~ハウス大躍進の時代 – UK編

’90年代のUKは、まさに“ダンス・ミュージックの中心地”と言えるほど勢いがありました。
その動向を見ていきましょう。

まず、’80年代末から、UKではハウス、(ブレイクビート・)ハードコア、インディー・ダンスなどがミックスされたレイヴが爆発的に増殖、ダンス・ミュージックのシーンは、瞬く間に巨大化、ポップチャートにもアンダーグラウンド・トラックが大量にチャートインするという現象が起きました。
このシーンから生まれた最大のスターがThe Prodigyです。EDCの創設者Pasquale Rotellaは、こうしたUKのレイヴ・シーンに影響を受けてパーティを始めたと語っています。
The Prodigy – Charly (’91)

このレイヴ・シーンに呼応する形でロック側からもインディー・ダンスの動きがあり、これらの音楽はUKのバレアリック・シーン、マッドチェスター・ムーブメントの中心となりました。
Primal Scream – Loaded (’90)
The Stone Roses – Fools Gold (’89)
Happy Mondays – Step on (’90)

Happy Mondays – Step On (Official Music Video)

その延長線上にあるJunor Boy’s Ownレーベルは、Underworld、The Chemical Brothersを輩出しています。
EDM系のフェスでOasisがかかったりするのには、こんな背景もあるんですね。
Underworld – Born Slippy (Nuxx) (’96)
The Chemical Brothers – Setting Sun (’96)

その流れでFatboy Slimや、ブレイクビーツ&ロックの要素が強いジャンル、Big Beatのブレイクがありました。
Fatboy Slim – Rockafeller Skank (’98)

よりアンダーグラウンドに近いところでは、トリッピーなプログレッシヴ・ハウスが生まれ、Sasha、John Digweedが象徴となりました。
プログレッシヴ・ハウスは、90年代前半と90年代末から’00年代前半にかけての二度ピークがあります。
Bedrock – For What You Dream (’93)
Sasha – Xpander (’99)

またこのシーンからは、ヨーロッパのフェスでヘッドライナー格まで上り詰めたFaithlessが生まれています。
Faithless – Insomnia (’95)

“UK産ハウス”で、そのあと歴史に名を残しているのは、’90年代末~’00年代初頭に、ラテンやフィルター・ハウスをうまく取り入れたBassment Jaxxでした。
Basement Jaxx – Red Alert (’99)

話を’90年代初頭のレイヴに戻しますが、この頃の(ブレイクビート・)ハードコアからは、ジャングル~ドラムンベースが生まれています。
高速のブレイクビーツをリズムにしたこのジャンルは、レゲエのサウンドシステムからの影響も強く、ハウスの四つ打ちのグルーヴ感から離れたUK独自のものとなりました。
Goldie – Inner City Life (’94)

ちなみにハードコアからは、ハッピー・ハードコア~ハードスタイルが生まれたほか、ドラムンベース経由で2-ステップ、グライム、そしてダブステップが生まれており、EDMとハードコアの関連性は低くありません。

The History of EDM – 1 (’80年代)~ルーツをたどればシカゴ・ハウス
The History of EDM – 2 (’90年代)~ハウス大躍進の時代 – US編
The History of EDM – 3 (’90年代)~ハウス大躍進の時代 – UK編
The History of EDM – 4 (’90年代)~ハウス大躍進の時代 – ヨーロッパ編
The History of EDM – 5 (’00年代)~エレクトロの台頭
The History of EDM – 6 (’09年~’10年)~EDMの起点
The History of EDM – 7 (’10年代)~ダンスフェスの爆発的人気上昇
The History of EDM – 8 (’10年代)~EDMシーンが巨大化
The History of EDM – 9 ~まとめ

The History of EDM – 2 (’90年代)~ハウス大躍進の時代 – US編

’90年代に入ってからのハウス・ミュージック・シーンは、UKを中心に様々な方向へ大躍進となりました。
一方、ハウス発祥の地はUSでしたが、USではハウス・ミュージックは依然としてアンダーグラウンド発信であり続けました。

そんな中、USから存在感を発揮したのがFrankie Knuckles、David Moralesを中心とするDef Mix Productionsで、ここには日本人のSatoshi Tomiieも参加しました。彼らは美しいピアノとストリングスを武器に、Michael Jackson、Madonna、David Bowie、U2、Mariah Careyといった超大物も含むリミックスを’90年代を通して大量に手掛け、メジャー・シーンからも、なくてはならない存在となります。中でも’90年に発表されたAlison Limerick – Where Love Lies (Classic Mix)は、名曲中の名曲に数えられています。

Alison Limerick – Where Love Lives


Def Mixに迫る勢いだったのは、”Little” Louie VegaとKenny “Dope” Gonzalezからなる、ジャズ、ラテンのテイストを持つ、Master At Workで、こうしたDef MixやMAWのサウンドが’90年代のUSハウスをリードしました。

この時代には、当時世界最高のサウンドシステムを持つと言われていたSound FactoryのJunior Vasquezらのハード・ハウスや、Danny Tenagliaらのトライバル・ハウスも人気を博しました。

The History of EDM – 1 (’80年代)~ルーツをたどればシカゴ・ハウス
The History of EDM – 2 (’90年代)~ハウス大躍進の時代 – US編
The History of EDM – 3 (’90年代)~ハウス大躍進の時代 – UK編
The History of EDM – 4 (’90年代)~ハウス大躍進の時代 – ヨーロッパ編
The History of EDM – 5 (’00年代)~エレクトロの台頭
The History of EDM – 6 (’09年~’10年)~EDMの起点
The History of EDM – 7 (’10年代)~ダンスフェスの爆発的人気上昇
The History of EDM – 8 (’10年代)~EDMシーンが巨大化
The History of EDM – 9 ~まとめ

The History of EDM – 1 (’80年代)~ルーツをたどればシカゴ・ハウス

EDMはいまや世界中でメインのダンス・ミュージックになっていますが、その成り立ちは、ここ日本ではあまり知られていなくて、2010年代に入ってヒップホップ、オープンフォーマットやトップ40系の流れで出てきたという、とんでもない誤解まで見受けられます。

そこでこの「The History of EDM」シリーズでは、DJやプロデューサー、音楽ファンが覚えておきたい、EDMが発生するまでの音楽的流れを、楽曲例を上げながら、できるだけ簡単に時系列でまとめていきたいと思います。
とりあえず大まかな図表は、こちらをご覧ください。

まず、みんなが「EDM」と思っている音楽のほとんどの起源は、さかのぼろうと思えばどこまでもさかのぼれますが、「ハウス・ミュージック」と言い切ってよいでしょう。
逆に言うと、「ハウス・ミュージックが、よりたくさんの人たちに受け入れられるような、ポップな形や、大会場を意識した形に発展したものがEDM」というのが歴史的、音楽的には最も大きな流れなのです。

では、ハウスの起源はどこか、と言う話になりますが、「ハウス」という名前は、’77年に開店した、シカゴのクラブ“Warehouse”からつけられています。
そこで活躍したFrankie Knucklesが、ハウスのパイオニアであり、彼が’80年代中盤にリリースした「Your Love」は初期シカゴ・ハウスの代表曲です。

ほぼ同時期にニューヨークで開店したParadise Garageは、ハウス・ミュージックが隆盛となる直前期の伝説的ディスコで、そのレジデントDJ、Larry Levanがプレイしていたサウンドは「ガラージ」と呼ばれ、ソウルフルなガラージ・ハウスの源泉となりました。Larry LevanはFrankie Knucklesの盟友でもあり、ハウス・シーンへ与えた影響も巨大であったと言えるでしょう。

Don't Make Me Wait (Extended Version)

’80年代中盤は、ハウスがアンダーグラウンドから飛躍した時代で、シカゴ・ハウス・シーンからは「ディープ・ハウス」の元祖となるサウンドも生まれました。その代表格がMr.Fingersの「Can You Feel It」(’86)です。

ビキビキしたベース・シンセサイザーTB-303の音をフィーチャーしたアシッド・ハウスも、この頃シカゴから生まれています。
代表曲はDJ PierreらによるPhutureの「Acid Trax」(’87)です。

シカゴのお隣デトロイトでは、こうしたシカゴ・ハウスの動きに呼応するようにデトロイト・テクノが生まれました。このシーンのパイオニアはJuan Atkins、Derrick May、Kevin Saundersonです。
現在「テクノ」と呼ばれているダンス・ミュージックの多くは、ここにルーツがあります。

Strings of Life

USのアンダーグラウンド・シーン、ゲイカルチャー、サブカルチャーの中から生まれたシカゴ・ハウスやデトロイト・テクノが世界的に注目を集めるきっかけとなったのは、UKを通してでした。
’87年にはSteve “Silk” Hurleyの「Jack Your Body」が、なんとUKシングル・チャートの1位になっています。
UKでは、この頃から野外レイヴや、イビサ島からのバレアリックの流れ、インディー・ダンスがハウス人気と合流して、’88年の“Second Summer of Love”を起爆点に、巨大なダンス・ムーヴメントが生まれ始めます。

The History of EDM – 1 (’80年代)~ルーツをたどればシカゴ・ハウス
The History of EDM – 2 (’90年代)~ハウス大躍進の時代 – US編
The History of EDM – 3 (’90年代)~ハウス大躍進の時代 – UK編
The History of EDM – 4 (’90年代)~ハウス大躍進の時代 – ヨーロッパ編
The History of EDM – 5 (’00年代)~エレクトロの台頭
The History of EDM – 6 (’09年~’10年)~EDMの起点
The History of EDM – 7 (’10年代)~ダンスフェスの爆発的人気上昇
The History of EDM – 8 (’10年代)~EDMシーンが巨大化
The History of EDM – 9 ~まとめ

EDMとは?ジャンルと歴史で見てみました

genres

「EDMっていう言葉は知っているけれど、実際どういう音楽なのか定義がよくわからない」
「音楽的な背景がわからない」という声はよく聞きます。
そこで、簡単な歴史とジャンルのマップをつくってみました。
この手のジャンルは便宜上あるだけなので、細かいつっこみはいくらでも入りますが、大局をとらえるものとして見てください。

まず、多くの人が“EDM”と思っているビッグアーティストのほとんどは、この図の左側“BIG ROOM”というところに入ります。
これは遡るとハウス・ミュージックにたどりつきますので、赤枠内のハウス・ミュージック・グループです。
このグループの大御所は、ポップ・シーンでEDMを大ブレイクさせたDavid Guetta、トランス時代から活躍していてBig Roomに転向したTiesto、ハウス系本流にあるSwedish House Mafia(2013年に解散)が御三家です。
deadmau5は、それ以前にElectro Houseを人気にしたパイオニアということで、別枠でリスペクトされています。
BIG ROOM、FUTURE HOUSEといったドンドンドンドンという四つ打ちのEDMは、ハウス・ミュージックが、よりわかりやすい形に発展したHouse系EDMと考えてよいでしょう。

もうひとつの大きな流れは、ルーツをブレイクビーツ系のサウンドに持つものです。
この流れにUSのエモが合流したところにハードなダブステップのBrostepができ、Skrillexが生まれました。
また、雑食のDiploはヒップホップからの流れをくんでいます。
Trapは、もともとヒップホップのサブジャンルで、現在大人気のFUTUREやMIGOSもそこに入りますが、EDMシーンではBIG ROOMやPOPの影響が強いものを(EDM)Trapと呼ぶことが多くなっています。
こうしたDubstep、Trap、Future Bassなどの非四つ打ち系のEDMは、Bassmusic系EDMと考えることができます。

一般に’EDM’と呼んだ場合は、この二つの大きなグループのうち、黒枠の部分、つまり2000年代中後半以降のものを指します。
なぜ、最近のものだけなのか?ということですが、これは’EDM’という言葉が、2000年代終盤にUSで使われはじめたということと関係があります。
それ以前には’Electronic Dance Music’という言葉はあっても、’EDM’という言葉はほとんど使われていなかったのです。

もっともUSでは、メディアも含め、この図のうち茶枠の「祖先」にあたるものを除いて、すべてをEDMと思っている人が多いようです。特にトランスは間違いなく’EDM’扱いです。

ではなぜ、ヨーロッパや日本とUSで、言葉の範囲が違ってくるのでしょう?
これは、近年のEDM人気以前に、各ジャンルのシーンに存在感があったかどうか、から来ています。
ヨーロッパでは、1990年代にハウス、テクノ、トランス、ドラムンベースといったジャンルの大きなシーンが形成されました。
それらはすでに一般レベルで定着していたので、それらをとりまとめるような’EDM’というジャンルの定義は、ヨーロッパでは受け入れられなかったのです。
一方USでは、EDM以前にはこうしたシーンがアンダーグラウンドにしか存在しなかったため、大きな枠の’EDM’に違和感を感じる人が少なく、’EDM’は広義に使われるようになったというわけです。

EDMの波は、Guettaらがブレイクした2009-2011年頃を第一期、フェスとの相乗効果でHardwell、DVLMらの巨大会場向けサウンドが人気となった2012-2014年が第二期、ストリーミングサービスなどでポップミュージックとしてMajor LazerやThe Chainsmokersが人気となった2015年からが第三期と見ることもできます。
これからは、Rock、Pop、Hip Hop/R&B、EDMという分類が定着していくことになるかもしれませんね。

Tomo Hirata

Spotify上陸で気づいたこと

ついにSpotifyのサービスが日本でも始まりました。
すでに日本の競合ストリーミングサービスが固めているところに入っていけるのか?とか、J-POPの楽曲数がどうの、ということを焦点にしている記事も見ますが、ポイントはそこではないと思います。

トップページの「チャート」をクリックすると、真っ先に目に飛び込んでくるのは“トップ50(グローバル)”で、そこでは全世界のSpotifyユーザーの再生回数に基づいたチャートを見ることができます。
10/13現在のチャートは以下のようになっています。
1.The Chainsmokers – Closer ft. Halsey
2.The Weeknd – Starboy ft. Daft Punk
3.DJ Snake ft. Justin Bieber – Let Me Love You
4.Major Lazer – Cold Water (feat. Justin Bieber & MØ)
5.Sia – The Greatest ft. Kendrick Lamar

これは、いままでにほぼ存在していなかったものなんです、実は。
音楽チャートというのは、iTunesでさえ、各国のチャートになっています。
レコードやCDの時代にも、チャートは全米、全英など国ごとでした。
日本ならオリコンチャートですね。

全世界チャートを前面に押し出しているのが、Spotifyが今までのプラットフォームと最も違うポイントだと思うわけです。
僕は「音楽に国境はいらない」と思うので、これがものすごく画期的なことに見えます。

それは各アーティスト・ページにも適用されるわけで、試しにお気に入りのアーティスト名を打ち込んで、その人のページに飛んでみてください。
「人気曲」というのが出てくるので、その右の再生回数を見てください。
いまは、まだ日本のサービスが本格化する前なので、そこに出ている数字からは、そのアーティストがいかに世界的に認知されているかということがわかります。
「詳細」というところからは、そのアーティストのリスナーに、どの都市、国の人が多いかもわかります。
今までは、日本のアーティストが実際に世界的にどのくらい認知されているのかを知る方法はなかったのですが、Spotifyの上陸によって、それがわかるようになりました。

こうやってシーンがガラス張りになることによって、リスナーの音楽シーンへ持つ影響度が上がっていくのは興味深いことだと思いますし、そこには大きな変化が待ち構えていると思うのです。
結果的に日本のアーティストが世界で認められる機会もより増えていくでしょうし、海外アーティストとのコラボにも、より大きな意味が出てくると思います 🙂

2016/10/13 Tomo Hirata