Spotifyの2017年夏ヒット

Spotifyが2017年夏のヒット曲リストTOP30を公開しました。
日本では、Spotifyはまだまだ浸透していないかもしれないけれど、世界的に見た場合、Spotifyは若者層にとっていまや全米チャート級の意味を持っています。

その中にあったEDM系は以下の7曲。30曲中7曲だから、もはやEDMはポップミュージック・シーンの一翼を担っていると言ってよいです。
このまま、ポップ化したEDMは、ヒップホップやロックのように将来にわたって定着するのは間違いありません。
そこに失速の兆候はないわけで、EDMがGuettaやCalvin Harrisのおかげで、ここまで来たことにはジャンル的達成感もあると思います。
「EDMなんてすぐ終わる」と言っていた人たちは評論家筋を中心にたくさんいたわけですが、現実はそんなことなかったわけです。
しかし、フェスやクラブといった現場で、EDMの持続可能性が高いかというと、僕はそうは思いません。
イベント参加者の音楽自体への無関心、トップ40的選曲のDJが、どんな結果をもたらすかは、近い将来にわかることになるでしょう。。。

Calvin Harris – Feels ft. Pharrell Williams, Katy Perry, Big Sean

Calvin Harris – Feels (Official Video) ft. Pharrell Williams, Katy Perry, Big Sean

Jonas Blue – Mama ft. William Singe

Jonas Blue – Mama ft. William Singe

David Guetta ft Justin Bieber – 2U

David Guetta ft Justin Bieber – 2U (Tujamo Remix) [official audio]

Axwell /\ Ingrosso – More Than You Know

Axwell Λ Ingrosso – More Than You Know

The Chainsmokers & Coldplay – Something Just Like This

The Chainsmokers & Coldplay – Something Just Like This (Lyric)

Martin Garrix & Troye Sivan – There For You

Martin Garrix & Troye Sivan – There For You (Official Video)

Clean Bandit – Symphony feat. Zara Larsson

Clean Bandit – Symphony feat. Zara Larsson [Official Video]

オープンフォーマットDJとは?

日本のEDM DJというと、オールミックス系のDJを思い浮かべる人も多いと思いますが、これは世界的に見るとかなり異例な状況だと思います。海外ではオールミックスのことを“オープンフォーマット”というんだそうですが、仕事柄海外のメディアに毎日目を通しているにも関わらず、僕は実は“オープンフォーマット”という言葉を知りませんでした。おそらくヒップホップ系のワードだからだと思うのですが、少なくともフェスのメインステージに代表されるようなEDMシーンには、“オープンフォーマット”のDJはいないし、“オープンフォーマット”スタイルの有名なEDM系のDJで思い当たる人はいません。Viceあたりがそうなのかもしれませんが、彼もPodcastではEDMオンリーのスタイルです。

DJ Vice – These Are The Breaks: Vice in Vegas

そこでGoogle(US)で“オープンフォーマットDJ”で検索もしてみたのですが、Wikipediaにも載っていないし、めぼしい記事はほとんど出てきませんでした。そんな中、唯一ちゃんと解説してくれている投稿がありました。それはPJ Villaflor(Pri yon Joni)という、毎週US全土でプレイしているミックス・アーティスト(彼は自分を“DJ”とは呼びません)のもので、タイトルが「オープンフォーマットDJ vs アーティストDJ」。論点は「オープンフォーマットDJはワールドクラスのアーティストDJになれるか?」というものでした。以下ちょっと解説入りで要約しますね。

まず「オープンフォーマットDJ vs アーティストDJ」という構図は「ウェディングDJ vs クラブDJ」とパラレルであるということです。“ウェディングDJ”といってもピンとこないと思いますが、海外には“モバイルDJ”という職種がありまして、これはWikipediaにもちゃんと載っているのですが、自前の機材を持って、結婚式やバーや会社や学校のパーティ、誕生日パーティ、ときにはクラブに出向いてプレイするものです。彼らの仕事は、「お客さんを喜ばせること」で、それはスキルを必要とする、多様性という意味ではもっともクリエイティブなスタイルであると同時に、「サービス業」と見なせるとPJは言っています。学パーのような、クラブに行きなれていない人たちが集まるところには、まさにピッタリだということです。

一方で“アーティストDJ”は、(たとえばEDM DJなら)いつもEDM一直線で、DJスキルはベーシック、なぜなら彼らのクリエイティヴィティは自分の曲の制作に注がれているからです。補足すると“クラブDJ”も基本的には自分の曲を交えながらワンジャンル中心にプレイします。

オープンフォーマットDJとアーティストDJの本当の違いは、オープンフォーマットDJは、スーパースターがつくったヒット曲とDJスキルを使ってヴァイブスをつくるのに対し、アーティストDJは自分の曲でヴァイブスをつくり、それゆえ彼らがスーパースターになりえるということです。“オープンフォーマットDJ”のテーマは「どうプレイするか」で、アーティストDJのテーマは「何をプレイするか」です。

ここで彼は“オープンフォーマットDJ”の象徴として、故DJ AMを挙げて、彼はArmin Van Buurenになりえるか?という話をしているのですが、オープンフォーマットDJ とアーティストDJは「基本的に別物」だが不可能ではないと思うとしています。ただし、それにはひとつのジャンルに絞って自分の音楽をつくりはじめなくてはいけないし、音楽的アイデンティティを持つべきで、オープンフォーマットの領域で自分を見失ってはいけないとしています。

最後に彼は「ジャンルがなんであれ、心から自分が愛するものを自分の言葉のようにプレイしているDJのプレイは楽しめるし、それはただみんなのためにプレイしているDJとは違う。古くからの名言に“みんなを楽しませようとしたら、誰も楽しませることはできない”ってあるじゃないか」と締めくくっています。

そこで、僕はこのPJさんとメッセージのやりとりをして、実際のところ“オープンフォーマットDJ”とは何か確認してみました。

まずオープンフォーマットDJと、みんながEDM DJで思い浮かべるようなアーティストDJ(ハードウェルとかゼッドとかアヴィーチーとか、ほぼ全員)は別職種です。どっちがいいとか悪いじゃなくて、同じ「DJ」という言葉になっていますが、別の仕事なんです。前者の主な仕事は「存在している曲」をプレイすることで、後者の仕事は「自分の曲」をプレイすることです。

典型的な“オープンフォーマットDJ”は、「結婚式のDJのライブラリーを、ヒップホップのスキルでプレイするようなもの」だそうです。

平均的なバーやクラブでは、単純に来ているお客さんの多くを喜ばせる人が必要なので、“オープンフォーマットDJ”は仕事を得やすいけれど、彼らの名前や音楽性目当てで来てくれるお客さんはほとんどいない。一方でアーティストDJは、初期段階ではまったくギグも収入もないが、将来的にスタジアムを埋める存在になる可能性がある。

フェスや音楽イベントに“オープンフォーマットDJ”はほとんど求められていないが、彼らにはクラブミュージックの枠を超える自由さがある。

というわけで、“オープンフォーマット(オールミックス)DJ”と“アーティストDJ/EDM DJ”は別職種であることがはっきりわかります。前者は「お客さんを喜ばせること」が目的で「サービス業」、「どうプレイするか」がテーマです。そういう意味では、日本で言う「ディスコDJ」に近いかもしれません。後者は、「自分の曲をプレイする」ことがテーマですから、プレイ自体はミニコンサートのようなものです。それが結果的に「ファンを喜ばせること」につながります。好例はマーティン・ギャリックスで、彼のセットはほとんどが自分の曲です。他のEDM DJも、かなりの部分がオリジナル曲、もしくは自分のレーベルの曲で、例外はないとさえ言えます。そういう意味では、“EDM DJ”あるいはフェスのメインステージでプレイするようなDJを目標にするのなら、まずはオリジナル曲をつくることから始めるのが正解かもしれませんね。

EDMの次はトランス再び?

NWYR @ Ultra Music Festival Miami 2017

edm.comにおもしろい記事が出てました。簡単に言ってしまうと、トランスが再注目されてる中、EDMに転向していたSander Van DoornやW&W、Artyなどが別名義でトランスに戻り始めているのは金のためか?って話ですね。
http://edm.com/articles/2017/5/2/edm-djs-are-returning-to-trance

John O’Callaghanは「正直なところ、DJがどれだけ金が欲しかったかって話でしょ。コマーシャルな音楽をプレイして、より金を稼ぎたかったから、そうしたんだ。財布に突き動かされてるなら、そうするでしょ。でも、トランスに突き動かされているなら、自分の愛するところにとどまるよ」って言ってて、アーミンもそれに同意してます。

が、僕はこれは必ずしもそうではないと思うわけです。EDMムーブメントは、ダンスミュージック史上最大のものだったわけで、それは現在も続いています。このエキサイティングなムーブメントや新鮮な音、新しいアーティストとやっていきたいと思うアーティストもたくさんいるわけです、金銭以前の問題として。ティエストがその代表格ですね。

純粋主義者というのは、どこの世界にもいて、彼らがシーンのベースを築いているのですから尊重するのは当たり前なのですが、一方でトレンドセッターやテイストメーカーという人種もいるわけで、こちらがいなければシーンに新しいムーブメントは起きません。

で、本題に戻ると、EDMアーティストがトランスに戻ったとして、そこにEDMで得た新しいエッセンスが加えられているなら、音楽的にはおもしろいことになると思うわけです。シーンが硬直化したら、それは衰退していくだけなので、柔軟に楽しむべきで、結果的にトランスDJがダンス・フェスのメインステージにたくさん帰ってきたら、トランス・ファンだって嬉しいのではないでしょうか。

個人的には、次の大きなムーブメントがトランス・ルネサンスだとは僕は思わないのですが、トランスがここからUSを中心に一段進化する可能性はあるんだろうなと思ってみています。