‘97年に、Ryuichi Sakamoto featuring Sister M名義の「The Other Side of Love」でデビュー、その後はソロとして活躍を見せている、坂本美雨。これまでに5作のフル・アルバムを発表し、透き通るような、さまざまな表情を見せる歌声で、多くのリスナーを魅了してきた存在です。
ここにご紹介する『HATSUKOI』は、そんな坂本美雨が、1年ぶりにリリースしたニュー･アルバム。前作同様、ニューヨークを拠点とする、ザ･シャンハイ･レストレーション･プロジェクトのデイブ・リアンと組んで制作した進展作です。リード･シングルの「Precious」は、すでにiTunes Storeエレクトロニック･チャートで1位を獲得、大きな注目を集めていますね。小室哲哉の作曲による「True Voice」が収録されているのも話題でしょう。
はたして新作『HATSUKOI』は、どんな背景から生まれたのか？ 坂本美雨に対面で聞いてみました。
坂本美雨
“声”や生楽器とエレクトロの融合を追求した
美しい新作をリリース
――『HATSUKOI』は1年ぶりの新作ですが、今作でもデイブ・リアンと組んだのは、なぜですか？
「『PHANTOM girl』をつくっている最中から、“今度はこういうことをやりたいな、試してみたい”ということが、二人の間で具体的に上がっていたんです」
――前作と比較すると、弦や民族楽器などアコースティック楽器が目立っていて、より有機的になった印象だったのですが、なぜこのような方向性になったのでしょう？
「ベースはエレクトロと分かっていたんですけど、こういう音も入れてみたいなという欲が出てきたという感じでしたね」
――タイトルの“HATSUKOI”に込められた意味を教えてください。
「これは、本当に“初めての恋”っていうことだけじゃないんです。例えば、親が子供に対して思う気持ちっていうのは、子供が生まれてから初めて気づく愛情だったりするし、逆の視点で、子供が大きくなってから、初めて親の愛に気づいたりすることもある。そういう気持ちの全部が初めての愛情なわけで、それらを総して“HATSUKOI”って呼んでみたんです」
――ということは、“初めて”と“愛情”が、この『HATSUKOI』を貫いているものなんですね。
「そうですね」
――そうすると、収録されている曲の多くは、広い意味でのラブ・ソングになると思うのですが、それは意図的なものですか？
「そうですね。ちゃんとラブ･ソングを意識して書いたことが今までなかったので、意識してみようかなと思ったんです。あとは、『PHANTOM girl』で築いた明るい世界観っていうものを発展させたかったっていうのもありましたね」
――愛には、恋愛から家族愛まで、様々な形があり、実はそれぞれまったく違った性質を持ったものだと思うのですが、それらを一つ一つテーマにしていったんですか？
「いや。特にそう意識したわけではないんです。もうちょっと恋愛のほうに寄った、ピチピチした曲を書けたらよかったんですけど（笑）、そうならなかったという感じですね」
――坂本さんのラブ・ソングでは、ダイレクトな恋愛風景などは、あまり描写されませんよね。
「そうですね。そういうのは、いっぱい得意な人が他にいるだろうなと思って（笑）。自分が歌うにあたって、そういうところを表現したいっていうのが、出てこないんです。例えば“会いたい”っていう気持ちがあったとして、自分の歌では、その先とか源にあるものを考えて、そっちを表現したいと思ってるんで」
――いろいろな“愛”に共通するものは、何かあると思いますか？
「男の人の初恋は母親で、女の人も父親が好きでっていう、そういう部分がフロイト的な意味で恋愛に響くだろうなっていうのは感じます。自分の恋愛にも、そういうのはあるなぁって思いますね」
――坂本さんの書く歌詞は、いろんな意味に取れるようになっていますよね。そのインスピレーションは、どこから出てくるんですか？
「最初は音です。まれに歌詞が先にあることもあるんですけど、まず音の響きがあって、このメロディーには、この言葉が乗るっていうところから始めるんです」
――メロディーは、どうやってつくっているんですか？
「今回の場合は、デイブとスタジオに入ってプリプロしたんですけど、一緒にトラックからつくっていきましたね。その中で、構成やメロディーもつくっていく同時進行だったんで、自然に出てくる感じでした」
――先行配信された「Precious」は、すでに大きな話題となっていますが、この曲で伝えたかったことは何でしたか？
「結局、守れるものとか、本当に大事なものって、ほんのちょっとしかないっていうか、本当に愛しぬけるのって、限られた分だけなんじゃないかなっていうことですかね」
――坂本さんにとって“Precious”なものって何ですか？
「飼い猫ですかね（笑）。会う前に写真を見たときから、運命を感じる子だったんで。鯖柄なんで、“サバミ”っていう名前なんです。ちょうど1年飼ってるんですけど、家族愛そのものを感じますね」
――アルバムには、小室哲哉さんが参加していますが、これはどういう経緯で実現したんでしょう？
「小さい頃から小室さんが大好きだったんですけど、お互いTwitterをやっていたのでダイレクト・メッセージとかをやり取りするようになって、『PHANTOM girl』も聴いてくださって、とてもほめてくださったんですよ。今回、同じタイミングで小室さんもアルバムを制作していらっしゃったので、お互いの作品に参加するっていう形になったんです」
――コラボしてみて、いかがでしたか？
「こっちの作品に関しては、デモをくださって、アレンジとかも全部まかせてくださったので、コラボというよりは、“小室さんのメロディーを歌わせてもらう”っていう感じだったんです。でも、それだけでも、“小室さん”って一発で分かるすごく強いメロディーを書いてきてくれたし、小さい頃から尊敬してきた、もしかしたら親以上に影響を受けている人に参加してもらえたので、光栄というか、単純に嬉しかったですね」
――アルバムの中で、特に思い入れの強い曲はどれですか？
「「Ring of Tales」ですかね。いっぱいいろんなメロディーが出てきて、ひとり合唱というか、ひとり輪唱みたいなことをしているんですけど、この曲で、自分にしかこういうのはなかなかできないだろうなって思う音や、自分がこれからもっともっと技術を磨いてやっていけるだろうなっていう種類の音に近づいた気がしたんです。単純に歌ってて楽しいし、コーラスを重ねて録っていくのも楽しかったし。声とエレクトロが、うまく融合した曲だなとも思ってますね」
――今後やってみたいこと、予定などありましたら、教えてください。
「舞台音楽とかやってみたいですね。生の舞台とか演劇やダンスもすごく好きなので、そういうところとコラボレーションしてみたいです。予定は、ライブやイベントをやっていきます」
interview & text TOMO HIRATA
【アルバム情報】
坂本美雨
HATSUKOI
(JPN) Yamaha Music Communications / YCCW-10128/B
[初回盤 / DVD つき]
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[通常盤]
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【LIVE INFORMATION】
●ワンマンライブ「HATSUKOI Rings」 (アルバム発売記念ライブ！）
日時：2011年6月23日（木） OPEN 18:00 START 19:00
場所：渋谷DUO MUSIC EXCHANGE
チケット：５月２８日一般発売開始／¥4200（ドリンク代別）
【オフィシャルブログ】
http://ameblo.jp/miu-sakamoto/
【VIDEO】