’08年に『a day, phases』でデビューを果たした、agraph(アグラフ)こと牛尾憲輔。’03年に石野卓球と出会って以来、電気グルーヴをはじめとする様々なアーティストの制作やライブをサポートしてきた、実力派エレクトロニカ・アーティストです。今年は、TETSUYA「Roulette」のリミックスを手がけたほか、iLLの最新作『Minimal Maximum』や、フルカワミキのバンドに参加するなどして、活動の場を広げています。また、先日行われたアンダーワールドのZepp Tokyo公演(10.7)では、オープニング・アクトを務めています。
そんなagraphが、11月3日にセカンド・アルバム『equal』をリリースします。砂原良徳、ミト(クラムボン)、alva notoがプロダクションに参加し、ブックレットには円城塔の書き下ろし短編も付けられた注目作です。その内容は、生楽器の響きに着目した「Lib」、新たなリズムにトライした「nonlinear diffusion」、agraph流アンビエント・ミュージックにトライした「while going down the stairs i & ii」など、前作以上に繊細かつイマジネイティブな音世界を追求したものとなっています。
agraphの新たな音楽的アイディアが詰まった『equal』。本作の内容について、牛尾憲輔に話を聞きました。
agraph
聴く度に新たな音世界が出現する、新時代のエレクトロニカ・サウンド
__早速ですが、まず今作『equal』のテーマについて教えてください。“equal”(イコール)という言葉には、どのような意味が込められているんですか?
「今作では、作品の柱になるものがすごく抽象的なんで、具体的にコレといったテーマはなかったんですけど、僕の中には、前作が動的でダイナミックなものだったのに対して、今作は静的でスタティックな、均衡が取れた状態のもの、というイメージがありました。なんで、そこから“equal”というタイトルを付けました」
__“均衡が取れた状態”というのは、どういったイメージのことを指しているんですか? 前作を制作していた時は、夕暮れの色の変化だとか、景色が変化していく様子にインスピレーションを受けた、と言っていましたが。
「そういった移ろいゆく物事からの影響が、今作にはないんです。今作には展開が豊かな曲も入ってますけど、それは風景の移ろいを表現したものというよりも、静止画が増えていくような感覚を表現したものになっているんですよ。場面場面をつないでいったって感じでしょうかね。そういう感覚でつくったアルバムですね」
__牛尾さんは思想や芸術理論などもお好きですが、そういった分野から何かヒントは得ましたか?
「ゲームやCGの制作技術に、レベルオブディテール(LoD)という考え方があるんですよ。例えば、街を俯瞰で描いた場合、街中にいる人々を細かく描写する必要ってないじゃないですか。でも、それをアップにしていくと、それに対応してだんだんリッチに表現していかないといけない。で、制作中に、丘の上から夜の街を見下ろしたことがあったんですけど、その時この考えが浮かんだんですよね。今、僕と僕が見ている風景の関係は、均衡が取れた状態なっていて、その景色はCGと同じように、詳細が省かれたものになっているけど、ディテールを細かく見ようとすれば、無限に見ていける。…それがこのアルバムの、着想の原点になっていると思います」
__なるほど。では、今作のマスタリングを、砂原良徳さんにお願いした経緯は何だったんでしょうか?
「マスタリングの話をキューン・レコードでしていた時に、たまたま砂原さんがいらっしゃっていたので、相談してみたんですよ。そうしたら、“音がどう変わるのかを一度考えてみた方がいいから、曲を送ってみてよ”って言うので、砂原さんに1曲送ったんですね。そうしたら、翌日マスタリングされた曲が返ってきて、それがすごく良かったんで、“このまま砂原さんでお願いできないですか?”って頼みました。前もってデータを渡したりしていたんで、マスタリングをお願いしたはずなのに、曲にリズムが入って返ってきたこともあったんですけど(笑)、そのアレンジも良かったんで、それを元にまた曲を練り直したりもしましたね」
__「Lib」のミックスは、クラムボンのミトさんが行っていますが、これはどういう経緯でお願いすることになったんですか?
「「Lib」は、このアルバムの中でも最初の方にできた曲だったんですけど、展開が豊かだし、自分の中で今回技術的なテーマにしていた、生楽器のアンサンブルが上手くいった例でもあったので、これは生楽器の音をちゃんと扱える方に磨いていただきたいなって考えたんですよ。で、その時たまたまミトさんと知り合って、クラムボンの新作『2010』も聴いていたので、あの感じに近い解釈でミックスしていだだけるかもって思ったんです」
__ちなみに、今作で生楽器の音にトライしてみようと思ったきっかけは、何だったんですか?
「アルバムをつくり始めた頃に、シメオン・テン・ホルトというオランダ人作曲家のリイシューを聴いたんですけど、「Canto Ostinato」って曲のピアノの音というか、アコースティックな音の響きが、すごく印象に残ったんですよ。それで今作では、全体的にそういった音の響き、処理にトライしてみようかなって思ったんですよね」
__「a ray」では、ビル・エヴァンス「Danny Boy」のピアノ音をサンプリングしていますね。
「ピアノを使った曲をいくつかつくっていたんですけど、響きが似通ってきちゃったので、何か違った鳴り方をしているものが欲しいって思ったことと、あと単純にサンプリングにもトライしてみたかったんで、やってみました。「Danny Boy」を選んだのは、単純に録音と響きが好みで、ピアノを抜き取れる場所があったからですね」
__今作には、「Lib」のアルヴァ・ノトによるリミックスも収録されていますが、これはどういう経緯で実現したんですか?
「ベルリンのOnpaってレーベルから作品を出しているkyokaさんと知り合って、彼女を通じてアルヴァ・ノトにお願いしてみたんですけど、快諾してくれました。しかも、自分が思い描いていたものに近いリミックスを返してくれて、本当に嬉しかったですね。今回は、アルヴァ・ノトも、砂原さんも、ミトさんもそうなんですけど、皆さん僕が描いていた青写真から外れないで、しかもクオリティーは突出したものを返してくれたんですよ。今作では、“こんなことができたらいいなぁ”って思っていたことが全部実現できたので、満足度の高い作品になりました」
__では、最後の質問です。今作には18ページの短編小説も付くそうですが、それはどんな作品なんですか?
「SF小説家、円城塔さん(編注:『Self-Reference ENGINE』『オブ・ザ・ベースボール』で知られる、北海道出身の作家)が、このアルバムを聴いた上で、自分の曲同様、いろいろと自由に解釈できる短編を書き下ろしてくれたんですよ。彼は、結構強烈な本を出版している、その筋では期待の作家さんで、もちろん僕もファンですね。今作を通じて、音楽以外でも想像がふくらむ、振れ幅のある世界を提供したかったので、この小説もぜひ楽しんでもらいたいと思っています」
interview & text Fuminori Taniue
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【アルバム情報】
agraph
equal
(JPN) Ki/oon / KSCL-1649
tracklisting
01. lib
02. blurred border
03. nothing else
04. static,void
05. nonlinear diffusion
06. flat
07. a ray
08. light particle surface
09. while going down the stairs ⅰ
10. while going down the stairs ⅱ
11. lib (remodeled by alva noto)
【ライブ情報】
2010.11.22(月・祝前日)
SILENCERS
@LIQUIDROOM
Live Act:agraph
LOUNGE DJs:T.B.A
open:24:00
Live Start:27:00
tickets:pia/lawson/e-plus/disk union/techinique
※20歳未満の方のご入場はお断り致します。年齢確認のため、
顔写真付きの公的身分証明書をご持参下さい。
info:http://www.liquidroom.net/
【Official Website】
http://www.agraph.jp/