トロンボーン奏者であるアメリカ人の父親と、日本人シンガーの母親のもと、幼い頃からブラック・ミュージックに囲まれて育ってきたAISHA。正式デビュー前にして、すでにグールー(ギャング・スター)の作品に客演参加している他、昨年暮れにリリースされたデビュー盤『AISHA.EP』では、DMC(ラン DMC)との共演も果たしている実力派ボーカリストです。
そのバイリンガルなキャラクターでも注目を集めているAISHAが、新作『AISHA.EP II』を完成させました。いわゆる“セツナ系”アーティストの作品とは一線を画す、ソウルフルなサウンドが堪能できる本作は、J-HIPHOP / R&Bシーンの中でも強烈な個性を放っています。大御所のDJ Hasebe、origami PRODUCTIONSの注目株mabanuaがリミックス作品で参加しているのも話題でしょう。
iLOUDでは、まだ学生だという若き才能AISHAに、この新作について語ってもらいました。
AISHA
USヒップホップ勢も唸らせた
新世代ソウルフル・ボーカリスト
——デビュー第二弾となる『AISHA.EP II』には、どんな意気込みで取り組みましたか?
「『AISHA.EP』のグルーヴィーなところはキープしたまま、リード・トラックの「I Wanna Rock You」では初めてのファンクに、「Love Again」では女の子らしい、AISHAにとってはスイートな雰囲気にチャレンジした感じですね。『AISHA.EP II』は、チャレンジして、ステップアップしたミニ・アルバムになってます」
——アートワークもカッコイイですね。
「それ、ガラスの上にイエロー・ペインティングで“AISHA”って書いてもらったんですよ。その後ろで撮った写真なんです。バック・カバーを見ると、シャドウが見えるんで、良く見ればそれがちょっと分かる感じになってます」
——実際のレコーディングは、どういう段取りで進めていったんですか?
「まず、デモ・トラックを50曲ぐらい聴かせてもらって、その中で“オッ!”ってコネクションを感じるものを選んでいきました。その後、それが声に合うかどうか、歌詞がまだ決まっていない状態で、アドリブの英語詞で歌ってみてチェックしてから、ビルドアップしていく感じでしたね」
——歌詞が決まってからは、けっこう練習しましたか?
「もちろん。練習しまくりましたね。レコーディングの日まで、毎日聴いていました。英語の歌詞はけっこう得意で歌いやすいんですけど、日本語の歌詞は発音とかで苦労しちゃうところが多いんで、日本語の歌詞のほうをよく聴きましたね」
——普段は、英語を使っているときのほうが多いんですか?
「ゴチャマゼなんですけど、学校で英語ばかり話しているんで、英語のほうが得意です。あと、歌に乗せたときに、英語のほうがスムーズな感じがして、歌いやすいんですよね」
——曲を決めてから、それが完成するまでには、どれくらいの時間がかかりましたか?
「1か月くらいかな。EPをつくるのには、2〜3か月ぐらいかかったと思います」
——レコーディング中に、一番楽しかったことは何でしたか?
「自由に歌うのが好きなんで、フェイクしているときに、楽しいと思いました」
——逆に大変だったことは何でしたか?
「「Stay」のサビで、ささやき声みたいなコーラスを重ねまくったところがあるんですけど、そこをつくるのがすごく大変でしたね」
——前回のレコーディングとは、どんな違いを感じました?
「前のCDをつくるために、すごくたくさんレコーディングをやらしてもらったんで、今回はスタジオに入るときも、やっと自信を持って入れるようになりましたね。ディレクターさんも、“自由に歌ってみて”って言ってくれるようになったから、自分の好きな風に歌えたし、表現ができました」
——歌を歌うとき、特に意識したことはありましたか?
「レコーディング中は、何も考えないで、自分の思ったまま、気持ちいいまま歌えばいいや、って感じでやってみました。練習しまくった後は、なるべく頭をからっぽにして、自然に出るものを大事にしようと思ったんです」
——「Heartbeat」では、作詞にも挑戦していますが、英語の中に日本語が入ってくる感じが面白いですね。
「最初は歌詞が全部英語だったんですけど、“AISHAの話し方は英語と日本語がゴチャマゼだから、それを生かしてみたらどう?”ってディレクターが言ってくれて、そうなりました」
——そのゴチャマゼ感は、自分でも気に入っていますか?
「気に入るっていうか、それはわたしにとって普通のことなんです。だけど、そういう話し方をすると、みんながすごく反応するんですよ!」
——「Heartbeat」のインスピレーションは、どんなところから得ましたか?。
「この曲は、オトコとか関係なく、友達と音楽を楽しみにクラブに行くモーメントを歌ったものなんですけど、そこにAISHAがクラブに行くとき大事にしているエレメントを全部入れてみました」
——クラブは、けっこう行くんですか?
「けっこう行きますね! 最近渋谷のHARLEMによく行きます。すごく楽しいですね。ヒップホップとR&Bだけが、かかっているクラブが好きですね」
——作詞は、大変でしたか?
「大変でした〜。言いたいことが長いセンテンスになっちゃうんで、それを短くするのが難しかったですね。でも、すごい楽しかったです」
——リード・トラックの「I Wanna Rock You」は、めちゃくちゃグルーヴィーなファンクですが、こういう曲も好きで聴いていたんでしょうか?
「もちろん! うちのお父さんがトロンボーンを吹いてたんで、バンド・サウンドを聴かせてもらってて、小さい頃からコン・ファンク・シャンとか、聴いてましたね」
——こういう曲を歌うのは、すごく難しいですよね。
「そうなんですよ。R&Bのビートの取り方と全然違って、すごい細かく(ビートを)取んなきゃ歌えないから、苦労しました。とりあえず、歌う前に聴きまくって、リズムの勉強をしました。最初トラックを聴いたときは、そこまで難しくないだろうなって甘く見てましたけど(笑)」
——他に日本人で、ファンクをやっている人は、ほとんどいないですからね。
「そうなんですよ。今ファンクでチャレンジしている人がいないからこそ、あたしがやりたいなって思ったんです。みんなにファンクを好きになってもらいたいからチャレンジしました」
——「Love Again」のトラックは、けっこうエレクトロニックですが、聴いてみてどんな感触でしたか?
「曲は、AISHAにしてはスイートなんですけど、トラック自体はカッコイイから、カッコイイと可愛いのパーフェクト・バランスだなって思って、この曲のデモを聴いた瞬間から“これAISHAの!”ってキープさせてもらいました」
——カバーの「STAY」も、原曲と違った表情になっていて、興味深かったです。
「エターナルの『Always & Forever』に入っている曲なんですけど、あたしの幼い頃、そのCDで初めて覚えた曲が「STAY」だったんです。幼い頃、すごく歌ってた曲だから、今回は一回だけ聴いて、自分らしさを入れて歌ってみました」
——カバーを歌うのには、オリジナルを歌うのとは違う面白さがありますか?
「カバーのおかげで、オリジナルのいい曲に出会ったことがあったので、幼い頃から“歌手になったときはカバーを絶対やるんだ”って決めてたんです」
——今、気に入っているアーティストはいますか?
「ジェシー・Jが、すっごい気に入ってるんですよ。あんなに歌うまい人、久しぶりに見ました。フェイクの使い方が、すごくうまくて、アティチュードがあって、めっちゃカッコイイです」
——『AISHA.EP II』で、特に思い入れの強い曲はどれですか?
「「I Wanna Rock You」ですね。ずっと前からキープしてて、すごく大事にしてた曲なんで。今までつくった曲の中で一番好きです」
——今作は、リスナーにどのように楽しんでもらいたいですか?
「ファンキーでノリノリな曲がたくさん入っていて、自然と身体が動いちゃうEPになっているんで、これを聴いて元気になってもらいたいですね」
——AISHAさんを歌わずにはいられなくさせる原動力は何ですか?
「あたしって、悲しい気持ちでも、怒りでも、ハッピーな気持ちでも、それを歌で表現するのが、すごい気持ちいいんですよ。だから、歌うのは当たり前すぎて、“なんで歌うの?”っていう質問がおかしく聞こえるぐらいですね(笑)」
——最終的にアーティストとして目指しているところは、どんなところですか?
「シェリル・リンやダイアナ・キングといった、憧れていたシンガーのライブを見て、パワーやエナジーをもらって、“歌手になろう”って思ったので、今度はあたしがみんなを勇気づけたり、元気にしたり、いろんなフィーリングを感じさせたりするようなアーティストになりたいですね」
——今、音楽以外の関心事って何かありますか?
「学校の専攻で、コミュニケーションっていう、ジャーナリズムに関わるコースをとっているので、ドキュメンタリーをつくるために、カメラの勉強をしたり、いろんな人のインタビューをしに行ったりしてるんです。エディットも大好きなんで、将来自分のミュージック・ビデオとかエディットできたらなぁなんて思ってます」
——音楽面で、将来やってみたいことは何ですか?
「ゴスペル・ミュージックがすごく好きなので、チャレンジしてみたいですね。クワイヤ(合唱)&ソウルみたいなトラックもつくってみたいです」
——今後の予定などありましたら、教えてください。
「ファーストEPで、「Fallin’ 4 U」をDMCさんとニューヨークで一緒にレコーディングしたんですけど、まだ一緒のステージに立ったことはなくて、そうすることが夢だったんです。それが、今年の5月に、しかもNYで実現することになったので、すごく楽しみですね」
interview & text TOMO HIRATA
【アルバム情報】
AISHA
AISHA.EP II
(JPN)Ariola Japan / BVCL-208
HMVでチェック
【オフィシャル・サイト】
http://www.aisha-online.com/