デヴィッド・コックス(Vocal/Guitar/Machine)とラッセル・クランク(Machine/Guitar)からなる、イースト・ロンドンを拠点に活動するエレクトロ・アクト、オートクラッツ。’09年にKITSUNÉからデビュー・アルバム『アニマル』をリリースし、本国UKやフランスはもちろん、日本でも高い評価と人気を獲得した人気ユニットです。同年9月には、幕張メッセで行われた<Warrior’s Dance Fest>で初来日を果たし、ザ・プロディジー、ペンデュラム、マスタークラフトらと共に、定評あるライブ・パフォーマンスを披露しています。
そんな彼らが、待望のニュー・アルバム『セルフ・ヘルプ・フォー・ビギナーズ』リリースしました。デヴィッドが、“ソングライティング自体を向上させたかった”と語っている通り、彼ららしい楽曲性の高いロッキンなエレクトロを、よりエモーショナルでビッグなサウンドに発展させた注目作です。その内容は、なんとピーター・フック(ニュー・オーダー/ジョイ・ディヴィジョン)が参加した「Becoming the Wraith」、アンドリュー・イネス(プライマル・スクリーム)が参加した「Kick」といった楽曲も収録した、聴きどころ満載ものとなっています。
シングル「Opposite of Love」を筆頭に、オートクラッツの進化した音世界が楽しめる『セルフ・ヘルプ・フォー・ビギナーズ』。今作の内容について、メンバーのデヴィッド・コックスに話を聞きました。
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華麗なる音楽的成長を遂げた、人気UKエレクトロ・ユニットの第二章
よりエモーショナルな楽曲
__この度は、セカンド・アルバム『セルフ・ヘルプ・フォー・ビギナーズ』の完成とリリース、おめでとうございます。本作のお話の前に、まず前作『Animal』の反響はいかがでしたか?
「反響は、驚くほど良かったと思う。レヴューの評価も良かったし、ファンも気に入ってくれた。これ以上ないっていうくらいのものだったと思う。みんなが好意的に受け止めてくれて、楽しんでくれた」
__前作のリリースと、その前後のツアーを通じて、一番印象に残っていることは何ですか?
「そうだね…。たぶん、オーストラリアのシドニーで、2万5千人の前でプレイしたことかな。すごく特別な経験だったよ。それから、ザ・プロディジーと東京でプレイしたことも、すごい体験だったね。この二つは、他のいろんな思い出の中でも、個人的にずば抜けて記憶に残ってる」
__分かりました。では、最新作『セルフ・ヘルプ・フォー・ビギナーズ』について教えてください。まず、今作のネタづくりは、どのようにして進めていきましたか?
「前のアルバムのレコーディングが終わって、リリースされた直後から、曲自体は書きはじめていたんだ。僕らは、曲を書いてから2年間ツアーに出て、その間は新曲を一切書かないようなバンドじゃないからね。だから、前作の作業が終わったら、すぐに次の曲を書きはじめたよ。僕らは、曲を書くこと自体が好きだし、曲を書けないでいると、気持ちがすごく滅入ってくるんだよね(笑)。もう、毎週曲を書いていたいし、曲を書いていない時間は、人生を無駄にしているようにすら感じてしまう。だから、前のアルバム以降、休みなく書きつづけてきたような感じさ」
__具体的には、どんな曲を書こうと思っていたんですか?
「前のアルバムよりも、もっとエモーショナルな曲を書きたかったね。具体的には歌詞に関しての話になるけど、より正直で、ちょっと政治的な要素も取り入れたいって思ってた。今、多くの国の政府は、国民が本当に何を望んでいるかを無視しているだろう? 例えば、リビアみたいな国では、政府に同意しなかったという理由で、多くの人々が殺されている。そういう政治的な要素も、このアルバムには随所に入っているんだ」
__それは、ある意味で、今作全体のコンセプトでもありましたか?
「コンセプトって呼べるほどのものじゃないかもしれない。まぁ、僕が個人的に体験した、みじめな恋愛生活について歌ったものが多いよ。このアルバムの曲を書いていた時期に経験した人間関係とか、哀しみについて歌った内容が多いと思う」
__では、“セルフ・ヘルプ・フォー・ビギナーズ”という、タイトルの由来について教えてください。
「まるで新たにスタートするような気持ちだったから、このタイトルにしたんだ。このアルバムで歌っているテーマは、愛が崩壊していくことについてだけど、そこからまた新しい人生が始まるわけだしね。べつに恋愛に限らず、人生でいろんな苦難を経験して、その時に得た感情と結びつけて解釈できるタイトルだと思う。そういう状態から自分の力で立ち直って、状況をなんとかしていくようなね…。そういう意味合いを込めたタイトルさ」
自然でありのままのサウンド
__音楽的には、前作以上にロックしていて、前作以上にダンスもしている、前作で提示したオートクラッツの音楽性を、そのままバージョンアップさせたようなサウンドを展開していますね。今作の曲づくり、音づくりで、特に意識したことは何でしたか?
「明確には意識してなかったけど、ソングライティング自体を向上させたかった、っていうのはあったと思う。前のアルバムを制作していた時は、自分が実際に何をやってるのか、把握しきれていないような感覚があったんだ。曲の書き方や言葉の選び方を正に学んでる途中、って感じでね。そういう意味で、僕らがこれまでに学んだ技術をきちんと向上させていくというのは、今回のアルバム制作における一つのチャレンジだったと思う」
__なるほど。
「その上で、音楽的により野心的なアルバムにしたかったし、歌詞に関しても、ちゃんと僕ら自身に寄りそった言葉を選びたかった。そういう部分は、今回かなり達成できたんじゃないかな」
__ロックとエレクトロニック/ダンス・ミュージックを両立させるために、何か意識したことはありましたか?
「そこは、あまり意識してはいないよ。ただ、僕らが好きで聴いてきた音楽が、そのまま反映されているだけさ(笑)。例えば、僕が最近聴いた音楽は、クリスタル・キャッスルズ、クイーンズ・オブ・ザ・ストーン・エイジ、プライマル・スクリーム、ニュー・オーダー、ザ・プロディジー、エイフェックス・ツインみたいな感じなんだよ、本当に(笑)。ロック・ミュージックと同じぐらい、エレクトロニック・ミュージックも好きなんだ。だから、自然とこのアルバムのような音ができ上がるんだと思う」
__前作のインタビューの時も、同じようなことを言っていましたね。
「日頃から、ちょっとロックとエレクトロを混ぜて…って意識しているわけじゃないし、ロックとダンスを意識的に融合させようとすると、なんだかバカげた音楽になりがちじゃない? 僕は、そんな気がする。だから、自然に出てきたままのサウンドが、一番いいんだと思う」
憧れの先輩とレコーディング
__先ほど、ニュー・オーダーとプライマル・スクリームの名前が挙がりましたが、今作には、実際にピーター・フック(ニュー・オーダー)とアンドリュー・イネス(プライマル・スクリーム)が参加していますね。まず、「Becoming the Wraith」でコラボレートしたピーター・フックには、どういう経緯で参加してもらったんでしょうか?
「もうずいぶん前のことになるけど、スペインのどこかで僕らがギグをした時、彼がDJをやっていたんだ。で、僕らは、もともとニュー・オーダー/ジョイ・ディヴィジョンの大ファンだから、彼に話しかけて、一緒に出かけたりしたんだ。彼は、本当にいい人さ。それで、“いつかアルバムでプレイしてくださいよ”って言ったら、“おう、いつでもやるよ”って言ってくれてね(笑)。実際に依頼する1年半くらい前に、そんな話をしたんじゃなかったかな」
__そんな以前から、話をしていたんですか。
「それで今回、すごく彼のベースに合いそうな曲ができたんで、彼に送ってみたら、すごく気に入ってくれてね。それで、僕らがマンチェスターにある彼のスタジオまで行って、一緒にレコーディングすることになった。一日一緒に過ごして、彼はベースを入れてくれたよ。素晴らしかったね。彼がベースを弾いてる姿を見て、僕とラッセルは顔を見合わせて、“何てことだ、ピーター・フックがベースを弾いてる”って、思わず言ってしまったよ(笑)。ピーターは、ロック史の中でも、最も重要な影響を与えたベーシストの一人だと思うし、実際、僕らは彼の音楽を聴いて成長してきたからね。すばらしい経験だった」
__アンドリュー・イネスが参加した「Kick」の方には、現在はプロデューサー/エンジニアとして活躍しているジャグズ・クーナー(元ザ・セイバース・オブ・パラダイス/ジ・アルーフ)も参加していますね。彼らには、どういう経緯で参加してもらったんですか?
「ジャグズ・クーナーは、プロデュース業だけじゃなくDJもやっているから、彼のところにはたくさん音楽が送られてくるんだ。それで、僕らのレーベルの誰かが彼にアルバムを送ったら、“アルバムをすごく気に入った”って、メールで返事が返ってきてね。すごく情熱的に褒めてくれたから、僕らも調子に乗って“それじゃ、いつか曲をプロデュースしてください”って返信してみたら、“いつでも喜んでやるよ”って言ってくれたんだ。それで、彼にやってもらいたい「Kick」ができた時点で、その曲を送ったら気に入ってくれたんで、一緒にやることになった」
__こちらも、トントン拍子ですね。
「それで、彼とレコーディングしていったら、曲中にギター・ソロを入れることになってね。で、僕もまあまあのギターは弾けるんだけど、あんまりいいフレーズを思いつけないでいたら、彼が“アンドリュー・イネスに電話してみよう”って言い出したんだ。そう言われたら、僕らは“いいね”って答えるしかないだろう?(笑)」
__そうですね(笑)。
「その時、アンドリューは新しいスクリーマデリカのショーで、すごく忙しかったんだけど、僕らがプライマル・スクリームのスタジオまで来るならやってもいい、って言ってくれてね。それで、本当にプライマルのスタジオまで行って、レコーディングしたんだ。びっくりするような経験だったね。彼らも、本当に人として素敵だけど、アーティストとしてトップにいて、そしてピーターもそうだけど、音楽への情熱を失っていない。いまだに情熱的に音楽を聴いて、つくり続けている。そういう姿を見ることができて、すごく刺激をもらったよ」
__彼らとの実際のレコーディングは、いかがでしたか。楽しかったですか? それとも緊張しましたか?
「あまり緊張はしなかったけど、すごくワクワクしたね。毎日プライマルのスタジオに行けて、楽しかったよ。ピーターと一緒に過ごした午後も、もう本当にずっと笑い続けているような楽しい時間だった。最高だったよ」
僕らはロックンロール・バンド
__その他の楽曲についても、いくつか教えてください。まず、レコーディング自体は、基本的に東ロンドンにあるあなた達のスタジオで行ったんですか?
「いや、いろんな場所でやったね。実は、ツアー中にホテルの部屋で録ったものが多いんだ。ボーカルは後で録り直したけどね。みんな、ツアーってすごく刺激的で、絶えず飛びまわっているようなイメージを持ってるかもしれないけど、実際には何もやることがなくて、時間をつぶさなきゃいけないような時が結構あるんだ。DVDを見るか、曲を書くか…。でも、DVDを観るのにも限界があるから、そうなるとやっぱり曲を書くってことになる(笑)。今回は、そうやって世界中のいろんな場所で曲を書いていったんだ。アルバム制作の最終段階では、田舎のコテージを借りて、そこでレコーディングをすることにしたしね。ロンドンを離れたいって思ったんだ」
__どんなコテージだったんですか?
「ラドヤード・キップリング(『ジャングル・ブック』の著者)は知ってる? 彼の、夏の別荘だった所なんだけど、すごく古くて美しい田舎の小屋だったよ。そこで、このアルバムを完成させたんだ。車に機材を積み込んで、キップリングが居間として使っていた場所にスタジオをつくりあげてね。ただ、残念だったのは、もともとは曲を完成させることに集中したくて、ロンドンを離れたのに、ずっとワインを飲みつづけてしまったことかな(笑)。一度、別荘を管理している人が、何か問題はないかって様子を見に来たんだけど、ゴミ箱にワインの空き瓶が山のように入っていたから、あまり感心してくれなかったと思うよ(笑)。そこらじゅう空き瓶だらけにしちゃってたからね。でも、しょうがないよ。僕らはロックンロール・バンドなんだから(笑)」
__今作の制作で、一番大変だったことと、一番楽しかったことは何でしたか?
「一番楽しかったっていうか、うれしかったのは、やっぱりアルバムが完成した時だった(笑)。楽しかったのは、さっきも言ったけど、ジャグズ・クーナーやアンドリュー・イネス、ピーター・フックと一緒に作業できたことだね。で、大変だったのは…たぶん、自分の暗い気持ちをレコーディングしなきゃいけなかったことかも。悲しい曲が多かったからね」
__では、先行シングル曲「Opposite of Love」は、どのように誕生した曲ですか?
「僕は、いつも愛の対極にあるもの(Opposite of Love)は何だろう、って考えるんだ。で、それは“憎しみ”、って思うかもしれないけど、実際はそうじゃない。むしろ、無関心で全然気にかけないっていうのが、愛の対極にあるものなんじゃないかって思う。…あまり楽観的な曲ではないね(笑)。人間関係が上手くいかなかったと自覚して、負けを認める曲なんだ。どうやっても上手くいかないことはあるんだ、ってね」
BAD LIFEレーベルを設立
__今作は、KITSUNÉではなく、あなた達が立ち上げた新レーベル、BAD LIFE( http://www.bad-life.com/ )からのリリースになりますね。自分達のレーベルを立ち上げようと思った理由は、何だったのでしょうか?
「レーベルを立ち上げる計画は、もうずいぶん前からずっと話し合ってきたことなんだ。僕らは、ツアーをしながら世界をまわって、本当にたくさんの才能あるプロデューサーやアーティスト達と知り合った。そして、そういう自分達のお気に入りアーティストと一緒に、ファミリーみたいな集団を築けたら、どんなに素晴らしいだろうって思ってたんだよ。それで、ちゃんとしたレコード・レーベルをつくれば、それが可能になるんじゃないかって思って、BAD LIFEを立ち上げたんだ。BAD LIFEは、僕らの作品もリリースできるし、自分達が好きなアーティストもリリースもできるレーベルさ。素晴らしい才能を持った人達が、作品をリリースできずにいるってケースもあるしね。これまで、僕らはいろんな人達からサポートされてきたから、これからは、そんなアーティスト達をサポートしていきたい。BAD LIFEは、僕らの音楽に対する愛と情熱を実現させたプロジェクトなんだ」
__BAD LIFEでは、今後どんなアーティストをリリースしていく予定なんですか?
「もう何組かのアーティストと契約していて、もうすぐソビンジャー(Sovnger)のEPが出るし、アムステムダムのTWR72や、イタリアのNT89の作品も出していく予定になっている。今は、エレクトロニック〜テクノ系のアーティストが中心になっているけど、バンドにも何組か声をかけてるよ。夏頃には、もっといろんなアーティストのレコードがリリースできるんじゃないかな」
__分かりました。では、オートクラッツの今後の活動予定を教えてください。あなた達は、活動当初からDJよりもライブにより力を注いできましたが、新しいライブは、どのようなものになりそうですか?
「もう何度かリハーサルしてるんだけど、新曲をどういう形でプレイしていくのかって、決めるのに結構時間がかかるから、まだ固まっていない部分も多いね。でも、ロックでジャンプできるような、すごいショーになることだけは確かだよ(笑)。そして前作と同じように、世界をツアーをしてまわりたい。まぁ、今を本当に楽しめたら、それだけで十分幸せさ」
__日本でまた会えるといいですね。
「そうだね(編注:5/20 (Fri) 名村造船跡地CCO クリエイティブセンター大阪 STUDIO PARTITA、5/21 (Sat) ディファ有明で開催される、<絆>というイベントでの来日が決定しました。詳細はイベント公式サイト http://www.mu-mode.com/ をご覧ください)。日本のことは、今、心配してるよ。東京にはたくさん友達もいるから、いろいろ話を聞いてるけど、本当に恐怖の体験をしたことだろうと思う。早く日本全体がもと通りになることを祈っているよ。またツアーに行きたいね。日本食だって食べたい(笑)。僕は、休暇を取って、日本に3週間滞在したことがあるんだ」
interview & text Fuminori Taniue
tanslation Nanami Nakatani
【アルバム情報】
autoKratz
Self Help for Beginners
(JPN) Traffic/P-VINE / PCDT40(初回盤)
(JPN) Traffic/P-VINE / PCDT41(通常盤)
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tracklisting
01 Opposite Of Love
02 Becoming The Wraith (ft. Peter Hook)
03 Fireflies
04 Last Light
05 The Seventh Seal
06 Skin Machine
07 Kick (ft. Andrew Innes)
08 The Fallen
09 My Own Black Heart
10 R.I.S.E.
11 Their Gun
12 Every Little Scar (Bonus Track)
13 A-Train (Bonus Track)
14 The Fear (Japanese Bonus Track)
15 Made Of Glue (Japanese Bonus Track)
【オフィシャルサイト】
http://trafficjpn.com/autokratz
http://p-vine.jp/artists/autokratz
http://www.autokratz.com/
【LIVE INFO】
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2011/8/12(金)@ 千葉・幕張メッセ
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前売りチケット一般発売日: 6/4(土) 10:00am~
前売りチケット: 9,000円(税込・別途1ドリンク)
期間・枚数限定サマソニウィークエンドチケット(ソニマニ/サマソニ特別通し券):
34,000円(税込・ソニックマニア入場時別途1ドリンク)
※本公演はオールナイト公演の為、18歳未満の方はご入場いただけません。
※写真付きIDチェック有り。身分証明書をご持参ください。
※出演アーティスト変更による払戻しは致しません。
INFO: クリエイティブマン (03-3462-6969)