’00年にアルバム・デビューを果たして以来、実験性を重視したポップ・サウンドを武器に、作品を出すごとに支持層を広げてきたアニマル・コレクティヴ(Animal Collective)。ニューヨークを拠点に活動を続ける、現在のUSインディー・シーンに欠かせない重要バンドです。昨年初頭にリリースしたアルバム『メリウェザー・ポスト・パヴィリオン(Merriweather Post Pavilion)』は、いわゆるチャート音楽とは一線を画すユニークな音楽性を持っていたにも関わらず、全米チャート13位、全英チャート26位を記録し、名実共に世界的注目を集めるグループへと成長を遂げています。
そんなアニマル・コレクティヴの主要メンバーであるエイヴィ・テア(Avey Tare:デイヴ・ポートナー)が、彼らが運営するレーベル、PAW TRACKSから、初のソロ・アルバム『ダウン・ゼア(Down There)』を10月27日にリリースします。彼が人生体験から得た様々なイメージを音楽にしたという本作。その内容は、電子音やエフェクター音、そしてエイヴィ・テアのボーカルが、時にメロディックに、時にアブストラクトに立ち現れては消えてゆく、まるで海中や地中にいるかのようなイマジネイティブなものとなっています。
本作『ダウン・ゼア(Down There)』の内容について、エイヴィ・テアに話を聞きました。
Avey Tare
Animal Collectiveのキーパーソンがつくり出す、至極のインナー・トリップ・ミュージック
__まずは、チャート・アクションでも話題を呼んだ、Animal Collectiveの『Merriweather Post Pavilion』について、少し話を聞かせてください。あなた達にとって、あのアルバム制作はどのようなものでしたか?
「すごく良かったと思う。すべての過程で本当にワクワクしながら作業できたし、みんな、何か特別なことをしているって感じながらアルバムをつくることができた。曲をライブでプレイしてからブライアン、ノアと一緒にスタジオに入った、ってことから、あのアルバムにあるポジティブさやヴァイブは生まれてきたと思う。僕にとって、そんなプロセス全体が忘れられないものとなったね」
__分かりました。では、あなたにとって初のソロ名義作品となる『ダウン・ゼア(Down There)』について、話を聞かせてください。本作の制作は、どのような経緯でスタートしたものなんですか?
「Animal Collectiveとして、ダニー・ペレスが制作した『ODDSAC』(’10)っていう実験映画用の音楽を手がけていた時、僕は、シンセやドラムマシンを使った、もっとエレクトロニックな曲をたくさんつくっていたんだ。で、それらの曲の多くは、当時、僕が自分の生活の中で経験した、暗い出来事にインスパイアされて書きはじめたものだった。妻と別居したり、祖母が亡くなったり、姉が深刻ながんと闘病していたり…。それで、南米ツアーをやった頃に、ソロでどんな曲を書こうかって考えはじめて、最初にできたのが「Ghost Of Books」だった。その後、2年くらいかけて曲を書き溜めて、それらが最終的にこの『ダウン・ゼア(Down There)』になったよ」
__アルバム全体のテーマは、どのようなものでしたか?
「基本的なイメージとしては、幽霊やクロコダイル、見捨てられた小屋とか小さな建物でいっぱいの沼地、それに、死んだ植物とか、空っぽのカヌーが浮かぶ桟橋…みたいなものだったね。特にクロコダイルは、ヴィジュアル的に僕が音楽と結びつけていたイメージで、何か心に訴えかけるものがあった。レコーディングしていた時の僕の頭の中や気持ちは、正にそんなイメージで満たされていた」
__それで、アルバム・タイトルも、“ダウン・ゼア”(下の方、南の方)にしたんですか?
「その意味は、悲しくて落ち込んでいた、ってことだね。制作時は、地獄のシナリオにハマっているみたいな気分だった。だから、自分が感じていた、ネガティブで悲しい気持ちを追い払うために、心の旅に出る必要があったんだ」
__本作を制作するにあたっては、ペルー旅行からも大きなインスピレーションを得たそうですね。どんな旅行だったんですか?
「ペルーでは、ボートに乗って旅をしたよ。タラポトって町では、テントの中でアヤワスカを飲んだ。ある時は、テントから外を眺めたら、完全な暗闇しかなくて、ほとんど何も見えなかったこともあったね。でも、木や植物からは、太古の世界や、大きな爬虫類がその辺を歩き回っているようなイマジネーションを受け取ったよ。このアルバムに入っている曲は、僕にとってまるで幽霊みたいなものなんだ。ずっと長い間封じ込められていたものが、今やっと解き放たれた、ってイメージがある」
__レコーディング作業は、ディーケン(ジョシュ/アニコレのメンバー)と共に、今年6月に行ったそうですね。作業はいかがでしたか?
「最高だったよ。すごくリラックスしてやれた。レコーディング中は、Animal Collectiveでやる時と同じくらい、一生懸命作業したけどね。なぜなら、やらなきゃいけないことがたくさんあるから、いつも時間が足りなくなるんだ。ちゃんとした会話らしい会話を交わすことなく、何時間もただ作業することもあったな。でも夜になったら、映画を見たりジョークを言ったりしながら、リラックスもしていた。そうすると、良い雰囲気を保ったまま作業ができるんだ」
__音づくりで特に重視した点は何でしたか?
「作業してる間、僕はずっと、“沼地みたいに湿ったサウンドにしたい”って言い続けていたよ。もっともっと湿った音にしたい、ってね。でも、そういう表現って、なかなか理解してもらうのが難しい。レコーディングが終わりにさしかかった頃、マスタリングした曲を家に持ち帰って聴いてみたら、本当にがっかりするような音になっていて、“これじゃ僕が目指したような音が全く再現されていない”って思ったよ。それで、また一週間くらいスタジオにこもって、もう一度本当に納得できる音に練り直した。僕にとってサウンドとは、すごく視覚的なものなんだ。自分が思っていたイメージを、自分の鳴らしたサウンドの中できちんとつかまえられた、って感じられるようになるには、相当な努力がいるよ。こういう作業って、正しいリズムをつくるとか、音をタイトにするとかいったことよりも、よっぽど複雑なものだから」
__先行シングル「Lucky 1」は、どのようにして誕生した曲ですか?
「ドラムマシンに合わせて、アコースティック・ギターを弾きながら書いた曲だね。でも最後には、よりエレクトリックにというか、未来派的な音にしたくなってしまった。たぶん、アルバムの中で一番シンプルな曲さ。当初は「Heather In The Hospital」の一部として書いたんだけど、後になって、別々の曲にした方がいいって判断した。ちなみに、僕が個人的に気に入っているのは、「Laughing Hieroglyphic」と「Oliver Twist」だね。でも、アルバム全体がまとまっている感じが、一番気に入ってる」
__分かりました。では最後に、あなたの次なる目標を教えてください。
「自分がエキサイティングだと感じられる音楽を書きつづけることと、新しいサウンド、違ったサウンドで、みんなを刺激し続けていくことさ」
interview & text FUMINORI TANIUE
translation NANAMI NAKATANI
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【アルバム情報】
AVEY TARE
Down There
(JPN) PAW TRACKS/HOSTESS / PAW35CDJ
10月27日発売
tracklisting
01. Laughing Hieroglyphic
02. 3 Umbrellas
03. Oliver Twist
04. Glass Bottom Boat
05. Ghost Of Books
06. Cemeteries
07. Heads Hammock
08. Heather In The Hospital
09. Lucky 1
※『Down There』の全曲試聴はこちらの記事から
http://www.iloud.jp/hotnews/avey_taredown_there.php
【Official Website】
http://www.paw-tracks.com/
http://animalcollective.org/
http://www.digitalconvenience.net/