現在アメリカを中心に、“ヒップホップ以来、最大のユース・ムーブメント”、“ザ・サウンド・オブ・ヤング・アメリカ”と言われるほどのブームを巻き起こしている、新たなダンス・ミュージック・ジャンル、EDM。そのEDMに焦点を定めた、日本初のコンピレーション・ミックスCD『EDM ~Electronic Dance Madness~』が、9/26にリリースされます。日本ではまだまだ認知されていないEDMを、より分かりやすく伝えるべく企画されたこのコンピ。デヴィッド・ゲッタ、デッドマウス、スウェディッシュ・ハウス・マフィアといったEDMシーンを代表するトップ・アーティストの代表曲/最新ヒット曲から、ポップ・アーティストのEDMリミックスまでを網羅した、気軽にEDMをチェックできる、楽しい内容となっています。
ということで、ここでは『EDM ~Electronic Dance Madness~』のコンパイルとミックスを担当したクリエイター/DJ、TOMO HIRATA(iLOUD読者の方はご承知の通り、目下EDMの広報役として活動中です)にインタビュー。本作の内容と、EDMという音楽のポイントについてご紹介しましょう。
photo : David Guetta / deadmau5 / Swedish House Mafia
『EDM ~Electronic Dance Madness~』TOMO HIRATAインタビュー
__まず、今作『EDM ~Electronic Dance Madness~』の企画は、どのような思いと経緯でスタートしたものなのか教えてください。
「去年アメリカでEDMブームが爆発したんだけど、オレはその凄さをずっと海外のメディアを通じて見てたのね。でもその段階では、そういった情報が日本に全く入ってこないし、日本のクラブ・シーンにもEDMをやっていこうという雰囲気が全くなかったので、これは“お前がやれ、という神の啓示なんだろうな…”って思ったのよ(笑)。それでEMIさんにお話しに行きましたら、“やろうじゃないか”ということになったわけです。もともとオレはハウスからトランス、エレクトロまで、エレクトロニック・ダンス・ミュージックをずっと追いかけてきたから、それを総称する新しいジャンルが出てきた、という部分でも興味を持ったしね」
__そもそものことなんですけど、“EDM”という言葉は、とても分かりやすい反面、実はなかなかやっかいだったりもするので、ここでEDMという言葉について改めてご紹介していただけますか?
「“EDM”は、エレクトロニック・ダンス・ミュージックの略称なんだけど、もともとはアメリカで使われていた言葉で、固有名詞じゃないんだよね。ジャンル名ではない。言葉の通り、“電子的ダンス音楽”って意味だから」
__バンド音楽、みたいな言い方と同じですもんね。この場合、どんなジャンルでもバンドであればその範疇に入りますから。
「そうそう。で、アメリカで古くから使われていた意味に従うと、電子的な音で踊れる音楽なら何でもエレクトロニック・ダンス・ミュージックになっちゃう。なんだけど、オレが“大変なことになってるな”って気付いた理由は、“EDM”というその略称にあったわけ。これまではロックしか扱っていなかったような海外メディアが、突然“EDM、EDM”って言い出したんだよ。で、その言葉は、どうやらデヴィッド・ゲッタやスウェディッシュ・ハウス・マフィアのような、今では“メインストリームEDM”って呼ばれているアーティスト達のことを指している、ってことが分かってね」
__最近使われるようになった“EDM”という略称の方は、そういったアーティスト達を総称するジャンル名だ、ということですね。
「だから、昔から使われてきた“エレクトロニック・ダンス・ミュージック”と、今使われている“EDM”は、別物だと思うな。そこをごちゃ混ぜにして使っている人も多いから、混乱すると思うんだけど。でも、昔から使われてきた一般名詞の意味でEDMを使うとさ、クラフトワークとかクラシック・ハウス~テクノみたいなものまで全部入っちゃうんだよ。そうじゃなくて、今使われている固有名詞としてのEDMは、ゲッタやスウェディッシュ・ハウス・マフィアやデッドマウスをメインにした音楽のこと。要するに、一部のエレクトロ~プログレッシヴ・ハウスとか、ちょっとアグレッシヴなダブステップとか、その辺りの音楽のことだよね。アメリカの若い子達は、EDMって言葉を聞くと、そう解釈していると思うな、みんな」
__で、そういったサウンドの盛り上がりや動向は、昨今のBeatportの総合トップ10チャートを見ると一目瞭然だったりする、と。
「そうだね。Beatportトータル・チャートの上位には、EDMがたくさん入ってるよね。10曲中半分以上は、いわゆるEDMだから。オレの解釈だと、デヴィッド・ゲッタが大ブレイクした2009年以降のエレクトロ・ハウスを中心にしたジャンルが、“EDM”かな。それ以前にジャンルとして確立していたもの、ディープ・ハウスとかテクノとか…は、EDMって言ってもしっくりこないと思う。リッチー・ホウティンやデヴィッド・モラレスに対してEDMって言っても、広い意味では間違いじゃないんだけど、彼らには普通使わないよね。EDMって言ったら、やっぱりニッキー・ロメロとかマディオンとか、そういう感じじゃないと」
__今作の具体的なコンセプトについても教えてください。EDMという言葉を意識的に使った日本初のコンピですが、あんまりマニアックな内容にならないよう気を配っていましたよね。
「日本のほとんどの人は、まだ“EDM”って言葉を知らないと思うので、まずは“EDM”って言葉を広めたい、知らしめたいというのがあったんだ。だから、既にEDMを知っているファンやマニアに向けてつくったというよりは、EDMって何?って思っている人とか、EDMを全く知らないという人に向けてつくったCDだね。裾野を広げるためのCDです。もちろん、EDMファンの人が聴いても全然問題ない内容だから、気軽にぜひ聴いてもらいたいんだけど。選曲にはかなり気を使ったんだ。ライセンス等でいろいろ制約が生じちゃう中、主要なEDMアーティストを一通り網羅できたと思うから、誰でも十分楽しめると思う」
__では、今作の内容について、主要アーティスト/楽曲を軸に見ていきましょう。CDのオープニングを飾るのは、デヴィッド・ゲッタですね。CDにはニッキー・ミナージュをフィーチャーした「Turn Me On」が入っております。
「EDMは、デヴィッド・ゲッタがいないと成立しないんですよ。デヴィッド・ゲッタがビルボードのポップ・チャートに進出したことによって、マーケットが開けたわけだから。彼がいなかったら、きっとEDMはブームになってなかったと思う。EDMの代表アーティストを一人だけ言うとしたら、ゲッタしかいない。で、デヴィッド・ゲッタはフランス人なんだけど、実はかなりのキャリアを持ってるんだよね。25年くらい?」
__ですね。かつてはいわゆる“ハウス系DJ”、だったはずです。彼のキャリアについては、ドキュメンタリー映画『NOTHING BUT THE BEAT –THE MOVIE–』を観るとよく分かると思います。
「で、ずっと地道に活動してきて、突如ブレイクした…みたいな感じだったよね。でもそのブレイクの理由は、やっぱりハウス・ミュージックとヒップホップ~アーバン・ミュージックを結びつけたことにあると思う。アメリカのヒップホップ・マーケットが、ちょうど限界に達していたところに、ゲッタが上手くハマったというのもあると思うけど。で、彼はアメリカでヒットを連発するプロデューサーになってしまったわけです」
photo : Katy Perry / Kylie Minogue / Coldplay (©Sarah Lee/eyevine.)
__次はケイティ・ペリーの「The One That Got Away (R3hab Club Mix)」、お願いします。
「ケイティ・ペリーは完全なポップ・アーティストで、EDMアーティストではないんだけど、このCDにはオランダのプロデューサー、リハブのリミックスを収録してみました。で、リハブは新進気鋭の、正にEDM世代のクリエイターだよね。2000年代後半以降に台頭してきた人。ケイティ・ペリーの曲には最近EDMリミックスが増えてきてるんだけど、アメリカのポップ・アーティストのシングルにEDMリミックスが入るのは、今後定番化していくと思うな。このリミックス曲は、ケイティ・ペリー・クラスのビッグ・ネームもEDMに関心を示している、という良い例だと思う。それはマドンナの新作を見ても分かることだし、その前段階でレディ・ガガがブレイクしたことも無関係じゃないとは思うけど。レディ・ガガが、エレクトロ・ポップで若い人達の耳をとらえていたんで、他のポップ・アーティスト達も、エレクトロニックな音にすんなりと入っていける下地ができていたんじゃない?」
__続きまして、デッドマウス。CDには彼のニュー・アルバム『>ココにタイトルを入力<』からのシングル曲で、マイケミのジェラルド・ウェイをフィーチャーした「Professional Griefers」が入ってます。
「デッドマウスは、EDMの重要アーティストだね。なんだけど、この人はデヴィッド・ゲッタとは違って、ゲッタがブレイクする前からBeatportでブレイクしてた。リリー・アレンがMySpaceからブレイクしたアーティストだったとすると、デッドマウスはBeatportから出世したアーティストだよね。で、デッドマウスは、アンダーグラウンドEDM界のスーパースターだと思う。アンダーグラウンドって言っても、「Professional Griefers」を聴けば分かる通り、メジャー・シーンとの交流も盛んな人だけど。そういう意味では、もともと現代的なセンスを持っているアーティストだと思うな。ナード的な側面もあるし、メジャー感もあるし。オレの中でEDM四天王って思っているアーティストがいるんだけど、それはデヴィッド・ゲッタ、デッドマウス、スウェディッシュ・ハウス・マフィア 、スクリレックスだね」
__かつてのアンダーワールド、ケミカル・ブラザーズ、ザ・プロディジー…みたいな感じですね(笑)。続きましては、その四天王の一角、スウェディッシュ・ハウス・マフィアについてお願いします。CDには、「One (Your Name)」と「Save The World」の2曲が収録されております。
「スウェディッシュ・ハウス・マフィアはね、もともとはもうちょっと普通のハウスをやっていた人達だよね。そういう意味ではゲッタに近い。で、2009年に「Leave the World Behind」って曲がヒットして、スウェディッシュ・ハウス・マフィアとしてシーンにブレイクしたんだけど、彼らのカラーを決定づけたのは、その後にリリースした「One (Your Name)」だよね。「One」には、普通のハウスの要素と、語弊があるかもしれないけど、ちょっとトランスっぽい要素が入っていて、それがいわゆるビッグルーム・サウンドの形に結実した、と。「One」は、EDMのカラーが最も象徴的に出ている曲の一つで、その先がけにもなった曲だと思う。殿堂入りの曲でしょう。それ以降は、そのビッグルーム・サウンドが彼らのトレードマークになって、「Save The World」のような歌モノでは、みんなでシンガロングできるテイストも確立したよね。…残念ながら解散しちゃいますけど」
__最後のアルバム『Until Now』が、10/24にでますよね。コールドプレイの「Every Teardrop Is A Waterfall (Coldplay vs. Swedish House Mafia)」についても、ご紹介お願いします。
「コールドプレイは…イギリスのロック~ポップ・バンドですね(笑)。ま、それはともかく、コールドプレイは、実はEDM系DJの間で非常に人気が高くて、リミックスやブートレッグがいっぱい出回ってるんだよね。どういうわけか、本当にコールドプレイはブートが多い。この「Every Teardrop Is A Waterfall (Coldplay vs. Swedish House Mafia)」は、おそらくスウェディッシュ・ハウス・マフィア名義では唯一のリミックスなんじゃないかな。もちろん公式のリミックスです」
__あとは、カイリー・ミノーグの「All The Lovers (Dada Life Remix)」についてもお願いします。
「カイリーさんは、基本的にキャリアを通じてずっとダンス/クラブ・ミュージックにアンテナを向けてきた人なんで、ポップ・アーティストの中でもダンス・ミュージック色が強いよね。だから、今回のEDMムーブメントの中にも上手くとけ込んでいると思う。CDにはダダ・ライフのリミックスを入れたんだけど、彼らはEDMクリエイターの中では異色の存在、って感じかな。バナナとシャンパンがトレードマーク(笑)」
__その他、このコンピの中で特に紹介しておきたいEDMクリエイターというと、どの辺になりますか?
「アヴィーチー、スティーヴ・アオキ、ティエスト、マーティン・ソルヴェイグ、ハード・ロック・ソファ、スウァンキー・チューンズ、カスケード、スクリレックス、ニッキー・ロメロ、レイドバック・ルーク、トミー・トラッシュ、マデオン…いっぱいいますが、その辺かな。一通り入ってるでしょ? なので、ぜひぜひお手に取っていただければ、と」
__ですね。最後に、次回作の予定について教えてください。
「実は、12月にもう第二弾が出る予定なんだよね。上旬かな? それにもご期待ください」
Tomo Hirata
interview iLOUD
【リリース情報】
V.A.
EDM ~Electronic Dance Madness~
(JPN) EMI / TOCP-64416
9月26日発売
HMVでチェック
tracklisting
1. デヴィッド・ゲッタ feat. ニッキー・ミナージュ / ターン・ミー・オン
David Guetta feat. Nicki Minaj / Turn Me On
2. LMFAO / パーティー・ロック・アンセム feat. ローレン・ベネット&グーンロック
LMFAO / Party Rock Anthem feat. Lauren Bennett & GoonRock
3. ケイティ・ペリー / ワン・ザット・ゴット・アウェイ(R3hab Club Mix)
Katy Perry / The One That Got Away (R3hab Club Mix)
4. デッドマウス feat. ジェラルド・ウェイ / プロフェッショナル・グリーファーズ
Deadmau5 feat. Gerard Way / Professional Griefers
5. ブリトニー・スピアーズ / ティル・ザ・ワールド・エンズ (The Bloody Beetroots Extended Remix)
Britney Spears / Till The World Ends (The Bloody Beetroots Extended Remix)
6. クリス・ブラウン feat. ベニー・ベナッシ / ビューティフル・ピープル(Felix Cartal Radio Remix)
Chris Brown feat. Benny Benassi / Beautiful People (Felix Cartal Radio Remix)
7. スウェディッシュ・ハウス・マフィア feat. ファレル / ワン(ユア・ネーム)
Swedish House Mafia feat. Pharrell / One (Your Name)
8. モービー / アフター(Tommy Trash Remix)
Moby / After (Tommy Trash Remix)
9. ハード・ロック・ソファ &スウァンキー・チューンズ / ヒア・ウィ・ゴー
Hard Rock Sofa & Swanky Tunes / Here We Go
10. カイリー・ミノーグ / オール・ザ・ラヴァーズ(Dada Life Remix)
Kylie Minogue / All The Lovers (Dada Life Remix)
11. スウェディッシュ・ハウス・マフィア / セイヴ・ザ・ワールド
Swedish House Mafia / Save The World
12. スティーヴ・アオキ feat. リヴァース・クオモ / アースクェイキーピープル(Original Mix)
Steve Aoki feat. Rivers Cuomo / Earthquakey People (Original Mix)
13. ティエスト / マキシマル・クレイジー(Original Mix)
Tisto / Maximal Crazy (Original Mix)
14. カスケード&スクリレックス / リック・イット
Kaskade & Skrillex / Lick it
15. コールドプレイ / ウォーターフォール (Coldplay vs. Swedish House Mafia)
Coldplay / Every Teardrop Is A Waterfall (Coldplay vs. Swedish House Mafia)
16. マーティン・ソルヴェイグ / ザ・ナイト・アウト(Madeon remix)
Martin Solveig / The Night Out (Madeon remix)
17. デペッシュ・モード / フラジャイル・テンション(Laidback Luke Remix)
Depeche Mode / Fragile Tension (Laidback Luke Remix)
18. デヴィッド・ゲッタ&ニッキー・ロメロ / メトロポリス
David Guetta & Nicky Romero / Metropolis
19. ゴールドフラップ / アライヴ(Arno Cost Remix)
Goldfrapp / Alive (Arno Cost Remix)
20. リリー・アレン / ノット・フェア(Far Too Loud Electro Radio Edit)
Lily Allen / Not Fair (Far Too Loud Electro Radio Edit)
21. ザ・テンパー・トラップ / トレンブリング・ハンズ(Benny Benassi Remix)
The Temper Trap / Trembling Hands (Benny Benassi Remix)
22. アヴィーチー / レベルズ
Avicii / Levels
【オフィシャルサイト】
http://www.emimusic.jp/intl/edm/
http://www.emimusic.jp/intl/edm/release/
※EDM情報はコチラもぜひチェックしてみてください。
http://edmw.net/