秋本 “Heavy” 武士と結成したREBEL FAMILIAでの活動でも知られるベース・ミュージック・クリエイター、GOTH-TRAD。’05年にリリースした『Mad Raver’s Dance Floor』を機に、ダブステップ・シーンを中心に世界的に注目を集める存在となり、近年はリリース/ギグ共に精力的に海外活動を展開している人気アーティストです。ジャイルス・ピーターソンや、ダブステップ界の重鎮、マーラ(DMZ/DEEP MEDi)もその才能を認めている逸材です。
そんなGOTH-TRADが、待望の最新オリジナル・アルバム『NEW EPOCH』を1/11にリリースしました。昨年UKのDEEP MEDiからリリースされた「Babylon Fall feat. Max Romeo」をはじめ、海外サイトではリリース前から既に評判を呼んでいた、彼の近年の音楽活動の成果を形にしたオリジナリティーあふれる楽曲群を堪能できる話題作です。
ここでは、世界のダブステップ・シーンから注目を集める本作『NEW EPOCH』の内容をひも解くべく、GOTH-TRADにメール・インタビューで話を聞きました。間もなくアナログカットされる「Air Breaker」の、公開されたばかりのミュージック・ビデオもページにありますので、ぜひチェックしてみてください(追記:2/18 土 には渋谷のclubasiaでリリース・パーティーも開催されます)。
GOTH-TRAD『NEW EPOCH』インタビュー
__昨年2011年のご自身の活動はいかがでしたか? 年々海外活動が充実したものとなってきていますね。
「2011年は、短いツアーも含め4度のヨーロッパツアーとUSツアー、アジアツアーを回りました。特にDMZ 6th Birthday Party(UK)、Outlook Festival(クロアチア)、Glade Festival(UK)、Coachella Festival(US)への出演が印象に残っています。リリースとしては、DEEP MEDi MUSIKからの「Babylon Fall EP」リリース、老舗レーベル、Greensleeves RecordsのRemix 12インチとコンピレーション参加、Submotion Orchestra(UK)へのリミックス提供がありました。制作面では、今回のアルバム『NEW EPOCH』と、2012年にリリース予定のリミックス作品なども仕上げてきました。あと、自分が東京のclubasiaで毎月開催しているパーティー<Back To Chill>が、5周年を迎えることができたのも良かったです」
__最新作『NEW EPOCH』は、オリジナル・アルバムとしては2005年の『Mad Raver’s Dance Floor』以来となる、久々の作品となりますね。まず、長らくオリジナル・アルバムをリリースしていなかったことには、何か理由や意図等あったのでしょうか?
「2006年以降、自分が世界のダブステップ・シーンで活動していく中で、アルバムリリース以前にやるべきことがたくさんありました。自分の音楽を知ってもらう為に各都市でのライブを重ねることや、12インチ、EPやリミックス作品のリリースなど、アルバムへつながる土台作りとして必要だった時間だと思います。その間リリースされた作品としては、12インチとリミックスを含めると20曲以上はリリースされているし、ストックの曲もあったので、アルバムをリリースするには十分な曲数ではあったのですが、ただ単に曲をかき集めたものにするつもりは無かったし、自分の中で、アルバムというものは一つのストーリーがある作品に仕上げたかった、ということです。世界的なシーンの流れも見つつ、自分自身のアイディアのまとまった…ということで、今のタイミングになりました」
__『NEW EPOCH』の曲づくりと制作の準備は、いつ頃スタートしたのでしょうか。
「アルバムを仕上げにかかったのは、2011年に入ってからですね。ただ今作には、2008年~20010年に作られた曲もたくさんあって、ダブプレートとして現場で何度もプレーしてきました。そういう意味で、2011年に入ってからは、アルバムという一つの作品にまとめるために必要な、曲の制作やアレンジの作業に専念しました」
__どのような内容のアルバムにするのか、思い描いていた作品イメージやテーマは何かありましたか?
「自分の場合、アイディアは日常生活で見たもの、感じたことことから、さらに空想したものがイメージとして浮かんできます。それを常に音に反映させてきました。曲を作るにあたって、一人の日本人として、一人の人間として、常に自然体でいるように心がけています。まずそれが作品を作る上での基本的なテーマですね」
__曲づくり自体は、具体的にはどのようなプロセス、インスピレーションを軸に進めていくことが多いのですか?
「アイディアが浮かんだときは、すぐにスケッチで残しておくようにしています。それがメロディの場合もあるし、ビートやベースラインの場合もあります。そういった断片的なパーツから組み立て行く場合が多いです。インスピレーションは、やはり自分の体験した現実からと、さらにそこから空想した世界からですね。例えば、1曲目の「Man in The Maze」は、2年前に一部のフレーズやループはできていたんですけど、それから全く進めることができなかったんですが、あの震災の後、すぐに完成してしまったんです」
__今作のアルバム・タイトルを“NEW EPOCH”とした理由について教えてください。また、アルバムの最後に収録されているタイトル曲「New Epoch」は、どのようにして誕生した曲ですか?
「3.11の震災からさらに原発事故が起こって、日本はもう最悪の状況ですよね。色んなことに対して不安を抱えて、精神的に途方に暮れる状況が続いてると思うんです。政治家やニュースは真実を伝えないで、くだらないバラエティ番組で埋め尽くされて。そういうことに対して、何も疑問を抱かない人が多いんだなっていう、危機感も感じてます。でも逆に、これを機に気づいた人もたくさんいるんだと思うんです。ここからまた新しく作り上げていこうという動きも見えて、そういった希望の意味を含めて、このタイトルをつけました。実は「New Epoch」という曲自体は、3.11の直前に完成していたものなんですけど、結局以前から世の中に対して抱いていた想いが、3.11の震災を期に明確になったということですね。あとは、もちろん今の音楽のシーン、ダブステップのシーンに対する提示の意味も含めています。6年ぶりのアルバムってこともありますし」
__いわゆるダブステップと呼ばれるサウンドは、現在メジャーからアンダーグラウンドまで様々に発展・展開していますが、本作の曲づくり~サウンドメイキングで特に重視したこと、実現したかったことは何でしたか?
「2006年に<Back To Chill>というダブステップのパーティーを始めたんですが、その時からDJを本格的に始めました。DJを始めて気づいたんですが、ダブステップには、ミックスするのに適したミニマルな曲はたくさんあるけど、曲単体だと一曲通して聴けないものがたくさんあって、逆に自分の曲は展開を付け過ぎたり、音数を増やしてしまうことが多かったんです。だから当時から、そこを両立できるものを目指して作っていたんです。これは特に今作に限って、という訳ではないんですが、作曲する時は常に、一曲一曲がそれぞれ個性を持っていて、ストーリーがあるものに仕上げたいと思っています。だから毎回、前に作ったものとは違うものを作るように心がけています。そして、それぞれの曲が、自分のDJ・ライブセットの中で役割を果たしているんです。アルバムでも同じように、その曲がストーリーに必要な登場人物であって、足りない役者を作っていったという感じですね」
__なるほど。
「それからミックスダウンの部分ですね。これはあくまで持論ですが、メジャーからアンダーグラウンド呼ばれるものまで、最近のミックスダウン・マスタリングは、音量を稼ぐことばかりを重視して、ダイナミクスを完全に失っていて。残念なことに一部のダブステップを含めた、一般的にベースミュージックと呼ばれるものまで、そういう傾向にあるんですよね。音量を稼ぐ為に一番おいしい低音の周波数をカットして、思いっきり圧縮されていて。それが良い音とされている。自分の中では、それはダブステップと言いたくないですね。単にアンダーグラウンドという言葉が好きな、疑似ベース・ポップミュージックとでも言いましょうか。それはテクノロジーの進化に反しているような気がするんですよ。ダブステップの醍醐味は、圧倒的なサブベースの音圧にありますからね。そこをいかに音源に収めるか、っていう部分がポイントでした。そういう点でも、今回アルバムは最低周波数の部分や、低音域の音圧に関して、限界に挑戦しているつもりです」
__『NEW EPOCH』には現場でテストしてきた曲も多く収録されているとのことですが、現場で人気のある曲、オーディエンスとのコミュニケーションの中で特に印象に残っている曲はどれになりますか?
「今回のアルバムに入っている曲は、どの曲も何度も現場でプレーしてきました。どの曲も自分のライブや DJのセットで大きな役割を果たしてくれる大切な曲達です。特にヨーロッパのファンは、未発表の曲(ダブプレート)もすごくチェックしてて、良く知ってるんですよね。最近では、クロアチアのOutlookフェスティバルに出た時、プレーする前日に会場を歩いていたら、“あ!GOTH-TRAD!明日「Air Breaker」絶対かけてね!”とか、“「Seeker」!”とか、4~5人に言われましたね。で、当日に「Mirage」をかけた時は、4回リワインドされました。あと、ダブプレートをいつも特定のDJに渡していたので、例えば、「Departure」はMary Anne HobbsがBBCのラジオや現場でも良くかけてくれていたし、Mala(DMZ)は「Babylon Fall」、「New Epoch」、「Seeker」、「Cosmos」、Pinchは「Air Breake」、 Kode9は「Mirage」という感じで、それぞれ現場やミックス(FactやXLR8Rなど)でも使ってくれました。現場でのプレーも一部youtubeにアップして、それを見て“これは誰の曲だ?”って感じでダブステップのフォーラムなんかで盛り上がってますからね。それらを通じての反響も大きいですね」
__先にリリースされた「Babylon Fall feat. Max Romeo」を本作のために新たに収録した経緯と、この曲が誕生したきっかけについて教えてください。
「元々「Babylon Fall」は、REBEL FAMILIAのMax Romeoをフィーチャーした曲なんですが、そのボーカル音源を持っていたんで、自分のライブ・DJのためだけにリミックスを作ってプレイしていたんです。それが2008年くらいですね。各国でプレイしていくうちに、DJやファンからの反響も良く、UKのレーベルDEEP MEDiもリリースしたいということで、2年くらい前から12インチでのリリースの話はあったんです。それで去年のアタマに、やっとMax Romeoとコンタクトが取れてリリースに至りました。アルバムのテーマと全体の流れからも、このメッセージは必要だったというのと、多くの人に聴いてもらいたいという気持ちから、今作にも収録しました」
__ところで、GOTH-TRADさんのオフィシャルバイオは、“2001年12月にフランスの船上パーティ”Batofar (バトファー)”で海外イベントに初登場”という一文からスタートしますが、もともと本格的に音楽活動を始めたきっかけや、ダブステップの世界に身を投じるようになった経緯は何だったのでしょうか?
「高校を卒業するまで、ただ趣味でレコードを買っていたんですが、1999年からサンプラーで曲を作り始め、2000年にDJ KENSEIさんにデモテープを渡したことから、『士魂』というコンピレーションに参加したのが初リリースでした。当時はダウンテンポ・アブストラクト・ヒップホップ・ダブといったものを作ってましたね。2001年のBatofarのときには、もっとエクスペリメンタルな方向に進んでいて、自作楽器と自作エフェクターを使って、半分はノイズのライブでしたね。一方でREBEL FAMILIAも結成して、2003年にはREBELとGOTH-TRADで、それぞれファースト・アルバムをリリースしました。 当時、2002年頃から年一回はフランスを中心に、ノイズのライブでヨーロッパツアーを回っていたんです。それで、さらに実験的な方向に向かって、2005年にリリースされたセカンド・アルバム『The Inverted Perspective』は、完全ノイズ作品となりました」
__なるほど。
「(それで)十代の頃から、UKレイブ・アンダーグラウンド・ミュージックは聴いていたので、ノイズをやりつつも、その辺りの音はUKのネットラジオとかでチェックしいて、2003年頃にグライムのシーンに出合いました。基本的にグライムは、BPM140くらいのトラックに高速ラップが乗るのが特徴なんですが、特に自分はそのトラックの方に興味がわいたんです。そして2005年にサード・アルバムの『Mad Raver’s Dancefloor』がリリースされたんですが、そこで自分なりの解釈で、何曲かインストのグライムを表現したんです。そのアルバムをUKの友人に渡したら、「Back To Chill」という曲を指して、“これはダブステップだよ”って。さらにMyspaceを立ち上げて間もなく、UKのラジオDJから曲をかけたいとか、レーベルからオファーがありました。「Back To Chill」は、2007年にUKのSkud Beatというレーベルからリリースされましたね。同年、DEEP MEDi MUSIKからリリースされた「Cut End」という曲は、特に大きな反響があって、本格的にUKのシーンで活動するきっかけとなりました」
__それでは最後に、今後の活動目標、次なるヴィジョンについて教えてください。
「まだまだダブステップという音楽に可能性を感じているし、アイディアもたくさんあります。新しいも音、スタイルを打ち出していくのはもちろんですが、それと平行して表現者として、人にエネルギーを与えられる活動や作品を残していきたいと思っています」
interview iLOUD
【リリース情報】
GOTH-TRAD
NEW EPOCH
(JPN) P-VINE / PCD-24271
1月11日発売
HMVでチェック
tracklist
01. Man in the Maze
02. Departure
03. Cosmos
04. Air Breaker
05. Walking Together
06. Strangers
07. Babylon Fall feat. Max Romeo
08. Anti Grid
09. Seeker
10. Mirage
11. New Epoch
【リリース・パーティー情報】
GOTH-TRAD “NEW EPOCH” RELEASE PARTY
東京公演
2月18日(土)
会場:clubasia(東京 渋谷)
23:00 open
DOOR 3500yen (1d) / ADV 2500yen (別途1d/500yen)
MAIN FLOOR:GOTH-TRAD -live set- / DRY & HEAVY / Mouse On The Keys /
KILLER BONG -dub dj set- / メメ / yuitty / VJ: DBKN
2F [BACK TO CHILL]:GOTH-TRAD -dj set- / HABANERO POSSE /
朝本浩文 × ENA × MC CARDZ / RUMI × NEO TOKYO BASS(SKYFISH+ENDLESS+CRASH+GYTO)/
RS × Makumba Sound (100mado + BD1982) / Ten Billion Dubz (Sivarider + Ryoichi Ueno)
1F:(f)uchew DJs (KNK, nemo, TAREYE, kzy) / π
http://www.clubasia.co.jp/
大阪公演
2月19日(日)
会場:TRIANGLE(大阪府大阪市中央区西心斎橋2-18-5 RIBIA 3-5F)
OPEN 17:00-00:00
ADV 2000yen / DOOR 2500yen (別途1ドリンク代金500円必要)
LIVE:GOTH-TRAD
DJ:GOTH-TRAD, MASASHI, Light-one, Peperkraft, Z.Z.Z,BIGTED
チケット取り扱い eplus http://eplus.jp/
http://www.triangle-osaka.jp/
名古屋公演
2月4日(土)
会場:club Mago
22:00 open/start
with flyer, mail reserved 2500yen / door 3000yen
ROOM 1:GOTH-TRAD (DEEP MEDi MUSIK/Back To Chill) / KIHIRANAOKI (Social Infection) /
KEIHIN (ALMADELLA) / 将軍 (RAZOR SHARP/fluid-Nagoya) / YE YE (NAO+MIWA)
ROOM2:KOJA (IF…/甘藍) / AKIRA (fonon/REVEL) / ATSU (PLUMERIA) / HISAOMI (A-BASS)
http://razorsharp-nagoya.info
http://club-mago.co.jp
【オフィシャルサイト】
http://p-vine.jp/artists/goth-trad
http://www.gothtrad.com/
http://www.backtochill.com/
http://www.deepmedi.com/
【試聴】