2009年に、Mademoiselle Yulia、Big-Oをフィーチャーした「Katana Powa」を含むアルバム『The B-Suite』をEd Bangerからリリースし頭角を現した、ピエール・アントワン・グリソン(Pierre-Antoine Grison)のエレクトロニック・ミュージック・プロジェクト、クレイジー・ボールドヘッド。Ed Bangerの古株アーティスト(最初のシングル・リリースは’04年)にして、芸術学校で長いあいだ音楽を学び、エレクトロニック・ダンス・ミュージックだけでなく、クラシック、ジャズ、ロック、ワールド・ミュージックなど、幅広い音楽的素養を兼ね備える才人です。
そんな彼が、4/8に待望のセカンド・アルバム『The Noise In The Sky』をリリースします。地を這うような独特のビート感覚を維持しながらも、ムーグやローズなどのヴィンテージ・シンセをフィーチャーし、前作とは趣を異にするスペイシーな世界観を演出することに成功した本作。アナログな質感を前面に押し出したそのサウンドは、“ハンコックとアモン・トビン、あるいはウェザー・リポートとスクリームの橋渡しとなるような…”と例えられるなどして、話題を呼んでいます。
エレクトロをベースとしながらも、ジャスティスやセバスチャンらとはタイプの異なる、ディープでユニークな世界観を有した『The Noise In The Sky』。本作の内容について、クレイジー・ボールドヘッドに話を聞きました。
Krazy Baldhead 『The Noise In The Sky』インタビュー
__新作『The Noise In The Sky』のリリースおめでとうございます。
「ありがとう。時間はかかったけど、仕上がりにはとても満足しているよ」
__まず、アルバム・タイトルの由来から教えていただけますか。
「アイスランドで、休暇中に思いついたんだ。そこがとんでもない所でね。それこそ森もない、草木も生えていない、動物もいない、むき出しの岩だらけの荒地で、本当に何もないような場所だった。でも見上げると果てしなく空が広がっていて、とても美しい景色だった。そこでぼんやりと空を眺めていたら、ふとメロディーが降ってきたんだよ。本当は何も聞こえないのにね。でも、全てがそこで鳴り響いているように、感じられた。音が、空を泳いでいたのさ。それで、こんなタイトルを思いついたというわけ」
__今回の作品には、何かテーマみたいなものがあるのでしょうか? 前作に比べて、温かみのあるアナログ的な質感が増したように思います。
「’70年代の雰囲気を出したいと思っていたんだ。でも単純なリバイバルではなく、“2012年仕様の’70年代”ということを意識した。現在進行形のサウンドの中に、あの頃のヴィンテージなムードをいかにして取り込むか…というね。アナログ機材をたくさん使ったし、確かに温かいフィーリングは前よりも増しているかもしれないね。とはいっても、自分にリミットを設定したり、特定のスタイルの中に自分を閉じ込めてしまうのは好きじゃはないから、基本的には、これまでの全ての影響を反映させるようにはしたつもりだよ」
__今作では、サド・ジョーンズの「A Child Is Born」をカバーしていますね。
「とても個人的なことなんだけど、このアルバムの制作中に子供が生まれたんだ!…というのが一つあったね。あと、このアルバムのレコーディングに入った時、全曲ジャズ・スタンダードのカバーというのはどうかな?って、ふと思ったんだ。でもアイディアが色々とあり過ぎて、ちょっと絞り込めなそうな感じだったから、それはあきらめたんだ。ただ、「A Child Is Born」は本当に大好きな曲だったんで、これだけは入れることにした」
__「A Child Is Born」は、様々なアーティストがカバーしてきましたが、お気に入りのバージョンとかあったりしますか?
「どれか一つと言われたら、ビル・エヴァンスのを選ぶかな。彼は本当に偉大なピアニストだと思う。どの演奏も、卓越している」
__前作は、Mademoiselle Yulia、Big-O、tes、Outlinesなど、何人かのアーティストをフィーチャーした作品でしたが、今作はどうですか?
「ファースト・アルバムでは、多くの知合いに協力してもらった。フィーチャリング・アーティストは全員、個人的な知り合いだったね。もちろん、Mademoiselle YuliaとBig-Oもね。VERBALが手伝ってくれて、アジア・ツアーの最中に日本に立ち寄ってレコーディングしたんだ。で、その反動というわけでもないんだけど、今回は全部自分でやってみたい、って思っていたんだ。それでゲストはなしで、全ての楽曲を自分一人でレコーディングした。でも、次はまた分からないよ。全曲ゲストを招くことになったりして」
__あなたは、芸術学校で音楽の勉強をしていたそうですね。どのような種類の音楽を学んでいたのでしょうか。
「クラシック音楽なんだけど、楽器がパーカッションだったから、どちらかといえば現代音楽寄りだった。バイオリンやトランペットをやっていたら、また違うことになっていただろう。学校のオーケストラにも参加していたから、他にも色々な楽器に触れる機会はあったよ。クラシック音楽の楽器のほとんどには、何らかの形で触った経験がある」
__その当時の経験は、現在のクレイジー・ボールドヘッドのプロダクションにも反映されていると思いますか?
「もちろんさ。実際、僕が曲をつくる時は、まずクラシックの作曲家と同じような感じでつくり始めるんだ。ストリングスのレイヤーを重ねて、ここでオーボエのソロが入って、次にシンバルを鳴らして…という風にね。ただ、何世紀にも渡って使われてきた昔の楽器を使って、何か新しいものを生みだすというのは、正直なところ相当難しいよね。だから、僕はそれをシンセやサンプラーに置き換えるんだ。クラシックの作曲をするようにつくり始めて、でもアウトプットはモダンなエレクトロニック・ミュージックとして、体裁を整える。それが僕のやり方なんだ」
__ところで、そもそもの音楽との出合いというのは、どのようなものだったのでしょうか?
「小さい頃、祖父母がピアノの手ほどきをしてくれた。それが最初かな。あと、祖母が何故かクラフトワークのシングルをプレゼントしてくれたのを覚えているよ。たぶん彼女は、それが何だかよく分かっていなかったんじゃないかと思うけどね。姉がアバをよく聴いていたのも覚えてるな。それから、これは記憶にないんだけど、両親がオペラ好きで、小さい頃よくコンサートに連れて行かれたらしいよ。母親の膝の上で、オペラを子守唄にしながらうたた寝していたらしい。自分のお金で最初に買った音楽は、ザ・キュアーの『The Top』だったね。あっという間に彼らのファンになって、すぐCDショップに駆け込んだけど、そのアルバムしか置いてなかったから選ぶ余地がなかったよ」
__最近気になっているアーティストは誰ですか?
「普通の4つ打ちじゃないビートが好きだから、最近だとフライング・ロータスとか、パンゲアとか、ゴールド・パンダとかかな。彼らのサウンドはスリリングだね。刺激を受ける。でも、もう少しポップなのも聴くよ。メトロノミーとか、マイク・スノウとか。テーム・インパラも好きだね」
__では、最後に今後の予定を教えてください。
「これから数ヶ月は、新作のツアーで忙しくなるね。あとは、Beat Assaillantとか、いくつかリミックスをやっているのと、自分のクラシックのバックグラウンドとエレクトロニック・ミュージックをミックスさせた、新プロジェクトにも取り組んでいる。何年か前、『Astigmatic Inspired By Chopin』というコンピに1曲トラックを提供したことがあったんだけど、あれみたいな感じだね。それから、Donsoのセカンド・アルバムも制作中なんだ。これはアフリカ音楽とエレクトロニック・ミュージックをミックスさせたようなサイド・プロジェクトで、最初のアルバムは’10年に発表した。今年の10月に、またCometからリリースされることになると思うよ」
__日本でお会いできる日を楽しみにしています。
「そうだね。’08年に小規模だけどアジア・ツアーをしたことがあって、その途中に日本にも来て、東京と大阪でライヴをやったんだけど、素晴らしい思い出だよ。日本には興味深い文化が色々あるし、新しいものと古いものが混在していて面白い。また必ず行きたいよ!」
【リリース情報】
KRAZY BALDHEAD
The Noise In The Sky
(JPN) calentito music/Ed banger / RTMCD-1019
4月8日発売
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tracklist
01. The Noise In The Sky
02. Surabaya Girl(シングル曲)
03. Amplifried
04. Day In Day Out
05. Alexander Platz
06. Must There Be An Angel
07. Miles High
08. Empty Boy
09. Resurection
10. Castles And Clouds
11. Slow Mo
12. A Child Is Born(サド・ジョーンズのカバー)
【オフィシャルサイト】
https://www.facebook.com/krazybaldheadofficiel
http://www.edbangerrecords.com/
http://calentito.net/