Lillies and Remains インタビュー


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2006年に、フロントマンのKENT(Gu/Synth/Vo)を中心に活動をスタートし、ニューウェイブ / ポスト・パンクを主体とした音楽性とシリアスな世界観で、国内のインディー・ロック・シーンにおいて話題を集めている気鋭バンド、Lillies and Remains(以下、Lillies)。2008年に、デビューEP『Moralist S.S.』、2009年にファースト・アルバム『Part of Grace』を発表し、早耳リスナーの間で話題となっている注目株だ。

そんなLilliesがこのたび、約1年ぶりの作品となるニューEP、『MERU』をリリースした。様々なサウンドを行き来するダンス・ミュージック・クリエイター、metalmouseをプロデューサーに迎えた本作。Lilliesの持ち味である、ソリッドなギターやボトム・ヘヴィーなバンド・サウンドはそのままに、ドラムン・ベースに通じるドライブ感やグルーヴが取り入れられた意欲作だ。

Lilliesの音楽的バックグラウンドと、新作『MERU』に込めた思いを探るべく、フロントマンのKENTに話を聞いた。


ーーLilliesの中核を担っている、KENTさんのバックグラウンドには、どんな音楽があるのでしょうか?

「物心ついてから最初にハマったのは、メタルでした。バンドは特にやっていなかったんですけど、とりあえずギターの速弾きとかを、練習していましたね(笑)。その後、高校に入ってすぐ位に、ニュー・オーダーが『Get Ready』っていうアルバムを出したんですけど、そこからニューウェイブやロックに興味を持つようになったんです。ちょど、ストロークスやブラック・レベル・モーターサイクル・クラブとかが出てきた時期でもありましたね」

ーーニュー・オーダーとの出会いがきっかけで、音楽性がシフトしたんですね。

「そうですね。もともと、北欧のメタルが持つ壮大な雰囲気が気持ちよくて、それは他のジャンルでは得られない感覚だと思っていたんですよ。でも、ニュー・オーダーの「60 Miles an Hour」の、キーボードでバーッと飛ばすような間奏を聴いて、“こんなこともできるんだ!”と新たな発見をしたんです」

ーーなるほど。でも、その頃はバンド活動はしていなかったんですよね?

「はい。でも、一人でずっと曲づくりはしていたんですよ。音楽をたくさん聴いて、その曲がなぜカッコいいのか自分なりに分析して、“これは、ドラムのフィルが良かった”とか、“ギターの入ってくるタイミングがいい”とか、わかっているつもりだったんで、自分でも曲がつくれるなって思い始めたんです」

ーーそうだったんですね。その後Lilliesを結成した際、当初はどんな音楽スタイルを目指していたんですか?

「言葉では言い表しにくいんですけど、ニューウェイブだとか、ジャンルは決めていなかったですね。とにかく、カッコ良くてドキドキするような音楽をつくりたかったんです。等身大の自分を歌って共感を得るものじゃなく、もっと遠い存在としてリスナーが見てくれるような、そんなバンドになりたいと思っていましたね」

ーーそうおっしゃる通り、Lilliesの楽曲では、シリアスな視点や、アートに近い世界観が描かれていますよね。

「そうですね。Lilliesの音楽は、ダークってよく言われるんですけど、僕らは単に暗いことを表現しているんじゃなくて、事象をシリアスに捉えているだけなんですよ。日々行われている物質的な消費ではなく、人間に渦巻いているものを、高いところから俯瞰しているような感覚を表現しているんです」

ーーなるほど。サウンド面に関しては、ジャンルにこだわらずとも、大事にしている点はありますか?

「最近はシンセも取り入れていますけど、基本的には、ギター二本、ベース、ドラムという四つで、どこまでリスナーの気持ちを高める音を出せるか、というところに挑戦していますね。無意味な音は鳴らさないように意識しています」

ーー使うツールはシンプルながらも、それぞれの楽器の可能性を最大限引き出すという姿勢は、楽曲にも色濃く表れていると感じます。このたび、ニューEP『MERU』がリリースされましたが、今作では、ボトムの厚みやグルーヴ感が、以前よりも格段にレベルアップしていますね。

「楽曲の構成自体の影響もありますし、ドラムとベースを同時に一発録りした曲もあるので、そう感じるのかもしれないです。あとは、このEPを制作していた時期に、僕自身があんまりロックを聴いていなかったので、自然とこういうスタイルになったというのもありますね」

ーー特に、「devaloka」や「a life as something transient」には、ドラムン・ベースに通ずるような、ダンス・グルーヴやドライブ感が表れているなと思いました。

「ベースラインには、もろそれが表れていると思いますね。ドラムの構成はドラムン・ベースのリズムにして、そこに白玉(全音符)系のベースを乗せると、ドラムン・ベースっぽく聞こえるんですよ」

ーーなるほど。細部にも、そういった意図が表れているんですね。そんな『MERU』では、metalmouseさんをプロデューサーに迎えていますが、彼と共作することになった経緯を教えてください。

「metalmouseは、もともと僕がファンだったので、こっちからアプローチして制作に参加してもらったんですよ。僕は今まで、国内で本当に尊敬できる作曲家とかバンドってあまりいなかったんですけど、彼とは、音楽制作の話をした時に、すごく手応えを感じましたね」

ーー実際、一緒に制作をしてみた感想はいかがですか?

「このEPは、僕がデモをつくって、それに意見をもらったりして制作を進めたんですが、すごく面白かったです。僕はメタル出身なので、音を足していきがちなんですけど、metalmouseはダンス・ミュージック畑の人なんで、音を削ぎ落としてくるんですよ。その辺のぶつかり合いが面白かったです」

ーーLilliesとmetalmouseでは、ルーツも今やっている音楽スタイルも全く異なりますが、そんな二組が一緒に制作をしたことで、新たに発見したことはありましたか?

「僕だったら音を乗せない箇所に、metalmouseが音を乗っけてきたりすると、“あっ、正解はこっちか”って思ったり。彼と一緒にやってみて、音づくりで悩んでいた部分が解消されたり、鳴らしたかった音を形にする方法を知ったりと、発見がたくさんありましたね」

ーーまた、「tara part1 :the first realization」、「tara part2 :fear of the end」では、シンフォニックなオーケストラル・サウンドにも挑戦していますね。これもすごく印象的でした。

「オーケストレーションは以前からやりたいと思っていたんですが、僕らだけでは実現できなかった要素なんですよ。曲のイメージは元からあったので、自分なりのオーケストレーションをデモに入れて、それをmetalmouseに手直ししてもらった感じですね」

ーー続いて、歌詞についておたずねします。『MERU』では、インド宗教の世界観をテーマに、サンスクリット語のキーワードが多数引用されていますが、こういったイメージは、どこから生まれたのでしょうか?

「もともと、インド宗教の世界観やヨガの考え方に共感することが多かったので、昔から、自分なりにいろいろ調べていたんですよ。今作で最初にできた曲は「decline together」なんですが、これはインド宗教の“天人五衰”という話をもとに書いたものなんです。“天人五衰”には、人間が天人として天界へ行って、そこで死ぬ時の兆候が描かれているので、EPの最後を締めくくるのに、ふさわしいと思ったんですよね」

ーー「decline together」を元に、他の曲が生まれていったんですか?

「楽曲自体はバラバラにでき上がったんですけど、自分が描いた曲の雰囲気と、テーマが上手くリンクしたので、作品全体としてある程度流れができるようにしました。一曲一曲が完結するように、例えば、登場人物はそれぞれの曲で変えているんですけど、全体を通してつじつまが合うようにしたつもりです」

ーーインド宗教の世界観を通じて、今作では、リスナーにどんなメッセージを届けたかったのでしょうか?

「僕が尊敬している、中村天風っていうヨガ行者がいるんですけど、彼が言っていた、“人間一人一人がもっと、自分の力を最大限発揮しないといけない”という哲学に、感化された部分があって。僕もそういうメッセージを、音楽を通じて発したいと考えたんです。輪廻転生とか、いろいろ言ってますけど、“ふと立ち止まって、世界をもっとちゃんと見つめ直して、自分の力を発揮してくれよ”っていう思いを込めました」

ーーそういったメッセージや世界観には、Lillies独自の感性が表れていますね。今後は、どんな音楽活動を展開していきたいですか?

「音楽の本質的な良さを、リスナーにわかってもらいたいですね。僕たちが本気で音楽をやっていることも知ってもらいたいし、日本ナイズされすぎた音楽に惑わされないで、みんなが良い音楽を聴ける環境にするのが、眼前の目標です」

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