Prefuse 73『The Only She Chapters』インタビュー


prefuse73_jk.jpg

10年以上のキャリアの中で、7枚のアルバムをリリースし、長きに渡ってヒップホップ、アヴァンギャルド・ロックの最先端に立ち、また共同プロデューサーとして数多くのアーティストとコラボレーションを重ねてきたギレルモ・スコット・ヘレン。彼が、Prefuse 73名義の最新作『The Only She Chapters』をリリースしました。その内容は、自らが“このレコードは、自分にとっても異質な作品なんだ。すべてのプロセスに女性ボーカルが関わり、いつもとは大きく異なる方法でレコーディングされている。それは、これまでつくってきたサウンドから新しい世界への出発とも言えるけど、リスナーを遠ざけたり、困惑させるのを目的としたものではないんだ”と語る、興味深いものとなっています。

ここでは、そんな『The Only She Chapters』の内容とその背景について語った、ギレルモ・スコット・ヘレンのインタビューをご紹介しましょう。


prefuse73_A1.jpg

Prefuse 73

ギレルモ・スコット・ヘレン自らが“異質”と語る、
女性をテーマにした未知なる音楽世界

ギレルモ・スコット・ヘレンの活動が明らかに新しいラウンドに突入している。’09年にプレフューズ73、サヴァス&サヴァラス、そしてダイアモンド・ウォッチ・リスツ、というそれぞれに異なるユニットで作品を立て続けに発表したことは記憶に新しいが、あれから2年、今度は本家プレフューズ73の作品に絞り込んで大きく深化させた。ニュー・アルバム『ジ・オンリー・シー・チャプターズ』は、ほぼ半数の曲で女性ボーカルをゲストに迎えて制作した実にトライアルな1枚だ。これまでのビート指向というイメージを自ら打ち破り、生楽器による温もりある質感のサウンドに、オブスキュアな女性の肉声を重ねて新たな歌の形を創出したヘレン。全ての曲が「The Only~」で始まるタイトルであるように、一つ一つが独立した物語のような構成なのも興味深い。“彼女だけの章”という意味のタイトルが与えられたこの新作は、次なるラウンドに入った今のヘレンにとってどのような試金石となるのだろうか。

interview & Text : Shino Okamura
photo : Angel Ceballos

__今回の新作は、女性にとって大変大きな意味を持つ作品だと感じました。実際、すべてのプロセスに女性ボーカルが関わっていて、いつもとは異なるメソッドでレコーディングされているそうですが、そうしたアイデアはどこから得たのでしょうか?

「音楽の“スタイル”がどうであれ、女性の声のメロディーや声域には、以前から音楽的に強い感動を覚えていたんだ。今回のレコーディングで一番斬新だったのが、楽器や音を本来のやり方とは全く違った手法で録音したことだった。そこで拾ったサウンドを、録音段階では想像もつかなかったものになるまで仕上げていった。今まで自分がつくった作品の領域を広げて、もっと自由になってみた。今回のアルバムは確かに自分の“サウンド”だが、自分を含むリスナーが驚くようなサウンドをつくってみたかった。くぐもったようなサウンドが、メランコリックで、自分を見つめなおしているような気持ちにさせるんだ。それに、今回の制作期間はとても長いものだったので、本を執筆しているような気分だった。だから『ジ・オンリー・シー・チャプターズ』の曲タイトルは、“チャプター”、章として音楽を表しているんだ」

__シーンに登場した時のあなたからは想像もできないことですが、今は生楽器の音や人間の肉声に寄り添った作風に、裾野を広げている印象です。サヴァス&サヴァラスでの作業と符合していくような、もはや“ボーカル・チョップ”を編み出したクリエイターとは思えない、新たな歌の在り方を追求しているかのような方向性に、大きな可能性を感じますよ。

「ああ、僕自身、ずっと“ビート指向”だと思われてきたことに、ちょっとジレンマを感じていたのは確かだよ。そこから脱皮したい、という気持ちがあったんだ。ただし、歌とかボーカルに対しては昔からすごく関心があったし、折をみては歌詞を書いたりもしていたんだよ。ただし、ただ昔からある歌のカタチではなく、新しいボーカルがどういうものかと模索してきたんだ。でも、僕のそういう方向性の広がりというか、実験精神をタイヨンダイ(・ブラクストン)も気づいてくれていてね。だから、今回の曲づくりの最初段階から、彼にはかなりアドバイスやらサポートやらをしてもらったんだ。タイは本当にすごい音楽家だよ」

__しかも、昨年急逝したブロードキャストのトリッシュ・キーナン、マイ・ブライテスト・ダイアモンドのシャラ・ウォーデン、ダーティー・プロジェクターズのエンジェル・デラドゥーリアンら、それぞれに奥床しくも芯のある歌い手がボーカリストとして参加していますね。

「ああ、特にトリッシュは、僕がWARPと契約するきっかけをつくってくれた人でもあるし、これまで本当に良くしてくれた。今回のアルバムでは、確かに女性たちは幾つもの声を布の繊維のように重ね合わせ、テーマを築きあげているんだけど、完全に重なり合ったノイズでも、一定の“歌詞とメロディ”を組み合わせた曲でも、一貫性があったものだと感じているよ」

prefuse73_A2.jpg

__では、具体的に、今作の作業プロセスとメソッドを教えてください。

「本来の使い方では出力ソースを持たない、アコースティックやクラシック楽器を録音する小さなコンタクトマイクをたくさん利用した。基本的に、自分の周りのものは全てこうやって録音して、さらに普段使うようなマイクでも音を拾い、音響を合わせてサウンドのパレットをつくっていった。生演奏、ソフトかハード、様々な方法で作曲していったよ。最終プロセスは、多様な状況におかれたボーカリストを起用し、そこからまたミキシングに没頭するような形だったね。これまでとは明らかに異なるやり方だったと言えるよ。でも、それはこれまでのやり方に満足できなかったからってわけじゃない。今でも、新しいプロセスに古い技法を合わせているし、自分の制作技法はいつも、目指すもの、または作業の相手による。最近終わらせたばかりのフォード+ロパティンのアルバムは、純粋なポップ感を持ってミックスした。もし彼らの別プロジェクト、ワンオートリックス・ポイント・ネバーをミックスしていたのなら、全く別のアプローチを使っただろうね」

__ただ、あなたほどのキャリアと実績があると、新たな手法にとりかかることに躊躇のある人もいるでしょうし、踏み出すのは勇気のいることではないですか?

「いやぁ、どうかなぁ。長い音楽制作のキャリアを経て、人をいい気分にさせたりインスピレーションを与えることができたのも、嬉しいことだ。もし自分がヒット・チャートに並ぶ曲をつくっていたのなら、“勇気ある”と言えるだろうけどね。自分が一番よく知られているタイプの音楽から抜け出すようなものをリリースすることは、勇気よりも不安が多かったと言えるよ。唯一“勇気”を持った人達がいたなら、自分とコラボしてくれた人達だろうね。でも、自分が今流行っているものにどう当てはまるとかなんて、意味のないことだ。僕は音楽をつくり続ける事ができれば、十分満足なんだよ。他人の意見を繰り返すんじゃなくて、純粋に興味を持ってくれる人と、それを共有できれば嬉しい。どんな技法を使おうが、どんな役柄を持とうが、音楽をつくるモチベーションは変わらないんだよ」

__では、今のあなたがクリエイターとして信条としているのは、どういう哲学でしょうか。

「今まで自分が求めてきた、そして今でも求めていることは、進化すること。最初は間違いのように聞こえる音楽でも、後でしっくりくる音楽で、新地を創りあげたいね。モリコーネや、初期のエレクトロ・アコースティック作曲家を深く尊敬するのは、これが理由なんだと思う。彼らの頭の中にある怪しい未知なるものが、洗練された音楽に進化していくのは、本当に刺激的だよね」


【アルバム情報】

prefuse73_jk.jpg
PREFUSE 73
The Only She Chapters
(JPN) WARP/ BEAT / BRC-291
HMVで買う

tracklisting
01. The Only Recollection Of Where Life Stopped
02. The Only Valentine’s Day Failure
03. The Only Contact She’s Willing To Give (feat. Faidherbe)
04. The Only Chamber Resolve
05. The Only Hand To Hold (feat. Shara Worden)
06. The Only Thief To Steal Tonality
07. The Only Trial Of 9000 Suns (feat. Trish Keenan)
08. The Only Way To Find (feat. Nico Turner)
09. The Only Test To Score
10. The Only Boogie Down (feat. Niki Randa)
11. The Only Direction In Concrete (feat. Zola Jesus)
12. The Only Recollection Of How Things Change
13. The Only Guitar To Die Alone (feat. Adron)
14. The Only Serenidad
15. The Only Lillies And Lilacs
16. The Only Lillies And Lilacs Pt. 2 (feat. Faidherbe)
17. The Only Repeat
18. The Only Recycled Intro
19. The Only Cassette Left *Bonus Track for Japan

【オフィシャルサイト】
http://www.beatink.com/Labels/Warp-Records/Prefuse-73/BRC-291/
http://www.prefuse73.com/

【Album Sampler】
Prefuse 73 ‘The Only She Chapters’ Album Sampler by Warp Records

interviewカテゴリーの記事