SHINICHI OSAWA インタビュー
9月26日、大沢伸一がavex移籍後初となるスタジオ・アルバム『The One』をリリースした。MONDO GROSSO時代の『Next Wave』から実に四年ぶりとなる作品だ。
新作は、DJ活動からインスピレーションを受けた、カッティング・エッジなエレクトロ・ロック・アルバム。収録されている14曲では、ミックスCD『Kitsune Udon』や、ボーイズ・ノイズ、デジタリズムらのリミックス・ワークでも感じられた、大沢伸一的ロック・センスが堪能できる。ロック畑からオ・ルヴォワ・シモーヌやルビーズ、ULTRA BRAiNこと難波彰浩、クラブ畑からプリンセス・スーパースターやフリーフォーム・ファイヴ、RYUKYUDISKOと多彩なゲスト陣を招いている上、各楽曲をまったく違うやり方でつくったというだけあって、バラエティーも豊かで、リスナーを飽きさせない。
2007年を代表する作品のひとつとなるであろう、この『The One』について、大沢伸一に対面で話を聞いた。
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アルバム・タイトル
——今回のアルバム・タイトルは『The One』ですが、これはソロ一作目という意味ですか?
「あんまり意味はないのですが、それが一番大きいですかね」
——アルバム・タイトルはいつ決めたんですか?
「一番最後に決めました。アルバムって、アルバムと呼ぶぐらいで、本当にその時代に自分がつくりたかった音楽の切り取りじゃないですか。切り取ってきて、アルバムに貼付けて思い出にっていう。だから、本当はタイトルに『2007年何月~何月』って書きたいくらいなんです。そういう意味で言うと、アルバム・タイトルほど意味のないことはないなって思うんです。アートワークとか、大事な要素は他にたくさんありますし。でもやっぱりリスナーは、アルバム・タイトルを見てアルバムをイメージするから、一応考えるんです。それで簡単に決められないから、アルバムのタイトルを付ける作業は一番イヤですね。」
——いつもそのスタンスなんですか(笑)?
「ええ。適当ですよ(笑)。僕のアルバムを時系列で見たら、どれだけ意味のないタイトルがついているか、分かってもらえると思います。『MG4』はモンドグロッソの四枚目だからで、『Next Wave』は曲名なんですけど、ニュー・ウェイヴに似てて面白いと思っただけなんです。アルバム・タイトルは、それだけ僕にとって重要じゃないというか、記号や品番みたいなものなんです」
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アルバム制作秘話
——新作のゲスト・アーティストは、どうやって発掘したんですか?
「Myspaceで見つけた人もいますけど、人づてが一番多いですね。紹介してもらったアーティストにトラックを投げて、歌を入れてもらいました。採用できる歌がいくつ上がってくるか分からないので、手広く依頼しました」
——今回のゲスト・ヴォーカリストの中で、特に一緒にやりたかった人は誰ですか?
「やっぱりプリンセス・スーパースターとオ・ルヴォワ・シモーヌですかね」
——プリンセス・スーパースターには、どういう経緯で依頼したんですか?
「彼女はラリー・ティーの「Licky」でフィーチャーされているんですけど、ラリーからMP3で送られてきたこの曲が、すごく良い曲だったんですよ。ハーヴのリミックス・トラックもあるんですけど、そのリミックスは、僕が日本で一番最初にヘヴィー・プレイしたと自負してます。その「Licky」が好きだったので、何か一曲一緒にできればと思ってお願いしました」
——オ・ルヴォワ・シモーヌは?
「彼女たちは、クレプスキュール時代のアンテナみたいなグループだなと前から注目していたんですけど、金沢のRallyeというレーベルから、日本盤がリリースされていたんですね。前からRallyeとは交流があって、Rallyeの近越くんから“実はオ・ルヴォワ・シモーヌ、うちからリリースしているんですよ”という話を聞いたので、紹介してもらいました」
——彼女たちは、たしか今年の7月に来日してましたけど、来日中にお願いしたんですか?
「歌は、彼女達のヨーロッパ・ツアー中に、適当なスタジオに入ってもらって、歌ってもらったものを送ってもらいました。」
——他のアーティストも大体知り合いからの紹介ですか?
「そうですね。いろいろ紹介された候補の中から、この人がいいかなって最終的に僕が選びました。残念ながら歌入れが間に合わなかったものもあって、消去法で決まったアーティストもいたけど、結果的に良かったと思っています。例えば13曲目の「Maximum Joy」は歌が入る予定で、オーストラリアのヴァン・シーが歌うって言っていたんですよ。結局間に合わなかったんですけど。しかもこの曲は、ミッドナイト・ジャガーノーツがリミックスをやるって言っていたんだけど、それも間に合わなかった。それで、今もまだ作業しているという(笑)。まぁ、それらも何かのタイミングでリリースできればいいですね。ヴァン・シーも、ウソかホントか分かりませんが、間に合わないけどやると言っていますし」
——外国人の方は、アテにならないこともあるんですよね…。
「そうなんですよ。「Last Days」は、クラクソンズが歌うなんて言い出してましたから。でも、いつの間にか向こうのマネージャーと連絡が取れなくなり…(笑)。そういうパターンは一杯ありました。まぁ僕も、やると約束して、現状やっていないリミックスとかもあるので、人の事言えないんですよね(笑)。オーディオ・ブリーズもそうですね。彼らとの話はすごく良いところまでいってたんですけど、結局スケジュールの都合でダメでした」
——オーディオ・ブリーズは、自分達のアルバム発売も延期になっちゃうような人達ですからね(笑)。
「あはは、残念です。「Rendezvous」はインスティチューブス・オールスターズとコラボするという約束でつくった曲なんですよ。パラ・ワンとサーキンとタクティールとね。で、僕が先につくったトラックを送ったら、彼らも忙しいらしくてリアクションがなかったので、しょうがなくそのまま収録したんです」
——そう言われてみると「Rendezvous」は、フレンチ・スキゾっぽいコラージュ的な曲になってますね。
「そうですね。まったくそういう手法でつくりました。これはLOUDだけにしか話してないですよ」
——本当ですか?! ありがとうございます!「The Golden」は、邦楽曲がモチーフになっているそうですね。
「そうなんですが、ネタ元は秘密です。たぶん絶対分からないと思いますけど(笑)」
——どうやって、そこからこの曲に行き着いたんですか?
「Abelton Liveで、自分の好きなドラム音をループで、延々と一、二時間ほど鳴らしておくんです。すると、ありえない変なフレーズができるんですね。そこから好きな部分をドラッグして持ってきて、このリズムにはこの音がいいなとか、フレーズが足りないから音階をちょっと変えて、という具合にやっていった結果、「The Golden」ができました」
——なるほど。各曲は、それぞれ違うアプローチでつくったんですか?
「そうですね。まったく違うほうが楽しいですし、手癖でやってしまうと職人的なアルバムになってしまいますから」
——だからアルバムに、これだけバラエティーが生まれたワケですね。
「そのバラエティーが良いのか悪いのかは分からないけれど、僕の個性っていうのは手法じゃなくてセンスだと思っているんです。例えばインスティチューブスのアーティストがやるような、クリック的手法で勝負するのではなく、やっぱり感覚とかセンスで勝負していきたいですね」
——なるほど。そうやって独自のセンスでつくった音楽をリスナーに提示することによって、音楽シーンを新しい形に変えていきたいというモチベーションが、作品をリリースしていく理由の一つでもあると思いますか?
「それはないですね。リスナーは僕より数倍勝手なので、僕も勝手にやっています。リスナーの反応を伺いつつ制作すると、作品にバイアスがかかってしまいます。反応の良いものを優先せざるをえなくなってしまう。そういう状況は避けたいので、“僕みたいな物好きなスタンスが好きな物好き”を対象にしています。だから、好きでいてくれるみんなには、その瞬間本当に面白いと思えるものを提案するということでしかないです。それはDJであれ作品であれ、同じことですね」
——そこには、大沢さんが面白いと思えるものを提示することで、リスナーを楽しませたいという感覚はあるんですか?
「楽しませるっていうのは驕りかもしれないです。楽しんでくれる人がいたら嬉しいなという感覚です」
——大沢さんにとって、音楽はかなりパーソナルなものなんですね。
「そうですね。たまたま今は、プロフェッショナルとして経済的に成立しているけれど、スタンスというか音楽との付き合い方は、限りなくアマチュアに近いですよ。これで今、経済的に成立しなくなったとしても、成立するように好みをねじ曲げて、プロフェッショナルのキャリアを続けるつもりはないです。違う仕事探します。LOUD編集部に行きたいですね」
——何をおっしゃいますか(笑)
SHINICHI OSAWAが表紙のLOUD155号には、このインタビューのメインパートが掲載されています。ぜひチェックしてみてください!
Interview & text: TOMO HIRATA