m-floのメンバーとして数々の大ヒットを世に送り出し、日本のポップ・チャートに、クラブ・ミュージックのエッセンスを注入し続けてきた☆Taku Takahashi。DJ、リミキサーとしては、アンダーグラウンド・シーンでも活躍し、その存在感を日ごとに大きくしている。昨年は、beatportの年間チャート・ドラムンベース部門1位にajapai「Incoming…」のリミックスが輝き、その実力が証明された。UKのラジオ局BBC Radio 1で、彼が手がけたリミックス作品を耳にすることも珍しくない。
そんな☆Taku Takahashiが、このたび新プロジェクト、THE SUITBOYSを立ち上げ、ミックスCD『AFTER 5 VOL.1』を4月20日、リリースする。エレクトロからドラムンベース、ダブステップにいたるまで、幅広い楽曲を収録した本作。リスナーを飽きさせない、多面性とスピード感をあわせもつ意欲作だ。THE SUITBOYS名義での新曲「Calypso Till Dawn feat.MC LYTE」、m-floファンには特に嬉しい「gET oN!」と「Lotta Love」の☆Taku本人によるニュー・リミックスが収録されていることも話題だろう。
レーベルのTCY Recordings、インターネットラジオのTCY RADIOも運営し、八面六臂の活躍を見せる☆Taku Takahashi。多忙を極める彼に、対面インタビューを試みた。
THE SUITBOYS A.K.A.☆TAKU TAKAHASHI
ついに立ち上がった
クラブ・ミュージック・シーンの企業戦士
【☆Taku Takahashiのバックグラウンド】
――意外なことではありますが、☆TakuさんにLOUDが本格的にインタビューするのは、ravexのときを除くと初めてなので、ちょっと基本的なことから聞かせてください。まず、☆TakuさんがDJやクラブ・ミュージックに関心を持つようになったのは、いつごろ、何がきっかけだったのでしょう?
「僕が中学生の頃に、友達のお姉さんがディスコ通いをしていて、DJからミックステープとかをもらってたんですよ。それを、僕らが遊んでいるときに友達が流していて、“あぁ、こういう風につながっている音楽があるんだ。気持ちいいなぁ。自分でもつくってみたい”って思ったのがきっかけでしたね」
――ディスコ通いのお姉さんから流れてきたテープということは、それに入っていたのはディスコ・チューンだったんですか?
「その時代は、けっこうエクレクティックで、もちろんユーロビートとかも入ってたんですけど、ニューヨーク・ハウスやニュージャックスウィングも入ってました。僕、飽きっぽいんで、そういういろいろ入っているのが好きでしたね。その頃は、フランキー・ナックルズとかStrictly Rhythmで、ハウスが面白くなっていた時代でもあったし、ニュージャックスウィングでボビー・ブラウンとか出てきた頃でもありましたね」
――’80年代の中盤あたりでしょうか?
「後半くらいかな。どっちかっていうと」
――その頃、ターンテーブルも買ったんですか?
「はい、親に買ってもらいました(笑)。子供がそういうことやりたいっていうのに対して、“しょうがねえなぁ、お前、音楽好きだから買ってやるよ”って言ってくれた親には、すごく感謝しないと、ですね。今こうやってプロとしてやっているわけですから」
――音楽的なルーツは、ご自分ではどこにあると思っていますか?
「その後、DJと同時に始めたのがバンドだったんですよ。で、リヴィング・カラーっていうバンドがすごく好きだったんです。彼らの音には、ロックなのにソウルなどのブラック・ミュージック的な要素が入っていたし、ライブではブレイクビーツにのせて演奏したりしていてね。そこでジャンルの混ざる感じって気持ちいいんだなって、モロ感じましたね」
――m-floのイメージから想像すると、ヒップホップがルーツなのかと思ってました。
「もちろんそれもあります。最初に恋に落ちたヒップホップのアルバムは、ア・トライブ・コールド・クエストの『ミッドナイト・マローダーズ』でしたね。ヒップホップでは、ネイティブタン系の、ジャジーで聴きやすくて、なおかつ言っていることにインテリジェンスを感じるようなものにハマってましたね。だから、どれがルーツかって言うと、ひとつでは語れないし、それぞれのジャンルに自分のルーツがあるって感覚なんですよね」
【m-floとの切り分け】
――☆Takuさんの中で、m-floとソロ活動の切り分けというのは明確な形で存在していると思うのですが、それはどんなものでしょうか?
「m-floの目標と、僕の目標って違うと思うんですよ。m-floの目指しているものは、“海外ではダンスミュージック・テイストの面白い音楽がチャートに入ってきているのに、なんで日本はそうなっていないんだろう、じゃあ、そうなるようにしてみよう、自分達が好きで、みんなに通じるものをつくろう”というところにあったんですよ。で、☆Taku Takahashiとしては、m-floがやっている、そういう通訳的な部分は一切排除しているかもしれないですね。その上で、音楽をよりグローバルに考えたい、と思っています。というのも、“自分に今好きなものがあって、自分が今やっていることを好きな人を探す”、それを考えると、日本国内だけだと限界があるんですよ。あと、外に出て行って、経験したり吸収したことを日本に持ってきたいというのもありますしね。最終的に、僕が何をやりたいかと言うと、日本人で生まれたからには、自分が住む国を面白く、楽しくしたいんです。その点では、m-floも☆Taku Takahashiも、そこに至る手法は違いますが、目指しているところは一緒なんですね」
――m-floは、現在につながるクラブ・ポップの原型をつくったと言えると思います。そのフォーマットは、未だに衰えていないのですが、今の☆Takuさんの動きは、そこからあえて距離を置こうとしているように見えます。そこには、何か心境の変化があったのでしょうか?
「たしかにポップ・フィールドに、クラブ・ミュージックの影響を受けているものは増えているかもしれませんが、そういうものが10年前から進化しているようには感じ取れないんですよね。鮮度の高いもので、日本のポップ・チャートを賑わしている人も少ないと、僕は感じているんです。だから、そこに何か面白いものを放り込めるかどうか、m-floとしては模索中なんです。ソロをやっているタイミングがたまたま、それと重なっているだけで、ソロの割合が高くなっているのは、いわば結果論ですね」
――2009年に10周年ベストを出したことが、現状への区切りになっていたりはしますか?
「あんまないんですよね、それは。10周年という意味の区切りはありましたけど、自分の活動の区切りとはまた違いましたね」
【THE SUITBOYS】
――ここであえて“THE SUITBOYS”をソロプロジェクトとして立ち上げたのには、どんな意図があるんでしょう?
「音楽は自由であるべきで、そのときやりたいことをやるという、僕の音楽姿勢から立ち上げたんですけど、単純に“m-floでできないことをやってみたいな”っていうのはありますね。THE SUITBOYSは、常にいろんなことにチャレンジしていきたいっていう姿勢の表れですかね」
――☆Taku Takahashi名義ではなく、あえてTHE SUITBOYSという名前にしたのは、なぜですか?
「ははは(笑)。音楽って、遊びなんですよ。さっきから、ずーっと、マジメな感じで答えてましたけど、音楽って楽しくなくちゃいけないし、遊びがあったり、自分達でもクスッて笑える部分ってすごく大事なんです」
――“THE SUITBOYS”という名前になった経緯を教えてもらえますか。
「自分の名前って、海外の人には少し発音しづらいところもあるから、英語の名前にしようってところで、日本をイメージするものをスタッフと考えていったんですよ。そこで、“やっぱさぁ、日本って言ったらサラリーマンじゃん。企業戦士って、ある意味、日本の資産だよね”っていう話になって、“スーツマン”じゃありそうだから、じゃあ“THE SUITBOYS”にしようかっていうことになりました。けっこう安直なノリで決まりましたね(笑)」
――☆Takuさんのトレードマークになっていたサングラスを、眼鏡にかけ変えたのは、そのイメージに合わせてのことですか?
「そうですね。ちょっとマジメな感じのキャラを注入してみようかなっていうことです」
――THE SUITBOYSに、音楽的コンセプトはあるんですか?
「ダンス・ミュージックって、日本ではマイノリティー・ミュージックみたいになっていますけど、基本的にパーティーの音楽なので、それを伝えるのは大事にしていますね。その中で、ジャンルに引っ張られないようにしています。UKのベース・カルチャーとか、すごく楽しいので、少しでも多くの人に知ってもらいたいですね」
――THE SUITBOYSは、DJ活動も、プロデュース活動も含んでいるんですよね?
「そうですね。ひょっとしたら、バンドになるかもしれないし(笑)。面白いと思うことを試していったり、提案していけるくらいの自由度は残しておきたいなと思っています」
――THE SUITBOYS名義でのデビュー曲「Calypso Till Dawn」は、アフロジャック的なビートに、ダブステップの要素とMCライトのラップが乗るという斬新な曲ですね。
「アフロジャックと言うよりは、UKファンキーの影響が大きいと思うんですけど、この曲は、まだ最終型とは言い切れないんですよ。こっからまた進化していくというコンセプトでつくっていて、バージョン1の現段階では、カリビアン・テイストな感じの、UKのベース・サウンドに影響されている音になっていますね。サラリーマンの人がセクシーに踊ってたら面白いな(笑)っていうのをイメージしながらつくりました」
――MCライトを使っているのも興味深いと思いました。
「単純に好きなんですよ。もう、彼女のラップが大好きで」
――彼女は、ある意味オリジネイター的な人ですよね。
「そうですね。フィーメール・ラッパーとしても評価が高くて。振り幅も、ハーコーにいくときはすごいハーコーにいけるし、パーティーのときはパーティーにいけるしで。でも、最初オファーしたときは、“そんなギャラですか、無理っす!”ていう返事が返ってきて(笑)。“これが、うちの精一杯”っていう金額を返したら、“マジか。じゃ、トラック聴かせてくれ。ライトが気に入ったら、この値段でも特別にやるよ”って言われて。トラック送ったら、“おぉ、これならやるよ”って言ってくれて。嬉しかったですね。最初の値段とは、ぜんぜん違う値段になりましたよ(笑)。音楽で交渉ができたという話ですね」
【AFTER 5】
――THE SUITBOYSのスタイルは、「Calypso Till Dawn」に象徴されているって考えてもいいんですかね?
「THE SUITBOYSのスタイルねぇ…。僕はひとつのジャンルに固執できないんですよ。だから、ある意味ミックスCDそのもので、THE SUITBOYSのスタイルを示したいっていうのはありましたね。今出ているもので、ドラムンベースと四つ打ちとダブステップが一緒に入っているミックスCDって、あまりないんじゃないかな」
――THE SUITBOYSとしての第一弾リリースに、ミックスCDという形態を選んだのは、そこで方向性を示せるからでもあったんでしょうか?
「全曲を自分でつくっちゃうっていうのもアリだったんですけど、他の人の曲で“こういうのだよ”っていうプレゼンをするのもいいかなと思って。☆Taku Takahashiが、それをどう消化して出すのかっていう過程を見せられたら、チェックしてくれる人たちも楽しめると思ったし。あとは、いろんな人の音楽が好きだからっていうのも、ピュアにありましたけど」
――CDの冒頭に“BPM128-176のハウス、テクノ、へヴィーベースライン、ダブステップ、ドラムンベース”という、番組内容(ミックスCDの内容)を説明するアナウンスがありますが、そこになぜ“エレクトロ”を入れなかったんですか?
「それを言っちゃうと、こん中に入ってるもの全部“エレクトロ”になっちゃうんじゃないかと思ったんですよ。“エレクトロ”って、ジャンルの境界線が一番ファジーなものだから、入れなかったんですよね」
――『AFTER 5 VOL.1』の選曲をする際に、基準としたことは何ですか?
「自分がかけるもの。自分が遊びに行ったとき、かかったらアガるもの。わりとタイムレスに聞こえるものを選んでいきましたね」
――実際のDJやクラブのヴァイブスをパックする方向性と、CDとしてホームリスニングに対応する方向性の、どちらを選びましたか?
「今回は、それの中間を選びました。何度聴いてもミスを感じさせないけれど、単純に楽曲を並べただけのものでもなくしたかったんですよ。だから、手法的にはコンピューターも使ったけど、生感を出すために、ミキサーを使って、ライブでエフェクトをかけたりしました。あとは、気持ち良さをすごく大事にしましたね。この曲とこの曲がつながったら気持ちいいとかありますよね。今回、それを振り返る機会があったので、ヨーロッパのDJなんかが普通にやっているハーモニック・ミキシングを徹底しつつ、曲の感情も重視して、ある意味パズルのように組み立てていきました」
――ミックス面では、次から次へと矢継ぎ早に曲を繰り出していくスタイルが印象的なのですが、こういうスタイルを選んだのはなぜですか?
「あ、それは僕のDJスタイルなんです。けっこうUKのDJとかもそうなんですけど、2分以内に混ぜるっていう。最近の僕のDJでも、1時間で30曲以上かけちゃうことが多いですね。僕自身が、飽きっぽいっていうのもありまして。普通の四つ打ちのミックス・スタイルよりは、確実に1曲の長さが短いですよね」
――『AFTER 5 VOL.1』となっているからには、“VOL.2”もお考えなんですよね?
「出していきたいです。ミックスCDを正規で出すのは、これが人生二回目になるんですけど、すごくこの制作作業が好きですし、今回からはさらにぶっとんだこともできるようになりましたから」
――何か具体的なプランはあるのでしょうか?
「BBCで毎週レギュラーやってる、ジャガー・スキルズっていう、忍者のお面かぶったDJがいるんですが、彼のミックスがすごくて、僕も触発されているんですよ。その彼を今度、日本にも連れてくるんですが、彼と一緒にミックスCDをつくるプロジェクトが始まりそうです。そういう意味では、形にこだわらずシリーズ化していきたいなぁと」
【将来のビジョン】
――THE SUITBOYSとしての今後の予定は、ありますか?
「アルバムをつくります。秋か冬くらいには出したいなって思ってます」
――最後に、今リスナーやクラバーに何か伝えたいことがあったらお願いします。
「伝えたいことっていうのは、あまりないんですけど、“音楽を感じること”自体がリアルなことだと思うんです。その感じる力を持つのはリスナーの皆さんですから、特にLOUDのリスナーのような、ちょっと違ったものを求めている人たちには、いろんな音楽に触れ続けてもらいたいですね。僕自身も、m-floだったりTHE SUITBOYSだったりで、新しい音楽を提供し続けていきたいです。あと、やっとTCY Radioのほうも、今年からついに本格的にできるようになるんで、ぜひそちらのほうもチェックしていただけたらなぁと思っています」
――TCY Radioの話が出ましたが、☆Takuさんのやっていることは多面的ですよね。
「僕のやっていることって、一言で語れないんですよ。ひよっこですけどジャーナリストの自分、ラジオのディレクターの自分、ミュージシャンの自分、DJの自分、プロデューサーの自分って、いろんな自分がいるんです。そんな中、自分が培ってきた経験やポジションをフルに活用して、日本という国で、みんなとエレクトロニック・ミュージック、ダンス・ミュージックを楽しめる環境づくりに貢献できたらなと思っています」
photo YASUMASA YONEHARA
interview & text TOMO HIRATA
【アルバム情報】
THE SUITBOYS A.K.A.☆TAKU TAKAHASHI
AFTER 5 VOL.1
(JPN) TCY Recordings / rhythm zone / RZCD-46824
4月20日発売
HMVでチェック
【PARTY INFORMATION】
“AFTER 5 VOL.1 RELEASE PARTY”
4/16(土)@ETTI(静岡)
4/28(木・祝前日)@MAGO(名古屋)
4/30(土)@DOUBLE(金沢)
5/21(土)@MUGEN(広島)
【オフィシャルサイト】
http://twitter.com/takudj
http://www.myspace.com/takutakahashi
http://www.tcyrec.com/
http://www.myspace.com/tcyrec