The Ting Tings『Super Critical』インタビュー


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英マンチェスターのパーティー・シーンから登場した、Katie White(ケイティ・ホワイト)とJules De Martino(ジュール・デ・マルティーノ)からなるポップ・デュオ、The Ting Tings(ザ・ティン・ティンズ)。デビュー前からそのキャッチーかつスタイリッシュなサウンドとルックスで脚光を浴びた彼らは、2008年にデビュー・アルバム『We Started Nothing』をリリースすると全英チャート初登場1位を記録。シングル「That’s Not My Name」「Great DJ」「Shut Up and Let Me Go」も大ヒットとなり、一躍世界的人気を獲得した存在です。ここ日本にも’08年、’09年、’11年に来日し、彼話題を集めています。

そのThe Ting Tingsが、2012年の『Sounds from Nowheresville』に続くサード・アルバム『Super Critical』(スーパー・クリティカル)をリリースしました。スペインのイビサ島に移住し曲づくりをし、なんと現地で知り合ったアンディ・テイラー(Duran Duranのオリジナル・メンバー)と共にレコーディングしたという本作。その内容は、彼らならではの音楽的センスを、’70年代ディスコ・サウンドのテイストやDJ的なアプローチで表現した進展作となっています。

ここでは、本作『Super Critical』の内容とその制作背景について、12月はじめにジャパン・ツアーで再来日を果たしたThe Ting Tingsの二人に話を聞きました。


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The Ting Tings『Super Critical』インタビュー

__あなた達は、2012年末にスペインのイビサ島に移住し、今作『Super Critical』の曲づくりを始めたそうですね。まず、イビサに移住した理由は何だったのでしょうか?

Katie White「イビサに移住する少し前に、1ヶ月ほどリハーサルで行ったことがあったんだけど、その時に、イビサに魅力を感じたの。どこに魅力を感じたのかと言うと、まずははやりよく知られている通り、イビサのクラブ・ミュージック、クラブ・シーンよね。で、私たちが訪れた当時は既にEDMが全盛で、もっぱらそういうタイプのサウンドがかかっている感じだったわ。でもそうこうしている内に、私たちはイビサに昔からあるヒッピー的な雰囲気にもひかれたわ。イビサってちょっと変わった人達がいっぱい暮らしていて、独特でしょ?」

__そうですね。

Katie「で、そもそも今回このアルバムを制作するにあたっては、ソングライティングの上でDJ的な曲の構築の仕方、盛り上げて盛り上げて落とす…みたいな方法に興味があったから、そういう部分に刺激を受けたり、そういった部分を吸収したいと思ってイビサに移住したんだけど…イビサのクラブに実際に行っても、そこでかかっている音楽にはあまり影響を受けることなく、むしろそこではかかっていない音楽の方に刺激をもらった作品になっちゃったかな(笑)」

__イビサでは、基本的にどういうサイクルの生活を送りながら、アルバム制作を進めていったんですか?

Katie「アンディ・テイラーと出会って実際にレコーディングを行うようになってからは、朝起きて軽く運動をしてからスタジオに入って、早朝4時くらいまで作業をして…という繰り返しだったわ」

Jules De Martino「移住した頃とか、レコーディングをスタートする前の曲づくりの期間は、かなり不規則だったよ。何か日課があったわけではないから、朝の5時頃に曲をつくって午後は寝てたりとかね。あと、世界各国から30名のアーティストがイビサに集まるプロジェクトもやったんだ。マンチェスターの側にイズリントン・ミルズというアーティスト達が集って活動する場があるんだけど、そこの仲間と組んで、クラブ以外のイビサのいろんな魅力を伝えるというプロジェクトを2週間やったんだ。僕らはそういうのにも携わったりしていたから、曲づくりばかりをしてたわけじゃなく、音楽以外の様々なところからも刺激を受ける生活をしてたよ」

__アンディ・テイラーとは、イビサで暮らすようになってから比較的早い段階で知り合ったんですか?

Katie「アンディとは、実は私達が最初にイビサに行った時に会ったんだけど、その時はまだ一緒に何かやろうみたいな話は全くなかったわ。移住してからも、これまで同様私達二人だけでアルバムをつくるつもりでいたし。イビサでアンディと知り合って仲良くなったからといっても…仲良くなったからこそ、そこで一緒に音楽をつくってみて上手くいかなかったら、同じ島に住んでいてちょっと居づらくなったりするかもしれないし、イヤでしょう? だからちょっと躊躇してたのよ」

__なるほど。

Katie「そんな時、他のアーティストに楽曲を提供する話をよくもらってたんだけど、私達はそれに対してもちょっと抵抗があったのよ。私達は自分達の作品をつくっていたから、それと平行して他のアーティストのために音楽性の違う曲をつくるというのは、切りかえが上手くいかないんじゃないかって心配していたの。それで、そのことをアンディに相談してみたのよ。そうしたら彼は、“だったら他の人のために書いた曲や、ボツになった曲を、僕のところに持ってきてみなよ。聴いてみるから”って言ってくれてね。で、そういった曲を彼のスタジオに持っていって、相談しながら一緒にちょっとやってみたら、すごくいい曲ができたのよ。手ばなしたくない曲ができたって思ったし、彼とは仕事もしやすいって感じたわね。だから、アンディと作業するようになったのは、そこからね」

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__では、今作にある要素のひとつ、レイドバックしたディスコ/ファンク系のサウンドというのは、アンディ・テイラーの存在も含めて出てきたものだったんですか?

Jules「僕らが最初につくった曲は「Wrong Club」で、イビサに移って間もない頃、まだ落ち着かない頃に書いたんだ。この曲は、それこそEDMのようなアレンジにもできる感じなんだけど、いろいろと試していく中で自分達が今回最も参考にしたのは、Studio 54やCBGBといった1970年代のニューヨークのクラブ…そういった音楽や映像をネットでよく見てたんだよね。ネットでチェックしながらその頃の音楽を再発見していって、そういった世界観を自分達もつくりたいって思うようになったんだ。でも、もしイビサじゃない場所で同様のことをしていたら、きっとただ懐かしいだけの、レトロな音を再現しただけの音楽をつくっていたと思うよ。すぐそばに最先端のクラブがあるイビサという環境で、週末に向けて盛り上がっていく雰囲気を肌で感じながらやったからこそできた音楽だね」

__ある程度曲づくりをしてアルバムの世界観もでき上がってから、アンディと作業をするようになったんですね。

Jules「二人で6~7曲つくっていって、その段階で交流を深めていたアンディにも聴いてもらってって流れだったよ。で、彼とさっきの’70年代や’80年代の話をしたりすると、彼は実際にその時代その現場にいた人だから、当時のいろんなエピソードを聞かせてくれたりしてね。だから、そういった話にも刺激を受けたことは確かさ。と同時に、彼は僕らが作業を進めていく上で的確なアドバイスもしてくれたよ。僕らにいろんな部分で自信を持たせてくれたのが、彼が今回してくれた一番の貢献かな」

__そうでしたか。あなた達が今作で追求しようと思ったアルバムの世界観と、そのルーツにも詳しいアンディ・テイラーと作業を始めたことは、偶然だったんですね。

Jules「そうなんだよ。僕らはもともとあまり予定を組まないバンドだし、基本的には二人でやるつもりだったからね。それに僕は、アンディがChicのバーナード・エドワーズとバンド(The Power Station)を組んでいたことがあったなんて知らなかったんだ(笑)。今回、自然と仲良くなって、たまたま一緒にやることになっただけさ。誰から指示があって一緒に仕事をしたわけじゃない。アンディは、Chicのナイル・ロジャースの話もよくしてくれたんだけど…実はナイルから“モントルー・ジャズ・フェスティバルでChicと「Shut Up And Let Me Go」で共演しない?”って話ももらったんだよ。その話は、たまたま自分達のスケジュールと合わなくて実現しなかったんだけどね。でも、その後アンディと仲良くなったんで、ナイルに“もしかしたらアンディと何か一緒にやるかも”ってメールをしたよ。で、“あなた達に影響を受けた曲もつくってるんだ”ってメールしたら、ナイルは“ぜひ送ってくれ”って返事をくれてね」

__そんな話もあったんですか。

Jules「でも、もしそこでナイル・ロジャースに曲を送って、彼がプロデュース参加する流れになっていたら、それはもう単に“本物の”というか、The Ting Tingsの作品というよりも、ナイル・ロジャースの音楽に忠実な作品になっていたかもしれない。で、それじゃ面白くないかもしれないだろ? だから、今回ナイル・ロジャースから影響を受けたアンディ・テイラーとやったっていうのは…なんていうのかな、派生したバージョンというか、だからこそ逆に新鮮で面白いものができたと思うし、その方がThe Ting Tingsらしいと思うんだ」

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__アンディとレコーディングを進めていく際に、演奏面やサウンド面で特に重視したこと、実現したかったことは何でしたか?

Jules「いろいろあったけど、一つはDJを参考にしたことかな。DJというと、昔はアナログで音楽をプレイしていたけど、現在はパフォーマンスも含めてかなり進化したよね。今回はそんなDJの要素、曲の構築の仕方やライブでの盛り上げ方なんかをプラットホームにして制作に臨んだよ。だからループをどんどんつくって、そこにライブでギターやドラムをのせていきながら曲をつくったり、ということもしたね。あとは、イビサで知り合ったDJをやってる友達にリミックスをいろいろ聴かせてもらって、それを参考にしながら自分達がDJになったつもりで曲づくりをしてみたりもした。でも、僕らはDJではなくてミュージシャンだから、そこで生まれるDJとは違う何か新しい要素みたいなものを吸収していった感じかな。カオスパッドのような機材も新たに取り入れてみたしね。ラップトップに入っている音源を呼び出すコントローラーも導入して、音をはめていくような曲のつくり方もしたよ」

__では、アルバム・タイトル曲の「Super Critical」は、どのようにして誕生した曲ですか?

Katie「本音を言ってしまうと、イビサってああいう土地だから快楽主義的でユルいのよね。気候も暖かいし。だから、いろんなモノが周りにあふれているのよ(笑)。で、実は“Super Critical”というのは種の銘柄の一つらしくて、見かけた時に“いい名前だな”って思ったの。’70年代っぽい響きがあって、快楽主義的で万華鏡っぽい雰囲気を感じたのよ。「Super Critical」は、そういったアイディアからつくっていった曲ね。で、この言葉が気に入っていたから、そのままアルバム・タイトルにもしたのよ」

__実は、なかなかディープな名前なんですね(笑)。

Katie「セカンド・アルバム『Sounds from Nowheresville』を制作していた時は、考えすぎて煮詰まってしまい、自分達を追いつめてしまった経験があったから、今回はその反動もあってオープンでユルい感じになったのかもね。リラックスした気持ちで、以前だったらボツにしていたようなものも、“これはこれで面白いからいいじゃん”みたいな感じで制作していけたから、面白いものになったと思うわ」

__ところで「Wabi Sabi」は日本語の“侘び・寂び”を曲名にしたものだと思いますが、どのようにして誕生した曲ですか?

Katie「マンチェスターの知り合いがイビサまで遊びにきてくれた時に、日本の侘び・寂びの概念にふれた本を読んでいたのよ。侘び・寂びという有り様について、完全じゃないからこそ、そこに美しさがあるとか、そういった考え方ね。で、その考え方ってステキだなって思ったから、これは曲にするのに面白いテーマだ、ということでつくった曲よ」

Jules「侘び・寂びの本来の意味とは違うと思うけど、「Do It Again」にある、自分では間違ったことをしていると思っていても、他の人から見たらそれは正しいことかもしれない…だとか、“Wrong Club”(間違ったクラブ)に今いるけど、あなたにとってはそれが“Right Club”(正しいクラブ)かもしれない…だとか、「Failure」の、曲調はすごくアップテンポでポップなんだけど、歌は自分はダメな人間なんじゃないかっていう内容だったりする…だとか、そういった対比がこのアルバムにはあるんだ。人生ってただ見た通りのものではなく、不完全でも美しかったりするし、間違いが実は正解だったりするものだと思うんだよね。このアルバムは、そういった意味合いで侘び・寂びと何かちょっと通じる部分も持っているんじゃないかって思ってるよ」

__最後に、The Ting Tingsの今後の活動予定について教えてください。今作の日本盤にはボーナストラックとして「Wrong Club」と「Do It Again」の“Club Mix by The Super Criticals”というロング・バージョンも収録されていますが、こういったバージョンのみでもう一枚アルバムをつくる構想はありませんか? 今作の制作過程を聞いていると、他にもいろんなバージョンの楽曲がありそうだと思ったのですが。

Katie「バンドとして、クラブでツアーをしていくのもすごく面白いかも、とは思っているわよ。DJブースでギターとドラムをプレイしたりしてね」

Jules「もちろん他にもリミックスはあって、これから出していくつもりさ。ただ、僕らが一つ考えていたのは、いつもライブではアルバムとは違うアレンジで曲をプレイしているから、これまでにリリースしたアルバムから曲をピックアップして、それらをライブでやっているようなアレンジでレコーディングし直したら面白いんじゃないか、というアイディアだね。でも、そのリミックス・アルバムのアイディアも面白いな。The Cureに『Mix Up』(1990)という良いリミックス・アルバムがあるもんね。いいかもしれない」

interview: iLOUD
Interprete: Banno Yuriko


【リリース情報】

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The Ting Tings
Super Critical
(JPN) SONY / SICP-4326
発売中(10/29 発売)
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tracklist
01. Super Critical
02. Daughter
03. Do It Again
04. Wrong Club
05. Wabi Sabi
06. Only Love
07. Communication
08. Green Poison
09. Failure
10. Wrong Club (Club Mix by The Super Criticals) *bonus track
11. Do It Again (Club Mix by The Super Criticals) *bonus track

【オフィシャルサイト】
http://www.sonymusic.co.jp/thetingtings/
http://www.thetingtings.com/

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