仮面をかぶった奇才トラック・メイカー / DJ、レイブマンと、吸血ボーカルのエキゾチカからなる、オーラルヴァンパイア。テクノ、エレクトロ、インダストリアル・ミュージックの実験性、昭和歌謡を彷彿とさせるレトロなメロディー、ゴシック調のビジュアル・イメージで、独特の存在感を放つ注目株だ。’04年に自主制作アルバムを発表して以降、急速に話題となっている彼ら。海外のジャパンカルチャー・イベントにも多数出演しており、国内外のオーディエンスを魅了している。
そんなオーラルヴァンパイアが、このたび初のフル・アルバム『ZOLTANK』を発表する。これまでに配信限定でリリースしてきた人気曲のニュー・バージョンに、新曲を加えた、全16曲が楽しめる本作。彼らの、バックグラウンドと未来が詰まった会心作だ。ポップさと、ミステリアスな世界観をあわせせ持つそのサウンドは、非常に中毒性が高い。
『ZOLTANK』の制作背景を探るべく、オーラルヴァンパイアの二人、レイブマンとエキゾチカに話を聞いた。なお、レイブマンはインタビュー中も仮面をかぶっており、その素顔は今も謎に包まれている。
――フル・アルバム、『ZOLTANK』を完成させた手応えはいかがですか?
レイブマン「手応えというか…かなり苦労しましたね(笑)。制作に長いこと時間がかかったし、一言では語れないですね」
エキゾチカ「でも時間がかかった分、ファンの方々にちゃんと伝わるような、“ZOL”のこもったアルバムになったよね?」
レイブマン「うん。アルバム・タイトル『ZOLTANK』は、いろんな出来事への思い入れや、グニャグニャした怨念みたいな“ZOL”を、タンクに詰めるイメージで付けたんですよ(笑)」
――“ZOLTANK”は、造語なんですか?
レイブマン「ゲルと似たような、ゾル状物質っていうのがあるんですよ。水溶液よりヌメリがあるんだけど、ゲルまではいかない物質で、血液とかがそうなんです」
エキゾチカ「私たちは、怨念、情念、感情のことを“ZOL”って言葉で表現したんですけど、血液もそうだし、イメージに合っていてちょうどいいなと」
レイブマン「でも、バンド自体はそんな重いテーマをやっているわけじゃないので、アルバムは純粋に楽しんでもらえたらと思います(笑)」
――本作では、ハード・テクノ、エレクトロ、ロック、ダブステップなど、様々なスタイルの楽曲が展開されていますが、全体を通して、昭和歌謡的なレトロなメロディーや、退廃的な雰囲気が印象的だと感じました。そういった要素が、オーラルヴァンパイアの軸となっているのでしょうか?
レイブマン「そういう要素は初期からあって、二人に共通しているものなんですよね」
エキゾチカ「昭和時代のエンターテインメントって、個性的だし、そこには“ZOL”が渦巻いている楽曲が多かったイメージがあります(笑)。そういう要素と、私たちのつくり出す音楽をミックスすることで、オーラルヴァンパイアっていうスタイルが、自然にでき上がったんです」
――また本作には、これまでに配信限定で発表してきた楽曲や、インディー時代の楽曲も収録されていて、オーラルヴァンパイアの軌跡をうかがい知ることもできますね。
エキゾチカ「私たちって、正式な音源が無い状態で何年もずっとライブ活動をしてきたから、“オーラルヴァンパイアはこういう者です”っていう一枚を、とにかくつくらなきゃと思ったんです。昔の楽曲は、このアルバムに収録するために全部つくり直したんですよ」
レイブマン「そんなことをしていたら、情念や怨念がわいてきて…(笑)。楽曲のジャンルはバラバラなんですけど、コンセプト自体は初期から変わっていないですね。一番大きく変わったのは、技術的な部分です。インディーズの頃は、PCではなくハードウェアで曲づくりをしていたんですけど、ボコーダーが無かったから、自分の首を絞めながら“あーーー”とか言っていましたね(笑)」
――ある意味斬新ですね(笑)。その一方で新曲には、楽曲構成におけるセオリーやフォーマットをぶち壊した、アヴァンギャルドなものが多いですね。
レイブマン「ポップな曲をつくる一方で、ノイズみたいな曲もつくって、自分の中でバランスを取ったんです。アングラ・シーンにいるだけだと、何でも自由だから、逆に新しいことって生み出しづらい気がするんですよ。それだったら、例えば
――とはいえ、あそこまでいびつな表現に行き着くって、並大抵の感性ではないと思いますよ。
レイブマン「ふふふふ(笑)。そういうことを、ちゃんとしたレコード会社を通してやってるっていう事実も、自分としては面白いんですよ。サディズムなのか…。もはやSなのかMなのか、わからないですけど」
――あと、『ZOLTANK』収録曲のタイトルには、“フレアスタック(※注1)”、“スキゾイド(※注2)”、“Innsmouth”といった、含みのある単語が多用されていますよね。
エキゾチカ「私が先に歌詞を書いて、その内容をふまえてレイブマンが曲名を付けたんです」
レイブマン「オーラルヴァンパイアの楽曲には、“工業哀歌三部作”っていうのがあるんです。第一作目は、インディーズ時代に出した「バンボロ工房」っていう曲で、第二作目が「フレアスタック」なんです。三つ目はまだ無いんですけどね(笑)。もともと僕は、無機質なものが好きで、建造物マニアだったりするので、それと自分の情念が交ざることで楽曲が生まれたんです」
――“Innsmouth”は、ハワード・フィリップス・ラヴクラフトの小説に登場する、架空の都市ですよね?
レイブマン「はい。以前から僕は、ハワード・フィリップス・ラヴクラフトの『クトゥルフ神話』をモチーフにした曲を書こうと思っていたんですけど、なかなか完成できなかったんですよ。そうしたら、こっちから何も言ってないのに、エキゾチカさんがそういう歌詞を書いてきたからビックリしました」
――エキゾチカさんが書く歌詞は、とてもサイコな世界観を持っていますよね。
エキゾチカ「歌詞を書く時は、ストーリーやあらすじを描くよりも、断片的でもいいから伝わるイメージをつなげていく感覚なんですよ」
――声の質感や響かせ方も関係しているのかもしれませんが、非現実的な世界の住人が、何かを啓示しているような錯覚すら覚えるな…と思いました。ところで、アルバムのアートワークでは、レイブマンさんが自らディレクション / デザインを手がけたそうですね。
レイブマン「はい。アートワークに関しても、僕の中に明確なコンセプトがあったんですよ。オーラルヴァンパイアというものを、一発で説明できるようなものにしたので、すごく冒険をしたワケではないんですけど」
――今後の活動には、どんなビジョンを持っていますか?
レイブマン「社交的でない人でもやれることを選んでいった結果、僕はこういう音楽活動に行き着いたんですよ。僕みたいな、うだつの上がらないヤツでも、こういうことができるんだぞって…わかってくれたらと思います」
エキゾチカ「私たちの世界観に、入り込んで楽しんでほしいですね。普段リスナーがいるのとは、違う世界を提供していきたいです」
※注1: 原油採掘施設、ガス処理施設、製油所などで出る余剰ガスを、無害化するために焼却した際に出る炎。また、その手法のこと。
※注2: 社会的に孤立していて対人接触を好まず、感情の表出が乏しく、何事にも興味関心がないように見えるといった、性格特徴。