Francesco Tristano『idiosynkrasia』インタビュー


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クラシックや現代音楽界で活躍する若きピアニスト、Francesco Tristano。テクノ・クラシックスを独自の奏法とアイディアでカバーしたアルバム、『Not For Piano』を’07年に発表し、クラブ・シーンでも一躍注目を浴びた存在です。近年では、Carl CraigやMoritz von Oswaldとコラボレーションしたり、自身が率いるピアノ・ユニット、Aufgang名義でアルバム『Aufgang』をリリースするなど、多岐に渡る活動を展開しています。

そんな彼が、オリジナル・アルバムとなる『idiosynkrasia』をリリースしました。なんと、Carl Craigをエグセクティブ・プロデューサーに迎えたという本作。その誕生背景について、Francesco Tristanoに話を聞きました。


Francesco Tristano
カール・クレイグとともに2年を費やし生み出した
アコースティックとエレクトロニックのケミストリー

__あなたは、これまでにCarl Craigと様々な形でコラボレーションを行ってきましたが、まずは彼と出会ったきっかけから教えてください。

「Carlと出会ったのは6~7年前のことで、彼がオランダでDJしたときに、故郷のルクセンブルクから聴きに行ったんだ。彼のDJプレイを聴いたのは、それが初めてだったんだけど、とても楽しかったから、DJを終えたカールに会いにいって、自己紹介したんだ。そのとき僕は、“ジュリアード音楽院に通うピアニストで、普段はクラシック音楽をやっているけど、他のジャンルもたくさん聴くし、あなたの音楽が大好きだ”と伝えた。すると、“君のやっていることを、頑張って続けて。境界を越えるようなことをしてほしい。君たちのような才能が必要だ”というような言葉を彼からもらったんだ。その数年後、共通の友人から正式にCarlを紹介され、それ以降たくさんのプロジェクトで一緒に仕事をしてきた。僕の作品「Not For Piano」に収録されている「Melody」のリミックスをしてもらったのが、彼との最初の仕事で、そのとき初めてデトロイトへ行ったよ。その後、インナーゾーン・オーケストラにピアノで参加したんだ。デトロイト・テクノを発見し、自分も関わったという体験が素晴らしかったから、デトロイトで何かやりたいと強く思ったよ。だけどこの『idiosynkrasia』は、これまでの作品のような、デトロイト・テクノの再解釈やオマージュではなく、僕自身のビジョンがつまった、真のオリジナルと呼べる作品なんだ」

__なるほど。実際に、『idiosynkrasia』の制作はデトロイトで行ったんですか?

「基本的に、デトロイトにあるPLANET Eで、レコーディングやミックス、エディットの作業を行った。制作期間中、僕はデトロイトに7回も足を運んだよ。Carlのスタジオは本当に良い音をつくることができるから、ミックス作業中に聴いていたサウンドは、最高の水準だったと思う」

__あなたとCarlはどのような役割分担で制作を進めていったんですか?

「最後の1曲でシンセサイザーを弾いてもらった以外、Carlは作曲や演奏にはさほど介在していない。でも、制作現場で全てを仕切ってくれた彼の存在は、非常に重要だったよ。彼は、ピアノの音がちゃんときれいに録れているかどうかを僕がチェックしている間、レコーディングに適した機材をセッティングしてくれたり、常にベストな環境や方法を用意してくれたんだ。でも同時に、常に一緒にいたわけじゃなく、僕が一人でスタジオにこもってレコーディングしていると、一人にしてくれた。いいプロデューサーというのは、ある意味そういう人なのかもしれない。必要な時は手は貸してくれるけど、アーティストが一人で作業すべき時には、本人に任せる。彼はそのタイミングを分かっていたんだ」

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__タイトルの「idiosynkrasia」とは、どういう意味を持つ言葉ですか?このタイトルをつけた理由と、アルバム全体のコンセプトを教えてください。

「タイトルは、古代ギリシャ語から取ったもので、“idiosynkrasia”には、“自身への正しいやりかた”といった意味がある。“idiosnkratic”なら、“誰とも違う、その人自身の”といった意味になるね。僕はここ数年、生のピアノとエレクトロニック・ミュージックを融合させる、僕なりの方法を見つけることに、強い興味があったんだ。それには、リアルタイムでレコーディングした音を、エフェクトなどで加工したり、その上にシンセサイザーやドラムマシン、シーケンサーを乗せていく方法が適していると思ったよ。僕が今やっていることは1枚や2枚のアルバムに限定されるのではなく、いまも時空の中で進行中のプロセスなんだ。それとこのアルバムは真に僕のアルバムだと呼べるものでもある。これまでのようなオマージュ、デトロイトテクノの再解釈といった物ではなく、僕自身のバージョン、僕自身のヴィジョンが詰まったアルバムなんだよ。そして僕自身、このサウンドをとても気に入っている」

__『idiosynkrasia』の収録曲は、鍵盤から奏でた旋律だけでなく、弦楽器にも打楽器にもなるピアノの多様な音色と、選び抜かれたエレクトロニック・サウンドやエフェクトで構成されていますね。とても実験的で、優美かつ深遠な音世界が表現されていますが、サウンド・メイキングには、どんなビジョンを持って臨んだんですか?

「これはスタジオ・プロジェクトだから、結果よりも過程のほうが重要だったんだ。サウンド・メイキングにおいては、生のピアノのサウンドとエレクトロニック・ミュージックを融合させる僕なりの方法を見つけることに重点を置いた。ここ何年も、僕はそれを探索し続けてきたけど、毎回新しい挑戦をしてきたし、毎回前進するようトライしている。曲によっては、こういう音にしたい、という明確な目標があったものもあれば、スタジオで何日も過ごし、ひたすら演奏しているうちにでき上がってきたものもあった。ほかにも、最初にピアノで出てきたアイディアを、エレクトロニクスで解釈し直して、別のもので演奏し直した時に大幅に変化したサウンドもある。僕には僕なりの、エレクトロニクスとアコースティックを融合するときのレシピがあるんだけど、アルバムではそれぞれの曲に違ったレシピが、それぞれに、“idiosnkratic”な言語がある、というような感じだね。けど個々の音が、細部まで配慮されたものであるべきなのは、言うまでもない。それぞれの音が全体に与える影響は大きいから。ただぱっと聴いただけでは、アコースティックなのかエレクトロニックなのか、聴き分けできない音を入れてみることにも、興味があった。二つの中間の音を探求したことも、面白い試みだった」

__本作は、一聴する限りだと、ミニマルやアンビエントにカテゴライズされるかもしれません。でも、聴き込んでいくほど、クラシックやエレクトロニック・ミュージックといった大きな枠すら越えようという、ラディカルな作品だと感じました。本作を発表した後、どのような活動を予定していますか?

「人生は続く(笑)。『idiosynkrasia』は、現時点で僕の子供のような存在だけど、これからもステージで演奏するし、ピアノ・リサイタルやオーケストラでのピアノ演奏など、クラシック界での活動も頻繁に行う予定だよ。今回のようなプロジェクトだと、クラブでライブをすることもある。その時は、シンセやラップトップとともに、グランドピアノを使用することもある。あと、アウフガングの活動もあるから、複数のプロジェクトが同時進行していて、8月半ばくらいから息をつくヒマもない感じだよ。今年後半から1月くらいには休暇が取れたらいいな(笑)そして来年は日本にも行く事が決定しているから今からとても楽しみにしているよ」

interview & text HIROKO TORIMURA
translation ERIKO HASE
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【アルバム情報】

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FRANCESCO TRISTANO
Idiosynkrasia
(JPN) U/U/M/A / XECD-1129
11月10日発売

tracklisting

1. Mambo
2. Nach wasser noch erde
3. Wilson
4. Idiosynkrasia
5. Fragrance de fraga
6. Lastdays
7. Eastern market
8. Single and doppio
9. Hello (Inner Space dub)

【Official Website】
www.francescoschlime.com
国内レーベル・サイト

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