シグナレス『NO SIGNAL』インタビュー


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京都在住のシンガー・ソングライターで、その囁くような歌声で支持を集めてきたゆーきゃんと、叙情的なサウンドで人気のエレクトロ・ダブ・ユニット、あらかじめ決められた恋人たちへ(あら恋)のトラックメイカー/鍵盤ハーモニカ奏者として活躍する池永正二の2名がスタートさせたプロジェクト、シグナレス。’09年初頭にシグナレスと改名する以前は、“ゆーきゃんmeetsあらかじめ決められた恋人たちへ”の名で活動を行っていた、話題のユニットです。

彼らが、待望の初アルバム『NO SIGNAL』を2/2にリリースします。その内容は、ストレートなダンス・ビートを配した「ローカルサーファー (Album ver.)」から、ダウンテンポの「星の歌」まで、どの楽曲も、エレクトロニックにしてオーガニックなサウンド、甘美でドリーミーなメロディーとノイズ、そしてゆーきゃんのエモーショナルなボーカルと詞が絶妙に融合したもの。時にチルウェイブ系のサウンドとリンクするような、独特のテイストも印象的です。

ここでは、そんな『NO SIGNAL』の音世界について、池永正二とゆーきゃんに話を聞きました。


シグナレス
信号なき世界で生み出される、甘く切ないダンス&フォーク・ミュージック

__まずは、シグナレスを結成したけっかけについて教えてください。

ゆーきゃん「そもそも、ぼくはあら恋の一方的なファンで、よくライブを観に行っていました。そのうちに一緒のイベントに出演させていただけるようになり、何度目か、今はなき新世界のブリッジ(というハコ)での共演のあとで、池永さんから「昨日のライブよかったです。なんにもなくなって、見上げたら空が青かった、みたいな。機会があったら一緒になんかやりましょう」というメールをいただいたのです。これは、たぶん2003年くらいの話で、実際にコラボレーションしはじめるまでには、あと何年か待たなくてはならなかったのですが(そしてこんなメールのことを、池永さんは忘れてしまっているでしょうが)、ぼくにとってのスタートは、このときだったような気がします」

__“シグナレス”というバンド名の由来は何ですか?

池永正二「ミヤケン(宮沢賢治)の『シグナルとシグナレス』からです。この小説ではシグナル(信号機)の女性型として使用されています。あと、DTMでは“オーディオのシグナル”など、“信号”という意味で使われていて、音や言葉や感情、状況なり、なんらかのシグナルを交感しあう作業が音楽だとしたら、僕らにはそれがレスしている。欠けている。信号が欠けているのです。欠けているからこその美しさがあると思います」

__シグナレスの音楽的コンセプトとは、何でしょうか?

池永正二「最終的に、POPSです」
ゆーきゃん「ぼくは、拾い上げたり、すくい上げたり、風を受けて帆が開いたりするようにしか、曲や詞を書くことができません。ただ、そこには小さいけれど確実な“何か”があって、その種のような“何か”が、池永正二の使う魔法と共鳴しあって、いつしか空を覆うように大きなものとなっていく…。そういう“大きな音楽”こそが、シグナレスだと思っています」

__初のアルバム作品『NO SIGNAL』について、教えてください。作品全体のテーマは、どのようなものでしたか?

池永正二「“SIGNAL”(信号)とは、コミュニケーションのことなんですけど、それが“NO”ということです。できたら“YES”の方が良いし、望むのは“YES”なのですが、結果が“NO”なんです。仕方なしの“NO”。だからシグナレスは、切なく、メランコリックになるんだと思います」
ゆーきゃん「ぼく(の書く曲や詞)には、“ムード”、“モード”はありますが、“テーマ”はいつも欠けています。あるいは、ぼくのムード、モードと、池永さんの意識や創作欲が重なり合って、浮かび上がった世界そのものが“テーマ”ということなのかもしれませんが。“NO SIGNAL”というタイトルは、信号が来ない…例えば、携帯電話も身分証も置き去りにして出かけた夜のような、自分を特定する意味から隔絶され、時間の中に放り出されたような感覚を、言い表している気がします」

__本作は、ダンサブルで時にノイジーなテイストの楽曲から、スローで和やかなテイストの楽曲までを収録した内容になっていますが、どの楽曲も美しく切ない雰囲気が印象的ですね。サウンドメイキング面で特に重要視した部分は、何でしたか?

池永正二「美しく切なくなり過ぎないないように注意しました。美しさや切なさは、過剰になるとサスペンス劇場の領域になるので、大げさにならないよう、近所の風景が入り込む余地をあけたり…つまり、自分のいる場所からの音楽を意識しました」

__曲づくり自体は、どのように進めていったんでしょうか?

ゆーきゃん「大多数は池永家で録音しましたが、ぼくは京都に住んでいるので、CUBASEとfirestrageの力を借りて、ファイルをやり取りしながらつくった曲もありました。最終的には、二人であれこれ言いながら、何度もメロディーラインを変えて録りなおした曲が多かったです」

__リリック面で、特に意識したことは何でしたか?

ゆーきゃん「普段ソロで活動しているときは、ただつらつらと、ギターを使って歌を紡いでゆくのですが、シグナレスでは、仮タイトルまで決まったトラックが最初にあったりします。ですので、その、音の連なりの間から見えてくる景色や情緒のようなものを“ことば”に落とし込む、という作業を、できるだけ丁寧に行いました。いったんでき上がった歌であっても、トラックが変わったあとで、その色につられて詞が変化するということも、何度かあったように記憶しています」

__12インチシングルでもリリースされた「ローカルサーファー」と「y.s.s.o.」は、それぞれどのように誕生した楽曲ですか?

ゆーきゃん「「ローカルサーファー」は、池永家でベーシックのトラックを聴きながら、あれこれ色々なメロディーを試し書きしながらでき上がりました。おそらくスペースシャワーTVかどこかのアーカイヴで、まだ完成途上のバージョンで演奏したライブが見られるはずです。「y.s.s.o.」は、もともとぼくがソロで歌っていた曲を、BPMを変え、サビを加えて練り直したものです。前のバージョンは、今でもソロライブで演奏しています。余談ですが、この2曲の歌詞には、それぞれモチーフがあります。「ローカルサーファー」は絵本『スイミー』、「y.s.s.o.」は三好達治の『甃(いし)のうへ』という詩です。ただし、最初からそのモチーフがあったのではなく、別のところから出発した曲づくりのなかで、自然とそのモチーフに連想が向かっていったのですが…。そして、でも最終的には、またモチーフとはあまり関係のない歌詞に戻ってしまいました」

__では最後に、シグナレスの次なる活動目標について教えてください。

池永正二「止めずに続ける」
ゆーきゃん「いい曲を書きたいです。アンテナを張り、媚びず衒わず、ことばやメロディーを掬いあげて、磨いて、いい作品を生みたいと思っています」

photo YUKI AKASE
interview FUMINORI TANIUE


【アルバム情報】

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シグナレス
NO SIGNAL
(JPN) felicity / FCT-1007
2/2発売

tracklist
1. y.s.s.o.
2. ローカルサーファー (Album ver.)
3. パレード
4. 太陽の雨 (Album ver.)
5. LOST
6. 風
7. 星の唄
8. ローカルサーファー (やけのはらREMIX)

【オフィシャルサイト】
http://bls-act.co.jp/artists/signaless
http://www.arakajime.com/signaless/

【Video】

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