米ジョージア州出身のアーネスト・グリーンによるプロジェクト、Washed Out(ウォッシュト・アウト)。2009年ににリリースした『Life Of Leisure』で脚光を浴び、当時のインディー・シーンの最新潮流、チルウェイヴのパイオニア的存在となったアーティストです。2011年にリリースしたファースト・アルバム『Within And Without』は、全米チャート26位のヒットを記録。その後は精力的にライブツアーを展開し、ここ日本にはフジロックを含めて三度も来日、その人気を確立しています。
そんなWashed Outが、待望のセカンド・アルバム『Paracosm』(パラコズム)を8/7に日本先行リリースします。前作同様ベテラン・プロデューサーのベン・アレンを招き、エスケーピズム(逃避主義)のアイディアをもとに作曲、レコーディング作業を進めていった本作。コンピューターやシンセに加え、メロトロンやチェンバリンなど、キーボードを中心に50以上もの楽器を導入したというその音世界は、これまで以上にカラフルで、ドリーミーで、そしてオプティミスティックな雰囲気が漂うものとなっています。
ソングライター、ミュージシャンとしての成長が見事に作品化された『Paracosm』。ここでは、本作の内容について語ったWashed Outことアーネスト・グリーンのインタビューをご紹介しましょう。
Washed Out『Paracosm』インタビュー
__前作『Within And Without』をうけて、今作『Paracosm』はどのような作品にしようと考えていましたか?
「僕にとって一番大きかったのは、『Within And Without』で2年間ツアーを続けたことだった。あのアルバムはシンセが中心で、それがライブのやりかたをかなり決めてしまったんだよね。ほとんどをシンセで演奏することになった。ツアーから戻った時、僕が一番やりたくなかったのは、またシンセを弾いて曲をつくることだったよ。だから、今回はそういうやりかたを変えようと思ったんだ。これまでになくコンピュータに頼らず楽器を演奏したし、その意味では音楽的にかなり変わったと思う。僕は同じようなアルバムを繰り返しつくりたくないし、つねに新しいテクニック、新しいやりかたで実験したいと思ってるからね。で、もっと多彩な楽器を使おうとして、そこからいろんなサウンドを試して、それが今作のサウンドになっていったよ」
__ダークで内省的な雰囲気があった前作とは違い、今作は開放的で明るい内容になっていますね?
「その通り。今回のアルバムでは、戸外の牧歌的なフィーリングがすごく重要だったからね。ちょうど街中からジョージア州アセンズの、何もない田舎に引っ越したんだけど、それがアルバムの大きなインスピレーションになったんだ。制作中は花々とか自然とか、ずっと鮮やかな色彩が頭の中にあったね。そういうものを、どうすれば音として表現できるのか考えていた。楽観的な感じで、メジャー・キーを使って、そういう温かくて気持ちいい雰囲気をアルバム全体に持たせたかったんだ」
__アルバム・タイトルの“Paracosm”(パラコズム)について教えてください。
「僕にとってこのタイトルは、白日夢や空想を表す言葉なんだ。突然自分が、まったく違う理想的な場所にいるのに気付く感じかな。こうしたエスケーピズム(逃避主義)を考える時、それは現実から逃げるというネガティヴな行為だとする人もいるけど、これはそうじゃない。僕は、過去の経験の理想化されたヴァージョンを思い描いていたり、理想的な場所を想像していたからね。夢や空想に喜びを見出すことなんだよ。エスケーピズムは、Washed Outの大きな一部なんだ。ある種のノスタルジアや想像力は、日常から一歩離れるのにすごく重要だと思う。僕にとって音楽の素晴らしさとは、聴く人を違う場所へ連れていってくれるところなんだよ。だからエスケーピズムに関しては、僕は完全に肯定派だね」
__今回のアルバム制作は、どのように進めていきましたか?
「ツアーから戻ってきた、去年の11月頃から曲を書き始めたね。で、そこから3ヶ月くらいの間に、新曲を全部つくっていったよ。ほとんどの素材をその期間に書いて、そこからまた3ヶ月の間に歌詞を書いたりして、アルバムを完成させていったんだ。プロデュースは、前作と同じくベン・アレンだ。ベンが優れてるのは、若いアーティストに昔ながらの技術、よりオールドスクールなテクニックを試させるところだね。彼はオールドスクールな録音技術に熟達していて、マイク位置やサウンド・エンジニアリングに通じているんだ。あと、彼自身ミュージシャンとして才能があるから、僕がすごく曖昧で抽象的なことを思い付いても、それをちゃんと解釈してくれる。その意味でも、彼と組むとすごく上手くいくんだよ」
__なるほど。
「レコーディングでは、たくさんの楽器を使ったね。もともと僕にはキーボードを弾くバックグラウンドはあったんだけど、ハープやヴィブラフォンの演奏を学んだことはない。だから、そういうハープやヴィブラフォンの音は全部録音/サンプリングして、僕がキーボードで演奏したよ。とはいえ、ベテランのコントラバス奏者など、実際にミュージシャンに演奏してもらった部分もかなりあるんだけどね」
__収録曲についても何曲かご紹介いただけますか。
「今回のアルバムでは、どういうものにしたいのか、どこから始めたいのか、曲をつくる上でかなりクリアなアイディアがあった。ある程度、全体像が頭の中にあったんだよね。で、それに一番近いものが、ファースト・シングル「It All Feels Right」だった。その意味でも、すごく好きな曲だよ。歌詞は、自分のこれまでの経験で、その時一緒にいた人達やその時いた場所がすごくぴったりくる感じ、全てが意味をなすような美しい瞬間について、だね。セカンド・シングルの「Don’t Give Up」は、恋愛の曲だ。誰かと恋愛関係にあると、上手くいかないこともある。でも、しばらく時間が経って再会すると、悪い思い出のことは忘れて、楽しかったことを思い出して恋しくなったりするよね? で、すぐに元の二人に戻ってしまったり。この曲は、そういうことについてなんだ」
__現在、チルウェイヴについてはどのように考えていますか?
「チルウェイヴが大きく取り上げられたのは、ちょっと変な気持ちだったな。当然、音楽ジャンルをつくろうとか、ムーヴメントを起こそうとして始めたわけじゃなかったからね。僕自身かなりいろんな音楽を聴くし、幅広いジャンルからアイディアを得ていると思う。でも、意識的に何かのジャンルに当てはまるような曲を書こうとすることは、ないんだよ。ただ、チルウェイヴの代表のようになったこと自体は、幸運だったと思っている。同じようなことをしている大勢と比べて、結果的に僕を際立たせることになったから。それには感謝してるんだ」
__確かに、そうかもしれませんね。
「そう、今回のアルバムは“チルウェイヴがリプレゼントするものに対する反動なのか?”ってよく聞かれるんだけど、僕自身それは全然なかったと思う。僕としては、ずっとやってきたこと、Washed Outの他のレコード全てにある同じアイディアを取り上げて、今回はそれを形にするのに違う楽器、違うアプローチを取っただけなんだよね。やっぱり、今作もWashed Outのアルバムになってると思う」
__最近のお気に入りのアルバムは何ですか?
「僕はDJもやってるんだけど、今よく聴かれてる音楽を知ることもDJの仕事の一つなんだよね。ただ、トレンドは追わないようにしているよ。例えば今回のアルバムに関して言えば、“最近のレコード、インディーのレコードでは、12弦ギターを使っているものがないな”って思ったからこそ、使ってみたり。逆を行くのが、むしろアイディアにつながるんだ。ともかく、最近人気のレコードで言うと、Tame Impala(テーム・インパラ)のアルバムは良かったな。傑作だと思った。ある意味チルウェイヴのアイディア、いわゆるチルウェイヴ・アーティストのアイディアを取り上げてるんだけど…シンセサイザーの使い方とか、超サイケデリックなトーンとかがね。だからレトロな傾向もありつつ、モダンで面白いアルバムになっていると思う。うん、最近で気に入ったものというと、アレかな」
__最後に、日本のリスナーにメッセージをお願いします。
「日本のオーディエンスって、ほんと好きなんだ。日本でプレイすると本当に楽しいし、観客からも楽しさが伝わってくる。フェスにも出たけど、みんなが音楽を、あらゆる音楽を愛しているって、表情から分かるんだよね。もちろんアメリカやイギリスのフェスでもそれは感じるんだけど、日本ほどじゃないんだよ。特にインディー・ロックの世界がそうなのかもしれないけど、どこか皮肉な、斜に構えるようなところがある。そう、(2011年の)フジロックは、これまでにやってきた全てのライブの中でも、一番好きなライブの一つなんだ。観客の反応も良かったし、ミュージシャンってそこからフィードバックするんだよね。エナジーを受け取って、パフォーマンスも良くなっていく。うん、ほんと楽しかったな。とにかくニュー・アルバムを楽しんでほしいし、また日本でライブをやりたいと思っているよ。また日本の庭園にも行きたいしね。僕は日本文化を体験するのを、ツアーの中でも本当に楽しみにしてるんだ」
photo: Shae DeTar
【リリース情報】
WASHED OUT
Paracosm
(JPN) Yoshimoto R&C Co.,Ltd. / YRCU-98008
8月7日 日本先行発売
※解説・歌詞・対訳付/日本盤ボーナス・トラック収録
HMVでチェック
tracklist
01. Entrance / エントランス
02. It All Feels Right / イット・オール・フィールズ・ライト
03. Don’t Give Up / ドント・ギヴ・アップ
04. Weightless / ウェイトレス
05. All I Know / オール・アイ・ノウ
06. Great Escape / グレイト・エスケイプ
07. Paracosm / パラコズム
08. Falling Back / フォーリング・バック
09. All Over Now / オール・オーヴァー・ナウ
10. Pull You Down / プル・ユー・ダウン(ボーナス・トラック)
【VIDEO】
【オフィシャルサイト】
http://bignothing.net/washedout.html
http://washedout.net/