OFF THE ROCKER『SOFA DISCO』のインタビューに続き、こちらでは『SOFA DISCO』と同時リリースされた『大沢伸一の仕事 2008-2012』の内容とその背景について語った、大沢伸一のインタビューをご紹介しましょう。本作はタイトルの通り、大沢伸一が2008年から2012年までに手がけたプロデュース曲、リミックス曲、別名義曲などを、“SONGS”と“TRACKS”に分けて収録したCD2枚組の作品集で、全30曲を収録(詳しくはトラックリストをご覧ください)。誰もが知っているポップ・ミュージックから実験的なクラブ・トラックまで、大沢伸一の幅広い音楽性、そして揺るぎない音楽的センスを一望できる内容となっています。
大沢伸一『大沢伸一の仕事 2008-2012』インタビュー
__まず『大沢伸一の仕事 2008-2012』の主旨と内容についてですが、タイトルのままズバリということでよろしいでしょうか?
「そうですね。“記録”なので、何かストーリーがあるわけでもないんですよ。2008年から2012年までの5年間にやってきたことの総括です」
__期間の区切り方としては、avex移籍後の仕事集、という捉え方でOKですか?
「そうですね。若干入っていない楽曲やトラックもあるんですけど、基本的な部分は網羅されていると思います」
__そして、曲順が手がけていった通りの順番になっていますね。
「こうした作品集の場合、ヘンに気持ちを込め曲順とかにすると、ちょっと方向がおかしくなると思うんですよね」
__年代順に聴き進められるのは、クリアでいいですね。まず、DISC1の“SONGS”の方について教えてください。ラインナップを見ると、本当に様々なタイプのアーティストと仕事をしているのが分かりますね。大沢さんがこうした楽曲のプロデュースやリミックスを行う際に、まず大切にしていることは何でしょうか?
「よく聞かれるんですけど、たいしてないんですよ。要するに、誰かと一緒に仕事をする時は、その人が発したこと、出してきたものに対するリアクションなんですよ。一人でイチから何かをつくっていく方が、大変ですね。でもこうした仕事の場合は、まずはその人という存在があって、それに対して反応すればいいわけなんで、そんなに難しいことはないし、守らなきゃいけないラインが何かあるわけでもないんです。だから、正直に反応するということを大事にしておけばいい、という感じでしょうか」
__そういったスタンスだからこそ、これほど幅の広いアーティストと仕事をしていけるのかもしれませんね。
「そうでしょうね。プロデュースだからとって何か特別な心持ちになるのではなく、自分の作品に向かう時と一緒で、自分にウソをつかないでやっていけばいいんです。僕のベストを出したいと思って取り組んでいくだけなんですよ」
__では、各曲の制作プロセスというのは、一緒にやるアーティストに合わせてケース・バイ・ケースなんでしょうか?
「そうです。僕の方で、こうじゃないと無理、みたいなものはないです。プロデュースという仕事を始めた頃の方が、やり方とかフォーマットにこだわっていたと思いますね。効率的に仕事をしたい、という気持ちがあったんだと思います。でも、ある時期から、こういう仕事にも慣れてきて、考え方も変わっていったんですよ。僕の場合は、あるフォーマットに当てはめて仕事をして、コツみたいなものを掴んだ気になっても、結局毎回違うんで、次には応用できないんです。新しい仕事がきたら、また新たに独自の考え方、取り組み方、つきあい方をしていかないと、結局は良いものにならない。だったら型にはめるというスタイルを持つのを止めよう、と。今は、そう思ってやってます」
__そして結果的に、楽曲自体の幅もかなり広がることになった、ということですね。DISC1の“SONGS”には、未発表曲も収録されているのでご紹介いただけますか。まずは、ナゴミスタイル「サクラスパイラル」についてお願いします。
「この曲は初めてCDに入ったんで、メジャー・デビューと言ってもいいかもしれませんね。実はね、僕、ナゴミスタイルに入ったんですよ。いまメンバーなんです(笑)。もともと彼らは三人組のバンドで、Sony時代にデモテープを持ってきてくれた若者達なんです。そこからの付き合いで、断続的につながりがあって、また最近仲良くなって、一緒に音楽をやったりしてたんですよ。で、この「サクラスパイラル」は以前からあった曲だったんですけど、面白い曲だったんで僕がアレンジして、ちょうど一年くらい前に一緒にレコーディングしたんですよね。それで、パーティーなどでプレイすると、リリースしてないのに周りのみんなが好きだって言うんですよ。彼の声は、ちょっとホセ・ゴンザレスみたいでいいんですよね」
__大沢さんの「ROOTS」という曲についてもお願いします。
「この曲は、もともと2008年くらいに、日本とアフガニスタンの合作映画の音楽を依頼された時につくったものの一つなんですけど、良いので、この作品集の機会に入れてみました。この曲も初CD化です。“ROOTS”というのは、実は映画のタイトルなんですけどね(笑)」
__大沢さんご自身のルーツを感じさせるサウンドにもなっていると感じましたが、いかがですか?
「ああ、確かに。やっぱり、ちょっと温度感は違いますけど、僕のルーツの一つにドゥルティ・コラムがあって、ものすごく影響を受けましたからね。オリジナリティあるし。いまやドゥルティ・コラムの意匠というか、ああいったちょっとメランコリックなギターとドラムマシーンを組み合わせた音楽も、だいぶ焼き直されましたよね。いろんな人がやってますから。The xxなんかにも、僕は似たようなものを感じていますよ。彼らの場合は、もうちょっと骨太かもしれませんけど。ドゥルティ・コラムは、もしかしたら人生の中で一番聴いてるかも。何かミックステープをつくる時、必ず一曲は入れるし(笑)」
__DISC2の“TRACKS”の方は、大沢さんのDJ活動に、より直結したタイプの曲をまとめたものとなっていますね。大沢さんにとって、“TRACKS”の方にまとめられている音楽の魅力とは何でしょうか?
「“SONGS”の方は、やっぱり聴いている人達の顔が直接分からないんですよ。でも“TRACKS”の方は、日常的に毎週ダンスフロアを見て“こんな風に聴いてるんだ”っていうのが分かるんで、制作にもそれが直結してくるんですよね。その最終の結果をイメージしながら曲をつくれる。それが“TRACKS”の方の曲をつくる時の醍醐味でしょうね。つくっている最中に、ブレイクの部分でみんながハンスアップしている光景が浮かぶとか、ここでキックを抜いたら、みんなどんな風にズッコケるのかな、とか(笑)。だから、こちらは制作というよりもDJの延長に近いんだと思いますよ。もしくは、制作がDJの延長なのか…とにかく、スタジオとダンスフロアがつながっている感じがします」
__収録曲に関しては、まず『SOFA DISCO』収録の「Gold Dust」「BELLHEAD」と一緒につくったOFF THE ROCKERの新曲、「SPIN OFF」が入っていますね。
「「SPIN OFF」が最初にできた曲なんですよ。ハード目ですね。“SOFA DISCO”な曲をつくろうとしていたのに、何でこんなにハードになってくの?っていうね(笑)。ドラムは生ドラムっぽくしてたんですけど、ハードになっていって、それで“SPIN OFF”」
__で、時系列で聴き進めていくと、2009年と2010年の間で曲のモードがちょっと変わったのかなと感じたのですが、いかがですか?
「なるほど(笑)。確かに違いますよね。THE LOWBROWS「WOW」(’10)は、彼がやりたかったことを具現化したものなので、ちょっと違うとは思うんですけど、確かに「TIGER」辺りから、やりたいことが変わったと思います」
__具体的には、どのようにやりたいことが変わっていったのでしょうか?
「音楽ジャンル、スタイルとしてのミニマルではなくて、ものの考え方としてのミニマル、ですかね。音をより削ぎ落して、最小限の要素で最大限の効果を得られるようなサウンドトラッキングをしたい、という方向です。僕には、昔からそういうところがあったんですけど、エレクトロに傾倒し始めた頃は、やっぱり音を詰め込むことに意識がいっていたんですよ。細かい音をいっぱい入れちゃおう、とかね。で、そこからロック・モードみたいな方向性を経て、さらにエレクトロニックでロックを表現するという時期も経て、もっとミニマル、ミニマムなものでダンス・トラックを構成していく、という方向になったと思います。今や広義な意味でのテクノに移っちゃっている、とも思いますし」
__そういう意味合いでは、最後に収録されているMumbai Science「UNITE (Shinichi Osawa Remix)」が、大沢さんの中では最もミニマムでテクノな感じでしょうか?
「うーん。僕はもうちょっとやりようがあったかな、とも思ってますね。この曲はMumbai Scienceの中でもちょっと特殊なタイプだったので、他の曲でリミックスをやってみたかったかも。でも、好きなアーティストですよ。それで、僕の中でこの方向のアプローチは、今もどんどん変化していってるんですよ(笑)。このリミックスですら、僕の中ではちょっと昔っぽい感じがするくらいですから。もっと新しいことがやりたいです。その意味では、The Sneekers「Poly Poly (Shinichi Osawa Remix)」の方がトライしていますね。もっと実験してます。平田さんとの「SPANKICK」も、十分ヘンな曲になってますけど」
__「Essential Logic」やCROQUEMONSIEUR名義の「TIGER」などは、モードが変化して以降での一つの完成されたサウンドなのではないかとも思うのですが、いかがですか?
「「TIGER」「Essential Logic」もそうなんですけど、要するに僕はなんて言うのかな…かなり大仰な言い方をすると、ダンス・ミュージックというフォーマットを使ってアートをつくっている感覚があるんです。サンプリング・アートに近い感覚というか…。納得してもらえなそうですけど、やっぱり僕の中ではSwitch/Dubsidedに対するリスペクトがあって、ああいう音楽に対する僕なりの答えというか、そういうのをやりたいという気持ちがあるんですよね。僕は、当時のSwitchの音楽をオーディオ・アートってずっと呼んでいて、聴いていると、本当に芸術だなって思える瞬間があるんです。ずっと聴いていられるオーディオの構築の仕方、アートって言っていいと思うんですよね」
__なるほど。
「そういう音響アートはずっとやりたいと思っていて、例えばそういう発想でつくった音楽を、今度は生楽器を使って、例えば弦楽四重奏で再現してみるとか(笑)、そういったことを考えていたりもするんですよ。現代音楽に近いかもしれませんが、それよりももっとフレッシュで新しい解釈、感覚でね。もしできたら、凄く感動すると思うんですよ。大きな計画です」
__将来の大きな目標になっているんですね。では『大沢伸一の仕事 2008-2012』に収録された、この5年間のご自身の仕事を振り返ってみて、一番最初に出る言葉は何でしょうか?
「“たくさんやったね、よく働いたね”、ですかね(笑)。仕事したよ!って感じがします。僕は曲をつくった当事者なんでね、あんまり自分の作品を振り返るってことがないんですけど、こうした形でまとまると、ある程度は納得できることをやってこられたのかな、って思いますね。で、このCDを見つつ、新しいことをやらなきゃいけないな、とも感じています。いい区切りになったかな」
__最後に、今後の活動予定について教えてください。
「今年は、小林武史さんとのBRADBERRY ORCHESTRAを再開する予定です。ボーカリストも入れたいと思ってます。あとは、小室哲哉さんとも仕事をする予定がありますね。それと、東京ニューフォークってプロジェクトもやりたいです(笑)。ナゴミスタイルとか、埼玉にも変わった女の子がいるのでフックアップして、あとはその主旨に合うアーティストにも声をかけたりして、僕もちょっと現場に戻って、フォーク・ムーブメントをつくりたいです」
interview iLOUD
※同時リリースされた、『OFF THE ROCKER presents SOFA DISCO』インタビューも掲載中です。
是非チェックしてみてください。
【リリース情報】
V.A.
大沢伸一の仕事 2008-2012
(JPN) rhythm zone / RZCD-59311~2
2月13日発売
HMVでチェック
tracklist
DISC1/SONGS
01. ナゴミスタイル / サクラスパイラル [※未発表曲]
02. 多和田えみ / FLOWERS [2008/7/23]
03. KANAME × SHINICHI OSAWA / Party Nite [2009/3/11]
04. MINMI / パッと花咲く feat. VERBAL (m-flo) [2010/9/8]
05. ryo(supercell) / One day (Shinichi Osawa Remix) [2011/2/2]
06. BRADBERRY ORCHESTRA / LOVE CHECK [2011/3/16]
07. VERBAL / DOPE BOY FRESH [2011/3/16]
08. 浜崎あゆみ / appears (Shinichi Osawa Remix) [2011/4/20]
09. 安室奈美恵 / NAKED [2011/7/27]
10. globe / DEPARTURES (Shinichi Osawa Remix) [2011/8/10]
11. 若旦那 / TASUKI [2011/10/26]
12. MEG / TRAP [2012/6/13]
13. Happiness / Magicな… Love [2012/6/20]
14. 玉置成実 / PARADISE [2012/10/10]
15. moumoon / Bon Appetit (Unreleased Bossa Version) [※未発表リミックス]
16. SHINICHI OSAWA / ROOTS [※未発表曲]
DISC 2/TRACKS
01. OFF THE ROCKER / SPIN OFF [※新曲]
02. 布袋寅泰 / VICIOUS BEAT CLASHERS [2009/2/18]
03. ravex / I RAVE U (Original) [2009/4/29]
04. THE YOUNG PUNX! / Rock Star (Understand) (Shinichi Osawa Remix) [2009/7/15]
05. TOWA TEI / MIND WALL (SO TT Remix 2012) [2009/7/16]
06. BENNY BENASSI vs. IGGY POP / Electro Sixteen (Shinichi Osawa Remix) [2009/11/6]
07. CROQUEMONSIEUR / TIGER [2010/7/14]
08. THE LOWBROWS / WOW prod. by SHINICHI OSAWA [2010/11/2]
09. SHINICHI OSAWA / Essential Logic [2010/11/27]
10. SHINICHI OSAWA + SUPERBEATZ / Cyclone [2010/12/13]
11. BeatauCue & SHINICHI OSAWA / H.O.W.L. [2011/7/4]
12. SHINICHI OSAWA & TOMO HIRATA / SPANKICK [2012/4/8]
13. The Sneekers / Poly Poly (Shinichi Osawa Remix) [2012/4/13]
14. Mumbai Science / UNITE (Shinichi Osawa Remix) [2012/10/1]
【オフィシャルサイト】
http://www.shinichi-osawa.com/