Agoria『Impermanence』インタビュー


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仏リヨン出身のDJ / プロデューサー、アゴリア。「La 11eme Marche」(’01)や、「Les Violons Ivres」(’07)など、デトロイト・テクノの影響を感じさせる、ドラマティックなシンセ・リフの楽曲を大ヒットさせ、本国ではロラン・ガルニエと並ぶ人気を誇っています。そんな彼が、アパラートやフランチェスコ・トリスターノを擁する自身のレーベル、Infineから、通算3作目となるオリジナル・アルバム、『Impermanence』をリリースしました。

自身の活動の軸となる、テクノの本質をテーマに据えたという『Impermanence』。しかし、本作には、フロアライクな四つ打ちの楽曲にとどまらず、ボーカルやピアノ、ストリングスを取り入れた楽曲や、叙情的でミステリアスなトーンに貫かれた、アンビエント調の楽曲など多彩な楽曲が収録されています。

そこで、フロアでのアゴリアとはまた違う側面を感じ取ることができる『Impermanence』の誕生背景について、アゴリアに話を聞きました。なお、本作の日本盤には、海外のクラブ系アーティストとしては初めてボーカロイドをフィーチャーした、sasakure.UKとのコラボ曲「Heart Beating (Special Bonus “Vocaloid” Version)」がボーナス・トラックとして収録されるので、そちらも注目です!


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Agoria
フレンチ・テクノ・シーンの雄が新作で描く、常に移り変わりゆくテクノの本質

__まずは、『Impermanence』のコンセプトから教えてください。

「“Impermanence”は、“永久”や、“不変”という意味を持つ“permanence”とは反対の言葉だね。仏教用語では“諸行無常”というのかな。“人生では、いろんな事が起こり、いろんなものが移り変わっていく”というコンセプトが、テクノの本質にもつながると思って、このタイトルにしたんだ。テクノは、移り変わって行くループによって、覚醒を生み出す音楽だからね」

__本作には、フロアライクな楽曲から、自宅でのリスニングにもマッチする楽曲まで、バラエティーに富んだ楽曲が収録されていますね。

「『Impermanence』は、複雑でいろんな要素が入った、パラドキシカルなアルバムだと思うよ。本作に収録されているうち6、7曲は、実際にDJで使うことができるものだよ。だけど、曲間や曲順にもすごく気を配ったから、通して聴くとリスニング向きな、リラックスできる作品になったんじゃないかな」

__なるほど、各曲がつながっていて、アルバム全体で一つの曲になるようなイメージもあったんですか?

「そうだね。全体を通して聴いたときに初めて、アルバムとしての流れやストーリーが分かるんじゃないかな。『Impermanence』では、ファースト&セカンド・アルバムで完成させられなかった部分や、心残りだった部分、自分がやりたかったことを、やっと表現できたと思っているよ」

__本作で、ようやく表現できたというのは、具体的にどういう点ですか?

「前2作はPIASという大手メジャー・レーベルからのリリースだったけど、今回は自分のレーベルから出せたから、すごく自由度が高かったんだ。それに、前2作を制作したときは、まだ若かったから、自分を解放して本当にやりたいことをやったわけではなく、“こうあるべきだ”といった考えが、無意識のうちに出ていたと思うんだ」

__本作では、あなたのパーソナルな部分を自然と表現できたんですね。

「そうだね。だから、本作は、“Personal”な作品とも言えるし、“Intimate”(=親密な)な作品でもあるんだ。“Private”とも言えるかな。人生で楽しいことや嬉しいことがあるときって、創造性がより豊かになる。本作は、それが証明された作品だと思っているよ。実際、僕には今愛する人がいて、飛び立つ鳥のような気持ちで本作をつくったんだ」

__それは素敵ですね。本作には、カール・クレイグの、過激でエロティックなスピーチをフィーチャーしたことで話題の楽曲「Speechless」を2バージョンで収録していますね。この曲は、どのように誕生したんですか?

「僕がパリのREXというクラブで主宰しているパーティーに、カール・クレイグを呼んだことがあってね。そのとき、カールの声が低くてセクシーで、あまりにグラマラスだったから、催眠術にかけられたように、うっとりと聴き入ってしまったんだ(笑)。その後、“あなたの声を使って曲をつくりたい”という話を彼にしたら、引き受けてくれたんだ。それで、曲のベースとなる部分をつくってカールに送り、スピーチを入れてもらった。当初僕が予想していたものとは全く違う曲になったけど、それがすごく良かったんだよね」

__その他にも、25歳の若さでイビサのクラブDC10でレジデントを務めるDJ / クリエイターのセス・トロクスラーや、ビョークの歌声を彷彿とさせる、ワシントンDCの新鋭女性シンガー、キッド・Aをゲストに招いたボーカル曲も聴きどころとなっていますね。

「キッド・Aの存在は、大発見だったよ。最初に彼女の声を聴いたときは、ビョークやリッキ・リー、エミリアナ・トリーニみたいな、北欧の女性を想像したんだ。でも、レコーディングのためにフランスへ来てくれたのは、ワシントンDC出身で、20歳そこそこの若い黒人女性だったんだ(笑)。彼女は、ニーナ・シモンみたいなルックスなんだけど、北欧のシンガーみたいな歌声を持っていて、そのギャップに驚いたよ。でも、彼女は他のアメリカ人アーティスト同様、すごくプロ意識が高くて、僕が思った通り、完璧に歌ってくれたんだ。これから、キッド・Aのアルバムをプロデュースする予定で、今年の後半には、Infineからリリースしようと思っているよ」

__収録曲の歌詞は、あなたが作詞したんですか?

「いや、参加アーティストに作詞してもらったんだよ。物を書くこと自体は大好きで、メディアに寄稿することもあるんだけど、あまり自分のエゴを出したくないから、アルバムに自らの言葉を入れることはほぼないんだ。曲をつくった段階で歌詞のアイディアはあるけど、コラボする相手には、それを伝えずに、相手の思うようにやってもらう。それで、ほとんど満足のいくものができ上がるからね。コラボによって起こる化学反応が、良い作品を生み出すと思っているよ」

__最後に、今後の展望について聞かせてください。

「インターネットの氾濫によって、音楽が傷ついたという批判の声が大きいけど、多くの音楽を自由に聴けるようになった面もある。同時に、音楽がもう売り物ではなくなってしまったとも言えるよね。でも逆に、売れないということは、売ることばかりを考えずに、より自由な表現ができると思っているんだ。ダンス・ミュージックのクリエイターにしても、ダンスビートのフロアライクなものだけではなく、多少リスクを負ってでも、もっと多様な音楽をやってもいいと思う。だから、僕がDJをするときも、テクノだけでなく、もっと幅広い要素を取り入れていきたいと思っているよ」

interview & text HIROKO TORIMURA
translation ERIKO HASE


【アルバム情報】

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AGORIA
Impermanence
(JPN) U/M/A/A / XECD-1130
2/23発売
HMVで買う 

tracklisting
1. Kiss My Soul
2. Souless Dreamer
3. Panta Rei
4. Simon
5. Speechless
6. Grande Torino
7. Heart Beating
8. Little Shaman
9. Under the River
10. Libellules
11. Speechless (Whisper Dub) *
12. Heart Beating (sasakure.UK“Vocaloid”Mix feat.Miku Hatsune)*
(*: 日本盤ボーナス・トラック)

【オフィシャルサイト】
http://www.umaa.net/artist/agoria/
hhttp://www.myspace.com/agoriagoria
http://www.infine-music.com/

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