Ariel Pink’s Haunted Graffiti『Mature Themes』インタビュー


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’96年頃から宅録音源の制作をはじめ、アリエル・ピンク/アリエル・ピンクス・ホーンテッド・グラフィティの名で作品を発表してきたLA出身の奇才、アリエル・マーカス・ローゼンバーグ。’03年にデモ音源をアニマル・コレクティヴに渡し気に入られると、PAW TRACKSから過去音源をCD化した『The Doldrums』(’04)を発表し、その風変わりなローファイ・ポップ・サウンドでインディー・シーンに衝撃を与えた奇才です。’08年には、現行のバンドの母体となる新バンドを結成し、4ADと契約。’10年にフル・バンド体制でレコーディングに臨んだ初のスタジオ・アルバム、『Before Today』をリリースしています。

そんなアリエル・ピンクス・ホーンテッド・グラフィティが、ニュー・アルバム『Mature Themes』(マチュア・シームス)をリリースしました。その内容は、彼ららしいポップで、風変わりで、時にノスタルジックなメロディー・センスはそのままに、デイム・ファンクをゲスト・ボーカルに迎えた「Baby」や、フリーダウンロード曲として公開されたシングル「Only in My Dreams」など、前作以上にバラエティーに富んだ楽曲群を収録したものとなっています。

ここでは、注目の最新作『Mature Themes』の内容について、6月に<Hostess Club Weekender>で来日を果たしたアリエル・マーカス・ローゼンバーグ(写真右)に話を聞きました。


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Ariel Pink’s Haunted Graffiti『Mature Themes』インタビュー

__前作『Before Today』は、とても評判の良いアルバムとなりましたね。『Before Today』は、あなたにとってどんな意味を持つアルバムとなりましたか?

「まぁ、良かったんじゃない? 人気のある曲、シングルがあって、そのおかげで新しいファンも開拓できたから。でも『Before Today』のことは、あの時でもう終わり。今は、次のことを進めることができて嬉しいよ」

__では、新作『Mature Themes』(マチュア・シームス)について教えてください。“ローファイ・オリジンとは関係のない作品”とのことですが、どのようなコンセプトで制作した作品なのでしょうか?

「ん~。まず、そのローファイ発言は、まぁ冗談みたいなものだね。みんな、Ariel Pink=ローファイってばかり見ているから、それに対してのお決まりのジョークみたいなつもりで言ったんだ。“全然ローファイとは関係ないアルバムだよ”ってね。みんなは、僕が意図的にローファイをねらって音楽をつくっていると思っているようだけど、そもそも僕自身は、そんなこと意識したことないし」

__それは、そうでしょうね。

「ただ、実際にこの『Mature Themes』がローファイじゃないのかっていうと、そういうわけでもなくて、ローファイな曲も入っているし、もしかすると『Before Today』よりもローファイかもしれない。プロデュースを突き詰めてないような曲もたくさん入ってたりするからね」

__ややこしいですね(笑)。確かに『Mature Themes』のサウンドは、いわゆるローファイを期待しているファンの気持ちを、決して裏切らない内容だと感じましたよ。ある意味で『Before Today』以上に。

「だよね。だからジョークなんだ(笑)。もともと僕が音楽をつくり始めた時、ローファイの意味なんて分からなかったし、考えたこともなかった。だけど、みんなが僕の音楽を“ローファイ、ローファイ”って言うから、まるで僕がローファイにこだわって音楽をつくっているかのように見るようになってしまった。そんなこと全くないのに。そもそも僕、SebadohとかPavementとか聴いてなかったし(笑)。だから、違うんだよなぁ」

__今作は、多彩な楽曲を収録した内容となっていますが、どのようにしてアルバム全体をまとめていったんですか?

「ただ一曲一曲書いていっただけだね。で、十数曲できた時点で、じゃあアルバムにしようって感じ。アルバム全体として考えていたことは、特に何もなかったよ」

__曲づくりのプロセスや方法は、これまでと同じでしたか?

「そうだね。というか、頭に思い浮かんだことを曲にしていくだけだから…分からないなぁ。上手く口で説明できないよ(笑)。思ったことを曲にするだけさ!」

__では、アルバム・タイトル曲の「Mature Themes」は、どのようにして誕生した曲ですか?

「この曲に限らず、まずは歌詞よりも音楽が先だね。まずは、納得いく曲をしっかり完成させるんだ。で、そこに歌詞を乗せていくんだけど、そこが自分としては難しいところで、何を語ればいいのか分からなんだ。だから、あんまり考え過ぎずにやるようにしてるよ」

__なるほど。

「ただ、曲のタイトル候補は、あらかじめいっぱい持っているんだ。だから、曲をつくってから、それに合いそうなタイトルを選んで、そこから歌詞を埋めていく感じだね。このタイトル曲に関しては、人とちゃんと真面目に話したいというか、人からちゃんと真面目に相手にされるような話をするには、どうすればいいんだろう? でも、そんなの俺やったことないから分かんないし…みたいな感じかな(笑)」

__この“Mature Themes”(熟したテーマ)をアルバム・タイトルにした理由は?

「バンドのメンバーが、“この曲名をアルバムのタイトルにしたらどう?”って、選んでくれたんだ」

__ちなみに今回のアルバム・ジャケットは、“Mature Themes”というタイトルと何か関係したものなんですか?

「いや。このオブジェは、A.P.H.G.(Ariel Pink’s Haunted Graffiti)ってなってるんだ」

__あ、本当ですね。分かりませんでした。

「だって、それが狙いだもん(笑)。で、この物体は、実際にはどこにも存在しないものなんだ。もとのオブジェはLAにあるんだけど、それをフォトショップで加工してつくった。写真をよく見るとバレちゃうと思うんだけど」

__話を戻しますね。リード曲の「Baby feat. Dam-Funk」は、どのようにして誕生した曲ですか? この「Baby」は、もともとDonnie and Joe Emersonという人達が1979年にプライベート・プレスで出したレコードに入っている曲だそうですね。

「そうそう。もともとは、何年も前に友達から聴かせてもらって、気に入っていた曲でね。当然、Donnie and Joe Emersonのことなんて全く知らなかった。というか、全く知られていないと思う(笑)。そうしたら、そのプライベート・プレスのレーベルから、“この「Baby」を再発するからコメントを寄せてくれないか。作曲者にインタビューをしてくれないか”って依頼がきたんだよ。で、僕は「Baby」が大好きだったから、その仕事を引き受けた」

__その時に、カバー曲も手がけることになったんですか?

「そう。“Dam-Funkと一緒にカバーもしてみない?”って言われたから、“もちろんやるよ”って返事して、できた曲なんだ。Dam-Funkとは、もともと知り合いだったしね。で、せっかくの機会だから、このアルバムにも収録することにしたわけさ。4ADから“入れとけば?”って言われたし」

__そうなんですね。今作の中で、あなたが特に気に入っている曲は何ですか?

「「Kinski Assasin」と「Nostradomus & Me」、あと「Pink Slime」。「Is This the Best Spot?」と「Mature Themes」もいいね。「Schnitzel Boogie」も気に入ってるよ。「Schnitzel Boogie」は、繰り返し繰り返しでずっと進んでく感じがいい。…一番ローファイな曲でもあると思う(笑)」

__そうですね(笑)。今作はいままでのアルバムの中でも、特にお気に入り曲がいっぱいできた作品でしたか?

「そんなことはないな。僕は、そんなに曲に対して満足しきったりはしない。僕は自分のために曲をつくっているのではなく、人に聴いてもらうために曲をつくっているから、そんなに曲自体に肩入れするというか、思い入れを持ったりしないんだ。それは、これまでもずっとそうだね」

__あなたにとって究極の音楽とは、どのようなのものなのでしょうか?

「音楽って、思い描いた通りにつくれるものじゃない。偶発的に起こるものだと思う。で、初めて聴いた時に、なんだこれは?って脳みそが溶けるような、頭が爆発するような感覚になる。そいういうのが僕にとっての音楽だろうね」

__それが、あなたが音楽をつくるようになった理由でもあるんですか?

「そうさ。自分が曲を書くその最初の瞬間、ひらめいた時に体験するのは、やっぱり同じような感覚だよ。なんだこれ?って脳みそが溶けるような感覚。で、その感覚は記憶の中に止めておけないというか、止めておくと変わっていってしまうんだ。だから、その瞬間をもっと細部まで知りたくなって、曲づくりに病み付きになるんだ。曲づくりが止められなくなるんだよね」

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【リリース情報】

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Ariel Pink’s Haunted Graffiti
Mature Themes
(JPN) 4AD/Hostess / BGJ10154
8月1日発売
HMVでチェック

tracklisting
01_Kinski Assasin
02_Is This the Best Spot?
03_Mature Themes
04_Only in My Dreams
05_Driftwood
06_Early Birds of Babylon
07_Schnitzel Boogie
08_Symphony of the Nymph
09_Pink Slime
10_Farewell American Primitive
11_Live It Up
12_Nostradomus & Me
13_Baby ft. Dam-Funk
14_Love Everyone(日本盤ボーナストラック)

【オフィシャルサイト】
http://hostess.co.jp/4ad/arielpinkshauntedgraffiti/
http://4ad.com/artists/arielpinkshauntedgraffiti

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