イギリスのブリストル出身で、幼少期よりクラシック音楽の教育を受け、チェリストとして活動していた経験もあるプロデューサー、シンガー、DJ、ベン・ウェストビーチ。10歳の時にブートのレイヴ・ミックステープで聴いたドラムンベースに衝撃を受けた彼は、クラシックを学びつつも、最終的はクラブ・ミュージック/ストリート・ミュージックの世界で活動していくことを選択した実力派アーティストです。デビュー曲「So Good Today」(’06)が、ジャイルス・ピーターソンの耳に留まり、彼のレーベルBrownswoodからデビューを果たすと一躍脚光を浴び、’07年にはデビュー・アルバム『Welcome To The Best Years Of Your Life』をリリース。本作は日本でも評判となり、「Get Closer」が全国のラジオ・ステーションを中心にヒットしたので、ご記憶の方も多いはず。同年には、都内クラブ、そしてサマーソニックで来日も果たしています。
そんな彼が、約4年ぶりに待望の最新作『ゼア・イズ・モア・ライフ・ザン・ディス』を7/27日本先行リリースします。ニューヨーク発の名門ダンス・ミュージック・レーベル、Strictly Rhythmから送り出される、彼の新たな魅力が詰まった注目作です。その内容は、彼の特徴であるジャジーで都会的なサウンド、甘くソウルフルな歌声はそのままに、人気プロデューサー陣とのコラボレーションによる、ハウス・ミュージック的なビート&グルーヴを打ち出したもの。「Same Thing (with Chocolate Puma)」「Butterflies (with Rasmus Faber)」「Falling (with Lovebirds)」「Something For The Weekend (with Danny J Lewis)」といったキャッチーな楽曲から、「Justice (with Motor City Drum Ensemble)」「Stronger (with Midland)」などのディープ&ヒプノティックな楽曲まで、ディープでエレガントなボーカル・ハウス・サウンドの世界を楽しめる作品となっています。
新境地の、大人のダンス・ミュージック・アルバムとなった『ゼア・イズ・モア・ライフ・ザン・ディス』。ここでは、本作の内容について、ベン・ウェストビーチに話を聞きいてみました。
BEN WESTBEECH
メロウ&エレガントなハウス・ミュージックに挑戦した、
人気UKクラブ・ジャズ・アーティストの新境地
ロンドンで完成させた、4年ぶりのフル・アルバム
__デビュー・アルバム『Welcome To The Best Years Of Your Life』(’07)を発表してから、もう約4年が経ちましたね。好評を得た前作をリリースしてからの音楽活動は、あなたにとってどのようなものでしたか?
「そうだねぇ、普通にアップダウンはあったよ(笑)。確実に一つ言えることは、『Welcome To The Best Years Of Your Life』を出した後、僕はかなり成長したってことだろうね。いろんなタイプの音楽をつくってきたし、いろんなことに挑戦してきた。まだ成長途中ではあるけどね。ブリストルからロンドンに引っ越して、そこでまたいろんな新しい経験もしたよ。いくつかの出会いや、別れ。とにかくまぁ、面白い4年間ではあったと思う。今現在は、新曲をプレイしに、ツアーやライブをしてまわる準備は完璧にできてる、って感じさ(笑)」
__今は、あなたの音楽に影響を与えたブリストルじゃなくて、ロンドンを拠点に活動しているんですね。
「うん。ロンドンに引っ越したんだ。でも、ニュー・アルバムの制作は、スウェーデン、ベルリン、アムステルダム…いろんなところでやったよ。まぁ、基本はロンドンだったけど」
__ラスマス・フェイバーやモーター・シティー・ドラム・アンサンブルなど、今作でコラボレーションしたプロデューサー陣のスタジオに行って、作業をしたこともあったんですね。あなたは引っ越し好きだそうですが、引っ越したいと思った街はありましたか?
「アムステルダムはいいね(編注:アムステルダムは、ジャーク・プロンゴ等の名義でもしられる、今作に参加しているプロデューサー・チーム、チョコレート・プーマの本拠地です)。リラックスしてるし、街並みや水路も雰囲気がいい。夕陽もすごくきれいなんだよ。都市の雰囲気がゆったりしていて、自由ですごく良かったな」
__近年のロンドンのクラブ・ミュージック・シーンは、いかがですか?
「ロンドンのミュージック・シーンは、最近新しいものがどんどん出てきていて、面白い状況だよ。驚くようなプロデューサー達が次々と出てきて、時代の先を切り開いていくような音楽を送り出しているように思う。みんな、いろんなアイディアに対してオープンだしね。だから今の僕は、クラブに出かけては音楽をつくっている人達と会ったりして、いろいろと刺激をもらっているよ。このアルバムをつくるにあたって、ロンドンという街から刺激を受けた部分は大きかったね」
アルバムのテーマは、ハウス・ミュージック
__それでは、その待望のニュー・アルバム『ゼア・イズ・モア・ライフ・ザン・ディス』について教えてください。本作の制作は、いつ頃スタートして、どのくらいの期間をかけて制作したものなのでしょうか?
「制作には、1年くらいかかったかな。って言うと、わりと早く完成したアルバムだって感じるかもしれないけど、僕としては、相当の努力をしてつくり上げた作品だからね。完成してハッピーだよ」
__今作は、ジャイルス・ピータソンが運営するレーベル、Brownswoodからではなく、ニューヨーク発の名門ハウス・ミュージック・レーベルとして知られる、Strictly Rhythmからのリリースとなりますね。今回、どのような経緯でStrictly Rhythmと仕事をすることになったんですか?
「今回は、ハウス・ミュージックに触発されたアルバムをつくりたいと思っていたから、Strictly Rhythmから出せることになって、すごく嬉しかったよ。Strictly Rhythmは、やはりハウスに強いレーベルだからね」
__どうして、ハウス・ミュージック系のサウンドをやってみようと思ったんですか?
「このレコードをつくる話が出た時に、“ハウスのアルバムをつくってみないか?”って言われたんだよね。その時に、僕の中でそういうアイディアが浮かんだんだ。しばらくハウスのレコードをつくってなかったから、“面白いかも”って思ってね」
__そうなんですか。で、今作には、ラスマス・フェイバー、MJコール、チョコレート・プーマ、モーター・シティー・ドラム・アンサンブル、ヘンリク・シュワルツ、ダニー・J・ルイス、ラヴバーズ、ミッドランド、ゲオルグ・レヴィンなど、様々なアーティストと組んで制作した楽曲を収録していますね。このコラボレーション・アルバムにするというアイディアは、どのようにして出てきたものだったのでしょうか?
「ハウスのレコードをつくるってことが、ある意味このアルバムのコンセプトになったから、その流れで出てきたんだ」
__ある種、その時々の偶然やひらめきが重なっていって、このアルバムができあがったという感じですか?
「うん、そうだね。今回、いろんなハウス・プロデューサー達と仕事をすることになったのは、偶然だと言えるよ。曲をつくっていく中で、自分一人でレコードをつくるのではなく、自然といろんな人と一緒に曲をつくっていくことになったんだ」
豪華プロデューサー陣との多彩なコラボレーション
__コラボレーションする相手は、どのように決めていったんですか? ラスマス・フェイバーやMJコール、ダニー・J・ルイスなどは、あなたらしいセレクションという感じですが、ヘンリク・シュワルツ、モーター・シティー・ドラム・アンサンブルといった、ディープ・ハウス〜テック・ハウス系クリエイターともコラボレーションしていることには、ちょっと驚きを感じました。
「そうかい? 例えば、モーター・シティー・ドラム・アンサンブルのダニロは、ここ数年ずっと友だちで、“いつか一緒に作品をつくろうよ”って話してたんだ。だから、今回はすごく良い機会だった。彼も、すごく楽しんでいたよ。僕らは、二人ともすごくスシが好きでね。彼がロンドンにいる時は、よく一緒に食べに行くんだ(笑)。お互いに音楽的ビジョンがすごく似ているし、音楽に対するアプローチにも、共感する部分が多いよ」
__なるほど。では、今作に参加しているプロデューサーは、基本的にみんなあなたの知り合いなんですね。各コラボレーション・アーティストとの作業は、いかがでしたか?
「彼らのスタジオに行ったこともあったけど、お互いにメールで曲のファイルをやり取りしたり、スカイプで話し合ったりしなが作業を進めていくことが多かったね。インターネット時代の良いところさ(笑)。世界中のプロデューサーと、そうやって一緒に仕事をすることができるんだから」
__ハウス・ミュージック系プロデューサーとの共作曲が多い一方で、今作にはゲオルグ・レヴィンとのコラボレーション曲が比較的多く収録されていますね。彼はどのようなアーティストなんですか?
「彼も、僕と同じくシンガーなんだ。彼に関しては、レーベルから紹介されて聴くようになったんだけど、面白い音楽だったんで、ギグを観に行ったりもしたよ。でも、彼との仕事はハードな部分もあったな。二人ともシンガーだから、どっちが何を歌うかで争いになってね(笑)。彼には彼のアイディアがあって、しかも頑固なんだ(笑)。まぁ、難しい部分もあったけど、結果として良い曲に仕上がったと思うよ。そういったエネルギーが、曲の中にも流れてるように感じるから。いい緊張感が漂ってる、っていうかね。今では、レコーディング時のプロセスも全部含めて、すごく楽しかったって思える」
__ちなみに、最近のあなたは、DJでも今回コラボレートしたプロデューサー達のトラックや、ハウス系のトラックをよくプレイしているんですか?
「そうだね。僕はいろんな曲をプレイしているから、もちろんハウスも何曲かはプレイしているよ。自分がプロデュースしたアーティストなんかもプレイするし。まぁ、以前と変わらず、ハウスだけじゃなくていろんな曲をかけてるって感じかな」
成熟したグルーヴが詰まった、大人のラヴ・ソング
__音楽的には、ハウス・サウンドを軸にしたというだけあって、全体的に前作よりもより艶やかでスムーズなグルーヴ感を感じさせる楽曲が多いですね。今作のトラックメイキングやサウンドメイキング面で、特に重視したことは何でしたか?
「まぁ、前のアルバムを出してから大人になったっていうか、すっかり年を取ったっていうか…だしね(笑)。正直なところ、ファースト・アルバムを出した頃の僕は、全くの子供だった。自分で何をやってるのか、よく分かっていない部分があったんだ。でも、もう何年も音楽をつくり続けてきて、今回はより強いビジョンを持ってアルバムをつくれたし、自分が何をつくろうとしているのか、どんな形の作品をつくろうとしているのかということが、よく分かっていた。グルーヴって点で言っても、より成熟したと思う。ハウスってことで、テーマが絞れていた部分もあったしね。そこが良かったのかも」
__リリック面やボーカル面で、特に意識したことは何でしたか? 今作でのあなたの歌声は、確かに大人のムードを感じさせますね。
「リリック面で意識したことは、あまりなかったかな(笑)。恋に落ちたり、破れたり。そして、そこから人生を理解し、人間として成長したり…。まぁ、新しく人生をスタートさせるようなことを歌っただけさ」
__それで、今作は、“ゼア・イズ・モア・ライフ・ザン・ディス”というタイトルになっているんですね。今作に先がけてリリースされたシングル「Falling」は、どのようにして誕生した曲ですか?
「基本的には、“恋に落ちる”ってことがテーマになってる曲だね。まぁ結果として、僕は毎週恋に落ちるようなことになっちゃってるわけだけど(笑)。ともかく、恋に落ちて、誰かに心をさらわれてしまうような感覚を歌った曲さ。自分自身を完全に他の誰かに預けてしまう…っていうのかな。そういうインスピレーションから生まれた曲だね」
__ちなみに、シンガーという立場として、美声を保つために何か心がけていることはありますか?
「ハハハハ(爆笑)。ウィスキーをたくさん飲むことかな。いや、それは冗談だよ。今、一つやってるのは、マヌカハニー(編注:ニュージーランドにしか自生していない薬木、マヌカの花から採った、天然ハチミツ)を毎日食べること。ヒーリング効果もある、特別なハチミツなんだけど、知ってる?」
__知ってますよ。高級品なんじゃないですか?
「そう。それを毎日(笑)。でもすごくいいよ」
__実は、真剣に身体のケアをしているんじゃないですか。
「そうそう。僕は、これでも真面目に健康に気づかってるんだ(笑)」
__今回のアルバム制作で、一番印象的だったことは何でしたか?
「そうだなぁ…。スウェーデンに行った時、雪の中散歩に出かけたら、足が雪にはまりこんでしまって、掘り起こされたことかな(笑)。面白かったよ」
__では最後に、今後の活動目標や、将来のビジョンを教えてください。
「次は、バンドのアルバムをつくりたいと思っているんだ。実際、もうつくり始めていて、今はそれに夢中さ(笑)。もちろん、ライブの準備もしているよ。で、それを完成させたら、さらに新しい音楽をつくっていきたいね。今は、どんどん曲をつくり続けていきたいと思っている」
interview & text Fuminori Taniue
translation Nanami Nakatani
【リリース情報】
BEN WESTBEECH
There’s more to life than this
(JPN) TRAFFIC/P-VINE / PCDT 44
7月27日 日本先行発売(海外 9月)
HMVでチェック
tracklists (producer)
01. The Book (Georg Levin)
02. Something For The Weekend (Danny J Lewis /Enzyme Black)
03. Falling (Lovebirds)
04. Same Thing (Chocolate Puma)
05. Justice (Motor City Drum Ensemble)
06. Stronger (Midland)
07. Inflections (Henrik Schwarz)
08. Sugar (Redlight)
09. Let Your Feelings Show (Georg Levin)
10. Butterflies (Ben Westbeech w. Rasmus Faber)
11. Summers Loss (Rasmus Faber)
12. Beat In My Heart (Georg Levin) [bonus track]
13 Friday (Soul Clap)
【オフィシャルサイト】
www.trafficjpn.com/benwestbeech
www.benwestbeech
【試聴】
Ben Westbeech – Same Thing by P-VINE RECORDS
【VIDEO】