’80年代後半に、ハウス/テクノ・ミュージックの洗礼を受けて音楽活動を開始し、’90年代を通じて様々な名義で作品をリリースしてきた、ノルウェー出身のダンス・ミュージック・クリエイター、ビョーン・トシュケ。Telléからリリースした『Trøbbel 』(’02)を経て、’08年にSmalltown Supersoundから発表したアルバム『Feil Knapp』で、新境地のオーガニックで、アンビエントで、ダビーなディスコ~エレクトロニック・サウンドを披露し、新たな人気を獲得しているベテランです。
そんな彼が、待望の最新作『コックニング』を5/18にリリースします。その内容は、ハウス、ディスコ、テクノ、ダブ、クラウトロック、民族音楽…などなど、様々な要素が有機的に結合さした彼の音世界を、さらに押し進めたもの。前作以上にバラエティー豊かなサウンド、メロディー、リズムが印象的な作品となっています。
ここでは、彼ならではの心地よいサウンドスケープを楽しめる『コックニング』の内容について、ビョーン・トシュケ本人に話を聞いてみました。
BJØRN TORSKE
ノルウェーが誇るベテラン・クリエイターが紡ぎ出す、
オーガニックでユニークなリスニング・ダンス・ミュージック
__最新アルバム『コックニング』は、好評を得た前作『FEIL KNAPP』から、約3年ぶりとなるアルバムですね。今作の制作は、いつ頃にスタートしたのでしょうか?
「僕は、アルバムをつくろうという、明確な意志を持ってスタジオに入ることがないんだ。新しいアイディアが思い浮かぶと、その都度、って感じでね。そういう断片的な作業を繰り返しているうちに、“あぁ、この曲とあの曲がつながってくるな”、といったものが少しずつ出てきて、点と点が線になって、面になって…という具合なんだよ。で、気付いたらアルバムになっている、という。だから制作には、大抵とても長い時間がかかるんだ」
__今作のテーマやコンセプトは、どのようなものでしたか?
「自分のDJセットと同じフィーリングを、リスニング体験をしてもらいたい、っていうのが根底にあるんだ。僕のアルバム・コンセプトは、毎回そうだね。でも、先に言ったような制作の進め方だから、特に決まった方向性や、テーマみたいなものはないよ。DJセット同様、時々に応じて変化していくものだから」
__アルバム・タイトルの”コックニング”(kokning)という言葉は、ノルウェーの漁師が行う食事の準備の仕方を指したものだそうですね。
「今はベルゲンに住んでるけど、僕が生まれ育ったのはノルウェー北部、北極圏にあるトロムソという町で、多くの人々が漁業で生計を立てているようなところなんだ。で、“kokning”は、文字通りの意味だと“茹でる”という意味なんだけど、僕らの町では、“一晩のディナーに必要とされる十分な量の魚”を指した言葉なんだ。まぁ、“準備ができた”って感じの意味合いかな。だから、このタイトルは、“アルバムの準備ができた”っていうことだね」
__今作の曲づくり、音づくりで特に意識したこと、またチャレンジしてみたかったことは何でしたか?
「前作との違いということでは、プログラムされたビートやメロディーよりも、様々な場所で録音した、アコースティック素材をベースにした楽曲が多くなっていると思う。ただ、手法は違っても、自分のDJセットの雰囲気をアルバムでも出したい、という点は変わっていない。で、そのセットとは、ハウス・ミュージックをベースとしながらも、折衷的で、様々な表現を試行錯誤していく、というものだね。厳格な意味での“ハウス”という音楽ジャンルではなくて、ロン・ハーディーやダニエル・バルデッリ的な、境界の緩やかな音楽を意識したものなんだ」
__なるほど。
「ここ二作には、典型的なダンス・ミュージックのフォーマットから離れた曲もあるけど、“ダンスフロアを意識しない”ということでは必ずしもなくて、たとえビートのない曲でも、常にビートへの意識はあるものをつくっているんだ。僕の音楽の軸は、ダンス・ミュージックやDJ的な視点で、それは今後も変わらないと思う。あと、単純なループに陥らないよう、新しい組み合わせや別の視点から曲をつくる、ということは、常々考えていることかな」
__あなたが近年手がけているサウンドは、多種多様な楽器とエレクトロニック・サウンドがナチュラルに融合したものがほとんどですが、曲づくり自体はどのようなプロセスで行っているんですか?
「使ってる機材は、昔から変わらなくて、そんなに多くもない。キーボードが何台、マック、ミキサー、エフェクター類…。PCソフトウェアよりも、リアルな機材で制作する方が、自分には向いていると思ってる。幸い、周りに良いミュージシャン、プロデューサーが多くいるから、足りない楽器やイクイップメントは、彼らから借りたりもしたよ。このアルバムでは、例えばスティール・ギター、KORG MS-20、CASIOのキーボード、それからタップ・ダンスのシューズも使ったね」
__楽曲の構想を練ったり、曲づくりをしている時、あなたはどんな物事からインスピレーションを得ていることが多いんでしょうか。
「日常の、様々な物事からヒントを得ているけど、特に社会の裏側というか、何か日の当らない側からインスピレーションを得ることが多いかもしれない。音楽でいうと、過去のものとか、遠い国や世界のものとかね」
__今作の日本盤には、ボーナス・トラックとして「Emmaus (Prelude)」「Assistenten」「Setter」「Totem Expose」「Nestor」が収録されますが、この5曲はどのような楽曲なんでしょうか?
「もともとは、アルバムに入れるマテリアルの一部としてつくったものでね。その頃にはもう、いろいろと曲の元になるソースができていたから、“アルバムを、こんな風にしたらいいんじゃないか”っていう僕からの素案として、この5曲をまとめ上げて、ヨアキム(本作のリリース元である、SMALLTOWN SUPERSOUNDのオーナー)に渡したんだ。で、ヨアキムと検討した結果、“アルバムは、もうひとつ別の方向で行こうじゃないか”って結論になったんで、結局この一群は、使われないことになった。だから、この5曲は、単純なボツ曲や未発表曲というよりも、“アルバムに向けた最初のスケッチ”とでも言うべきものなんだ」
__では最後に、あなたの次なる活動目標を教えてください。
「今は、DJやラップトップ・セットのライブで、ヨーロッパをツアーしているよ。その合間に、新曲をつくったり、リミックスをやったりしてるね。『コックニング』の曲も、他アーティストにいくつかリミックスしてもらっていて、12インチでカットする予定さ。それは、夏前までには出せたらいいかなぁ。DJハーヴィーにもリミックスしてもらったんだ。あとは、日本にも行けたらいいね。日本に最後に行った時のツアーでは、いろいろと素晴らしい経験をさせてもらった。近々、再び日本のみなさんに会えるのを、楽しみにしています!」
interview & text Fuminori Taniue
【アルバム情報】
BJØRN TORSKE
Kokning
(JPN) calentito / CLTCD-2001
5月18日発売
HMVでチェック
tracklisting
01. Kokning
02. Bryggesjau
03. Gullfjellet
04. Langt Fra Afrika
05. Bergensere
06. Slitte Sko
07. Nitten Nitti
08. Versjon Wolfenstein
09. Furu
BONUS TRACK:
10. Emmaus (Prelude)
11. Assistenten
12. Setter
13. Totem Expose
14. Nestor
【オフィシャルサイト】
http://calentito.net/artists/bjorntorske.html
http://www.myspace.com/bjorntorske