Daphni『Jiaolong』インタビュー


daphni_jk.jpg

現在はロンドンを拠点に活動しているカナダ出身のアーティスト、ダン・スナイス。マニトバ(Manitoba)名義、カリブー(Caribou)名義で知られる彼は、叙情的なエレクトロニカ~インディー・ロック・サウンドを軸に、これまでに5作のスタジオ・アルバムをリリースしている実力派です。特にCity Slangから2010年にリリースされた『スイム』(Swim)では、名実共に高い評価を獲得。レディオヘッドからも信頼を得ており、リミックス提供だけでなく、’12年のツアーにはサポートとして同行しています。

そんなダン・スナイスが、ダフニ(Daphni)名義のアルバム『ジャオロン』(Jiaolong)を、10/3にリリースします。自身で立ち上げたレーベル、Jiaolongからリリースしてきたシングル曲に、新曲を加えた作品集です(フォー・テットとのスプリット・シングル曲「Ye Ye」も収録)。彼が、“金曜日の夜、DJする時にかける曲が欲しいと思ったら、金曜日の日中に、今日はこんな曲をかけたい、と考えながら作ってしまう。それがダフニ…”と語る通り、ダン・スナイス流の先鋭的にして繊細なダンス・ミュージックを楽しめる内容となっています。

ここでは、ダフニのコンセプトとアルバム『ジャオロン』の内容について語った、フジロック来日時に行われたダン・スナイスのインタビューをご紹介しましょう。


daphni_A1.jpg

Daphni『Jiaolong』インタビュー

__ダフニ名義で送り出す今回のアルバムは、かなりクラブの現場を意識したサウンドに仕上がっていますね。

「最近はバンドを観に行くよりもDJを聴きに行くことが多くてね。それで、自分がDJをする時にかける曲をつくりたいと思ってたんだよ。DJを聴いていると、曲のつなぎ方やどんな曲をつなぐかで、その人の個性が伝わってくる。で、その個性を上手く表現するには、極端な話、DJ用の曲を自分でつくってしまえばいいんじゃないかと思ったんだ(笑)。金曜日の夜、DJをする時にかける曲が欲しいと思ったら、金曜日の日中に“今日はこんな曲をかけたい、と考えながらつくってしまう。それがダフニなんだよ」

__カリブーとしての最新作『スイム』は、あなたのキャリアの中で最もダンスフロア向けの作品でしたよね。ある意味では、本作はその延長線上にある作品とも受け取ることができますが、なぜダフニという別名義で発表したのでしょうか?

「君の言う通り、『スイム』はダンス・ミュージックからの影響が強かった。けど、あのアルバムはソングライティング、作曲をするっていう行為と、ダンス・ミュージックとしての曲の構築の仕方を掛け合わせたものになっている。つまり、まだカリブーには歌が存在するっていうこと。僕が歌う声やメロディーを通して、人に何かを伝える音楽だ。それに、ダフニはつくり方からして明確な違いがあるんだよ。ダフニの曲は、シンセやドラムマシーンを使った作業の中から曲をつくっていく。でも、カリブーはソングライティングのアイデアを頭の中で構築していくんだ。そういった曲づくりのアプローチに大きな違いがあるんだよね」

__ちなみに、ダフニ(Daphni)とはどのような意味なのでしょうか?

「ギリシャ語で月桂樹のことをダフニって呼ぶんだ。植物の名前にしたかったんだよ。っていうのも、ダンス・ミュージックの名前にはロボットとかコンピューターとかに由来する、無機質なものが多い。だから、有機的な植物の名前をつけたかったっていうのがひとつ。それにスペルの最後にeを付けることで、ダフニは女性の名前にも受け取れる。スクリレックスとか、今アメリカで流行っているダンス・ミュージックは、すごくアグレッシヴで男性的だよね? みんなでウォーッ!って盛り上がるっていう。でも、そういうものからは距離を置きたいっていう意味で、女性的なものを名前で表現したかったんだ。もっとさりげなく繊細な雰囲気の音楽だっていう意味を込めてね」

__なるほど。では、スクリレックスとかと違う音楽となった時、具体的にどんなダンス・ミュージックを意識していましたか? 前作はセオ・パリッシュに影響を受けたと聞いていますが、僕の意見としては、今作にはその要素を更に強く感じます。ソウルやディスコ、アフロ・ミュージックとの繋がりを強く感じられるという意味で。

「僕が好きなDJハーヴィーとかセオ・パリッシュとか、若手だったらフローティング・ポインツとか、彼らのセットってすごく長いよね。6、7時間くらいある。で、その長いセットからダンス・ミュージックの歴史が伝わってくるんだ。あらゆる音楽がつながっているっていう。ソウル・ミュージックもディスコ・ミュージックもアフリカン・ミュージックも、そのセットの中から感じるし、デトロイト・テクノの流れやシカゴ・ハウスの流れがあることにも気付くことができる。だから、僕の場合、例えばDJがテクノ・セットの中にさりげなくジャズを入れてくれたりすると、すごくワクワクするんだよ。もちろん、ダフニとしてはモダンで新しい音楽をつくりたいけど、それと同時に、これまでのダンス・ミュージックが築き上げてきた歴史とつながりのあるものを、ちゃんとつくりたい。そういった歴史に触れたことのない若手がつくる音楽も面白いと思うけど、実際に僕はダンス・ミュージックの歴史を聴き手として通ってきてるから、自分のDJでは歴史のつながりを感じられるようにしたいんだ。そもそも、ダンス・ミュージックの強みっていうのは、一曲の中に色々な音楽の要素を入れることができる柔軟性だと思うしね」

__「Ne Noya」というアフロ・クラシックのリミックスも収録していますが、これもそういった柔軟性の表れということでしょうか?

「うん。あの曲は、70年代に活躍したCos Ber Zamの曲なんだよね。“アナログ・アフリカ”っていうレーベルが、当時のアフリカ音楽の再発をすごく頑張ってやっていて。実際、当時のミュージシャンに連絡して、許可を得て出しているんだよ。それって、音楽ファンにとっては素晴らしいサービスだよね。僕はこの曲を聴いた時、そのうちの数小節をループしたら、すごくヒプノティックなサウンドになるんじゃないかと思いついたんだ。そこでアナログ・アフリカに連絡して、アーティスト本人に使用許可の確認を取ってもらって使えることになった。だから、この曲は歴史のつながりを感じられるものだと言えるし、実際にアーティスト本人との“つながり”によって、収録可能になったものでもある。本当に嬉しいね」

daphni_A2.jpg

__ところで、『スイム』以降、あなたはクラブ・ミュージックへの傾倒を強めていますが、それは今のイギリスのクラブ・シーンが活気づいていることと少なからず関係しているのでしょうか?

「間違いなく関係しているね。僕は10年間ロンドンに住んでいるんだけど、5年前まではクラブ・シーンでは何にも起きてなかったんだよ。良いクラブもなかったし、いいDJがまわしに来ることもなかった。もっぱら、みんなバンドを観に行くっていう感じで。それがいきなり、ここ数年、若手のいいDJやプロデューサーがどんどん出てくることになったんだ。クラブでも良いパーティーをたくさんやっているし、世界中の旬なDJが自宅の近くで回している。そういった状況は、たくさんのミュージシャンに影響を与えていると思う。僕も影響を受けているしね。今のクラブ・ミュージックの状況は本当にエキサイティングで、毎週19歳くらいのポスト・ダブステップの新人が出てきていたりするんだ。すごく活気があって、本当に面白いんだよ」

__あなたの盟友のフォー・テットも最近はよりダンサブルなサウンドに傾倒していると思いますが、そういった偶然をどのように感じますか?

「いや、それは偶然じゃないよ。彼とは本当に仲がいいし、しょっちゅう一緒に音楽の話をしているし、お互いに面白い音楽を見つけたら、“これ、すごく新しいよ!聴いてみなよ!”って紹介し合う間柄だからね。実際、今年の夏は一緒にDJをたくさんやっていることもあって、今のシーンに感じている興奮を共有できていると思う。フォー・テットは15年前からの知り合いなんだけど、音楽に関しては不思議なくらい同じ感覚を持っているんだ。だから、僕らは音楽兄弟だと言ってもいいくらいだね(笑)。それに、フローティング・ポインツや、“ハッスル・オーディオ”のピアソン・サウンド、ジョイ・オービソンみたいな若手とも親交を深めているよ」

__あなた自身、DJをやる機会は増えているんですか?

「そうだね。この前はドイツに行ったんだけど、金曜と土曜に6時間、日曜に8時間もDJをやったよ。やっぱりDJは好きだからね。特にロング・セットは大好きで、その中で流れをつくりながら、影響を受けてきた音楽や自分がつくった音楽をみんなと共有できるのを最高の嬉しく感じるんだ。最近はカリブーのツアーをやっているけど、そのライヴをやりつつDJもやるっていう、両方を並行してできているのはラッキーだと思うよ」

__では、『ジャオロン』(Jiaolong)というアルバム・タイトルの意味を教えてください。

「実はこの言葉って、中国の潜水艦の名前なんだよね。ニュースでそれを知って面白いと思ったんだけど、よくよく調べてみると、その言葉の由来はシー・ドラゴン、辰らしいんだ。その生き物は、状況に合わせて体の色を変えたりすることができるんだけど、それが面白いと思って。DJによっては、自分のスタイルがしっかりとあって、それを貫くっていう人もいると思う。でも、僕の場合は曲ごとに色んな側面を出していくDJだから、『変化する』っていう部分が気に入ったんだ。あとは、海の生き物っていうことで、カリブーの『スイム』の頃から続いている水に関連したテーマっていう点でもいいと思ったのもあるよね」

__アルバム・タイトルと同名のレーベルを立ち上げてのリリースとなりますが、わざわざ自分でレーベルを立ち上げたのはどうしてですか?

「このアルバムを出す前に、12インチをJiaolongから出していたんだけど、やっぱり曲をリリースできるまでの時間の短さっていうのが大事だったね。曲をつくったら、その週末に自分のDJセットでかけて、それが2週間後には店頭に並んでいるっていう。マーケティング・プランとか関係なく、その場の勢いでつくった曲をすぐに出せるっていう流れが便利だと感じたから、立ち上げたんだ」

__少し気が早いかもしれませんが、カリブー名義での次のアルバムは考えていますか?

「実はもう取り掛かっているんだ。でも、カリブーがダフニと違うのは、曲をつくり始めてから完成するまで一年くらいかかるってこと。その間に、ここを直してみようとか、これとこれをくっつけてみようとか、徐々につくり上げていく作業をするんだよね。そんなふうに時間をかけてつくっていくものだから、断言は難しいけど、新作は来年くらいを予定しているよ」

__ということは、まだ具体的なサウンドの方向性は決まっていないのでしょうか?

「時間をかけてつくっているから、サウンドは日々変わっていくんだよね。書き始めた曲をボツにしたと思ったら、それが別の曲の原型になったり。でも、前作とは違った全くサウンドになることだけは間違いないと思うよ」

interview 小林祥晴


【リリース情報】

daphni_jk.jpg

Daphni(ダフニ)
Jiaolong(ジャオロン)
(JPN) Jiaolong/Hostess / HSE60133
10月3日発売
HMVでチェック

tracklisting
1. Yes, I Know
2. Cos-Ber-Zam – Ne Noya (Daphni Mix)
3. Ye Ye
4. Light
5. Pairs
6. Ahora
7. Jiao
8. Springs
9. Long

全曲試聴実施中 http://hostess.co.jp/news/2012/10/002048.html

【オフィシャルサイト】
http://hostess.co.jp/
http://www.tumblr.com/tagged/jiaolong

interviewカテゴリーの記事