’05年にメジャー・デビューして以来、ダンサブルでメロディックな音楽性と、卓越したライブ・パフォーマンスで、幅広い層から人気を獲得してきたロック・バンド、DOPING PANDA。メンバーは、Yutaka Furukawa(Vo/G/Programming)、Taro Houjou(B/Cho)、Hayato(Dr/Perc/Cho)の三名。今年1月には、キャリア初となるCD2枚組のフルタイム・ベスト・アルバム『THE BEST OF DOPING PANDA』をリリースし、インディーズ時代を含む約10年の活動に一区切りを付けたばかりです。
そんな彼らが、『decadence』(’09)以来となる、待望のオリジナル・アルバム『YELLOW FUNK』を4/13にリリースします。自分達が所有するスタジオで、Yutaka Furukawaがレコーディングからミックスまでの作業を全部一人で行った、完全D.I.Y.の注目作です。気になるその内容は、従来のテイストとはひと味違う、よりヴィヴィッドな音像、よりダイナミックな演奏、そして、独創的なアレンジの楽曲群が詰まったもの。作家性の高い音世界を全面に打ち出した、斬新なアルバムとなっています。
ROCK STAR、Yutaka Furukawaの、音楽に対するこだわりを凝縮した『YELLOW FUNK』。本作の内容とその背景について、Yutaka Furukawa本人に話を聞きました。
DOPING PANDA
新たなる音楽的境地に到達した、
唯一無二の個性を誇るハイブリッド・ロック・バンド
初のセルフ・スタジオ・アルバム
__初のベスト・アルバム『THE BEST OF DOPING PANDA』に続いてリリースされる最新作『YELLOW FUNK』は、セルフ・スタジオで制作された初のアルバムとなりますね。まず、前作『decadence』(’09)をリリースした後、セルフ・スタジオをつくって、そこで制作活動を行うことにした理由を、改めて教えてください。
「やっぱり、これまでのスタイルやスタンスで制作を続けていっても、どうも自分が思っているものに近づけないんじゃないか、って思ったからですね。何か、ある種の別の完成度が上がっているような気はしていたんですけど、それは自分が求めてきたベクトルとは全然違うんじゃないかなって思っていたんですよ」
__はい。
「それで、確信はなかったんですけど、いくらかの過信と覚悟を抱いて、全ての作業を自分でやれば、本来目指していた方向にいけるんじゃないかってことで、スタジオをつくったんです。以前からずっと口にしてきたことではあったんですけど、前作をつくり終えたタイミングで、ようやく物件が見つかって、条件が整ったんですよね」
__で、実際にスタジオをつくって、これまでとは違う環境で曲づくり、レコーディングを始めたわけですが、しばらくは日々勉強という感じでしたか?
「ええ、勉強という表現でいいと思いますよ。ビルドアップする作業は、正に勉強って感じでしたから。Amazonで洋書を買って、レコーディングやミックスのノウハウを読みあさったりとかしましたし、演奏面に関しても、YouTubeなどで、いろんな黒人アーティストのライブを観て、みんなで研究したりしましたね。それを学習というのか、トレーニングというのか、言い方は分かりませんけど。まぁ、スキルアップですよね」
__今作に向けての作業というのは、具体的にはいつ頃スタートしたんですか?
「それは、難しい質問ですね。理想に近づける良い手法が見つかったら、録音したものを一度ゼロにしたりもしましたし、演奏も、良くなっていく度にレコーディングし直しましたから。それこそ、マイクの立て方、ドラムの録り方、みたいなことから始めたんですよ。楽しかったですね」
変化した音楽観
__今作の制作を通じて新たに発見できたことは、何でしたか?
「このアルバムを聴いてもらえれば分かると思うんですけど、音楽に対するアプローチが全く違ったんで、いっぱいありすぎて言えないですね。レコーディングやミックスに対するアプローチが変わったおかげで、曲のつくり方に対するアプローチも変わったし、音楽に取り組むアプローチも変わったし、音楽の聴き方に対するアプローチも変わったんですよ。抽象的な言い方をすると、音楽の見え方が変わったっていうことかな。本来音楽とは何だ?という部分に、少し近づけたような気がしますね」
__どういうことですか?
「ビートとは何だ、メロディーとは何だ、コード進行とは何だ、周波数って本来どういうものなんだ、みたいなことですよね。どうして自分達は音楽を聴いて興奮したり、音楽を必要としているのか…。すごく壮大な話ですけど、数値的なことから始まって、そこを経て最後は感覚的なところに行き着いたり、感覚的なことだと思っていたものが、実は数値的な現象だったりとか、そういうことに対する興味が変わりました」
__曲のつくり方に対するアプローチというのは、具体的にはどう変化したんですか?
「人間には20Hz〜20kHzの可聴範囲というものがありますよね。で、その中で理路整然とした音楽をつくろうとしてきたのが、いわゆる白人達だと思うんですよ。クラシック音楽って、可聴範囲の中で、いかに無駄なく音楽を奏でるか、いかに楽器の構成やアレンジで人を感動させるか、という学問でもあったわけじゃないですか。で、その延長線上に今のポップ・ミュージックがあったりもするわけです」
__そうですね。
「ただ、そこには、アフリカン・アメリカンの人達がもっとフィジカルなアプローチで奏でた、民族音楽との文化的衝突というものがあったわけですよ。ロック、ブルース、ジャズ、R&B、ハウス、テクノ…といったものは、そこから派生して生まれてきたものですよね。そんな音楽的世界の中で、言わば部外者である僕たちは、何となくそういった音楽を受け取って、そのイミテーションをつくって楽しんでいるだけなんじゃないか、と」
__なるほど。
「だから、僕はミックスの仕方やサウンドの意味を学んでいく中で、必然的に音楽というものを論理的に鳴らしたい、って思うようになったんです。つまり、このアルバムに入っている曲は、実は理論に後押しされたアレンジだったりする、ということですね。今回は良かれ悪しかれ、そういうモードで曲をつくっていったんです。ただ、より複雑に音楽を思考して、曲づくりをするようになりましたけど、俯瞰で見ると、より単純なサウンドになったように感じてますよ」
“YELLOW FUNK”の意味
__アルバム・タイトルの“YELLOW FUNK”という言葉は、DOPING PANDAがこの2年をかけて追求してきた新しい音楽性を、ストレートに表現したものだと考えていいのでしょうか?
「正にそうですね。“YELLOW”というのは、日本人である自分達のことを指したものです」
__ロックでもパンクでもなく、“FUNK”という言葉を選んだ理由は何ですか?
「白人の鳴らすファンクって意味合いだと思うんですけど、NY〜ブルックリン系の音楽の中に、ホワイト・ファンクってあったじゃないですか。で、その言葉をアタマの中におきつつ、去年ヨーロッパ・ツアーに行ったんですよ。その時に、自分達の音楽を説明する言葉として、イエロー・ファンクを思いついたんです。僕らには16ビートの曲が多いし、キャッチーだし、ユーモアもあっていいだろう、って感じで」
__なるほど。
「そんな中、フランスのパブでライブをやって、「the miracle」と「the anthem」のリアレンジ版をプレイしたんですね。そうしたら、飲みにきていた普通のおじさんに声をかけられて、“お兄ちゃん達の音楽を聴いたら、なんか日本の田園を歩いている気分になったよ。日本に行ったことないけど、鮮明に日本の風景が浮かんだ”って言われたんです。その時に、“あ、正にこれぞイエロー・ファンクなんだな”って思ったんですよね。実は、自分達がサイエンスしていることってコレなんだな、言い得て妙な言葉なんじゃないのかなって、それ以来すごく意識するようになっちゃったんです」
__そんなストーリーがあったんですか。
「だから、日本に戻ってきてから、今つくっているアルバムはもう『YELLOW FUNK』にしよう、って決めましたね。僕には、白人と黒人がつくった音楽を間借りして音楽をやらせてもらっている、というコンプレックスがあるんで、そこに対するアンチテーゼも含まれている言葉かもしれません。こんなに強い意志を持ってタイトルを付けたことって、なかったくらいですよ」
__では、ヨーロッパでライブをやったことは、良い経験になりましたね。
「そうですね。すごく意味があったと思います。自分たちにとって財産になりました。目的意識を持って海外に出ると、やっぱり自分達の文化度の低さを痛感するんですよ。聴きにきているヤツらのレベルの高さから、カーステで流れている音楽を楽しんでいるオッチャンの年齢から、居れば居るほど打ちのめされるんです。田舎町の路上でラテン音楽をやってるようなオッサンの集まりが、セルジオ・メンデスかってくらい、本当にムチャクチャ上手いんですから」
レイヤーのある音楽
__アルバムの内容についても、話を聞かせてください。まず、「the miracle」と「the anthem」のリアレンジ版を入れるアイディアは、当初からあったんですか?
「そうですね。でも、さっき話したことが一番の理由です。向こうですごく思い出深い曲になっちゃったし、実際リアクションも良かったんですよ。「the miracle」のリアレンジ版は、チェコのフェスでもやったんですけど、盛り上がりましたね。やっぱり、オリエンタル…っていってしまうと簡単な話になっちゃいますけど、日本的なリズムとメロディーが良かったんだと思います。僕の中で、すごく良いイメージの曲なんですよ」
__「the anthem」の方は、いかがですか?
「「the anthem」のメロディーとコード進行は、スタジオをつくって最初にできたものだったんで、この曲を仕上げることを軸にしてアルバム制作に入ったんですよね。だから、かなり早い段階から、何度もつくり直してできた曲です。’09年の秋に出したミニ・アルバムに収録したバージョンから、メロディーも変わって、最終的には、もっと素直に自分を出そうということで、ロックっぽいアレンジに変わりましたね。まぁ、このアルバムは、全体的にロックっぽいと思いますね。それこそ、2年くらい前に流行っていたホワイト・ファンクやトロピカルなサウンドよりも、初期衝動的な、ハード・ロックっぽい要素が出ていると思います」
__確かに今作のサウンドは、ギターの存在感が際立っていますね。しかも結構弾きまくってますよね。
「そうですね。ちょっと誤解されるかなって思いましたけど、もともと僕は、速弾きをそんなにダサいとは思ってないし、曲が求めているんだったら弾いてもいいんじゃないかなって思っているんで、弾きすぎたって感覚はないですよ。結局、これもこれで一つの表現方法だと思ってやりました」
__また、全体的にA.O.R.やフュージョンっぽい要素がある印象もしたのですが、いかがですか?
「ああ、A.O.R.っていうのは、あるかもしれないですね。僕の頭の中にあるのって、実はスティーリー・ダンとかなんで。僕は、やっぱりレイヤーのある音楽がすごく好きなんですよ。だから洋楽好きなんですけど、その中でも特にレイヤーがあるサウンドを選んで、聴いてましたからね。もともとレッド・ツェッペリンも好きですし」
DOPING PANDAの未来とは?
__結果的に、今作の楽曲とサウンドは、従来作と比べて、かなり大胆に変化したものとなりましたね。
「そうですよね。こういう変化をしたバンドって、かつていたのかな、って自分でも思います」
__パンク・シーンにルーツを持つバンドの発展の仕方としては、かなりユニークな方向性だと思うのですが、ご自身の中でそういった自覚はありますか?
「まぁ、いいように解釈して言うと、自分はポール・ウェラーだと思ってやってますよ(笑)。ザ・ジャムで始まり、スタイル・カウンシルを経て…みたいな。スティングもそうですよね。ジョイ・ディヴィジョンからのニュー・オーダー、という言い方もありますけど(笑)。でも、発展の仕方にルールなんてないし、成長していくのって楽しいじゃないですか。だから、変わる方が自然で当たり前だというつもりで、僕はやってます」
__ちなみに今作の中で、バンドとしてのケミストリーが一番上手く表現できた曲は、何になりますか?
「バンドとしてのケミストリーという部分には、まだたどり着けなかった気がしますね。このアルバムは、レコーディングからミックスまで、初めて僕一人でつくったアルバムなんで、バンドよりもフルカワユタカ色の方が強いと思うんですよ。ただ、今回、ドキュメンタリー用にスタジオで「song for my harmonics」の一発録音をして、それをフィルムに収めたんですけど、その映像には、このアルバムを経てビルドアップしたバンドの様子が、かなり入っていると思いますよ」
__「song for my harmonics」は、今作の中で重要な位置づけの曲なんですか?
「まぁ、そうですね。「song for my har monics」は、アレンジの落としどころが全くなくて、上手く処理できないまま時間が経って、いろいろやっているうちにミックス自体も甘い気がしてきちゃった曲だったんです。しかもそれが、マスタリングでNYに飛ぶ一週間前のことだったんですよ。それでボロボロになって、逃げたしたくなったんですよね。で、最後にメロディーを全部つくり変えて、ヨッシャって思ったんですけど、ビールを買いに行ってから聴き直してみたら、震えがくるくらいダサくて…その日は帰りました。でも、それが自分の底だったみたいで、翌日歌を入れ直して、ミックスを始めたら、パッと目の前が開けて、そこまで感覚的にやっていた作業が、全部明確に結びついていったんですよ。だから、ターニングポイントとなった曲ですね」
__そうだったんですか。
「僕、いつもそうなんですよ。どん底まで一度行ったら、バンって次にいけるんです。だから、追いつめないとダメなんでしょうね。そこまで行かずに引き返した時って、必ず良いところにたどり着かないです。なんで、まだ底じゃない、ここで諦めたら何も開けないって思いながら、いつもやっていくんですよ。ともかく、このアルバムの音像の先に見える、もしかしたらこの人達、この先もっと何かヤバイことするかもっていう雰囲気を少しでも感じてもらえたら、ありがたいです。僕は、今回それをドロップできたと思うし、今後に向けてのとっかかりも残せたと思っているんで」
interview & text Fuminori Taniue
【アルバム情報】
DOPING PANDA
YELLOW FUNK
(JPN) gr8! / SRCL-7574
4月13日発売
HMVで買う
tracklisting
1. the anthem
2. I said
3. You can change the world
4. because of the love
5. song for my harmonics
6. catastrophe
7. de la papa
8. love song
9. the miracle
【オフィシャルサイト】
http://www.dopingpanda.com/
http://www.sonymusic.co.jp/Music/Arch/SR/DopingPanda/
【LIVE INFORMATION】
YELLOW FUNK TOUR 2011
4/28 (木) 静岡 SUNASH
4/30 (土) 京都 磔磔
5/13 (金) 長野 CLUB JUNK BOX
5/15 (日) 仙台 Darwin
5/21 (土) 札幌 PENNY LANE 24
5/26 (木) 広島 Cave-Be
5/28 (土) 福岡 DRUM Be-1
5/29 (日) 岡山 CRAZYMAMA KINGDOM
5/31 (火) 大阪 BIGCAT
6/10 (金) 名古屋 DIAMOND HALL
6/12 (日) Zepp Tokyo
http://www.dopingpanda.com/live/