Hot Chip『In Our Heads』インタビュー


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アレクシス・テイラー(Vo)、ジョー・ゴッダード(Beats/Vo)、アル・ドイル (G)、オーウェン・クラーク(Keys)、フェリックス・マーティン(Dr/MPC)からなる、ロンドンを拠点に活動するバンド、ホット・チップ(Hot Chip)。2001年にMoshi Moshiからデビューして以来、あらゆるジャンルのサウンドを取り込んだ、その実験的かつポップ、そしてダンサブルな音楽性で高い評価を獲得している人気アクトです。これまでに4作のアルバムを発表しており、3作目『Made in the Dark』(’08)は全英チャート4位、続く『One Life Stand』(’10)は全英11位を記録するヒット作となっています。

そんなホット・チップが、Domino移籍後初となる、通算5作目のアルバム『In Our Heads』(イン・アワー・ヘッズ)を6/6にリリースします。地元ロンドンで、エンジニア/プロデューサーのマーク・ラルフと共にレコーディングした作品で、メンバーそれぞれのサイド・プロジェクト(About Group、The 2 Bears、New Buildなど)を経て、ホットチップ独自の音楽性にさらなる磨きをかけた注目作となっています。

ここでは最新作『In Our Heads』について語った、アレクシス・テイラーとオーウェン・クラークのインタビューをご紹介しましょう。なお、ホットチップの日本公式サイトでは、アルバムの全曲試聴も実施中です。それからホットチップは、6/23(土)6/24(日)に恵比寿ガーデンホールで開催されるHostess Club Weekenderで来日することが決定しています(出演日は6/24)。


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Hot Chip『In Our Heads』インタビュー

__アルバムのオープニング「Motion Sickness」はとてもダイナミックですね。すぐに踊り出したくなるような気分になりますが、そういうものにしようと思っていたんですか?

アレクシス・テイラー「正直に言うと、毎回レコードをつくる時はアップリフティングなものにしようとしているんだよ。今回が初めてのことじゃないと思う。ある意味、この前のレコードの始まりは、このレコードの始まりとかなり近かったと感じるしね。どちらも長いオープニング・トラックで、意気揚々としたサウンドだっていう点では近いものがあって、そこからあのレコード(『‪One Life Stand‬』)では「Hand Me Down Your Love」に行って、このレコード(『In Our Heads』)では「How Do You Do」に行くっていう。僕らが何度も同じことを繰り返しやっている、って言いたいわけじゃないよ。でも、アップリフティングな音楽には常に興味を持っているし、もうちょっと内省的で思慮深い音楽にも興味を持っている、っていうことなんだ。これら二つのものが常に共存していて、それぞれが僕らの異なったパーソナリティを反映している。で、そういったものがほとんど全てのホット・チップのレコードで前面に出てきているっていうことさ」
オーウェン・クラーク「そう。つまり、僕らは“OK、これはアップリフティングなアルバムにしよう”とか、計画を立てたりはしないってこと。もっと無意識の部分から出てきているものだと思うし。それって、多分スタジオにいることの興奮とかも関係しているのかも。そこで生まれたサウンドっていうのは、独自のエネルギーを持っているんだ。なんて言うか、留まるところを知らない喜びを表現した曲ばかりだとちょっとトゥーマッチだし、光があるところには影もあるからね。もちろん喜びに溢れていたり、意気揚々としていたりする曲もあっていいと思うよ。それによってその曲の価値が下がるわけじゃない。でも、それがアップビートじゃない曲と並べられることによってバランスが取れて、アップビートな瞬間も活きるんだ。その方がもっとリアルに感じるっていうか」

__でも「Motion Sickness」は際立って…。

アレクシス「うん、「Motion Sickness」はちょっと壮大な感じがして、他の曲にはない感じだと思う。だから、あの曲は少し例外みたいなものだよ、本当に。サウンドにも広がりがあって、’60年代のフィル・スペクターのプロダクションをある程度参照している。明らかにエレクトロニックな要素がたくさん入っているけどね。でもアルバムの一曲目としては、ちょっと誤解を招くようなところもあるのかな。というのも、アルバムのそれ以降の部分も、そういった感じだと思わせてしまうところがあるから。アルバム全体としては、もうちょっと…他の曲も同じくらいアップリフティングではあるんだけど、あれほど壮大っていうわけではないから。このレコードの他の曲は、「Motion Sickness」ほどマキシマムなサウンドじゃないと思うんだ」

__あなた達は、自分達の音楽を他のミュージシャンの音楽と較べることがよくありますね。大抵のミュージシャンは(他のミュージシャンと較べられることで)固定観念を持たれるのを嫌がりますが、なぜあなた達は気にしないのですか?

アレクシス「僕らは、ただいろんなレコードが好きで、たくさんの音楽が好きっていうことと、それにインスパイアされているっていう事実をオープンにしているだけなんだ。僕らのレコードが本当にフィル・スペクターやザ・ビーチ・ボーイズやティンバランドのレコードみたいに聴こえるかっていうと、そうは思わない。たぶん、だからこそ僕らは他のミュージシャンと較べられることを気にしないんだろうね。自分達は独自のサウンドを持っているっていう信念は、ちゃんと持っているよ。だけど、自分達が参照しているものを隠して、あらゆるものに対して新鮮なアプローチをしている、一番ユニークなバンドだって偽ったりするのはね…だって、そんなバンドがいるなんて信じられる? みんな自分のレコードについての主張は持っているし、ビジュアルに関しても事前に全てオーガナイズしていて、マニフェストとかもあるけど、それは必ずしもオリジナルだったり興味深いものだったりはしないから」

__そうですね。

アレクシス「ただ自分の言っていることを、みんなに信じてもらおうとして話しているだけなんだ。キャリアの初期から、僕らは自分達がインスパイアされた音楽について語るのは、とても簡単なことだと思っていた。それで僕らが音楽的にどういったルーツを持っているのか、理解するのに役立てばいいと考えていたから。「Motion Sickness」におけるフィル・スペクター的な部分は、曲づくりの終わりの方で出てきたものなんだよ。だから、あれはフィル・スペクターのレコードを聴いたことで生まれた曲っていうわけじゃなくて、ある特定のサウンドを説明するための一つの手段として(フィル・スペクターの例えを)考えていただけなんだ。僕らはそこから曲を広げていったわけじゃなくて、やったのはサックスをちょっと入れて、チャールズ・ヘイワードにドラムを叩いてもらうっていうことだった。“僕らはサキソフォンを入れた…うん、これはフィル・スペクターのクリスマス・レコードを思い起こさせるな”っていう感じ、わかるよね? 曲を広げるための手段の一つでしかなくて、曲づくりのスターティング・ポイントではなかったっていう」

__『In Our Heads』は、あなた達にとって5枚目のアルバムです。どうやって自分達の音楽をアルバムごとに違ったものへとつくり直すんですか?

オーウェン「僕らは、ホット・チップ以外でも新しいサウンドを探求する機会を持つようにしている面があるんだ。それって健康的なことだと思うよ。実際にそういう風にしてみると、そういった仕事の仕方は論理的に感じられる。だって他にもやることがあって、それがすごくダンス寄りのものでも、DJでも、インプロヴィゼーションでも、かなりロックをベースにしたものでも、またそこに戻ることで新鮮な気持ちを取り戻せるからね。だからそれって、アルバムを何枚も出していく上ですごく重要なことなんだ。他の何かをやっていることによって、ホット・チップの枠組みの中に戻ってきた時、そこで得た新しい経験を注入することができる。それがバンドを続けていける要因さ。5枚も続かないバンドもいるけど、幸運にも僕らが5作目を出せたのは、そういう理由なんじゃないかな」
アレクシス「キャリアの浅い頃は、レコードごとにもっと変わることを考えていたんだ。なぜなら、僕らはたくさんの違ったスタイルの音楽に興味があるからね。だから、僕らは他のアーティストがたまにやっているみたいに、劇的に変わってしまうっていうこともできたはずなんだ。でも実際にホット・チップの音楽をつくっていて楽しいのは、“今はこの音楽に特化してやってみて、今度は別の音楽に特化してやってみよう”って、前もって計画してやることじゃない。僕としては、計画などを立てずに自然に曲がまとまっていって、その結果でき上がる作品がホット・チップだっていう事実を気に入っているんだよね。ジョー(・ゴッダード)が持ち込む影響と僕が持ち込む影響は、違ったパースペクティヴを持っているし、バンド全体でも物事についてそれぞれ違った見方を持っている、それがホット・チップなんだ。“このジャンルの音楽をやってみよう”とか、そういう感じじゃないんだよ。その方が僕にとっても興味深いしね。マイルス・デイヴィスはレコードごとに性急に変化していったし、ボブ・ディランもそうだった。僕はそういったレコードも大好きなんだけど、僕らはそれとまるっきり同じやり方ではやってこなかった」

__ええ。

アレクシス「(ザ・ビーチ・ボーイズでは)『Pet Sounds』(’66)から『Smile』(’11:’67年にリリースされる予定だった未発表アルバム)への進化が見て取れるように、ホット・チップのあるレコードから次のレコードへの進化も見て取れると思う。そこには明らかな進化の跡があるんだけど、その二枚のレコードは互いに関係性を持っているんだよ。(ザ・ビートルズの)『Revolver』(’66)と『Sgt. Pepper’s Lonely Hearts Club Band』(’67)との間にも明らかな関係性があって、プリンスの『Parade』(’86)と『‪Sign “O” the Times‬』(’87)はかなり違っていたけど、同時にコネクションもあったっていうのと同じでね。僕達が彼らと同じように音楽をつくっていると言いいたいわけじゃないよ。そういったレコードは僕にインスピレーションを与えてくれるし、何かをやる度に劇的に変化する必要はない、と感じさせてくれるんだ。僕らは自分達がやっていることを発展させようと努力していると思う。毎回ほとんど同じようなタイプのものを探求しているかもしれないけど、それがより良くなっていれば嬉しいと思うよ。どうにか磨きをかけることができていればね」

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__ホット・チップは、まだダンス・カルチャーの中にいると思いますか?

アレクシス「僕は、そういった問題を本当にあまり考えないんだ。僕はただ自分が思い付いた曲のアイディアや、ジョーが持ってきた曲のアイディアに反応するだけでね。ジョーは、僕よりもクラブ・カルチャーへの興味によって突き動かされているとは思う。で、彼がそういったアイディアを持ってきたら、僕はそれに向き合って、そこに何かを加える。僕らが書く曲は、(クラブ寄りのものでも、そうでないものでも)どちらのタイプでも価値があると思う。僕らの曲には遅い曲もあれば速い曲もあるけど、僕にとっては同じくらい重要なんだ。僕はただレコードや音楽をつくるだけで、その中にクラブで機能するものもあれば、そうでないものもあるっていうだけなんだよ」

__「Night and Day」にはアイロニーがたっぷり込められているようですが、これについては?

アレクシス「ヴァースの歌詞は明快だと感じてもらえてれば嬉しいよ。“昼間に僕が君について感じていること”、歌詞のこの部分はわかるよね? ちょっと難しいのは、“僕らの周りの壁が崩れ落ちる』”っていう部分だと思う。これは、何かに囲まれているような感覚と、誰かに向かって手を伸ばしているような感覚っていうのがアイディアとしてあるんだ。渇望や切望っていう感覚を扱ったとてもストレートな曲で、セクシーに聴こえる音楽にしようとも意図していて…」
オーウェン「…それにちょっとゾッとするような感じもね」
アレクシス「…ああ、うん。その…わからないな。人のやっていることを説明するのは難しいから。ジョーはこの曲で喋りもやっていて、“僕が君のことを考えているのは知っているだろう?”って言っている。で、彼はこれをできる限り最も退屈な声で言おうとしたんだ。だから、これはひたむきな気持ちが込められているように聴こえるっていうよりも、平坦で感情を欠いているように聴こえる感じになっているんだ。そして僕としては、ちょっと間抜けに聴こえるように、メロディーをかなりアップダウンの激しい感じで歌おうとしている。杓子定規な感じで、堅苦しく音を移動したりしてみたんだ。そうやって、すごく平坦に聴こえるようにしてね。で、曲の中盤に入ると、DJをしている時にアバの曲をリクエストされることについて説明している。その曲が何であれ、誰かが僕に訪ねてきたら、丁寧にこういうことにしているんだ。“ああ、もし持っていたらプレイするよ”。って言うか、“いいや、持っていないんだ。本当にごめんね”っていう風に。でもそのリクエストしてきた人が、何が起こっているのか上手く理解できないこともあるから、できるだけ明快に伝えなくちゃいけないっていう…」
オーウェン「例えば、アバを持っていなければ、それをプレイすることはできない。でも時々それを理解してくれない人もいるから、話し合いみたいになることもあるんだ。実際は、ただその人がそれを欲しいと言い張るだけなんだけど。それって肉屋に行って“靴を磨いてくれ”と言って、“すいません、靴磨きはやってないんです”って返され、“でも俺は靴を磨いて欲しいんだ”って言って、“それはいいとして、ここは肉屋なんです、お客様”って言うのとはまた違う。わかるよね? そういった問題も起きるんだよ」
アレクシス「そう。もしくは“豚肉をください”って頼まれたとしても、“うちは七面鳥専門の肉屋なので、豚肉は無いんです”とか“もう売り切れてしまいました”って言うような感じ。僕はアバのレコードは一枚も持っていないし、ガバをかけることもない。僕はロジャー・トラウトマンとかザップ(Zapp)…フランク・ザッパじゃないよ…みたいな音楽が大好きで、ポール・マッカートニーなんかもDJ用に準備したりしてる。歌詞にある“ジバー・ジャバー(jibber-jabber)はやめてくれ”っていう部分はMr. Tの引用だけど、これは“ナンセンスなことを話してくるのはやめてくれ”っていう意味なんだ」

__誰かがアバを聴きたいと言ってきたら、どんな風に対応するんですか?

アレクシス「実際、僕はアバにもすごく好きな曲があるけど、どれも持っていないんだ。全体のバランスの中で捉えて欲しいんだけど、あの部分は、曲の中におけるちょっとしたユーモアなんだよ。堅苦しい任務を伝える声明とかじゃない。誰かが何かの曲を聴きたいって言って来た時に、その人に攻撃的な態度は取りたくないっていう話。けど、しつこくされたり面と向かって何かされたりすると、イライラすることもある。そんな時は僕も“ええと、ちょっとは敬意を払えよ”とか、本来あるべき“一線に配慮しろ”って思う。でも、彼らにそんな義務はないし、結局は彼ら次第なんだよ。それはDJをやっていると避けられないことなんだ。ジョーがベルリンでDJをやった時、彼は自分のかけたい音楽をかけてたんだけど、ベルグハイン(ベルリンの有名なクラブ)のクラウドは違うものを聴きたがったんだ。ジョーがジャングルのレコードをかけたら、彼らは気に入らなかった。みんなテクノを聴きたがっていたからね。でも、自分の好きなものをかけることができて、それによってお客さんと対立したり、みんなを一緒にしたりすることができるのは、ある意味いいことだよ。そういったことって起こるべきだし、お客さんが聴きたいものなら何でもかけるDJにはなりたくないはずさ。そんなのは、コンピレーションCDを取り出して、それをかければ目的が達成される。DJとしてバックグラウンドに徹することは、生計を立てるにはいいやり方かもしれないけど、DJの楽しみの一つは、ある方法で物事の順番を決めることだって考えて欲しんだ。みんなが知らないけど気に入るような曲をかけて驚かせたり、みんなが分かるような曲をかけたりするようなことだってね。そうすることで、みんながもっと自分の殻から出ることができるんだよ、たぶん。でも、分からないよね。ルーサー・ヴァンドロスのレコードをかけたら、みんな冷めちゃうかもしれないし」

__「Don’t Deny Your Heart」はとても興味深い曲で、始まりは’80年代風なのにファンクで終わります。この曲はどのようにして生まれたのですか?

アレクシス「ソウルやファンク・ミュージックの多くは、’80年代につくられたものだと思うし、このトラックはシックみたいなバンドや、プリンスの「I Wanna Be Your Lover」(’79)みたいなものと関連があると思う。これはディスコやファンクのレコードに言及したもので、’80年代的なサウンドとファンクの間の違いって、僕はあまり感じていないんだ。こういった曲は現代につくられてもいいし、’80年代につくられてもよかったと思う」
オーウェン「ルーサー・ヴァンドロスの『Never Too Much』(’81)を聴いてみると、あの曲はファンク・ギターがあって、それ以外の要素はすごく’80年代的だとみんなが感じるようなものだったりする。でも、それってストリングスとかそういうもので、前からよくあるものでもあるんだ。だから、そういった要素を一緒にすることはできるし、以前にもそういったものはあった。単にあの曲もそういう風になったっていうだけで、それでいいんだ」

__アルバムの最後の曲、「Always Been Your Love」で歌っている女性は誰ですか?

アレクシス「ギャング・ギャング・ダンスのリジーだよ。ここ数年、彼らとは仲良くしていて、一緒にライブをたくさんやってりしてるんだ。夏に、またNYで一緒にプレイする予定だよ。僕は彼女の声のファンで、いつか彼女とデュエットができたらいいなって思ってたんだけど、結局この曲で試してみようって考えたんだ。これはラヴ・ソングだから、ある意味でカントリーやソウルのデュエットのように、男と女の視点から歌うすごくクラシックなものに挑戦してみようと思った。それがこの曲ができた経緯だよ」


【リリース情報】

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Hot Chip
In Our Heads
(JPN) Domino/Hostess / HSE-10122
6月6日発売
※日本先行発売、ボーナストラック、歌詞対訳、ライナーノーツ付
HMVでチェック

tracklisting
01. Motion Sickness
02. How Do You Do
03. Don’t Deny Your Heart
04. Look At Where We Are
05. These Chains
06. Night And Day
07. Flutes
08. Now There Is Nothing
09. Ends Of The Earth
10. Let Me Be Him
11. Always Been Your Love
12. Doctor(ボーナストラック)
13. Jelly Babies(ボーナストラック)

【全曲試聴】
http://hostess.co.jp/news/2012/06/001751.html

【来日情報】
Hostess Club Weekender
日時:2012年 6/23(土)、6/24(日)
会場:東京 恵比寿ガーデンホール
※ホット・チップの出演は、6/24(日)になります
http://www.ynos.tv/hostessclub/

【オフィシャルサイト】
http://hotchip.co.uk/
http://www.facebook.com/hotchip
http://hostess.co.jp/

【VIDEO】

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