kous 『機械の花ラボラトリ』インタビュー


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’08年、ニコニコ動画に「籠の中」をアップロードして以来、二年間で自主制作アルバムを8枚も発表してきたkous(コウス)。ドラム、ベース、ギター、キーボードをこなすマルチ・インストゥルメンタリストです。もちろん初音ミクを始めとするボーカロイドや、DTMも操り、ニコニコ動画では絶大な支持を獲得しています。

そんな彼が、このたびレコード会社からのリリースとしては初となる、アルバム『機械の花ラボラトリ』を発表しました。そこでiLOUDではkousを直撃、新作の背景をインタビューで探ってみました。


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kous
生楽器も自在にこなす
叙情派ボーカロイド・クリエイター

——kousさんとニコニコ動画との出会いは、どのようなものだったのでしょう?

「仕事をやってたとき、たまたまニコニコ動画と出会ったって感じでしたね。ほんとたまたま。嫁さんが動画を見てて、“何それ?”って言って見始めたんです。それで、初音ミクっていうおもしろいものがあるぞって気づいて、そこからハマった感じでした。それまでは、ずっと家でインストをつくって、それを別のサイトにアップしたりしてたんですけど、初めてニコ動に上げたときは、アクセス数の桁が違ったので、“これはおもしろいかもしれない”って思いましたね。上げてすぐコメントが返ってくるのには、“なんなんだろう、ここ”って感じました」

——最初にニコ動に曲をアップしたのは、いつごろだったんですか?

「2008年ですね」

——最初は、どんな音楽をアップしてたんですか?

「最初はエレクトロニカに近いものを上げてました。」

——最初からミクを使っていたんですか?

「そうですね。最初からミクです。ボーカロイドの世界に入ったとき、(鏡音)リン・レンとミクで迷って、二人入ってる方がいいんじゃないかなって最初思ったんですけど、僕が欲しいのは男ボーカルじゃないと思って。女ボーカルが欲しいんだっていうことで初音ミクにしました。」

——3年で8枚のアルバムをリリースと多作ですが、制作の原動力はどこから出てくるのでしょう?

「僕の座右の銘は“有言実行”なんですよ。それで、イベントがあるごとに“アルバム出します”って言ってたことがあって、それをやってたらこうなったっていう感じです。去年の5月あたりには、1ヶ月で8曲つくったりしましたね」

——今回、レコード会社からは初めてのリリースになるわけですが、そこに至る経緯は、どのようなものだったんでしょうか?

「これまでの集大成として、ベスト・アルバムを一回つくりたかったんですよ。それで、UMAA Inc.さんに僕から声をかけたんです。そうしてリリースが実現することになりました。自分から動かないのは嫌なんですよ、僕。基本的には自分で動きたい人なんで」

——積極派なんですね。それで出ることになった『機械の花ラボラトリ』には、コンセプトやテーマはあったのでしょうか?

「有機と無機を合わせた曲っていうのは、頭にありましたね。だから、エレクトロっぽい音と、自分で弾いた楽器の音をミックスしています。あと、僕すごく白と黒が好きなんです。コントラストとして。なので、曲には全部、“白と黒”みたいなコンセプトがあるんです」

——作品には、生楽器とエレクトロニカの要素が両方バランスよく入っていますね。

「そうですね。だから、ロックっぽい曲でも、むちゃくちゃロックしてはいないと思います」

——アルバム・タイトルに込めた意味を教えてください。

「“機械の花”って存在しないものじゃないですか。そこに、“有機と無機のコントラスト”を感じ取ってもらえたらなっていうので、タイトルが決まりました。で、“ラボラトリ”っていうのは、僕の家が研究所みたいなものだという意味ですね」

——アルバムの制作には、どのくらいの時間がかかりましたか?

「これは集大成なので、もとをたどれば3年になりますけど、ミックスや録り直しにかかったのは、3ヶ月くらいですね」

——曲づくりのインスピレーションは、どんなところから得ているのでしょう?

「そのときの自分の気分が曲に反映されていることが多いですね。暗いときには明るい曲ができる、みたいなパターンが多いんです。自分で、気分の均衡をとろうとするからだと思うんですけど」

——ファンタジックでロマンティックな歌詞が多いと思うのですが、これはボーカロイドの視点で、その気持ちになって描いているのでしょうか?

「いや、それはあまりないですね。自分の中で、ひとつお話を作って歌詞を書くっていうパターンが多いです。ただ、聴く人によって違う取り方ができるように、ちょっと余裕を持たせたような歌詞を書くよう心がけています」

——歌詞には、女の子視点のものが多いですよね?

「そうだと思います。それは、もともと女性ボーカルものが好きで、女の人に歌ってもらいたいっていうのがあるからですね。自分で歌うっていうのを全く念頭に置いていないので」

——でも、バック・コーラスで入っている男性ボーカルは、ご自身の声ですよね。

「はい、あれは自分で入れてます。そうすることでも、有機と無機のコントラストができるので。今回のアルバムでは、ほとんどの曲に僕の声が入っているんです」

——そのあたりが個性的ですね。

「あまり概念に囚われて作りたくないんですよ。自由に楽しくやりたいんで。これはおもしろいんじゃないかなっていうのを、自分の中でいろいろ出し合って曲にするような感じなんです」

——有機的なものと無機的なものを合わせてみようという発想は、どこから生まれてきたのでしょう?

「曲はDTMで全部完成させようと思えばできちゃうんですけど、自分は楽器ができるので、それもやっぱりやりたいなと思ったんです。そこから、“じゃあ一緒にやっちゃえばいいじゃん”っていうことになったんですよ。DTMと生のよさを、ちょっとずつ足せたらなと思いました」

——曲調はドリーミーなものが多いですが、そのドリーミーな気持ちは、どこから生まれてくるのでしょうか?

「基本的に悪夢シリーズからなんですよ(笑)。夢で見た世界からのことが多いですね。今朝もひどい夢を見ました(笑)」

——自分の夢から直接的に曲が生まれるんですね。

「そうですね。パターンとかも多いです」

——起きているときにも、曲が浮かんだりしますか?

「そうですね。僕、散歩が好きなんですけど、散歩してるときに曲ができたりとか、あと全然関係ないことをしているときにできたりするパターンが多いので、常に録音できるようなものを持って歩いていて、思いついたやつは録ったり、メモったりするようにしています」

——ミクのボーカルは、結構つくりこんでいますか?

「僕はつくりこんでいない方だと思います」

——むしろ無機的な感触を、そのまま使いたいほうですか?

「そうですね。パラメーターを使って人間っぽくしようとは、まったく思っていないです。逆に、そこはやっちゃだめだろっていうふうに思っています。僕はミクのsoftっていうのをよく使うんですけど、それは、もう最初から人と機械のちょうど間くらいの声なので、いじらない方がおもしろいなっていう感じで使ってます」

——プッシュ・トラックになっている「いいこわるいこ」は、サビのコーラスが気持ちいいエレクトロニカ・ポップですが、この曲のインスピレーションは、どんなところから得たのでしょう?

「これは、つくるときに白/黒の気分だったんでしょうね。何か対比させたかったんです。だから、“いいこ”と“わるいこ”、ほんとはどっちなの?みたいな、葛藤している感じの歌詞になっていると思います」

——普通の男性の生活からは、思いつかない歌詞ですよね。

「この歌詞は、動画をつくってくださったhieさんと書いたんですけど、サビの部分を書いたのはhieさんですね。僕は他のところをつくりました」

——そういうこともあるんですね。

「ありますね。でも、すごく好きな曲だったので、ぜひベストには入れたいなと思って入れました」

——ボーカルは、なぜルカだったのでしょう?

「僕、つくるとき、ミクも書き出すし、ルカも書き出すし、アペンドのやつも何個か種類出して書き出して合わせてみるんですよ。それで、どの声が合うかなって合わせてみるんです。この曲では、合ったのがルカだったので、ルカにしました。歌詞も、ミクの歳よりルカの歳に合うかなっていう感じだったので、ルカにしたんです」

——ボーカルとトラックが合うかを意識するんですね。

「意識しますね。やっぱり耳当りがいいか悪いかって、すごく大事と思うんで」

——「椿姫」は、アルバム中では、最もポップなラブ・ソングのひとつですが、この曲が生まれた背景を教えてください。

「この曲は、散歩しているときにできたんですけど、椿の花ってすごく儚いんですよ。咲いてそのままの形でぽろっと落ちちゃうんです。で、下で腐っていって、ぐちゃぐちゃになっちゃうんですけど、その儚さに引かれましたね。別にそのとき椿が咲いている時期じゃなかったんですけど、ふと思いついてできた曲です。オペラの「椿姫」をモチーフにしたわけではないです」

——「人影、重ねて」では、efさんをフィーチャーしていますが、彼女とはどのように出会ったのでしょう?

「ニコニコ動画で、彼女が歌っている動画をたまたま見て、すごい素敵な声だと思ったんですよね。で、efさんと親交があった方に、彼女を紹介してもらったんです。そこから一緒にやりませんかと口説いて、一緒にやりはじめたって感じですね」

——ニコ動から、“一緒にやりましょうよ”というところに辿り着くまでには、けっこうハードルがあるじゃないですか。

「みんなあまりやらないと思いますけど、自分からアプローチしていくっていうのはアリだと思います。メール送ったりだとか、実際に会える日に行って話してみるとか、そういうのはやるべきだと思います。それが、いいものをつくるためなら、やるべきだと思います。」

——「嘘つき造花」を、らささんと一緒にやることになった経緯を教えてください。

「忘年会でたまたま会って、話をしてるうちに、じゃあ今度何か一緒にやりましょうっていうことになって、一曲書き下ろして彼女に歌ってもらったことがあるんです。そこからちょっとつながりができたので、今回もぜひやってもらえないかなって言って、歌ってもらいました」

——それはどんな忘年会だったのですか?

「ボカロ会の飲み会みたいな感じでした」

——この曲は、他の曲と違って、ハードなロック・チューンになっていますが、その背景には何があるのでしょう?

「ギターを弾いて、ちょっとハードなのやりたいなと思ってつくり始めたら、すぐできたんですよ。全然悩むこともなく、歌詞もすーっとすんなりできて、いいじゃんって感じでしたね。すごくすんなりできました。ただギターが弾きたいっていう、それだけの衝動から生まれました」

——この曲は、エレクトロニカ色が強い他の曲とは違うイメージを打ち出していたので、意外でした。

「ボーカルが人じゃないですか。だからちょっと人寄りにしたかったんです」

——ボーカロイドを使うときと人を使うときでは、トラックをつくる感じも違いますか?

「全然違いますね。気分も違うし。ボーカロイドにはボーカロイドのよさがあるから、それを上手く出せたらいいなと思って曲をつくりますし、人には人のよさがあるので、そこではまた違うつくり方ができるかなって思います」

——そこには、ボーカロイドも含めて、各ボーカリストをプロデュースする感覚がありますね。

「そうですね」

——DECO*27さんとsasakure.UKさんによるリミックスも収録されていますが、聴いてどんな感想を持ちましたか?

「いずれも二人の色がすごい出ていて、非常に素晴らしいものだと思います。聴いて、すごくテンション上がりました(笑)。」

——彼らは、お友達だったのですか?

「はい、仲良くさせていただいてます。DECOさんとは、だいぶ前なんですけど、イベントのときに初めてしゃべって、使ってるソフトが一緒だったり、同じ左利きだったり、共通点がいろいろあったので、飲みに行きましょうよって話になって、それからずっと仲いいです」

——このアルバム中で、特に思い入れの強い曲はどれですか?

「歌詞の部分で言ったら「泣き虫と花束」ですね。これは思いっきり実体験がもとになっているんです。聴くと、昔のことを思い出して切なくなっちゃいます」

——動画は、どのようにして作ったのでしょう?

「いつもはデザイナーのhieさん一人に、イラストから全部やってもらってるんですけど、今回はアルバムを出すにあたって、hieさんに“全部できる?”って話をしたら、イラストレーターで山荘さんを呼びたいっていう話になって。山荘さんは、もともと仲良しだったので、じゃあ一緒にやりましょうということで、今回一緒にやってもらいました」

——アルバムは、リスナーにどんな風に楽しんでもらえたらよいと思っていますか?

「まず最初は、1曲目から最後まで流れで聴いてもらいたいです。その後、好きな曲が絶対一曲は見つかると思うんで、それを選んで聴いてもらいたいなと思います」

——最終的にアーティストとして目指しているところは、どんなところですか?

「いつまでも楽しくできたらなと思います。楽しいことを自由にできたらと思います」

——新作は、CDショップにもどんどん置かれていくと思うんですけど、リスナー層が一般に広がっていくことに対しては、どう思いますか?

「嬉しいですね。1曲でも好きな曲を見つけてもらえたらなって思います」

interview & text TOMO HIRATA


【アルバム情報】

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kous
機械の花ラボラトリ
(JPN) UMAA Inc. / XECJ-1012(CD+DVD)
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【LIVE INFORMATION】
『機械の花ラボラトリ』発売記念インストア・ライブ決定!

TOWER RECORDS新宿店
7月10日(日) 19:00〜

アニメイト秋葉原店
7/18(月/祝)17:00〜

【オフィシャルサイト】
kous+音
kousの思考回路図
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