Lindstrøm『Six Cups of Rebel』インタビュー


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DJハーヴィーやイジャット・ボーイズらと共に、“ニュー・ディスコ”の立役者としてアンダーグラウンドなクラブシーンで熱狂的な支持を集めてきた、ノルウェーのハウス・ミュージック・プロデューサー、リンドストローム(Lindstrøm)。彼が、最新アルバム『シックス・カップス・オヴ・レベル』(Six Cups of Rebel)を完成させました(日本盤のリリースは2/11)。
デビュー作『Where You Go I Go Too』(’08)では、全3曲で55分という壮大な世界観を披露しファンを圧倒したかと思えば、セカンド・アルバム『Real Life Is No Cool』(’10)では、華やかな女性ボーカルを全編にフィーチャーしたポップな作風で新機軸を披露。アルバム・アーティストとして着実にステップアップを続ける彼は、3作目となるこの『シックス・カップス・オヴ・レベル』で、また新たなサウンドにトライしています。その内容とは、前作に続きダンス・ミュージックのフォーマットをベースとしながらも、プログレッシヴ・ロックやクロスオーバーなジャズ的要素があちらこちらに見え隠れするもの。これまで以上に音楽的に解き放たれた、野心的な“攻め”の姿勢がうかがえるものとなっています。

ここでは、そんな『シックス・カップス・オヴ・レベル』の内容について、リンドストロームに話を聞きました。日本盤には話題のリミックス、「Quiet Place To Live (Todd Rundgren Remix)」もボーナストラックとして収録されていますよ。


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Lindstrøm『Six Cups of Rebel』インタビュー
アルバムごとに進化を続ける北欧ハウスの第一人者による最新作

__ちょうど前作から2年のインターバルを経てのリリースとなりましたが、新作の制作はいつスタートしたのですか?

「2010年の夏過ぎからだったと思う。楽曲制作にはいつも大きな時間を費やしているんだけど、ことアルバムとなるとまた一層の時間がかかるんだよね。かれこれ丸一年くらいレコーディングしていたんじゃないかな」

__今回もまた、前作とは全く異なる雰囲気をもったアルバムになりました。

「毎回新しいことにトライしたいからね。同じことの繰り返しは避けたいと思っている」

__それで自分の声を?

「そうだね。僕はプロフェッショナルなシンガーではないけど、かつてクワイアやボーカル・グループで活動していたこともあったからね。自分のボーカルをトラックに取り入れるとなると、インストゥルメンタルの楽曲を作るときとは、制作の過程がまた大きく変わってくるんだ。ソングライティングが容易になるときもあるし、そうじゃなくても、少なくとも、全く異なる結果につながることが多い。実際のところ、自分のボーカルを使うことによって、前の二枚のアルバムと決定的に違うものを作ることができたと感じているよ」

__全体では、ふたつの大きなパートに分かれていて、さながら組曲を聴いているかのような印象を受けました。なぜこのようなスタイルになったのでしょうか?

「アルバムを作るときはいつもそうなんだけど、単純なシングル曲の寄せ集めにならないよう注意している。今回も、まずそれが念頭にあった。曲ごとに変化をつけながらも、それらが互いに結び付きあっているかのようなものになるよう考えながら、作り上げていったんだ。また今回は、全体としてDJミックスのように聞こえるものにしたい、ということも考えていた。それで、最終的にこのようなかたちのアウトプットになった」

__アルバムのタイトルになっている“シックス・カップス・オヴ・レベル(Six Cups of Rebel)”という言葉は、もともと昔あなたがリリースしていたシングル『Arp She Said』での、覆面的なプロジェクト名に由来するものだと思いますが、なぜこの名前をいま、アルバムに冠したのでしょうか。

「シックス・カップス・オヴ・レベルとして『Arp She Said』を発表したのは、それが当時のリンドストロームの作風にはフィットしないと感じていたからだった。でも、僕もだいぶ歳を重ねてきて、恐れるものがなくなったというか、もう何も隠すようなこともないと思って。アルバムを聞いてもらえればわかると思うんだけど、この作品は、これまでの僕のリンドストロームとしての色々な楽曲ともだいぶ違うと思うし、“もういいかな”ってね」

__この言葉には、どのような意味があるのでしょうか?

「このフレーズは、ボブ・ディランが書いた『タランチュラ』という小説の中に出てくるものなんだ。これを選んだ深い意味というのは、特にないんだけどね。初期のリリースの曲名は、結構この小説の中からピックアップしてきてるんだ。彼の音楽は大好きだし、ヒーローに対するちょっとしたリスペクトを込めて、というくらいの感じかな」

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__アルバムのリリースに先がけてフリー・ダウンロードで発表された「De Javu」のフィードバックもいいようですね。アルバムの半分は、このようなダンス・ミュージック的なスタイルを維持していますが、残りの半分は、どこかダンスフロアから遠のきつつあるようにも感じられました。ご自身的には、いまでもダンス・ミュージックを志しているのでしょうか?

「そうだね。今もダンス・ミュージックの枠組みの中で制作をしているというマインドは常に持っているよ。でも、みんながDJに対して期待するような音楽だけを作っていたら、どうしても飽きがきてしまうんだよね。だから、リリースのたびに、いつも新しい工夫や取り組みをするよう心がけている。僕らが作っている音楽というのは、たいがいがフロア向けのもので、そこで踊っている人々のことを念頭に置いている。だから、ダンス・ミュージックとしての機能性を維持するようにつとめてはいるんだけど、その限界を何とかして更新していきたい、という思いもあるんだ。ベーシックなものとプログレッシヴなもののバランスだと思うんだけど、僕としては、これ以上いってしまったらもうダンス・ミュージックではなくなってしまうんじゃないか、という境界線を、少しずつプログレッシヴな方に寄せていけたら、って考えている。もう十分プログレッシヴ過ぎるかな?」

__今作に収録されている「Quiet Place To Live」のリミックスを、トッド・ラングレンに依頼した経緯について教えて下さい(日本盤には、ボーナストラックとしてこのリミックスも収録されています)。

「アルバムができ上がって、プリンス・トーマスと“シングル曲のリミックスを誰に頼もうか”という話をしていたら、彼は“普段頼まないような、意外性のあるアーティストがいいんじゃないか”って助言してくれたんだ。で、あの人がいいとかこの人はどうかとか、色々と候補があったんだけど、その中で、ふとトッド・ラングレンの名前が出てきた。もちろん、僕にとってのヒーローでもあるし、実現したら素晴らしいことだとは思ったけど、まさかとは思っていた。でも、それをヨアキム(本作のリリース元である、オスロのSmalltown Supersoundレーベルのオーナー)に話したら、何と彼がトッドのマネージャーと知合いで、すぐに話をつけてくれたんだ。でもでき上がってくるまで、正直信じられなかったね」

__アルバムをリリースして、シンガーともコラボして、今作ではついに自分でマイクを握るまで至りました。次の目標は?

「なんだろうね(笑)。まっとうなものから奇抜なものまで含めて、色々とアイディアはあるんだけど、まだ具体的なものはないよ。時間がたてば、もう少しはっきりしてくると思うけど」

__最後に、ファンに向けたメッセージをお願いします。

「いつも僕の音楽を熱心にサポートしてくれている日本のオーディエンスには本当に感謝しているし、新作をまたみんなに聴いてもらえる機会を持つことができて、本当に嬉しく思っているんだ。また近いうちに、ぜひ日本でパフォーマンスする機会を作ることができたらと願っているよ!」

photo : Lin Stensrud (top) / Kim Hiorthoy


【リリース情報】

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Lindstrøm
Six Cups of Rebel
(JPN) Smalltown Supersound/calentito / CLTCD-2010
2月11日発売
国内盤・解説付・ボーナストラック収録
HMVでチェック

tracklist
01. No Release
02. De Javu
03. Magik
04. Quiet Place to Live
05. Call Me Anytime
06. Six Cups of Rebel
07. Hina
08. Quiet Place To Live (Todd Rundgren Remix) (BONUS TRACK)

【オフィシャルサイト】
http://calentito.net/main.html
http://www.smalltownsupersound.com/

【試聴】

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