パリに生まれ、現在はポルトガルのリスボンとスペインのイビサを拠点としているテクノ・クリエイター、マーク・アントナ。クラシック・ピアノを10年間学び、ファンクやブラック・ミュージックのレコード・コレクターだったというバックグラウンドを持つ彼は、2007年からFreak N’Chic周辺でリリースを重ね、ファブリック、パノラマ・バー、レックスといった名だたるクラブでライブを披露してきた、注目の存在です。彼の作品は、しばしばルシアーノにプレイされているので、早耳の方は、ご存知でしょう。
そんなマーク・アントナが、デビュー・アルバム『Rules of Madness』を完成させました。自身のニュー・レーベル、DISSONANTからのリリースとなる本作は、オーガニックなグルーヴとミニマル・テクノの魅力が共存する、味わい深い一枚です。
テクノ / テック・ハウス・シーンに、新たなサウンドスケープを描き出す『Rules of Madness』は、いかにして生まれたのか。その背景をマーク・アントナ本人に聞いてみました。
MARC ANTONA
ルシアーノもお気に入りのテクノ・クリエイターから届いた
ディープでグルーヴィーなデビュー・アルバム
――『Rules of Madness』プロジェクトは、どのようにして始まったんですか?
「去年、イビサに新しいスタジオを作ってね。より良いサウンド・システムを堪能できるようになったんだ。その頃、僕は自分のトラックを、本当にもっとオーガニックにしたいと思って、調査に調査を重ねていた。その結果、ついに探し求めていたサウンドを発見したんだ、それがフリーキーなディープ・テック・トラックの「All Against the Law」だった。それで、同じ雰囲気の中で、他のトラックも数曲つくった。と同時に、僕は自分のレーベル、DISSONANTを立ち上げて、これから出すものを予測させるような4曲入りのEPを、レコード・ディストリビューターのWord and Soundに聴かせてみたんだ。そうしたら、彼らが“こういった曲は、アルバムでリリースされるにふさわしい”って言い出したんだよ。正直言って、最初はそんな大きなプロジェクトをやることには気乗りしなかったな。だって、アルバム収録曲全部に、A面の曲みたいに気をつかわなくちゃいけないことが自分で分かっていたし、10曲もつくるのは、大変な仕事だと思ったから。実際、制作は大変だったよ! でも結果的には、全体が首尾一貫した音楽プロジェクトに集中する機会が持てて、本当にハッピーだったね」
――アルバム制作には、時間がかかりましたか?
「今までやったことの再生産ではなく、自分の音楽を次の段階に進めたかったから、たくさんの時間を費やしたよ。アルバムを音楽的旅にもしたかったしね。あと、アルバムにエモーションをもたらしてくれる何かを長い間探していた。いくつかのトラックでは、正解が出るまで微調整をし続けたし、たくさんの違うバージョンをつくっては、本当にしっくりくるものをつくるために、ボツにもした」
――『Rules of Madness』のサウンドを定義するとしたら、どうなりますか?
「セクシー・テクノだね。僕のエレクトロニック・ミュージックに対するビジョンを完成させるために、あらゆるスタイルからベストな要素を取り入れるようにしたよ。ハウスで好きなところは、ホットでグルーヴィーなリズムだし、テクノで好きなところは限界を越えていけるところなんだけど、僕は、双方のベストなところを結ぼうとしたんだ。リズムはオーガニックでシェイキングでありながら、一方でテクノにしかできない予測不能なサウンドも現われるようにね。そこには、最高のエレクトロニック・ミュージックがあったよ!」
――アルバム・タイトルな、何を示していますか?
「『Rules of Madness』は、人生のスパイスをつくり出すものを示している。僕らは、みんなクレイジーさを必要としているけど、平常心で生活している。それは、音楽にも当てはまることで、アルバムのトラックは、メロディーと、一貫性のあるリズムでいっぱいだけど、不測の瞬間や驚きも、もたらしてくれる。ルールの無い人生は楽しめないけど、クレイジーさのない人生は味気ない。音楽もそういうものなのさ」
――アルバムに影響を与えたものは、何ですか?
「一面には、イビサの太陽が明らかにあるね。それと、テクノを魂に据えた、スペインのクラブ・シーン」
――リスナーには、アルバムを聴いて、どのように感じてもらいたいと思っていますか?
「すべての世界を発見したように感じてもらいたいね。アンダーグラウンド・サウンドと、音楽の特別な形態にエキサイトして、メランコリーからハッピーまである、瞬間瞬間の感情を味わって欲しい」
――あなたのレーベル、DISSONANTについて教えてください。
「数年前にMicro-Fibresっていうレーベルを立ち上げたんだけど、それはFreak N’Chic傘下のものだった。で、去年、完全に自分のレーベルを立ち上げるときが来たと感じたんだ。音楽的な面でも発展性の選択においても、完璧に自由でありたかったからね。同時に僕自身は、音楽的により成熟した音にサウンドを進化させる過程にもあったし。それで、最終的に、新しいレーベルで再出発することにしたわけ。僕は音楽をつくるときいつも、隠されたメロディーを、あからさまじゃない形でリスナーに思いつかせるよう試みている。だから、DISSONANTは、僕が音楽に求めているものをリリースするのにベストなレーベルだと感じているよ」
――今、気になっているアーティストはいますか?
「ミニローグが、僕のチョイスだね」
――今後実行しようとしている、何かエキサイティングな計画はありますか?
「もちろん! DISSONANTの音楽を発展させるのは、とてもエキサイティングだよ。僕達は“旬の音楽をつくる義務”に制約を受けないからね。『Rules of Madness』の後にも、たくさんのクールなリリースをする用意ができてる。あと、僕はグルーヴィーなリズムと革新的なサウンドに敏感な、他のアーティストを育成したいとも思っている。DJ面では、もっとライブ感を強めるために、音楽的なサンプルの切れ端を使って、新しいセッションを組むことに重きを置きたいね。あと明らかなのは、ルシアーノのVagabundos Tourに、引き続き楽しく参加させてもらうことかな」
――スタジオで制作していたり、DJをしているとき以外は、何をしていますか?
「僕は、スピード感あふれるクラビングと、家族の静かな日々の間を、切り替えて過ごすのが好きなんだ。そのバランスが、僕を快適な気分にさせる。だから、妻や子供と過ごしているよ」
――日本のクラバーに伝えたいことはありますか?
「僕は、ヨーロッパをたくさんツアーしているし、南北アメリカでもプレイしているけど、まだ日本に行くチャンスには恵まれていないんだ。日本のクラバーについては良い話しか聞かないから、すぐにでも会いたいね」
interview & text TOMO HIRATA
【アルバム情報】
MARC ANTONA
Rules of Madness
(GER) DISSONANT
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