Moby『Innocents』インタビュー


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レイヴ・ミュージック・クラシックの「Go」(’90)をヒットさせ、ダンス~テクノ・ミュージック・シーンを中心に一躍人気アーティストとなって以降、ロック、アンビエント、ブレイクビーツ、ブルース、映画音楽…と、様々なサウンドを使い分け、そして融合させ、独自の音楽世界を展開してきた奇才、Moby(モービー:Richard Melville Hall)。全世界で1,000万枚を超えるセールスを記録した『Play』(’99)、500万枚を超えるセールスを記録した『‪18‬』(’02)をリリースして以降も、コンセプチャルで個性的なアルバム群を送り出しているベテラン・アーティストです。

そんなMobyが、2011年の『Destroyed.』に続く11作目のスタジオ・アルバム『Innocents』(イノセンツ)をリリースしました。2009年の『Wait for Me』以降特に顕著になったシンフォニックでエモーショナルな音世界を踏襲しつつも、彼が送り出してきた作品群の中でも稀な展開といえるゲスト・ボーカル陣(ザ・フレーミング・リップスのウェイン・コインを筆頭に、マーク・ラネガン、スカイラー・グレイ、コールド・スペックら)をフィーチャーしたうえ、外部プロデューサー(マーク・スパイク・ステント)も招き制作した注目作です。さらに驚くべきことに、彼の生まれ育った街、NYを離れ、移り住んだLAでつくり上げたアルバムとなっています。

制作環境を一変させ、キャリアの中でも初となる男性ボーカリストの本格的フィーチャーを行う等しながら、一切の妥協を許さず完成させたという『Innocents』。ここでは本作の内容について、Mobyに話を聞きました。


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Moby『Innocents』インタビュー

__まずは、ご自身のお住まいを長年暮らしていたNYからLAに移した理由、経緯について教えてください。LAでの暮らしはいかがですか?

「まず、僕はNYのハーレム48通りで生まれたんだけど、だからこそ、一生NYで過ごすんだと別に何の疑問もなく思っていてね。でも昨年お酒を止めたことで、僕のNYの見え方が一変したんだ。よく周りを見てみたら、NYってお酒を飲むには最高の場所だけど、シラフには全く意味のない街だと気付いたんだよ。なんせ、街の全てのものがお酒と関連しているような場所だしね」

__なるほど。

「それに対してLAって、広くてのんびりしていて、同じ大都会でもNYとは全く違う雰囲気だっていうのにまずは惹かれたね。NYの冬はものすごく寒いけど、LAの冬は暖かい、これも僕の興味をそそった一つの理由だ。あと、変わったミュージシャンが多いっていうのも理由の一つかな。それで、この温かい気候環境の中で音を作るっていうことをやってみたいと思ったんだ」

__では、今作『Innocents』の曲づくりとレコーディングは、活動拠点をLAに完全に移した上で始めたんですか?

「そう、曲づくりもレコーディングもLAで行った。レコーディングは、僕のゲストハウスにある小さなスタジオで行ったんだ。僕は大きなレコーディング・スタジオでやるよりも、自分の小さなスタジオで作業する方が落ちつくから好きなんだ」

__制作当初は、“グランジーでローファイなエレクトロニック・ダンス・アルバム”をつくりたいと思っていたそうですね。そこから、どのようなインスピーションやアイディアを経てこのアルバムへと発展したのでしょうか?

「今回は、いろんなシンガー・ソングライターのアルバムを聴いたりしていたんだ。他には、古いエレクトロ・アルバムを聴いたりもしていた。例えばシルバー・アップルズとか。あと、マリアンヌ・フェイスフル『Broken English』とかね。こういったものからの影響が、今回のアルバムには反映されていると思うよ」

__で、今作では、ウェイン・コイン、マーク・ラネガン、ダミアン・ジェラード、スカイラー・グレイ、コールド・スペックスと、6名のゲスト・ボーカリストをフィーチャーしていますね。彼らに声をかけた経緯は何だったのでしょうか?

「このアルバムを作り始めた時から、クールで魅力的な声の持ち主とコラボしたいって思っていたんだ。で、まず、自分が魅力的で一緒にやりたいなって思った人達のリストを作成して、コンタクト先を探して、彼らにコンタクトしたことで実現したよ。声をかけたら皆が応えてくれたから人数が多くなったっていうだけで、別に何人とか決めていたわけじゃないんだけどね。それに、性別にも特にこだわっていたわけじゃない。単純に僕の希望っていうだけで。なんていうか、皆とても情熱的な、魅力的な声の持ち主だよ」

__そうですね。

「ウェインは、「The Perfect Life」を作った時に“ザ・フレーミング・リップスの曲っぽいな”って思って、だったらウェインに歌ってほしいと思って彼にメッセージを送ったんだ。そしたらすぐに返事が返ってきて、一緒に作業することになったよ。彼とは1995年のレッチリのライブで、一緒にサポートアクトを務めて知り合ったんだけど、それ以来とても仲のいい友人なんだ。マークも古くからの知合いなんだけど、彼は一見怖そうに見えるけど、とても楽しい良いヤツなんだよ。コールド・スペックスは、彼女は僕のことが嫌なんじゃないかって思うくらい、最初はよそよそしかったけど、一緒に作業していくうちに、彼女がただ単にシャイだってことがわかったりもしたね」

__また、今作では、外部プロデューサーのマーク・スパイク・ステントを招きアルバムを制作しましたね。今回外部プロデューサーを必要とした理由は何だったのでしょうか?

「僕はこれまでずっと自分の音楽は自分でプロデュースして、自分のやりたいようにやってきたけど、客観性や将来性が見えないなって思い始めたんだ。だから、そういった意味で外部プロデューサーを入れてやりたいと思って、今回はお願いすることにしたんだ」

__マーク・スパイク・ステントと組んだ理由は何でしたか?

「スパイクはマッシブ・アタックやビョークなど、とても素晴らしいアーティストと一緒に仕事をしてきていているから、一緒にやったら面白いだろうと思っていた。ただ皮肉なことに、彼は“ポップレコードのプロデューサー”という肩書が先行していてね。でも、僕はそういうプロデューサーだから頼んだのではなく、少し変わった古き良きレコードが好きだから、彼と一緒にやりたいと思ったんだよ」

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__マーク・スパイク・ステントとの作業はいかがでしたか?

「まず、彼と僕は同じくらいの年齢で、同じような世代感覚があるっていうのと、ローファイな感じとか同じような感覚を持っているんだ。たぶん彼は、ポップレコードを作っていた時は、レコード会社やマネージャーなど、いろんなところからのプレッシャーを感じながら作業していたと思う。でも、このアルバムを作っている時は、そういったしがらみは一切なかったね。スタジオには僕と彼しかいないし、売れるとか売れないとか関係なく、ただ自分たちが作りたい音楽を好きなように作る、それだけだったから。かなりストレスフリーな状態で作業ができていたと思うよ」

__今作のサウンドメイキング面で特に重視したことは、何でしたか?

「自分が作りたい音を生み出すこと、これがいつも、毎度チャレンジしていることだと思うな。僕はいつでも自分の作りたい音を作り出すこと、形にすることを重視してサウンドを作っているし、様々な人達の影響を受けることで、その時々で作る音が変わってくるっていうのも、そういうことだと思う。自分が今表現したいこと、今形にしたい音楽を作り上げていく、これがいつも僕がチャレンジしていることだよ」

__Record Store Dayに合わせて先行リリースした「The Lonely Night (with Mark Lanegan)」は、どのようにして誕生した曲ですか?

「元々はドラムマシーンを使った、とってもシンプルなインストの曲だった。でも、それを僕がマークに送って、マークが素晴らしいメロディーとボーカルをつけて送り返して来たんだ。それを聴いて、僕はマークのボーカルがより活きるように、この曲を書き直したんだ。とにかく素晴らしいメロディーと彼の美しい声を大事にしたいって思ってね」

__ビデオも話題となっている「The Perfect life (with Wayne Coyne)」は、どのようにして誕生した曲ですか?

「人間は皆パーフェクトな人生を常に追求しているんじゃないか、って思ったんだ。形は人それぞれ違うよ。例えば、ドラッグ・アディクトな人は、ドラッグを買うだけのお金があれば完璧なのかも知れない。有名人は、有名人の相手とデートして、余裕のある暮らしができれば、それが完璧なのかもしれない。クリスチャンは教会に、ムスリムはモスクに通い続けられれば、完璧と思うのかも知れない。人間とは老いれば最後は皆死ぬわけだけど、その人生において何が重要で、何を追求していくんだろうって思って書いたのが、この曲なんだ」

__今作のアルバム・タイトルに、“Innocents”という言葉を選んだ理由は何ですか?

「僕は大学で哲学を学んでいたから、そういう変わったバックグラウンドがあるんだけど、大学に通っていた頃は、このまま大学で哲学の教授になって、空いている時間に趣味で音楽を作っていくと思っていたんだ。で、人間には“人間の条件”っていうものがあると思っていて、人それぞれ人間の犯す罪にも種類があって、それが裁かれるべきこととか、そうではない小さなこととか、様々に存在していると思う。このアルバム・タイトルは、そういう大学時代に学んでいた思想みたいなものを元に、選んだんだ」

__今作のアルバム・カバーと、「A Case For Shame (with Cold Specks)」のビデオにも出てくる仮面のイメージは、何を象徴したものなんですか?

「どちらも、ポイントは“すべて覆われている”っていうところだね。僕たち人間は、愚かなもので、僕も含めて常に正直になることにおびえていると思うんだ。だから、人間としてこの世で生きていくために、仮の姿によって自分を偽っていく。人の、正直になることを恐れているという部分を、このビデオやアートワークで表現したかったんだ」

__では最後に、あなたの次なる活動目標、今後のヴィジョンについて教えてください。

「この質問に対して良い答えがあればいいっていつも思うんだけど…僕がやりたいこと、それは“良い音楽を作り続けること”、それだけなんだ。僕は10歳から音楽を作ってきて、正直それしか知らなくてね。僕が尊敬する人達、例えばウディ・アレンとかもそうだけど、みんな継続して一つのことをやっているよね。だから僕も“継続は力なり”じゃないけど、一つのことをずっと続けること、音楽を作り続けることを目標としているかな。“音楽以外に続けていることは何”って言われたら…犬をずっと飼ってることくらい?」

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【リリース情報】

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Moby
Innocents
(JPN) Beat / BRC-397DLX(限定生産2CD盤)
※アルバム本編に『everyone is gone』EPを加えた2枚組限定生産盤
(JPN) Beat / BRC-397(通常盤)
発売中(10/2発売)
HMVでチェック

tracklisting
01. Everything That Rises
02. A Case For Shame (with Cold Specks)
03. Almost Home (with Damien Jurado)
04. Going Wrong
05. The Perfect Life (with Wayne Coyne)
06. The Last Day (with Skylar Grey)
07. Don’t Love Me (with Inyang Bassey)
08. A Long Time
09. Saints
10. Tell Me (with Cold Specks)
11. The Lonely Night (with Mark Lanegan)
12. The Dogs
Bonus track for Japan
13. The Perfect Life (Moby M-90 Edit)

限定生産盤 Disc 2:Everyone Is Gone EP
01. I Tried
02. Illot Motto
03. Miss Lantern
04. Blindness
05. Everyone Is Gone
06. My Machines

【VIDEO】



【オフィシャルサイト】
http://beatink.com/moby-innocents/
http://www.moby.com/

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