Modeselektor『Monkeytown』インタビュー


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’97年にゲアノット・ブロンザートとセバスチャン・シャーリーが結成した、ドイツはベルリン出身のエレクトロニック・ミュージック・アーティスト、モードセレクター(Modeselektor)。テクノ、ヒップホップ、エレクトロ、ダブステップ…といった様々な音楽的要素をミックスした独自の音楽性で、シーンから高い評価を得ている注目アーティストです。これまでにリリースしているオリジナル・アルバムは、『HELLO MOM!』(’05/BPitch Control)と、レディオヘッドのトム・ヨークが参加したことでも話題をさらった『HAPPY BIRTHDAY』(’07/BPitch Control)の二枚。ちなみにトム・ヨークは、モードセレクターのファンであることを公言していて、’08年のレディオヘッドのジャパン・ツアーではモードセレクターをフロントアクトに抜擢しています。

そんなモードセレクターが、’09年に設立した自身のレーベル、MONKEYTOWN経由で、待望のニュー・アルバム『モンキータウン』をリリースしました。彼ら初の日本盤リリースとなる本作。その内容は、前作に続きトム・ヨークが参加した「Shipwreck」「This」、NYのオルタナティブ・ヒップホップ・グループ、アンチポップ・コンソーティアムが参加した「Humanized」、Warpに所属するオーストラリア出身のポストロック系バンド、PVT(旧名 Pivot)と、MONKEYTOWNが推すベルリンの奇才、シリウスモが参加した「Green Light Go」などなど、これまで以上にユニークなアイディア、多彩なサウンドを詰め込んだものとなっています。

カデゴライズできないテクノな音世界を堪能できる『モンキータウン』。ここでは本作の内容について、メンバーのセバスチャン・シャーリーに話を聞きました。なお、彼らは、近々来日する予定とのことなので、こちらの動向も楽しみですね。


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MODESELEKTOR『MONKEYTOWN』インタビュー

__最新アルバム『モンキータウン』は、前作『HAPPY BIRTHDAY』(’07)以来、約4年ぶりとなるアルバム作品になりますね。その間に、あなた達は自身のレーベル、MONKEYTOWN RECORDSを設立するなど、新たなアクションを起こしましたが、この4年間は、あなた達にとってどのような年月でしたか?

「その期間、僕らにとって一番大事だったイヴェントは、自分たちの子供たちと一緒に過ごすことだった(笑)。僕らは二人ともこの時期、父親になったんだよ」

__それはおめでとうございました。

「まあ、今じゃ子供たちも4歳になって、おかしなことをしゃべったり、僕らの音楽を気に入って聴いたりしてくれてるけど(笑)。クリエイティヴ面でいったら、Apparatと一緒にModeratをやったことは、楽しかったね。それで2009年にアルバムを出したり、ミックスCDをつくったりした。でも、やっぱり一番大きかったことと言えば、自分たちのレーベルを立ち上げたことだったと思う。今はちゃんとした会社になって社員もいるけど、本当にいろんなことをやった期間だったと思う。BPitchを離れて、またゼロから自分たちでやり直すことにはなったから」

__以前所属していたBPitch Controlを離れて、独立しようと思った経緯は何だったのでしょうか?

「もっと自由な作品づくりをしたくなったってこともあるけど、一番最初にレーベルを立ち上げようと思ったきっかけは、Siriusmoっていうアーティストの存在だったよ。彼があまりに素晴らしかったんで、どうしても彼の作品をレコードにしてリリースしたい、って思ったんだ。それで彼をゲストに招いて作品をつくったりしているうちに、もっといろんなアーティストの作品も出していきたい、って思うようになった。ちゃんとしたレーベルにしよう、ってことになっていったんだ。Moderatでツアーに出るにしても、その間レーベルの運営をしてくれたり、契約その他の複雑な問題を、きちんと扱ってくれる会社が必要だったしね」

__なるほど。

「BPitch Controlは最初の土台を築くのには、素晴らしい場所だったと思う。でも結局、レーベルに対してものすごく深い結びつきを感じる、っていうほどでもなかった。僕らは、若いUKのアーティストたちにすごくシンパシーを感じているんだけど、“一緒に何かやろう! 一緒にパーティーしよう!”って時に、自分たちで自由にできる環境が欲しかったんだよね。エレン(・エイリアン)との関係が悪くなっているってことでもないし、みんなそれぞれが納得して、今は良好な形になってるよ」

__わかりました。それでは本題に入りましょう。今作『モンキータウン』の制作は、いつ頃スタートしたのでしょうか?

「実際に始まったのは、3月から4月くらいだったかな。レーベルには今、6人くらい社員がいるんだけど、ある日その中のレーベルのマネージャーが、“さて、俺たちはこれまでかなり良いレコードをリリースしてきていると思うんだけど、君らのレコードはどうなってる? モードセレクターの新譜はいつできるんだい?”って、僕らに聞いてきたんだよ。それで、“うーん、いつだろうね…”って(笑)。そうしたら彼が、“わかった、予定を立てよう。年内にリリースすること。モードセレクターの新譜は2011年内に出そう”って言ってね。まあ、そう言われたんで、どこから始めたらいいのかはわからなかったけど、なんとかなるだろうって思った」

__発破とプレッシャーをかけられちゃったわけですね。

「でも、それで彼が出してくれた日程を見て、“ふーん、まだ余裕あるな”って思って、音楽をつくる以外のいろんな作業を始めたよ(笑)。自分たちのスタジオを改造してたんだ。スピーカーとかモニターとか、いろんな機材を買ってね。そしてある日のこと、言われた期日まで2ヶ月半しかないのに気が付いた(笑)。7月14日がマスター日、って決まってたんだ。というわけで、そこからやっと音楽をつくり始めたよ。まだ箱に入りっぱなしだった機材もつないで、環境を整えて、12週間でつくりあげたんだ」

__では、アルバムをつくり始めるにあたって、内容にはどのような青写真がありましたか?

「元々のアイディアっていうのは、インストのアルバムをつくることだったね。でも、いくつかのアイディアをまとめているうちに…例えば、「Berlin」なんかだと、最初はインストのヒップホップだったんだけど、結局つくった後、僕ら二人とも“これはシンガーが歌を入れた方がいい曲だね”って感じた。そんな時に、僕の仲間のひとりが夜にベルリン市内を車で走っていたら、ラジオからすごく良い曲が流れてくるのを聴いたんだ。それが、Miss Platnumの歌だったんだよ。次の日、彼が彼女のことを教えてくれたんで、早速コンタクトを取ってみることにした。で、彼女にスタジオまで来てもらって、ヴォーカルのアイディアを出してもらった」

__手早いですね。

「他の2曲のヒップホップ・ソング、「Humanized (feat. Anti Pop Consortium)」と「Pretentious Friends (feat. Busdriver)」なんかも、そんな風にしてできた曲さ。トム・ヨークとの曲も、同じようにできてきた。「Shipwreck」は、僕がある日曜の朝スタジオに行って、ドラム・ループとベースラインをつくり、トムにそれを送って、“どう思う?”って聞いたら、トムが30分後に返事をくれて、“すごく気に入ったよ。ちょっとアイディアを足してみた”って、ヴォーカルのラインをシンセで入れたファイルを送り返してくれたんだ。で、トムは、マスター作業の1週間前に3日ほどベルリンまで来て、ヴォーカルのパートを終わらせてくれたんだけど、すごく良かった」

__「Shipwreck」のトラック自体は、どのようなアイディアから誕生したんですか?

「そうだね…。元々は、オープニング・トラックの「Blue Clouds」からイメージが広がったんだ。ゲアノット(・ブロンザート)が、ものすごく速いラップをかぶせだしたんだよ。あれは156BPMのすごく速い曲で、僕は、そのすごく速い曲をやるってアイディアが気に入ったから、そういうビートのループをつくりはじめたんだ。で、そこからいろんなことが起こって、最終的にこうなった…うまく説明できないけど(笑)。元々はテクノ・アルバムをつくりたいっていうのがあったんだけど、“テクノ”ってそれだけのものじゃない。構成には、すごくいろんな可能性がある。テクノを使って、もっともっといろんなことをやりたいと思ったんだ」

__なるほど。ちなみに、トム・ヨークとはずっといい関係が続いているんですね。

「うん。毎週、何らかのメールをやり取りしてるよ。“この曲知ってる?”みたいなものもあれば、ただ“元気?”とか、好きな食べ物の話まで(笑)。まあ、普通の話だね。ずっとやり取りしてる」

__Busdriver、Otto Von Schirach、PVT、Antipop Consortiumkといった、バラエティー豊かな他の参加アーティストについても、少しご紹介いただけますか。

「みんな長い友達だよ。トムみたいに、しょっちゅう他愛も無いことで話をしているんだ。中でも、Antipop Consortiumkとは、ずっと何か一緒にやってみたいと思ってたんで、今回はその夢が叶って嬉しかったね。彼らの作品は以前からすごく好きだったし、彼らも僕たちのことをすごく認めてくれていたんで、一緒に作品をつくれて良かった。PVTなんかもそうだね。シンガーのリチャードは今ロンドンに住んでいるんだけど、他のメンバーはまだシドニーに住んでいて、僕らはベルリンに住んでいる。だから、地球に三角形を描きながら、ファイルのシェアをしていったよ(笑)。今は驚くようなことが可能な時代だよね。何かをつくって眠りについて、目を覚ますとドラムの入ったファイルが届いているんだから(笑)」

__先ほど“テクノ・アルバム”というキーワードが出ましたが、今作の曲づくりとサウンドメイキングで特に重視したこと、意識したことは何でしたか?

「実際に一番重視したのは、時間がない中できっちり締め切りに間に合わせること(笑)。でもそう思っていたおかげで、二人ともものすごく集中しながら、スタジオで一緒に作業することができた。初めてね。ちょっと午後に子供たちの顔を見たら、あとは一日中、夜中までアルバム制作のキャンプを続けるような感じだったよ(笑)。“最後に下着を替えたのいつだっけ?”みたいな状態になってたね(笑)。時間の感覚がなかった。そういう楽しくも集中した状態っていうのは、このアルバムにも反映されたんじゃないかと思うな。それに、春に何かを始めるっていいね。日本でも、桜の花が咲く頃に何かを始めるって、すごくいい気分になるんじゃない? ドイツでもそうだよ。様々な事物が目を覚まして動きだす季節にレコーディングをスタートすることができて、良かったと思う。そういう状態や雰囲気そのものが、すごく重要だったと思うんだ」

__確かに、そういった良いフィーリングやテンションが伝わってくるアルバムだと思います。ところで、曲づくりをしている時のあなた達は、どんな調子で作業をしているんですか?

「隣合わせに座って、一方が何かバカげたループみたいなものを遊びながらつくっている時、それをもう一方が知らないうちに録音しておいて、後になってから“あれ、それ録ってたの? いいね。こんなアイディアがひらめいた”って感じで、広げていくことが多いかな。実際、毎回違うけどね。場所がキッチンだったり、飛行機の上だったり、ホテル、朝、夜…いろいろさ。時には、iPhoneのボイス・レコーダーで録音したりもしているから(笑)」

__で、今作のアルバム・タイトルは、レーベル名と同じ“Monkeytown”となっていますね。あなた達は、この言葉のどんなイメージが気に入っているんですか?

「4年前…『HAPPY BIRTHDAY』のアルバムを終えた時、僕らは“次のアルバムは“Monkeytown”って名前にしよう”って言ってたんだ。元々ベルリンって、モンキータウンだって思ってるからね(笑)。それに僕らはモンキーが好きだし。何百万年も前の僕らの祖先だし、僕らの中には今でもそのモンキーが生きているのを感じるんだ、ライブの時とかに(笑)。でも、そんな話し合いをしたってことはすっかり忘れて、アルバムが仕上がる数週間前に“さて、アルバム・タイトルはどうしよう?”ってことになった。で、僕らはいろんなタイトル候補をひねり出して、かなりの数をグラフィック・アーティストに送ったりしたんだけど、決定打だと思えるタイトルがなかなか決まらなかったんだ。でもある晩、突然ゲアノットが思い出したんだよ、“‘Monkeytown’にするはずだったじゃないか”って。それで、一瞬で決まった」

__先にレーベル名として使ったこともあって、失念していたんでしょうかね。

「それに面白い話があって、最近、米バージニア州にあるモンキータウンに行ったんだ。ワシントンD.C.の近くで車を借りて、そのモンキータウンという場所を目指して出かけたんだけど、カーナビが“目的地に到着しました”とは言うものの、そこには2~3つの移動式住宅があるだけで、町なんてどこにもなくて、道も行き止まりなんだ。で、どうしたものかと思っていたら、その移動式住宅の一軒から女の人が出てきて、“あんた達どうしたの? 道に迷ったの?”って言うから、“いや、僕らはモンキータウンを探しているんですよ”って言ったら、“ああ、それはここよ”、だって(笑)。それで彼女のお宅にお邪魔して、コーヒーをごちそうになって、2時間ほど話して帰って来た」

__それは、結局どういうことといいますか、どういう話なんですか? モンキータウンという地名だけ残っている、ということですか?

「元々は18世紀頃、その地には子供たちがすごく沢山いて、はしゃぎまわってる声がいつも響いていて、それで誰かが“まるでモンキータウンだ”って呼びはじめて、そこから付いた名前らしい。彼女はそこに35年住んでるって言ってたけど、この話がホントかどうかはわからない…。それがバージニアのモンキータウンのストーリーさ(笑)」

__ともかく、モンキータウンは実在するということですね(笑)。では最後に、モードセレクターの次なる活動目標を教えてください。

「とにかく、たくさん音楽をつくっていくことだね。レーベルでも、もっと素晴らしいレコードを出していきたいし、それからツアーさ。いろんなプロジェクトを来年もやっていきたいよ。APOLって新しいプロジェクトも手がけるよ。いろんなアイディアがある」

__来日する予定もあるそうですね。

「そうだね。日本は大好きだし、絶対にまた行くよ。いつも素晴らしい時間を過ごしてるからね。今回のツアーは、驚くような照明とビデオのショーになっているから、完璧だよ。最近はスペインのマドリッド、バルセロナをツアーしたんだけど、すごく良いツアーだったし。日本に行くことを楽しみにしてるよ。(日本語で)マタネ!」

interview iLOUD
translation Nanami Nakatani


【リリース情報】

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MODESELEKTOR
MONKEYTOWN
(JPN) EMI / TOCP-71204
11月23日発売
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tracklist
01. Blue Clouds
02. Pretentious Friends (feat. Busdriver)
03. Shipwreck (feat. Thom Yorke)
04. Evil Twin (feat. Otto Von Schirach)
05. German Clap
06. Berlin (feat. Miss Platnum)
07. Grillwalker
08. Green Light Go (feat. PVT)
09. Humanized (feat. Anti Pop Consortium)
10. This (feat. Thom Yorke)
11. War Cry

【VIDEO】

【オフィシャルサイト】
http://www.emimusic.jp/artist/modeselektor/
http://www.modeselektor.com/
http://www.facebook.com/MonkeytownJapan

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