レディオヘッドの楽曲を再構築した「Right Place」(’09)、ゴールディーの楽曲を再構築した「Timeless」(’09)で脚光を浴び、ベースメント・ジャックス、ゴリラズ、M.I.A、モードセレクター、アンダーワールドらの楽曲リミックス等を通じて一気に頭角をあらわしたSBTRKT(サブトラクト)。アーロン・ジェロームの名でも知られる彼は、様々な才能がひしめくUKのポスト・ダブステップ・シーンから登場した、注目の新鋭プロデューサーです。今年、フジロック初日(7/29日金曜)深夜のRED MARQUEEに登場することが決定していますね。
そんな彼が、ファースト・アルバム『サブトラクト』を7/6にリリースします。ダブステップの枠に限定されないサウンドをつくり出すべく、毎晩スタジオで実験を重ねながら曲を制作していったという本作。その内容は、多彩なビート、メロディックでどこかメランコリックなシンセ、そしてサムファ(ライブ時のパートナーでもある新人シンガー)、ユキミ・ナガノ(リトル・ドラゴン)、ローゼス・ガボールらのソウルフルなボーカルをフィーチャーした、不思議なポップ・センスを感じさせる楽曲群が詰まったものとなっています。
ダブステップを経由した新たなクラブ・サウンドが楽しめる『サブトラクト』。の本作の内容について、SBTRKTに話を聞きました。
SBTRKT
UKのポスト・ダブステップ・シーンから登場した、
今注目のディープかつポップなエレクトロニック・アーティスト
__あなたは、ジャズ系のクラブ・ミュージック系のファンの間では、すでにアーロン・ジェロームの名で知られる存在で、アルバム『Time To Rearrange』(’08)もリリースしていますが、SBTRKTをスタートさせたきっかけは何だったのでしょうか?
「僕は、ずっと若かった頃からエレクトロニック・ミュージックが好きだったんだ。何ていうのかな、一定のビートの中で展開される音楽…テクノとか、ハウスとかね。そういう、UKクラブ・カルチャーでプレイされているダンス・ミュージックを、自分のサウンドでつくっていきたいってずっと思っていた。例えば、シカゴ・ハウスやデトロイト・テクノ、2ステップやUKガラージ、マッシヴ・アタックみたいな音楽が、僕の基礎となっている影響源だね。SBTRKTは、そこからスタートしたと思う。僕は、ダブステップの壮大なビート感よりも、2ステップやテクノのようなビートの方が好きなんだ。で、ダブステップと2ステップやテクノを融合できる時代がやってきて、僕も自分のやり方で作品をつくれるようになったというわけ(笑)」
__もともと、あなたが音楽を始めたきっかけは、ドラムだったんですか? それともDJ?
「もともとは、ただの音楽好きさ。で、11歳くらいの時に、いとこのベッドルームで彼がDJしているのを見て、“僕もやりたい!”って思ったんだ。それでDJの真似事を始めて、同時に自分で曲もつくってみようと、ピアノやドラムなんかをプレイするようになった。ものすごくヘタクソだったけど(笑)」
__SBTRKTとして最初にリリースした、レディオヘッドの「Everything In Its Right Place」を再構築した「Right Place」(’09)は、どのようにして誕生したトラックでしたか?
「はっきりとしたアイディアがあったわけじゃなかったね。どちらかといえば、ずっと実験し続けていたものがトラックに発展していった、って感じだったと思う。このシーンって、本当に個性的なプロデューサー達が、全く違うアイディアのトラックを発表し続けているから面白いんだ。DJのメアリー・アン・ホブスなんて、いろんなサウンドのヴァイブスだけをミックスして、オリジナルにしてしまう女王様だけど、本当にすごいと思う」
__では、そんなあなたの音楽的実験を形にしたアルバム『サブトラクト』について教えてください。まず、作品のテーマはどのようなものでしたか?
「ただ、スタジオでずっと何かをつくっている、という状態だったから、その時々のムードや、雰囲気の流れででき上がっていったアルバムって感じだね。だから、コンセプト的なものは事前に考えてなかったよ。基本的にはさっきも言ったような、UKのクラブ・ミュージックとか、ベルリンのクレイジーなテクノとか、自分の好きな要素がいろいろと反映されたレコードになったと思う。毎晩曲を書いていると、なんていうか…ダークで憂鬱な雰囲気になっていく気がするんだけど、そういう雰囲気を僕は気に入ってるんだ。こういう曲をやってみようって、アタマで先に考えるよりも、ダークな雰囲気に入り込んで曲をつくっていくのが好きなんだよね。で、全曲でJUNO106のキーボードと、数年前に南アフリカで買ったカリンバを使ったから、そのサウンドがアルバム全体の雰囲気をキープしていると思う」
__本作には、サムファのほか、ユキミ・ナガノ、ローゼス・ガボール、ジェシー・ウェアがボーカリストとして参加し、アルバムに華をそえていますね。彼らとのコラボレーションはいかがでしたか?
「「Wildfire」に参加してくれたユキミ・ナガノは、僕がすごく影響を受けたバンド、リトル・ドラゴンをやっていて、以前から注目していたんだ。いつかコラボレートしたいって思っていたんだけど、やっと実現したよ。ダイレクトでインパクトのあるメロディー、ベースラインを持った曲にできたね。「Pharoahs」に参加してくてたローゼス・ガボールは、UKグライム・シーンでは知られたシンガーで、興味を持ってググってみたら、スイスにいてね。それでメッセージを送ったら、興味を持ってくれて、参加してくれることになった。彼女は、ゴリラズとも一緒に仕事をしているよ。「Right Thing To Do」と「Sanctuary」に参加してくれたジェシー・ウェアは、レーベルから紹介されたんだけど、彼女は以前ジャック・ペニャーテのバンドで歌っていたんだ。すごくいい声で、パワフルだけど繊細な歌もできる人だと思う。ボーカル・アレンジが素晴らしいね」
__SBTRKTは、フジロックで来日しますね。ライブではどんなパフォーマンスを展開していきたいと考えているのでしょうか?
「基本的には、2人でステージに立つんだ。僕がライブ・ドラムとサンプラー類の担当で、もう一人はボーカル兼シンセ。最初は、かなりエレクトロニックなセットだったんだけど、最近はよりライブっぽい感じに発展してきてて、オーディエンスとも上手くコミュニケーションが取れるようになったと思う。パーカッションとか、どんどん楽器や機材が増えている状態だから、僕らとしては、やることが増えてすごく大変だ(笑)」
__では、最後に、SBTRKTのトレードマークとなっている、アフリカン・マスクに込めた思いについて教えてください。
「僕としては、アフリカとアジアのカルチャーからの遺産を受け継いでいる…っていうような意味合いで被っているんだ。まぁ、クリエイターとして、本当の自分とは違うペルソナを持っているって意味合いもあるけどね。今、デザイナーと一緒にアイディアを考えながら、いろんなデザインを増やしているよ。音楽だけじゃなくて、いろんなモノをクリエイトしていけたら面白いだろう?」
interview & text Fuminori Taniue
translation Nanami Nakatani
【リリース情報】
SBTRKT
SBTRKT
(JPN) Young Turks/Hostess / YTCD060J
7月6日発売
HMVでチェック
tracklisting
01. Heatwave
02. Hold On – Featuring Sampha
03. Wildfire – Featuring Yukimi Nagano
04. Sanctuary – Featuring Jessie Ware and Sampha
05. Trials Of The Past – Featuring Sampha
06. Right Thing To Do – Featuring Jessie Ware
07. Something Goes Right – Featuring Sampha
08. Pharoahs – Featuring Roses Gabor
9. Ready Set Loop
10. Never Never – Featuring Sampha
11. Go Bang
【試聴】
【VIDEO】
【オフィシャルサイト】
http://www.sbtrkt.com/