Shinichi Osawa & Tomo Hirata「Taiko (Shinichi Osawa Remix)」対談


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昨年フランスのDJ Center Recordsから「Taiko」をリリースし、beatportのElectro House chartで27位まで上昇、日本人EDMアーティストの楽曲としては最高位を記録したTomo Hirata。そんな彼の「Taiko」のリミックス・シングル『Taiko (The Remixes)』が、1/26にbeatportエクスクルーシブでリリースされました(1/30現在、beatportの“Indie Dance / Nu Disco”今週のリリース・チャートで2位を記録)。収録されているのは、「Taiko (Shinichi Osawa Remix)」と「Taiko (Otto’s Orchestral Remix)」の2トラック。中でもShinichi Osawaが手がけたリミックスは、エレクトロ~テクノをベースとしならがも既存のジャンルには収まらない、彼ならではのセンス~アイディアが満載された独創的なダンス・トラックとなっています。

というわけで、ここでは注目のリミックスとなっている「Taiko (Shinichi Osawa Remix)」を手がけたShinichi Osawaと、Tomo Hirataのスペシャル対談をお届けしましょう。日本のEDMの状況や、大沢伸一氏の今後についても語り合った内容となっています。


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Shinichi Osawa & Tomo Hirata
「Taiko (Shinichi Osawa Remix)」対談

[Part 1]

Tomo Hirata「1/26に、フランスのDJ Center Recordsから『Taiko – The Remixes』収録の「Taiko (Shinichi Osawa Remix)」がリリースされることになりました。今回はリミックスを手がけてくれて、ありがとうございました」

Shinichi Osawa「いえいえ、こちらこそありがとうございました(笑)」

TH「大沢さんにリミックスしてもらえて、大変ありがたく思ってます。DJ Center Recordsってフランスなんで、“Shinichi OsawaってKitsunéの!?”って言ってましたよ(笑)。で、“いや、UltraやDim Makからもリリースしてるよ”って伝えたんですけど、喜んでました」

SO「ああ、そうですよね。そういうエレクトロのイメージも強いのかな。喜んでもらえて嬉しいですね」

TH「で、まあ、リミックスをお願いはしたものの、なかなか苦戦されたようで」

SO「そうなんですよ。苦戦といいますか…なにか色々と問われるような気がしまして(笑)、平田さんに喜んでもらえる…くらいのことではなく、自分の中で本当に納得できるものにしたいなあ、と。じゃないと、なんか見透かされる気がして…ちょっとした恐怖でした(笑)。他の人のリミックスはいい加減にやってる、という意味じゃないですよ、もちろん」

TH「それ、僕に見透かされるって意味ですか?」

SO「そうですよ。一緒にスタジオで作業したりもしてるじゃないですか」

TH「そんなに辛辣な目で見てないですよ(笑)」

SO「そんなことで、このリミックス4~5回くらいやり直したんですよ。本当はもう一回やり直したかったんですけどね。イントロから始まって一回ちょっとブレイクがあって、僕のパートみたいのが始まるとこがあるでしょ。あそこの一発目シンセ音の変化の仕方の具合を直したかったんです」

TH「細かいなぁ(笑)。聴いている側は気付かない部分ですよ」

SO「でしょうね。本人だけが気になるという(笑)。まあ、だから直さずにそのままいったんですけどね。でも、そうやってちょっとずつバージョンアップさせていったリミックスになってますよ」

TH「マスターに近いものが一回あがってきてから直しが入って、最終的にはその原型をとどめていないものになってましたもんね」

SO「ええ、不思議なことに(笑)」

TH「でも、僕がつくったリフも使っていただいてますし、嬉しいですよ」

SO「はい、やっぱりそこが肝だと思ったんですよね。とはいえ太鼓の音は使わなかったんですけど(笑)、でもそっちにいくと、もとの太鼓の音とは違う全然別のリズムの方にいっちゃって、ただのドラム・テクノみたいなものになっちゃうでしょ」

TH「“大沢さんのトラック”になっちゃいますよね」

SO「そうなんです。で、それは良くないと思ったんで、じゃあメロディーの方をいじっていこうかな、と。実は一回、そのドラム方面で完成まで近づいたんですけど、やめました。これはリミックスじゃないなって思って」

TH「なるほど。結局、ひと月くらいかかってましたもんね」

SO「僕、普通は3日くらいでできたりするんで、早い方なんですけどね」

TH「ちなみに原曲がEDMだったというのは、リミックスしにくかった原因になってますか?」

SO「いや、そこは関係ないと思いますね。どんなタイプの曲も、同様に難しいです。オリジナルのある部分をきちんと自分なりに消化して、違う形に変えてアウトプットするというのは、何であれ難しいものですよ」

TH「この「Taiko (Shinichi Osawa Remix)」は、実際にハコでプレイしたりしましたか?」

SO「かけてますよ。で、このリミックスって、実はテクノというジャンルのフォーマットの中では売ってないものなんで、こういうのって…世界的にみていま一番ニッチな音なのかもって思ってますね。例えばJimmy EdgarがやってるUltramajicとかあの辺には、ちょっとテクノなのかエレクトロなのか分からない音ってあるんですけど、Beatportのテクノチャートからは、そこにはたどり着かないんですよ。そういう意味では、僕は好きなんだけど曲のタイプ的には今少ない音かなぁ」

TH「なるほど。僕もお客さんから、“コレはジャンル的には何ですか?”って聴かれますね。で、“うーん、テクノかエレクトロかな”って答えてるんですけど」

SO「ですよね。で、そういったタイプの曲を僕は集めてるんですけど、個人的には“ニュー・テクノ”って呼んでますよ。やっぱり今までのテクノとは違いますから。Jimmy Edgarとか、Daniel Averyとか、そういうヤツなんですけど」

TH「現時点ですと、このリミックスがBeatportでどのジャンルに区分されるか分からないんで、そこにもちょっと興味があるんですけどね。おそらくエレクトロ・ハウスかテクノかな?とか」

SO「ああ、エレクトロ・ハウスに近そうですね(編注:Beatportでのジャンルは、“Indie Dance / Nu Disco”となりました)」

TH「ところでオリジナルの「Taiko」は、いわゆるEDMのビッグルーム・ハウスになるんですけど、大沢さんは最近EDMについてどう捉えてますか?」

SO「大まかに分けると…EDMと言いつついわゆるトップ40系の曲ってあるでしょ? 昔から普通にポップスやロックであったような曲の現在形みたいな。ああいうものは、僕は正直言ってそれをクラブでプレイする意味がよく分からないんですよね。フェスでだったら分かるんですけどね、今やコンサートですから。だから、クラブ・ミュージックとしてのEDMっていうことで言うと、そういう歌、ポップス系のEDMはクラブでフォローする必要ないんじゃないかな、って思うんですよ。そういう曲だったら、フェスとかでない限り、普通に家で聴いたりする方がいいと思うし。じゃないと、クラブに来ている人々が困惑しちゃうというか、クラブって場所が誤解されちゃうというか…最近そう思います」

TH「まあ、フェスやライブホールで自分のコンサート的に自分の持ち曲をかけるなら、という…」

SO「そうですね。なんだろうな…混じり合わないものをEDMという言葉で一つに混ぜようとしている感じがして、難しいんですよ。だから、ちゃんと棲み分けした方がいいんじゃないかって思いますよ」

TH「ディスコ的なトップ40的なEDMって日本でいま人気あって、オールジャンル的なハコに行くと、そこではピークタイムに例えばDavid GuettaやZeddがかかってたりするわけですよ。でも本当のEDMフェスに行くと、そういう曲をそのままかけるのは本人達だけなんですよね。日本にくると、なぜか彼らの曲をみんながそのままプレイしてるだけってなっちゃうんです。それって、やっぱりEDMではなくて“ディスコ”なんですよねぇ」

SO「そういうシーンをもしEDMと言うのなら、僕はちょっと分かんないですね。善し悪しじゃなくて、関係ないというか守備範囲外ですから。でもそもそもEDMって、そういうものじゃないでしょ? もっと幅もあるでしょうし」

TH「そうですね」

SO「だから、今年から自分のこともEDMって呼ぼうかなって思うくらいですもん(笑)」

TH「面白いですね(笑)。大沢さんは、以前からジャンルとしてEDMを否定しているわけじゃないですもんね。ですので、今回大沢さんにリミックスしてもらえて、よかったですよ。音楽的にEDMが好きな人達なら、納得できるとこだと思いますし」

[Part 2]

TH「大沢さんは最近寡黙な印象もありますが、どんな感じのスタンスで活動をしていこうと? 昨年はBrooklyn Fireから「Bang Bang」などをリリースして、評判になってましたね」

SO「そうですねぇ、自分のものに関してはあんまり目立った制作はしてませんよね。まあ、そろそろ出さないとまずいなぁ…くらいな感じでやってますよ(笑)。アンダーグラウンドですしね。僕がやりたいことって、テクノの中でもさらにニッチなんで、極めていくのにも難しい状況ですかね」

TH「最近は石野卓球さんと結構プレイしたりもしてますが」

SO「卓球氏とのプレイは面白いですね。表現方法は違いますけど、シニカル度合いが似てるといいますか(笑)、ゆがみ具合やひねくれ具合がちょっと近いというか。で、卓球氏のDJは、やっぱりいいですよ。幅も広いし、毎回違うし、コアの部分は外さないし。いま誰もかけてないような曲プレイしてますよね。唯一共通している部分は、アシッドかな」

TH「ああ。Secure Recordingsから出した「Swallow」(『Birds/Swallow – EP』収録)は、めちゃアシッドですもんね」

SO「あれはちょっと音がわるかった…やり直したいです(笑)。でもね、いまもう一つ「CIDA」って曲つくったんですよ。これもガチなアシッドですよ。Croquemonsieur名義で出したい感じです」

TH「ところで、こうした海外のテクノっぽいレーベルとは、どういうつながりなんですか?」

SO「個人的につながってるだけですね。デモを送って、“じゃあ出させて”みたいな感じですよ。SecureはBart B Moreのレーベルですし、Brooklyn FireはTommy Sunshineのレーベルですし。だから、あんまり仕事っぽくないというか。もちろん、他のレーベルからもちゃんとリリースしたいとも思ってますけど」

TH「友達付き合いの中でリリースしている感じなんですね。では、今後の活動についてもお伺いしたいんですが、今年の活動としてはA Thousand Tears Orchestra(私設オーケストラプロジェクト)がメインになる予定ですか?」

SO「そうですね。僕は、誰も聴いたこともないような音楽をつくりたいって、ずーっと思ってるんですよ。で、いまやシンセもあればサンプラーもある、テンプレートもいくらでもあるという時代の中で、何をもってして全く聴いたことがない音楽なのかっていう定義自体を、僕はちょっとはき違えているところがあって…」

TH「どういうことでしょう?」

SO「実はこういうのって身近なところにあったりするのかな、とか、聴いたことあるようでも実はこういうバランスてやってるものはなかったよね、とか、そっちの方が僕が思っている“誰も聴いたことのない、存在していない音楽”というものに近いんじゃないか、って思うんですよ。そう考えた時に、その延長線上にある音楽として、A Thousand Tears Orchestraとか、ピアノみたいなアコースティックでオーガニックなエレメントと僕が十数年やってきたエレクトリックなものの自分なりの解釈の真の融合みたいな音楽こそ、実は誰もやってないんじゃないかな、と」

TH「なるほど」

SO「そういうことで、プロジェクトをやりはじめてみたんですよ。A Thousand Tears Orchestraに関しては、実際にオーケストラの仕事をやっている人達とか、音大を卒業したような人達と一緒に、輪になってああでもないこうでもないって言いながら音楽をつくっていこうって感じですね」

TH「では、A Thousand Tears Orchestraは、大沢さんのソロ・プロジェクト的なものではないんですか?」

SO「いちおう僕が率先して企画したことではあるんですけど、全員がメンバーって形ですね。もちろん主要メンバーみたいな人達はいるわけですけど。実際に音をつくっているのは数名で、演奏活動をしていく際にはメンバーが増えるという感じでしょうか。流動的ですけど、今のところ総勢20名くらいは関わるプロジェクトになるような感じですかね。まあ、クラシックのミニマルとテクノのミニマルを究極に結びつけるようなイメージ…」

TH「実際に生演奏を聴いてもらうような、現代音楽に近いアートな感覚の音楽になりそうですね?」

SO「そうですね。後々はその演目自体を発表したいというか、生で体験してもらいたいようなプロジェクトですかね。音楽的には、例えばBoys Noize & Chilly GonzalesのOctave Mindsなんかと発想が近いって思うんですけど、Octave Mindsでもまだポップスの要素が強すぎるって感じですよ。僕は、もっとダンス・ミュージックの要素、機能を出して、踊れる感じにしたいですかね」

TH「他には、何かありますか?」

SO「VERBAL(m-flo)くん、ピアノの武村八重子さん、僕の三人でやってる“LNOL”というプロジェクトもあって…気持ち的にはちょっとクラシックづいてますかね。やっていて楽しいです」

TH「面白い展開ですし、大沢さんの興味も分かりますよ。結局ダンス・ミュージックって、EDMフェスに40万人が集まる段階になった時点で、ある種もうゴールに到達してるとも言えますもんね。このままロックフェスと同じようになっていって…」

SO「そうですよ。ある意味答えが出ちゃってますから。これ以上というのはもうないって感じだと思いますよ。だから、あとは細分化していったり、趣向を変えてやっていくしかないというか」

TH「ですよね。で、トレンドが循環して…みたいな想像はつきますね。実際、そういう動向も目立ってきてますよ。では最後に、今後の予定について何かありますか?」

SO「うーん。作品、CD/アルバムをつくることに果たして意味があるのかって部分で、ずっと考えあぐねていたんですけど、やっぱりつくらないとまずいなって思ってますね。Aphex Twinもアルバムを出しましたしね、やっぱりもっとフィジカルで作品を出していかないとダメかなぁ、と」

TH「そうですか」

SO「だから、自分の持っている引き出しを順番に開いてね…何か出せればいいですけど。何か出しますよ(笑)。何も決まってないですけど、もしかしたらMondo Grossoかも知れないし。まあ、ダンス・ミュージックに関しては、アルバムでのリリースは考えてないですよ。あまり意味がないですから。基本的にはちゃんと聴ける音楽、聴く音楽じゃないと、アルバムにする必要性がないでしょ?」

TH「ですね、分かります。最近ちゃんと愛着を持てるような音楽が少なくなってきているので、大沢さんとしてはそれをなんとかして復活させたい、という想いでしょうか?」

SO「そうです。キレイにまとまりました(笑)」

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【リリース情報】


Tomo Hirata
Taiko (The Remixes)
tracklist
1. Taiko (Shinichi Osawa Remix)
2. Taiko (Otto’s Orchestral Remix)

http://www.beatport.com/release/taiko-the-remixes/1441482

Shinichi Osawa
http://www.shinichi-osawa.com/
Tomo Hirata
http://djtomo.com/

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