The xx『Coexist』インタビュー


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ロミー(Vo/G)、オリヴァー(Vo//B)、ジェイミー(Keys/Programming)からなる、サウス・ロンドン出身のインディー・バンド、The xx(ザ・エックス・エックス)。2009年にデビュー・アルバム『XX』をリリースすると、そのアンニュイでミニマムな音楽性が話題を呼び、翌’10年には英マーキュリー・プライズを受賞、一躍世界的に知られる存在となった人気アーティストです。

そのThe xxが、待望のニュー・アルバム『Coexist』(コエグジスト)をリリースしました。このアルバムをつくるためのスタジオ(部屋)を用意し、曲づくりからレコーディングまで1年以上の時間をかけて制作したという注目作です。その内容は、独自の作曲センス、サウンド・プロダクションに磨きをかけた、彼らにしか表現できないシンプルかつディープな音世界が詰まったものとなっています。

ここでは、そんな本作『Coexist』の内容について、7月に来日を果たしたThe xxのメンバー、ロミーに話を聞きました。


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The xx『Coexist』インタビュー

__前作のデビュー・アルバムは、高い人気と評価を獲得した作品となりましたね。振り返ってみて、あなた達にとってどんな意味を持つアルバムとなりましたか?

「あのアルバムは、今、私がこうして居られる理由になったわね。私の人生を変えて、私の人生をつくってくれたアルバムだと思う。でも、アルバムをつくっていた時は、どう受け止められるのかなんて見当もつかなかったし、そんなこと気にもとめてなかった。周囲からのプレッシャーも全くなく、奇をてらうことなく、ただやりたいことをやっただけの作品ね。あの時点での自分にとっての全てが詰まった、自分のある時期を象徴したアルバムよ。ただ、あの時代はもう終わって、今は次に進む時ね。そのために、この新しいアルバムをつくったの」

__前作がリリースされたのは2009年のことでしたが、あれから約3年の時間を空けたことには何か理由がありますか?

「私が思うに、自然の流れでこのタイミングになっただけよ。前作は、出してすぐにヒットしたわけではなく、ツアーをやりながら徐々に浸透していったんだけど、そのツアーを当初の予定よりも長い期間やることになったから、なかなか曲をつくる時間が持てなかったのよ。私たちの場合、ツアー中に曲を書くのって、移動も多いし難しい。それで、今回アルバムの曲を書くのに、これだけの時間がかかってしまったんだと思う。ツアーを終えた後、ちゃんと日常生活を取り戻して、その中から曲づくりの刺激を得て、心の準備を整えて、じっくりと曲をつくっていったわ」

__曲づくりを本格的に始めたのは、ちょうどあなた達が今作のインスピレーション源と思しき音源や映像をブログにアップするようになった頃だったんですか?

「実は、実際に曲を書き始めたのは2010年の末くらいだったから、サイトにいろいろアップするようになった時よりも前ね。2010年の末に、オリヴァーから彼が書いた曲を1曲聴かせてもらって、それがすごく良かったから、私もそれに呼応するような形で曲を書き始めたわ。で、2011年はずっと曲づくりをしているような感じで、その年の11月頃に、いよいよレコーディングということでスタジオに入ったの。私達がブログをやり始めたのは、その頃ね。ファンの人達に、自分達の近況をさりげなく報告をするつもりで始めたのよ。友達に、“お気に入りのコレ聴いてみて”って紹介する感じでね。バンドが今ハマっている曲や映像を、みんなと共有したかったのよ」

__“どんなアルバムをつくっているんだろう?”と、イメージがかき立てられました。このアイディアは、誰の発案だったんですか?

「みんなで話し合って出てきたアイディアね。私達は、各自のプライベートを大事にするような性格もあって、大声で“やあ、The xxが戻ってきたぜ!”みたいな形で発表するのはちょっと違うと思ったし(笑)、友達と普段しているような話を、そのままファンのみんなともやりたいと思ったし、ということね。私達自身も、“じゃあ、何を紹介しようか?”みたいな会話、意見交換をしていくことが、すごく刺激になったわ」

__で、今回、自分達のスタジオをつくったそうですね。どんな所なんですか?

「といっても、普通のアパートの一室よ。スタジオとして使うために防音設計にしたりとか、改装したりとか、そういうことは一切していない普通の部屋ね。6ヶ月間、一日15時間くらいいてもいいような居心地の良い空間で、単純にそこを気に入ったから決めたの。音をつくる時、私達のバンドはシンプルなセットアップでOKだから、言ってしまえば、ただ部屋があれば問題ないのよ」

__その部屋は、楽器や機材の山というわけではないんですか?

「そうね。バンドによってはギターを何本も持っていたりするものだけど、私達はそういうバンドじゃないし、そういうスタイルを気に入ってるわ。もちろんジェイミーはいくつか機材を持っているけど、基本的にはシンプルなスタイルで十分こと足りるバンドなの。で、私達はその部屋に通いながら作業を進めていったんだけど、ジャイミーやオリヴァーは、引っ越しする間しばらくそこに住んだりもしてたわね。ポスト・プロダクションをやっていた時は、泊まり込みで作業したし」

__今作では、ラヴソングをつくることが一つのテーマだったそうですね。オリヴァーと曲づくりを進めていく中で、その方針はどのようにして決まったんですか?

「決して、二人で話し合って決定したことじゃないのよ。前もってコンセプトや計画があったわけじゃない。私が曲を書くと、必然的に“ラヴソング”になってしまうというか、そういう曲しか書いたことがないの。政治についての曲とか、社会性を込めた曲というのは、書いたことがない。私にとって音楽とは、一つの逃避というか、自分の世界や感情にひたれるものだから、音楽をつくる時は、自然と自分の人生を振り返って、そこで起きたことや、その時に感じた思いを歌詞にしていくのよ。そうすると、こうなるの」

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__前作の曲づくりと比較して、今作の曲づくりで何か変化したことはありましたか?

「前作との大きな違いは、前作の時は、私とオリヴァーがそれぞれ別の場所で曲を書いて、それを“こんな曲できたんだけど”ってネットやメールでやりとりしながら、コラージュのように形にしていったんだけど、今回は同じ空間を共有して、一緒に曲を書いていったってことかしら。今作に入っている曲の半分くらいは、前作と同じやり方で進めていったけど、もう半分は同じ部屋でお互い向き合いながら、一緒に曲をつくっていったのよ。今作では、そこから学ぶことも多かったと思う。今後バンドをやっていく上での可能性を、いろいろ感じることができたから」

__では、そういった今回の制作環境が、“coexist”(コエグジスト:同時に存在する、共存)というアルバム・タイトルの由来にもなっているんですか?

「そうね。やっぱり三人が同じ部屋に集まって音楽をつくるというのは、三人の異なる世界観、趣味、考え方、性格が共存する、ということだから。あとは、今作に多くある“失われた愛”について綴った歌詞も、共存していくことや、人生を学ぶということと関係していると思う。昔恋愛をしていた人や今恋愛をしている相手と、どう共存していくか…。いろいろ解釈できる言葉だからいいと思って、アルバム・タイトルにしたのよ」

__なるほど。

「アルバムが3/4くらいできた時点で考えたタイトルね。このバンドにおける三人のあり方を象徴するようなタイトルでもあるんだけど、逆にこのタイトル、この言葉が出てきたからこそ、つくっていた曲に新しい意味を見いだせたり、他の曲との兼ね合いや共存についても考えることができたと思う。アルバムに対して、自分達自身もさらなる解釈をすることができたというか」

__イメージが膨らむ、良いアルバム・タイトルですね。

「今回は、アルバムのアートワークにも携わっているんだけど、虹色に光る油膜ってとてもキレイだから、どうしてその現象が起こるのか調べてみたのよ。そうしたら、油と水は完全に融合せず、お互いに共存することで、あの美しい現象は起きるそうなの。それって、個性の強い三人が共存しているこのバンドの在り方に似ている、って思ったのよね」

__分かりました。サウンドメイキング面に関しては、前作と比べて今作で特に意識したことは何かありましたか?

「アルバム全体としては、前作同様スペース、空間を大事にして、曲自体に呼吸をさせることを意識したわ。いろいろな要素を詰め込み過ぎないようにして、歌がちゃんと引き立つようにしたかった。私個人としては、ボーカルにしてもギターにしてもリバーヴのサウンドが好きだから、何はともあれどっぷりとリバーヴにひたりたかったかな」

__The xxの音楽を特徴づけている、あの音の少なさというのは、そのようにして培ったものなんですか? 今作は、前作以上にミニマムなムードを感じさせる作品にもなっていますが。

「今のメインストリームの音楽は、音をどんどん重ねていくのが主流で、私達はそういう音楽も好きでいっぱい聴くんだけど、そういった音楽の中にある特に好きなパートを抽出して、それを無添加のまま表現していくと、こうなるのかな。ポップ・ミュージックの中にある自分達の好きな部分をコラージュしてできた音楽…だと思うわ」

__シングル曲「Angels」は、どのようにして誕生した曲ですか?

「「Angels」は、自分にとっていろんな意味を持つ、とても大事な曲ね。今作には失われた愛について書いたが多く収録されているんだけど、この曲に関しては、正に恋をしている時の思いを歌った、ポジティブなものになっているわ。アルバムとして、やっぱりより幅広い感情を表現したかったから。この曲を書いた時、“何か書き足してくれない?”ってオリヴァーに送ったら、彼は“この曲のボーカルは、一人のままの方が良いと思う”って言ってきて、結果的に私のボーカルとギターを核にした曲になったんだけど、でもちゃんとオリヴァーとジェイミーのテイストがさりげなく入った、三人でつくった曲になっているのよね。「Angels」は、その点もかなり気に入っている。今作では、その部分にかなりこだわったし」

__最後に、今後の活動目標を教えてください。

「この後はひたすらツアー、ツアー三昧ね。新曲を早くみんなに知ってもらいたいから、ライブできることをとても楽しみにしているわ」

interview iLOUD

photo
Jamie-James medina (top)
Alexandra Waespi


【リリース情報】

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The xx
Coexist
(JPN) Young Turks/Hostess / BGJ-10152
9月5日 日本先行発売
※日本盤はボーナストラック1曲、歌詞対訳、ライナーノーツ付
HMVでチェック

tracklisting
01. Angels
02. Chained
03. Fiction
04. Try
05. Reunion
06. Sunset
07. Missing
08. Tides
09. Unfold
10. Swept Away
11. Our Song
12.Reconsider (日本盤ボーナストラック)

【オフィシャルサイト】
www.hostess.co.jp/xl/thexx
http://thexx.info/
http://coexist.thexx.info/(アルバム全曲試聴サイト)

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