Tinie Tempah『Demonstration』インタビュー


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2010年に彗星のごとくシーンに登場し、デビュー・シングル「Pass Out」が全英チャート1位、セカンド・シングル「Frisky」が全英2位、サード・シングル「Written In The Stars」が全英1位を記録。そしてデビュー・アルバム『Disc-Overy』も全英チャート1位となり(200万枚のセールスを記録)、一大センセーションを巻き起こしたサウス・ロンドン出身のラッパー、Tinie Tempah(タイニー・テンパー)。その人気はアメリカにも波及し、「Written In The Stars」は全米チャート12位、UK出身のラッパー初となるミリオンセールスを記録した人気アーティストです。クラブ・ミュージック・ファンには、Swedish House Mafiaとの「Miami 2 Ibiza」でも知られる存在でしょう。

そんなTinie Tempahが、セカンド・アルバム『Demonstration』(デモンストレーション)をリリースしました。イギリスらしさを残しながらもインターナショナルな要素を大胆に盛り込み、今までにない音楽的冒険に挑んだという本作。その内容は、ディプロ、トム・ローランズ(ザ・ケミカル・ブラザーズ)、ディジー・ラスカル、エミリー・サンデー、ビッグ・ショーン、2チェインズ、ローラ・マーヴラ、ジョン・マーティン、ラブリンスなど、多岐に渡るコラボレーションを実現し、独自のスタイルにさらなる磨きをかけた意欲作となっています。

ここでは、本作『Demonstration』の内容について語った、Tinie Tempahのインタビューをご紹介しましょう。


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Tinie Tempah『Demonstration』インタビュー

__ニュー・アルバム『Demonstration』の完成おめでとうございます。完成した今の心境は? 2作目のプレッシャーはありましたか?

「いや、最高の気分だよ。ずいぶん長い間時間をかけてしまったけど、自分が満足いく作品を作るために一生懸命だったし、そのためにちょうどいい時間を費やせたと思っている。本当に素晴らしい人達と一緒に仕事をすることも出来て、最高の作品が出来たと自負出来る。そしてやっとそれを世界中の人達に聴いてもらえるときがきて最高の気分だ。前作成功したことがプレッシャーというよりも、前作の成功があってこその恩恵として、多くの人達が俺の作品をオープンマインドで聴いてくれる。しかも世界中で。そして、ツアーをして、あらゆる場所でパフォーマンスをして、新しい作品を待ち望んでいると言ってくれるたくさんの人達と出会えたのは本当に幸せなことだ」

__前作のリリースからちょうど3年ですが、3年間はあっと言う間でしたか? 前作が大ヒットして、生活はガラっと変わりましたか?

「そうだね。2010年の年末にこっち(UK)でリリースして、2011年の頭はプロモとか忙しくなって、2011年中盤に入る頃にアメリカでリリースした。それが大成功して、2011年の年末から2012年、13年で今作を作ってきた。その間にレーベルがユニバーサルとワーナーに二分割されてしまったりね。それであらゆる制限もあったけれど、自分は仕事に集中するようにしてたんだ。いったい自分に何が起こってるのか、何が起こってきたか(成功など)を冷静に判断して理解する必要もあったし、焦って作品を作りたくなかった。自分が次に何をするのか自分で納得して動く必要があったんだよね」

__新作の『Demonstration』というタイトルには、どんな意味が込められているんですか?

「ファースト・アルバムは『Disc-Overy (発見)』というタイトルで、新しくてクレイジーなことを探す旅のような作品だった。それを経て完成した今作はまさにデモンストレーション。俺がどんなことが出来るのか、どこまでやってのけられるかを見せる作品という感じ。アンダーグラウンド/グラスルーツ・カルチャー出身のラッパーが、進化して、もっと積極的な曲を作ってるという姿を表現(デモンストレート)したかった。それに、自分のルーツの青写真というか、マニュアルというか、そういうのを作りたかったんだ。俺が今までやってきたもの、作ってきたビート、アーバンサウンド、ダブ、ヒップホップ、全てに俺の生い立ちや経験から生まれたルーツのエレメントを感じてもらえると思うけど、国際的にもわかりやすいように、自分なりの解釈、自分の意見をまとめて表現(デモンストレート)したかった。俺のような環境で育って成功して世に名を残すことはそう滅多にないからね。もちろん、(代表して語ってるわけじゃなく)単純に自分の経験を元にしてるだけだけどね。自分の見解、自分の解釈をね」

__ヒップホップやラップでは、世界的なマーケットでいうといまだにUSのアーティストが主流ですが、UK出身のラッパーで初めてUSでミリオンセールスを記録したあなたは、USとその他の“違い”みたいなものは感じますか? また、そういった現状を打破したいという思いはありますか?

「アメリカのヒップホップやアメリカの文化に大きな影響を受けていることは間違いないよ。アメリカの影響がなければ、今のマーケットに存在する音楽は生まれなかっただろうし、俺のサウンドも今のようなサウンドにはなってなかった。それに、アメリカっぽいトラックを求める人達も多いのも事実だしね。そうじゃないと成功も出来ないどころか、一歩も前進出来ない感じだよね。オリジナリティよりもそれが大事、みたいになってる。でも、俺がどんなアーティストになりたいか、アーティストとして何を表現していきたいか考えたとき、自分のサウンドを確立した途端に成功もした。ロンドンというマルチ・カルチャーな都会にいると、ヴァラエティに富んだサウンドを耳にする。本当に様々な文化が融合されているから、サウンドもそれだけヴァラエティに富んでいる。友達の家に行ってバングル・ミュージックを聴いてみたり、クラブに行ってハウス・ミュージックを聴いたり、それがリアルなバックグラウンドで、そういう文化の中で育ってきた自分のルーツをキチンと表現することで、自分のアイデンティティを確認すると同時に、自分の作品にキチンと表現することだけを考えてきた。そのためにも、自分のオリジナルのサウンドを追及することが大事だと理解してきた」

__はい。

「(USサウンドだけを求めるマーケットで)自分は他とは違うアーティストだと思っている。それはバックグラウンドが他とは違うから。ラッパーとしても。ラッパーに対する固定観念ってあるだろ? そういう育ちとは違うバックグラウンドだし、豊かな経験もしてきたと思っている。典型的なラッパーのバックグラウンドよりも、幸せに育ってきた。普通の人間だと思っている。そういう視点から自分は音楽を作り続けたいと思っている。他の人達と同じように夢を追い求めて人生を築いているだけ。最高のアートを作ること。俺はそういう思いでやっているから、すでに自分は他(のラッパー、アーティスト)とは違うアイデンティティを持ったアーティストだと自負している」

__アルバムの収録曲についても教えてください。第1弾シングル「Trampolin」は、プロデュースがディプロですね。アルバムでは、他に「Shape」も彼が手がけていますが、一緒にやってみてどうでしたか?

「彼は本当に素晴らしいプロデューサーだよね。彼とは世界中で顔は何度か合わせてたんだ。フェスティヴァルとかでね。でも一緒に仕事をしたのはこれが初めてだった。何度か会ってるうちに連絡しあうようになって、彼が何曲かトラックを送ってくれて、何度かやりとりしてたんだけど、しばらくして、この「Trampolin」の原型のトラックを送ってくれたんだ。で、絶対にこれを使いたい!と思った。実は(彼と最初に一緒に作った)「Shape」をまず違うビートでレコーディングしてて、後から彼はひねりを加えて、今のサウンドに仕上げてね。ファースト・アルバムの頃から彼とは一緒に仕事がしたいと思ってたから、その機会を得られて最高の気分だったよ」

__前作の大ヒット・シングル「Written In The Stars」を手がけていたイシ(Ishi)は、第2弾シングルの「Children Of The Sun」や「Someday」を手がけていますね。彼とは今や盟友的な関係でしょうか?

「そうだね。一緒に仕事をしている人達みんなと素晴らしい仕事が出来ていて、幸せだと思っているけど、特にIshiとは特別な繋がりがあると思う。一緒に成功を手にしたということも関係しているかもしれないけど、音楽以外でも一緒にツルんでる友達だから、音楽を一緒に作れば、やっぱり他の人達との仕事とは違う相性を感じるよね」

__ジョン・マーティンをフィーチャーした「Children Of The Sun」は、サウンド的にも「Written In The Stars」に通じる、壮大でダイナミックでメロディアスな曲ですが、続編的な狙いはあったのでしょうか?

「そうだね。もちろんそのエレメントはあると思うよ。でも同時に、全く違う曲だとも思う。メッセージが違うしね。でも、似ている部分も多い。「Written In The Stars」は自分でも最高の曲だと思ってるから、もちろんインスピレーションは受けているよ」

__「Looking Down The Barrell」は、ザ・ケミカル・ブラザーズのトム・ローランズがプロデュースした楽曲ですね。彼と一緒にやることになった経緯を教えてください。

「知り合ってからは日が浅いけど、彼らの作品は本当に好きで、ずっと聴いてきて大ファンだったよ。たまたまレーベルに知り合いがいたから紹介してくれて、トラックを聴かせてもらって、すごく気に入ったから使わせてもらうことにしたんだ。今回はオンライン上で仕上げたけど、仕上がりには満足してるよ。彼のようなプロデューサーと仕事をしたことで、このアルバムがどれだけヴァラエティに富んだ作品になのかわかってもらえると思うし、彼と制作したこの曲は、俺の大好きな曲の一つさ」

__その他、今作には2チェインズ、ディジー・ラスカル、ビッグ・ショーン、エミリー・サンデー、ローラ・マーヴラ、ラブリンスなど、豪華なゲスト・アーティスト達がフィーチャーされています。彼らと共演した経緯や制作時のエピソードを、少しご紹介いただけますか?

「2チェインズとは「Trampoline」でコラボしたんだ。3年ぶりということもあって、自分をあらためて紹介するという意味も込めて、エッジの効いた最高のカムバック曲になったと思う。2チェインズは最近ホットなラッパーだし、彼のリリックは楽しいだけじゃなく、かっこよくまとめてくれるから、この曲に色を添えてくれる完璧なラッパーだと思った。それで彼に参加して欲しいと相談して、実現したんだ」

__ローラ・マーヴラはいかがですか。

「ローラ・ムーヴラは最近デビューしたアーティストだけど、このアルバムの制作中に彼女の存在を知って、衝撃を受けたんだ。彼女は音楽も声も最高で、彼女のソウルが気に入ったんだよ。で、ちょうどエミリー・サンデーと一緒に「Heroes」を書いていて…まぁ、エミリーは「A Heart Can Save The World」にも参加してもらったんだけど、「Heroes」に関しては、ローラの声が良いんじゃないかと思うってエミリーに相談して、ローラに参加してもらうことになったんだ。彼女の声はパーフェクトだったね。大好きな曲に仕上がった」

__ディジー・ラスカルについても一言お願いできますか。

「ディジー・ラスカルは、俺が子供の頃からずっと聴いていた、俺にとって最大のインスピレーションを与えてくれたアーティストさ。そんな彼が「Mosh Pit」に参加してくれたのは、最高の気分だったよ。やっぱり彼の影響を強く受けてるなって、自分のラップを聴いてすごく感じた。一緒にエッジの効いたヤバイ曲を作れたし、早くナマで(一緒に)パフォーマンスしたいね! あと、ビッグ・ショーンとは「Shape」でコラボしたんだけど、俺がいま気に入ってるアメリカのアーティストで、彼が参加してくれてうれしかったね。お願いしたら、喜んでやってくれてね」

__これまでの話を聞いていると全ての曲に思い入れがあるようなので、この質問は酷な気がしてきましたが…今作の中でご自身でも特にお気に入りの、思い入れの深い曲は何でしょうか?

「ワオ!全ての曲、全てのコラボレーションを気に入ってるけど、思い入れが深い曲という視点では、やっぱりディジー・ラスカルとの「Mosh Pit」だね。それは、やっぱり俺がいま存在しているのは、彼のおかげだから。彼と一緒に曲をやれるなんて夢のようだったよ。だからこそ、この曲は特に思い入れが深い」

__ちなみに、今作にはシークレット・トラックとして「5minutes」収録されていますが、この曲をシークレットにした理由は?

「いい質問だね。この曲は、他の曲とサウンド的に違うものだと思ったし、アーティストとして新たなサウンドに挑戦した曲で、アルバム全体の流れにはあわない気がしたんだよね。でも、やっぱりみんなにどうしても聴いてもらいたいと思った。だからシークレット・トラックとしてみんなに発見してもらって、楽しんでもらえたらいいなって思ってね」

__個人的には、ぜひシングル・カットしてほしいパワフルな曲だと思うのですが…。

「ありがとう!俺もそう思うよ。聴いてもらえれば、みんなビックリしてくれると思ってるんだ。そして気に入ってくれると思ってる」

__次のシングルは、どの曲になる予定ですか?

「たぶん「Lover Not A Fighter」になる。数日後、実はスペインに行ってビデオを撮影するんだ。この曲はラブリンスとのコラボで、イシのプロデュースさ。一緒に成功を築いてきた仲間との曲だね。すごくうれしいよ」

__ところで、近々来日の予定はありませんか?

「早く来日したいよ。呼んでくれたら飛んでいくよ。このアルバムのプロモで行けたら最高だよ」

__2011年の8月にサマーソニックで来日したのが、初めての日本でしたか?

「それが初めてだった。最高だったよ。ただ、あんなに暑いとは思ってなかったんだ。単純な思い込みなんだけど(笑)。それと、エレベーターの中に椅子があったり、あんなの初めて見たな。それに、空港の入管も荷物の受け取りも、何もかもがスムースで、対応も親切で、あんな空港は他の国にはないよ。それとトイレ!ビックリしたよ。日本では今までに見たこともないものばかりを発見して、本当に興奮した。あと、大阪でショッピングに行ったんだけど、いろんなものが売っていて、他では見つけられないようなものをお土産で買うことが出来たよ。日本の人達も最高だし、日本食は…実は世界のどこにいても日本食を食べるほうだね。本格的な、本物の日本食を食べられて感動した。また早く戻って、みんなに会いたいよ」

__では、最後に日本のファンにメッセージをお願いします!

「コンニチワ! サポートしてくれてありがとう! 新しいアルバム『Demonstration』が最高の出来になったんだ。ゲットして、聴いて、楽しんで、サポートして、喜んでくれて、ビデオを楽しんで、ツイッターでつぶやいて、シェアして、インスタして、広めてくれたら嬉しいよ! みんなの声も聞きたいんだ。みんなが何を求めているのか分かれば、みんながもっと喜ぶような音楽を作り続けて、届け続けたいと思ってる。遠く離れていても、そうやってみんなと繋がっていたいね。楽しみにしててくれ! ずっとサポートしてくれてありがとう!」

interview: Kana Muramatsu
photo: DavidSlijper


【リリース情報】

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Tinie Tempah
Demonstration
(JPN) Warner/Parlophone / WPCR-15296
2013年11月27日発売
HMVでチェック

tracklisting
01. Someday (Place In The Sun) (feat. Ella Eyre)
  サムデイ (プレイス・イン・ザ・サン) (feat. エラ・エア)
02. Trampoline (feat. 2 Chainz) [1stシングル / UK3位]
  トランポリン (feat. 2チェインズ)
03. Don’t Sell Out
  ドント・セル・アウト
04. It’s OK (feat. Labrinth)
  イッツ・OK (feat. ラブリンス)
05. Mosh Pit (feat. Dizzee Rascal & Ty Dolla $ign)
  モッシュピット (feat. ディジー・ラスカル & タイ・ダラー・サイン)
06. Looking Down The Barrel
  ルッキング・ダウン・ザ・バレル
07. Children Of The Sun (feat. John Martin) [2ndシングル / UK6位]
  チルドレン・オブ・ザ・サン (feat. ジョン・マーティン)
08. Witch Doctor (feat. Candice Pillay)
  ウィッチ・ドクター (feat. キャンダイス・ピレイ)
09. Shape (feat. Big Sean)
  シェイプ (feat. ビッグ・ショーン)
10. Lover Not A Fighter (feat. Labrinth)
  ラヴァー・ノット・ア・ファイター (feat. ラブリンス)
11. A Heart Can Save The World (feat. Emeli Sande)
  ア・ハート・キャン・セイヴ・・ザ・ワールド (feat. エミリー・サンデー)
12. Tears Run Dry (feat. Sway Clarke II)
  ティアーズ・ラン・ドライ (feat. スウェイ・クラークII)
13. Lost Ones (feat. Paloma Faith)
  ロスト・ワンズ (feat. パロマ・フェイス)
14. Heroes (feat. Laura Mvula)
  ヒーローズ (feat. ローラ・マヴーラ)
15. Trampoline (feat. 2 Chainz) [MONSTA Remix]*
  トランポリン (feat. 2チェインズ) [モンスタ・リミックス]
16. Trampoline (feat. 2 Chainz) [Shift K3Y Remix]*
  トランポリン (feat. 2チェインズ) [シフト・K3Y・リミックス]
17. 5 Minutes **
  5ミニッツ
*:Bonus Tracks
**:Secret Track

【オフィシャルサイト】
http://wmg.jp/artist/tinietempah/
http://www.tinietempah.com/

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