Underworld『Dubnobasswithmyheadman』20周年記念リマスター:Karl Hyde インタビュー


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’90年代、さらに’00年代を通じて、クラブ/ダンス・ミュージック・シーンを代表するアーティストとして活躍してきたUnderworld(アンダーワールド)。Rick Smith(リック・スミス)とKarl Hyde(カール・ハイド)からなるブリティッシュ・クラブ・カルチャーが生んだ偉大なダンス・アクトです。「Rez」「Cowgirl」「Dark & Long (Dark Train)」「Born Slippy, Nuxx」「Moaner」「Jumbo」「Two Months Off」といった名曲の数々は、ダンスファンならずとも一度は耳にしたことがあるでしょう。

1994年初頭にリリースされ、英メロディ・メイカー誌が“『The Stone Roses』以降最も重要かつ、『Screamadelica』以降最高のアルバム…”と評した彼らの『Dubnobasswithmyheadman』は、’90年代初頭にDJのDarren Emerson(ダレン・エマーソン)をメンバーに迎え入れ再スタートをきった新生Underworld(当時からのファンは、この区切りを“Underworld Mk2”とも称します)が、ダンス・アクトとして不動の地位を獲得したファースト・アルバムにして、時代を象徴する名盤です。

その『Dubnobasswithmyheadman』のリリース20周年記念リマスターが、このたび日本盤化されました。本国では先にリリースされ、それに合わせてアルバムの再現ライブ・ツアーも開催されるなど、既に話題を呼んでいる本作。その内容は、リックの手によりアビーロード・スタジオで入念にリマスターされたオリジナル・アルバムに加え、2CDのデラックス・エディションにはアルバム未収録のシングル曲(名曲ばかりです)と今回初出となる未発表トラック集を、6CDのスーパー・デラックス・エディションには、さらに多数のシングル曲、リミックス・バージョン、未発表トラックやリハーサル音源、そして60ページ・オリジナル・ブックレット等を収めた決定盤となっています。

というわけで、ここでは本作『Dubnobasswithmyheadman』の20周年記念リマスターと、当時のアルバム制作と新生Underworldの背景について、カール・ハイドに話を聞きました。ちなみに、iLOUDの前身であるLOUD Magazineの創刊号(1994年)は、Underworldが表紙だったんですよ~。


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Underworld『Dubnobasswithmyheadman』20周年記念リマスター
Karl Hyde インタビュー

__今回『Dubnobasswithmyheadman』をリマスターするにあたって重視した点や、苦労した部分などについて教えてください。オリジナルのMIDIファイルを聴き直したとのことですが、その印象はいかがでしたか?

「リマスターにはリックが深く関わったんだけど、僕らは古い音源特有の問題を抱えて、このプロジェクトをスタートすることになったよ。音源がもともと12トラックのテープに録音されていたこと、そして僕らのテープ・マシンがもはや使えない状態だったことで、まだ動く古い機材を見つけなければいけなかったから、まずはそれを見つけるのにしばらく時間がかかかったね。古いタイプのサンプラー用フロッピー・ディスクに入っている音源や、パフォーマンスみたいな形式で作られていたミックスの多くが“箱の外”、つまりコンピューター内にない形式で残されていたから、簡単に読み込むことができなかったりもした」

__それは大変な作業でしたね。

「結局、リックがオリジナルのサウンドを見つけて、アルバムを再現するまでには何ヶ月もかかったよ。サウンドのいくつかは結局見つからなくて、断片から作り直さなければならなかったしね」

__もともとあなた達が『Dubnobasswithmyheadman』を通して実現したかった音楽とサウンド、そしてアルバムのコンセプトやテーマなどは、どのようなものだったのでしょうか?

「僕らは、当時周囲で流れていた音楽と、ダレン・エマーソンのクラブ・ミュージックにおけるセンス、そして作品にダンス・ミュージック以外の部分からスタイルやサウンドを持ち込んで、僕ら自身の非常に折衷的な音楽の趣味を混ぜ合わせるところから音楽をつくっていったんだ。最初は、アルバムをつくるつもりはなかったんだよ。そういった世界からは離れて、12インチをリリースしていればハッピーだって思っていたからね」

__それがダンス~クラブ・ミュージックの文化でもありますからね。

「でもリックが数曲の12インチや僕らが録音していた他の曲をまとめ始めて、少しずつアルバムの形ができ始めたんだ。そうすることが正しいか否かは、僕らにもわからなかった。それでもリックは、自分にどんなものがつくれるか見極めようとこのプロジェクトを進め続けて、Junior Boy’s Own Records(彼らの所属レーベル)も、この実験を応援してくれたんだ」

__今回のリマスターで新たに発表されたDisc 4の未発表トラック集や、Disc 5の“LIVE JAM KYME RD”を聴くと、当時のUnderworldは何回もセッションを繰り返し、いくつものテイクをレコーディングしながら各曲を仕上げていたということがよく分かります。当時の曲づくりのプロセスとは、どのようなものだったのでしょうか?

「当時の僕らの曲づくりを、とても単純に説明してみるよ。まず、リックが自宅スタジオで新しい曲をつくったり実験したりして、時にはインスピレーションを感じた12インチを聴いたりしている。ダレンが一緒の時もあったし、一人きりでやっていた時も多かったね。そして僕は、毎晩ストリートの上で聞いたり、見たり、匂いを感じたり、味わったり、考えたりしたことを記録して、それを全てスタジオに持ち帰る。で、そうした経験を歌詞として使って、リックがレコーディングしていた音楽に合わせて即興で歌を入れる。同じ部屋にみんな一緒にいて、一緒に作曲することもあった。時には僕が歌っているのに合わせて、リックがミックスしたり即興で演奏したりして、音楽で会話をしながら、サウンドを使った予想のつかない旅を生み出すこともあった」

__なるほど。

「こうすることで、僕らは他の人たちとは違う曲の構造を、自由につくり出せるようになったんだよ。以上はかなり簡単に色々な作業を説明したものだけど、僕らの作業方法をちょっとだけイメージできるような、ヒントにはなってると思う」

__「Can You Feel Me? (from A4796)」や「Concord (3 Comp75 id9 A1771 Aug 93A)」を筆頭に、興味深い音源ばかりでした。当時セッションやレコーディングを重ねながら、どんな要素や瞬間をフックアップし、何をボツにしていたのか、思い出せますか?

「無理だね…。かなり昔のことだし、ジャムをする目的って、深く考え込んだり振り返ったり、それがどうなるか予想したりすることから自由になって、その瞬間にいるってことだから。それが本物のジャムが持っている美だし、予測や先入観を解き放ち、予想もしていなかった結果を生み出すために自分達の経験を結びつけることに集中しようとする、オープンな心を持った者どうしの間で交わされる音楽の会話なんだ」

__ところで「Mmm… Skyscraper I Love You」と「M.E.」に入っている日本語の女性の声は、誰なんですか?

「Tomatoのサイモン・テイラーが日本人女性と結婚していたから、彼女に言葉を録音して欲しいって頼んだんだよ。僕らの言葉を他の人の声が話しているサウンドって、すごく好きなんだよね」

__Disc 2のシングル集とDisc 3のリミックス集については、どのような基準で選曲を行いましたか? 例えば「Bigmouth」「Why, Why, Why」などの12インチ曲は、今回未収録ですね。

「何を収録するかは、(Junior Boy’s Ownの)エグゼクティヴ・プロデューサー、スティーヴ・ホールが決めたものが多いんだ。彼はずっとJunior Boys Own Recordsと関わってきた人だし、’90年代初期の最初の頃から僕らと仕事をしてくれてるから」

__当時のUnderworldの12インチの中でも特に話題を呼び、歴史的なトラックにもなった「Rez」は、どのようにして誕生した曲でしたか? また、オールタイム・クラシックとなるような反響は想像していましたか?

「これに関しては、リックはこんな風に言っていたよ。その時、彼は自分の心を動かした何か、すごく力強い何かを曲に書こうと必死になっていたんだけど、なかなか上手くできずにいた。最終的に彼は作業を止めて、とてもがっかりした気持ちのままスタジオを後にした。スタジオと言っても、当時は小さな家の中の小さなベッドルームだったわけだけど。そして彼は妻に向かって、“自分は価値があるものなんかこれ以上何も書けない”と言った。つまり、彼の音楽的なキャリアはそこで終わりだ、という意味合いでね。そうしたら彼女は彼に向かって、“スタジオに戻って、すばらしいと思えるものができ上がるまで出てこないように”って言ったんだ。そして誕生したのが「Rez」なんだよ。いい話だと思わない?」

__いい話ですね。では、今回シングルやリミックスも含めて、当時の音源をまとめて聴き返すという作業は、いかがでしたか?

「僕にとって、昔のレコードを聴くのは大変なことなんだ。アルバムを聴くのは、それが好きだからという理由と、ライブでプレイするために聴いて曲を覚えなければいけないという理由がある。でも僕にとって過去というのは、振り返って立ち戻るのが苦痛な場所なんだ。ありがたいことに、スティーヴ・ホールが全部の音源を聴いて、ダレン・プライスと一緒に僕らのアーカイヴを探してくれて、それからリックが時間をかけて作業をしていった。リックはいつもものすごい時間を費やして、マテリアルの聴き直しをするんだよ。(でも)僕はもっと“今”という瞬間に生きるタイプの人間なんだよね。インプロヴァイズしている時が一番幸せなんだ」

__そもそも’90年代の初頭に、あなた達がUnderworldをダンス・アクトとして再出発させようと思った動機や経緯は何だったのでしょうか?

「僕らは何度もレコード会社に契約を打ち切られて、お金はないが多額の借金はある、という状態だった。8年かけて4枚のアルバムを出しだけど、他のアーティストの出来の悪いヴァージョンみたいに聴こえるものしかつくれていなかった。僕らは、ポップスターになろうとしていたんだよね。そうしたものが全部失敗した時、同じやり方を続けていても未来なんかない、ってことになった」

__はい。

「(ただ)リックは、僕らがいつもレコード契約をしてつくっていた音楽は、ダンス・カルチャーにルーツを持つ、エレクトロニック・ビートがリードする音楽だということに気付いたんだ。そしてまた、レコード会社がない状況では、バンドや音楽のプロモーションをしようとしても、プレスもテレビもラジオも使えないけど、イギリスにはダンス・ミュージック周辺に巨大なアンダーグラウンド・カルチャーが存在して、それが新しい音楽を買いたがっているたくさんのダンスファンとアーティスト達をつなげてくれているってことにも気付いたんだ。リックは、これが僕らの進むべき道だって決心して、最終的に僕も同意したんだよ」

__当時、新たにダレン・エマーソンを迎え入れた経緯は何だったのでしょうか。また、彼の存在はUnderworldに何をもたらしてくれましたか? 結果的に、当時のUnderworldはとてもユニークな編成のダンス・アクトになったわけですが。

「ダンス・ミュージックをつくるために、リックは誰かこのカルチャーにとても詳しい人から、ダンス・カルチャーを学ぶ必要があるって思ったんだ。そして、かなり熱心なクラバーだった彼の義理の兄弟に、“一緒に曲をつくれる最高のDJって誰?”って訊いたんだよ。で、名前が挙がったDJ達の中で、ダレンは一番若かった。でもすごい偶然なんだけど、彼は目と鼻の先みたいな場所に住んでいたんだよね。彼の年齢(当時19歳)は重要だったな。彼には、熱意と、何にも囚われないエネルギーと、“自分には何だってできる”という若いアティテュードがあった。それに彼は、僕にギターを弾き続けて、レコードでもプレイするよう勧めてくれた人だしね。彼が当時そう言ってくれなければ、僕は今頃ギターを全部売り払って、弾くことも諦めてしまっていたはずさ!」

__ふり返ってみて、『Dubnobasswithmyheadman』はあなた達にとってどのような位置づけの、どのような意義のある作品ですか?

「僕にとっては、Underworldのお気に入りアルバム、だね」

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__UKでは『Dubnobasswithmyheadman』の再現ライブも行って、話題をさらっていますね。日本でも機会があれば再現ライブを行いたいと考えていますか?

「イエス、イエス、イエス、イエス、イエス、イエス…もちろん、イエス!!」

__最近あなたとリックは、それぞれ別プロジェクトの活動も活発ですね。最後にUnderworldの未来、今後のビジョンについて教えてください。

「Underworld――リックとカールが曲を書き、新しいアートを創り、一緒にツアーをしている――の未来か…。全然ヴィジョンがないって言ったら、どんな風に思われるかな…。でも、実際そう言えるって、ハッピーなことなんだよ。僕らがやっているのはジャムであり、実験であり、二人のオープンな心を持ったもの同士が自分達の経験を部屋の中に持ち寄り、それをお互いに自由に出し合った結果、生まれてくるものだから」

__そうですね。

「Tomatoがこれを表現する完璧な言葉を使っている。“PROCESS”(Tomatoが1996年に出版したデザインブックのタイトル)。大事なのは到達することではなく、旅をすること、それ自体なんだ」

Interview: iLOUD


【リリース情報】

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Underworld
Dubnobasswithmyheadman
20周年記念リマスター
スーパー・デラックス・エディション(6CD)
UICY-76823/8
HMVでチェック
※初回限定盤6CD
※2014年リマスター@アビー・ロード・スタジオ
※日本盤のみSHM-CD

※60ページ・オリジナル・ブックレット

※輸入国内盤仕様

※オリジナル・アルバム収録曲と共にMIDIファイルで保存されていた未発表音源を多数収録
※日本盤ボーナスディスクには2005年の来日公演で収録されたトラックを3曲収録
※ジョン・サヴェージによるエッセイ訳、解説:佐久間英夫、日本語ブックレット付

tracklist
DISC 1:オリジナル・アルバム(2014年リマスター)
1. DARK & LONG
2. MMM…SKYSCRAPER I LOVE YOU
3. SURFBOY
4. SPOONMAN
5. TONGUE
6. DIRTY EPIC
7. COWGIRL
8. RIVER OF BASS
9. M.E.

DISC 2:シングルズ 1991-1994(2014年リマスター)
1. THE HUMP (WILD BEAST)
2. ECLIPSE
3. REZ
4. DIRTY
5. DIRTY GUITAR
6. DARK & LONG (HALL’S EDIT)
7. DARK & LONG (DARK TRAIN)
8. SPIKEE

DISC 3:リミキシーズ 1992-1994(2014年リマスター)
1. MMM…SKYSCRAPER I LOVE YOU (JAM SCRAPER)
2. COWGIRL (IRISH PUB IN KYOTO MIX)
3. DARK & LONG (MOST ‘OSPITABLE MIX)
4. MMM…SKYSCRAPER I LOVE YOU (TELEGRAPH 16.11.92)
5. DARK & LONG (BURTS MIX)
6. DOGMAN GO WOOF
7. DARK & LONG (THING IN A BOOK MIX)

DISC 4:未発表トラックス 1991-1993(2014年リマスター)
1. CONCORD (3 Comp75 id9 A1771 Aug 93A)
2. DARK & LONG (1st ruff id3 A1551 2)
3. MMM…SKYSCRAPER I LOVE YOU (A1765 Sky Version id4. Harmone6 COMP43)
4. MMM…SKYSCRAPER I LOVE YOU (After sky id6 1551 2)
5. CAN YOU FEEL ME? (from A4796)
6. BIRDSTAR (A1558 Nov 92B.1)
7. DIRTY EPIC (Dirty Ambi Piano A1764 Oct 91)
8. SPOONMAN (version1 A1559 Nov92)
9. ORGAN (Eclipse version from A4796)
10. COWGIRL (Alt Cowgirl C69 Mix from A1564)

DISC 5:LIVE JAM KYME RD [未発表ライブ・リハーサル音源:1993年ホームスタジオにて録音](2014年リマスター)
1. MMM…SKYSCRAPER I LOVE YOU
2. IMPROV 1
3. BIGMOUTH
4. IMPROV 2
5. BIG MEAT SHOW
6. IMPROV 3
7. SPOONMAN

DISC 6:Live In Tokyo 2005 [日本盤のみのボーナス・ディスク]
1. MMM…SKYSCRAPER I LOVE YOU (Live In Tokyo 2005)
2. REZ (Live In Tokyo 2005)
3. DARK TRAIN (Live In Tokyo 2005)


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Underworld
Dubnobasswithmyheadman
20周年記念リマスター
デラックス・エディション(2CD)
UICY-15342/3
HMVでチェック
※2CD
※2014年リマスター@アビー・ロード・スタジオ

※日本盤のみSHM-CD

※オリジナル・アルバム収録曲と共にMIDIファイルで保存されていた未発表音源を収録
※日本盤には2005年の来日公演で収録された音源をボーナストラックとして1曲収録
※ジョン・サヴェージによるエッセイ訳、解説:佐久間英夫、日本語ブックレット付

tracklist
DISC 1:オリジナル・アルバム(2014年リマスター)
1. DARK & LONG
2. MMM…SKYSCRAPER I LOVE YOU
3. SURFBOY
4. SPOONMAN
5. TONGUE
6. DIRTY EPIC
7. COWGIRL
8. RIVER OF BASS
9. M.E.

DISC 2:シングルズ&未発表トラックス(2014年リマスター)
1. ECLIPSE
2. REZ
3. DIRTY
4. DARK & LONG (DARK TRAIN)
5. SPIKEE
6. CONCORD (3 Comp75 id9 A1771 Aug 93A)
7. CAN YOU FEEL ME? (from A4796)
8. BIRDSTAR (A1558 Nov 92B.1)
9. REZ (Live In Tokyo 2005) [日本盤ボーナストラック]


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Underworld
Dubnobasswithmyheadman
20周年記念リマスター
UICY-25427
HMVでチェック
※1CD
※2014年リマスター@アビー・ロード・スタジオ

※日本盤のみSHM-CD
※日本盤には「Rez」をボーナストラックとして収録
※解説:佐久間英夫

tracklist
1. DARK & LONG
2. MMM…SKYSCRAPER I LOVE YOU
3. SURFBOY
4. SPOONMAN
5. TONGUE
6. DIRTY EPIC
7. COWGIRL
8. RIVER OF BASS
9. M.E.
10. REZ [日本盤ボーナストラック]

【オフィシャルサイト】
http://www.universal-music.co.jp/underworld
http://www.underworldlive.com/

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