Zak Waters『Lip Service』インタビュー


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LA出身のシンガー・ソングライター、Zak Waters(ザック・ウォータース)。Madeon(マデオン)の「The City」でボーカルを担当したことでも注目を集める彼は、ソングライターやプロデューサーとしての活動はもちろん、Adam LambertやAll American Rejectsといったアーティストのリミックスも手がけなどして、近年活躍の場を広げている新星です。

そのZak Watersが、12/4に初のフル・デビュー・アルバム『Lip Service』を日本リリースします。彼独特のキャッチーでダンサブルなポップ・センス、メロディー・センスが光る「Runnin Around」「Skinny Dipping in The Deep End」といったシングル曲はもちろん、カーティス・メイフィールドのカバー「Move On Up」や「The City (Acoustic Version)」なども収録した注目作です。

ここでは、本作『Lip Service』の内容と自身の音楽的背景について語った、Zak Watersのインタビューをご紹介しましょう。


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Zak Waters『Lip Service』インタビュー

2012年にフランスのDJ、Madeon(マデオン)の『The City』が世界的にヒットした。

その曲にマデオンから熱望されて、ソングライティング&ヴォーカルで参加したのがザック・ウォータースだ。リミックスも多く手懸けているので、そのクレジットで彼の名前を知っている人も多くいるだろう。LA出身の26歳だ。

2011年にEP『New Normal』をリリースしているが、初めてのフルアルバム『Lip Service』で日本デビューとなる。デビューに先駆けて、インタビューをしたので、それをもとにザック・ウォータースをご紹介していきたい。

1987年1月22日にLAで生まれたザックは、自身のFacebookで高校時代にパフォーマンスを始めたと書いているが、それは3年生の時のことで、それまでは自分が音楽に興味があることは内緒にしていた。というのは、高校ではフットボールやレスリングのチームに在籍していた硬派のスポーツマンだった。だから、自分の中に「歌うなんて男らしくないかもしれない」という思いがあり、家族の前でも歌わず、秘かにベッドルームで歌を楽しんでいた。

でも、音楽は生まれた時からいつも身近にあった。5歳まで一緒に暮らした父親は、メタリカやパンテラ、スイサイダル・テンデンシーズが好きだった。その後母親が再婚した義父がR&B好きだったので、新しい家族が出来てからはルーサー・ヴァンドロス、ジョニー・ギル、ベイビーフェイスの歌がいつも家に流れていた。初めて行ったコンサートは、ブライアン・マックナイトだった。

そのうち成長するなかで、ザック自身が好きになったのは2パックやディアンジェロ、ミュージック・チャイルド、アンソニー・ハミルトンといったアーティストであり、とりわけマイケル・ジャクソンやアッシャー、マーヴィン・ゲイ、ルーベン・スタッダードに影響を受けてきた。

「何時間も部屋に閉じこもって、彼らと同じような音が出るまで何度でも歌い、繰り返し自分の歌を録音した。彼らの歌を真似することで、自分の音楽の方向性を見出すことが出来たんだと思う」

そして、彼に音楽を演奏する楽しさを教えてくれたのはトロントに住む祖父だった。ある時期、ザックは数年間祖父母と一緒に暮らしていた。祖父は、仕事から帰ってくると、リビングルームでギターを弾き、歌っていたという。

「祖父は、僕にギターの弾き方を教えてくれて、リビングルームで一緒に演奏し、音楽を通して楽しい時間を過ごすことが出来た。今思い出しても光り輝く最高の時間だった」

そんな彼の転機になった出会いがふたつある。ひとつは、Jarrad Kとの出会いだ。Blueskyrealityというバンドを離れた後、ザックは、原点に戻り、自分の気持ちに正直な音楽を作ることを決意する。その頃に出会ったのが現在共同でプロデュースしたり、共作をしているJarrad Kで、2人は意気投合する。

「彼とはお互いの苦手な部分を補うカタチで、ソングライティングとプロデュースが出来るので、完璧なんだ。最初に2人で、オールド・ファンクのコードを発展させつつ、モダンなメロディーと融合させた曲「In The Kitchen With The Lights On」を試行錯誤しながら作り上げた。この曲が出来たことで、EP『New Normal』が生まれたんだ。新たなことにいろいろ挑んだ実験的な作品だった」

彼の言葉は、前述したように事前に行われたインタビューからの抜粋だが、どの質問にもエピソードを交えつつ、丁寧に答えてくれるので、情景が浮かび、彼の優しく、真面目な人柄が伝わってくる。

そして、もうひとつが冒頭でも触れたマデオンとの出会いだ。彼とはレコード会社の紹介で知り合った。

「UKのアーティスト、Rachel Furnerの仕事をしている時に彼女のA&Rからプロデュースを手懸ける16歳の少年と一緒に仕事をしてみないかと打診された。最初は、16歳かよ、みたいな反応だったけれど、Jarrad Kと一緒に彼の曲を聴いて、ぶっ飛んだ。それからメールでの交流が始まり、どんなシンセサイザーやプラグインを使っているのかとか、そういうやりとりが続いた。そして、2年前に「The City」のトラックが届き、作曲をしてくれないかと頼まれた。この曲がヒットしたことで、僕の知名度は上がったし、他のプロデューサーと仕事をする機会も増えた。僕のキャリアに多大な影響を及ぼしたと思う」

その「The City」のアコースティック・ヴァージョンがここ(本作)に収録されている。

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さて、本作『Lip Service』は、彼が語ったEP『New Normal』の延長上の“ネクスト・レベル”の作品を意識してレコーディングされた。アルバムの制作は、約2年前からスタート。このプロジェクトだけに専念するわけにはいかない現実もあり、制作は時間をかけながらゆっくり進められた。基本的なヴィジョンは、“ファンキーでソウルフル、かつポップ”な音楽を作ることだった。

「僕は、ダンス・ミュージックを愛している。ダンスというのは笑顔と同じように、人間にとって喜びを表現する最もプリミティヴな方法だと思う。僕は、いつも不可能を可能にするような音楽を作りたいと考えている。たとえば、いかにも生真面目な風貌の白人男性が僕の音楽に合わせて、思わず踊り出してしまう。そんな光景を見ると、すごく幸せな気持ちになるんだ。ただ、このデビュー・アルバムでは楽しく弾けたダンス・ミュージックを多少抑えてでも、自分の奥深くにある深層心理のようなものを掘り下げてみたいと思った。シリアスな哀しみを内包した曲を書き、歌ってみたいと思った。そこから生まれたのが「Dear John」であり、「Over You」だった」

その「Dear John」にオードラ・メイが参加している。ジュディ・ガーランドを大叔母に持つシンガー・ソングライターだ。彼女は、共作者に名を連ね、一緒に歌ってもいる。

約2年の制作期間でザックは、オードラ・メイをはじめ、さまざまな人とコラボレーションを試みた。たとえば、「Sleeping In My T-Shirts」ではBoots OttestadとSilly Nymoenと共作している。

「彼らとは初めてだった。雑談のなかで、誰かと家に帰り、朝起きて昨晩の出来事を振り返ってガッカリした、という昔話で盛り上がった。でも、もし朝ガッカリしたとしても、その相手に好意が芽生えていったらどうなるか、というストーリーを考えたところからこの曲が生まれた。最初デモのつもりだったので、ヴォーカルを含む全てをスタジオのキッチンで、ラップトップを使ってレコーディングした。アルバムで最初に出来た曲でもある」

この曲が本当にキュート。ドリーミングな雰囲気に溢れ、初めてアウル・シティを聴いた時と同じような幸せな気持ちに包まれた。ザックはきっとロマンティスト。彼の本質が垣間見えるような曲になっていると思う。個人的にも大好きな曲だ。

「アルバムからの1stシングル、「Runnin Around」は、当時のガールフレンドに彼女への思いを伝えるにはどうしたらいいかと考えて書いた曲だった。僕としては生涯最後のガールフレンドが君なんだ(おそらく結婚したいと思っていたんですね)。そうこの曲で語りかけたかったんだけれど、ちゃんと曲を聴かせる前にケンカ別れしてしまった。この曲の歌詞に出てくる“Other Girls”という言葉に腹を立てたのかもしれない(笑)」

「「Skinny Dipping in The Deep End」は、僕もJarrad Kも映画『終わりで始まりの4日間』が好きで、特にみんなが裸でプールに飛び込むなか、ザック・ブラフが演じるアンドリューだけは恐怖から飛び込めずにいるシーンがお気に入りで、それにインスパイアされて書いた曲だ。書いている時はYouTubeで無声映画をずっと見ていた。プロモーションビデオのアイディアもそこから生まれた。遊び心があり、なおかつちょっとノスタルジックな雰囲気があるような、飲み過ぎて自制心を失った真夏のある出来事を思い出させるようなアンセムになっている」

マイケル・ジャクソンらの歌を真似することで磨かれていったソウルフルなヴォーカル・スタイル。ダンスの喜びを世界中に届けたいという思い。ポップでキャッチーな曲の価値を知り、マデオンのトラックを天才と称賛する感性。ロマンティックな性格。それらの要素が全て融合された音楽をザック自身は、“ネオ・ファンク・ポップ”と呼ぶ。

「デビュー・アルバムも迷わずJarradとふたりでプロデュースしようと思った。僕にとってプロデュースは、歌うのと同じくらい大切な存在であり、時として最高の喜びにもなるから。僕らは、多くの人が体験していないようなユニークなサウンドを作り上げたいと願い、それが実現できたと思っている。ただ、曲作りから始まり、プロデュース、ミキシング、マスタリングまで自分で手懸けるのは想像以上に大変だった。マスタリングを終えた段階で2人とも疲労困憊だった。自分の作品に対して客観的になる難しさも経験した。それだけに完成した喜びは大きく、アルバムは純粋に僕だけが詰まった作品になっているし、僕がどんなアーティストになりたいと思っているかを語ってくれていると思う」

最後にそんな誇りでもあるデビュー・アルバムのタイトルをなぜ『Lip Service』にしたのか聞いた。

「ちょっとした言葉遊びもあるんだ。子供の頃義父は、僕が嘘をついていると感じたり、口応えしていると思った時、お世辞(Lip Service)なんて言うな、というのが口癖だった。正直言うと、なかなかタイトルが決まらなかった。Jarradや友達、マネージャーとやりとりしたメールのスレッドを読み返しながら、誰かがちょっと面白い切り口を考えているのを見つけた。それが義父の言葉と重なり、自分の人生のなかで経験してきたことを正直に伝える、という意味を込めて『Lip Service』というタイトルにしたんだ」

あのヒットメーカーのダイアン・ウォーレンもザック・ウォータースの才能を高く評価しており、彼女が書いた曲をプロデュースしたりしている。これはすごいこと。大御所のお墨付きってことだから。今後の活躍が楽しみな逸材のデビューである。

2013年11月
服部のり子


【リリース情報】

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Zak Waters
Lip Service
(JPN) Manhattan Recordings / LEXCD13033
12月4日発売
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tracklisting
01. Runnin Around
02. Skinny Dipping in The Deep End
03. $500
04. Over You
05. Dear John
06. By the End of the Night
07. Neon Sun
08. Penelope
09. Move On Up
10. Song of the Summer
11. TNT
12. Heartbreak In The Making
13. Sleeping In My T-Shirt
14. The City (Acoustic Version)

【VIDEO】


【オフィシャルサイト】
http://manhattanrecordings.jp/
https://www.facebook.com/zakwatersmusic

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