GORILLAZ『THE FALL』特集


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昨年、待望のサード・アルバム『プラスティック・ビーチ』をリリースした、世界で最も有名なヴァーチャル・バンド、GORILLAZ。彼らが、約1年という短いインターバルで、早くも最新アルバム『ザ・フォール』を、4/20に公式リリースします。本作は、GORILLAZが昨年10月3日から約1ヶ月をかけてまわった”エスケープ・トゥ・プラスティック・ビーチ・ワールド・ツアー”北米公演時に制作された楽曲をまとめたもので、もともとは、GORILLAZのファンクラブ会員へのプレゼントとして、昨年クリスマスに公式サイト(http://gorillaz.com/)で配信されたもの。その内容は、北米ツアーの旅日記として、デーモン・アルバーンがiPadと様々な楽器を用いて制作していったサウンドの数々を楽しめる、興味深いものとなっています。

ここでは、そんなGORILLAZ最新作『ザ・フォール』の内容を、詳しくご紹介しましょう。なお、本作の日本盤には、特典として、ジェイミー・ヒューレットが全米ツアーにインスパイアされて制作した、“The Star-Strangled Banner”(スターがこんがらがった旗、の意/ちなみに、星条旗は、“The Star-Spangled Banner”という)と題された、描きおろし新作ポスター(縦69cm×横48cm/作品イメージは、本誌の表紙をご参考にどうぞ)などが封入されています。


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GORILLAZ

全米ツアー1ヶ月の旅を音楽で記録した、
ロードムービー仕立てのスペシャル・ニュー・アルバム

マードック(B:’66年生/UKストーク・オン・トレント出身)、ヌードル(G:’90年生/大阪出身)、2D(Vo:’78年生/UKクローリー出身)、ラッセル・ホブス(Dr:’75年生/NYC出身)の四名からなる、デーモン・アルバーンとジェイミー・ヒューイットがつくり出したスーパー・ヴァーチャル・バンド、GORILLAZ。2001年に『GORILLAZ』でセンセーショナルなデビューを果たして以来、『ディーモン・デイズ』(’05)、そして昨年の『プラスティック・ビーチ』と、アルバムを発表するたびに大きな話題と反響を巻き起こしてきた、言わずと知れたビッグ・アーティストだ。’06年の第48回グラミー賞で、“最優秀ポップ・ボーカル・コラボレーション賞”を受賞したことを筆頭に、過去、各国の音楽賞に作品がノミネートされ、受賞を果たしてきたこともご承知の通り。アルバム・セールスは、『GORILLAZ』と『ディーモン・デイズ』のみで、1,200万枚を超える数を記録するに至っている。

そんなGORILLAZが、話題を振りまいたばかりの『プラスティック・ビーチ』から約1年という短いインターバルで、最新アルバム『ザ・フォール』を緊急リリースした。当初は、GORILLAZのファンクラブ会員へのプレゼントとして、昨年クリスマスに公式サイト(http://gorillaz.com/)で配信された本作。その内容は、これまでにリリースしてきた、レア・トラックやリミックスをコンパイルした『G-SIDES』(’01)、『D-SIDES』(’07)といったスペシャル・アルバムとは、全く性格が異なるものとなっている。この『ザ・フォール』は、昨年秋に行った<エスケープ・トゥ・プラスティック・ビーチ・ワールド・ツアー>北米公演の、なんとその約1ヶ月間のツアーで制作した曲をまとめたオリジナル・アルバムなのだ。GORILLAZのストーリー上では、実質上2Dのソロ作品に近い位置づけの、特殊なアルバムだという。

昨年10月3日にモントリオール(カナダ)からスタートし、前半はボストン、ニューヨーク、デトロイト、トロント(カナダ)、シカゴなど、北部の街をめぐり、中盤はミネアポリス、ヒューストン、ダラス、オースティン、デンバー、フェニックスと、南部~中部の街をめぐり、後半はロサンゼルス、サンディエゴ、オークランド、シアトル、そして最後に11月3日のバンクーバー(カナダ)と、全19都市をめぐったこのツアー。約1ヶ月という期間は、ツアーとしては比較的長期かもしれないが、ライブの合間をぬってアルバムをゼロから制作するには、短かすぎる時間だろう。

しかし、このツアーが始まろうとしていた時、デーモン・アルバーン/2Dは思ったのだそうだ、“この旅を音楽で記録しよう”と。そして、今作の制作に大きな貢献を果たしたのは、iPadという文明の利器だったという。豪ABCのラジオ・プログラム、Triple J(www.abc.net.au/triplej/)で、今作を制作した経緯と、その制作環境について、デーモンは次のように語っている。
「部屋にあったいくつかの楽器もプレイしたけど、直前までは、カセットと4トラック(のマルチレコーダー)をいつも使ってたんだ。6~7年前にも、似たような別のアルバムをつくったんだけど、その時は、ペダル(・エフェクター)、カセット、4トラックを、デカい立派なスーツケースに入れて、引っ張りまわさなくちゃいけなかった。本当にローファイなレコードだったよ。でも、今作はローファイじゃない。ただiPadっぽいね」

デーモンは、iPadを使ったことについて、こう語る。
「基本的に、壁をじっとにらみつけて過ごす時間がたくさんあったから、そうしたんだ。アルバムづくりには、ファンタスティックなやり方だった。ホテルにいても、ハコにいても、日中は作業ができたし、良い気分でいるのには素晴らしい方法だったよ。言わば、日記みたいなもので、日々、各地で、あらゆることを逐一曲にしていった」(Triple Jより)

正に今作のアルバム・ジャケットのような雰囲気の中、作業を進めていったということだろうか。なお、デーモンが今作で使用した音楽アプリは、計20種類(詳しくは、5/2発売予定、LOUD197号をご参照ください)。今作を聴けば分かることだが、スタジオで制作されたアルバムと変わらない、そのサウンド・クオリティーには驚くばかりだ。もちろんそれは、デーモンに天賦の音楽的才能があるからこその話なのだが。

ちなみに、GORILLAZに欠かせないもう一人の才能、ジェイミーは、Gorillaz-Unofficial(www.gorillaz-unofficial.com/)のインタビューで、今作について、次のように語っている。
「僕は、そいつをグレイトだと思っているよ。デーモンは、長年ツアーをしてきて、何もせずにブラついて過ごす時間の量というものを理解していたから、その時間をクリエイティブに、アルバムをつくるために使ったんだ。このアルバムは、ホントに本当にグレイトなアルバムだよ。ノーマルなGORILLAZのアルバムほど、時間をかけてつくられたものではないけど、ワンダフルだと思う」

こうしてツアー終了と共に完成したアルバムは、曲をつくっていたツアーの季節が、ちょうど秋だったために、アメリカ英語で“秋”を指す、“ザ・フォール”(the fall)と名づけられた。このアルバム・タイトルに関して、デーモンは次のように語っている。
「10月に書いたから、“ザ・フォール”というタイトルにしたんだ。U2がもう使っていたから、“October”というタイトルにはしたくなかった。“October”って単語は好きなんだけどね」(Triple Jより)

そんな今作の内容は、ツアー中に制作していった各曲を、ほぼ時系列通りに収録していった、正に日記と呼ぶに相応しいもの。1曲目「PHONER TO ARIZONA – Recorded in Montreal on 3rd October」、2曲目「REVOLVING DOORS – Recorded in Boston on 5th October」、3曲目「HILLBILLY MAN – Recorded in New Jersey and Virginia on 10th and 11th October」…と、レコーディング場所と日付を記載したトラックリストを見ながら聴き進めていくと、まるで一編のロードムービーを観ているような感覚になるだろう。

また、『プラスティック・ビーチ』からの流れを発展させたような「PHONER TO ARIZONA」(公式サイト http://gorillaz.com/ で、ジェイミーが手がけたビデオが公開中)、「DETROIT」「THE JOPLIN SPIDER」「THE SNAKE IN DALLAS」といった、サイケデリックでスペーシーでファンキーなサウンドから、カントリー・ミュージックの要素を取り入れた「THE PARISH OF SPACE DUST」や、今作におけるハイライトの一つであろう、伝説的なソウルマン、ボビー・ウーマックの沁みる歌声を堪能できる「BOBBY IN PHOENIX」、フォーキーでセンチメンタルな「AMARILLO」まで、バラエティー豊かでエモーショナルな楽曲群を満載している点も印象的だ。

短期間でつくられたアルバムだからこそ感じられる、ナチュラルで温もりのあるテイスト、そして、GORILLAZサウンドとアメリカの音楽的伝統が融合した、新たなサウンドスケープが心地いい『ザ・フォール』。本作は、GORILLAZというプロジェクトが持っている、何にも制限されない自由な発想、自由な音楽性というものを再認識させてくれる、会心作だ。

最後に、GORILLAZの音楽的本質の一端が垣間みられる、ジェイミーの次の言葉をご紹介して、筆をおくとしよう。
「もしデーモンが、メキシコの監獄に1ヶ月収監されて、輪ゴムだけ持っていたとしても、彼は良いアルバムをつくるだろうね。それが、彼のやることなんだ。彼は、いつでも音楽をつくっている、驚くほど音楽的な人間なんだ」(Gorillaz-Unofficialより)

Gorillaz Artwork : Jamie Hewlett
Text Edit : Loud Magazine


【アルバム情報】

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GORILLAZ
THE FALL
(JPN) EMI / TOCP-66952
HMVで購入

tracklist
01. フォナー・トゥ・アリゾナ
  PHONER TO ARIZONA – Recorded in Montreal on 3rd October
02. リヴォルヴィング・ドアーズ
  REVOLVING DOORS – Recorded in Boston on 5th October
03. ヒルビリー・マン
  HILLBILLY MAN – Recorded in New Jersey and Virginia on 10th and 11th October
04. デトロイト
  DETROIT – Recorded in Detroit on 13th October
05. シャイ・タウン
  SHY-TOWN – Recorded in Chicago on 15th October
06. リトル・ピンク・プラスティック・バッグズ
  LITTLE PINK PLASTIC BAGS – Recorded in Chicago on 16th October
07. ザ・ジョプリン・スパイダー 
  THE JOPLIN SPIDER – Recorded in Joplin on 18th October
08. ザ・パリッシュ・オブ・スペース・ダスト
  THE PARISH OF SPACE DUST – Recorded in Houston on 19th October
09.ザ・スネイク・イン・ダラス
  THE SNAKE IN DALLAS – Recorded in Dallas on 20th October
10. アマリロ
  AMARILLO – Recorded in Amarillo on 23rd October
11. ザ・スピーク・イット・マウンテンズ
  THE SPEAK IT MOUNTAINS – Recorded in Denver on 24th October
12. アスペン・フォレスト  
  ASPEN FOREST – Recorded in Santa Fe on 25th October and in Vancouver on 3rd November
13. ボビー・イン・フェニックス
  BOBBY IN PHOENIX – Recorded in Phoenix on 26th October
14. カリフォルニア&ザ・スリッピング・オブ・ザ・サン 
  CALIFORNIA & THE SLIPPING OF THE SUN – Recorded in Oakland on 30th October
15. シアトル・ヨーデル
  SEATTLE YODEL – Recorded in Seattle on 2nd November

【オフィシャルサイト】
http://www.emimusic.jp/gorillaz/
http://gorillaz.com/

【Video – Phoner To Arizona】
https://www.youtube.com/watch?v=SAeUwuUGSaM

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