2007年のダンス・ミュージック・シーンは、ジャスティス、シミアン・モバイル・ディスコ、デジタリズムらが相次いでアルバムをリリースし、ニュー・エレクトロが最盛期を迎えた一年となりました。
では、2008年、ニュー・エレクトロの次を担うサウンドは何なのか? もちろん、ニュー・エレクトロ勢もさらなる発展を遂げていくことでしょう。しかし、昨年からニュー・エレクトロと並行するかたちで勢力を広げ、既にDJやコア・リスナーの間で注目されているサウンドがあります。それが、“フィジェット・ハウス(FIDGET HOUSE)”です。“フィジェット(fidget)”は、動詞で“そわそわする/せかせかする/もじもじする/気をもませる”、名詞で“そわそわ/せかせか/いらいら/落ち着きのない人物”の意。要するにフィジェット・ハウスとは、ソワソワハウス、セカセカハウスということになります。皆さん、どんな音だか連想できましたか? おそらくもう聴いたことがあるハズなんです。 実はフィジェット・ハウスの代表格とは、「A Bit Patchy」のヒットを生んだスイッチなんですね。
そんなフィジェット・ハウスの特徴をざっくりと解説しますと、(1)ブリーピーなシンセ&ベース・サウンド。シンセ音には、ベンドやポルタメント機能を使ったものが多し。曲によっては、レイヴィーなシンセ音を使ったものもあります。(2)派手で大胆なカットアップ・サウンド。大ネタ・サンプリングを用いたものも多し。(3)曲中、曲間、及びブレイク部分にブレイクビーツを応用。曲によっては、バイレファンキ的ノリと融合したものもあります。(4)おバカなヴォーカル&ヴォイス・サンプル。こんなところでしょうか。
続いて代表アーティストをご紹介しましょう。
SWITCH(スイッチ)
以前はソリッド・グルーヴ名義でテック・ハウス系トラックを手がけていたこともあるイギリス人、デイヴ・テイラーのソロ・プロジェクト。’03年にレーベル、DUBSIDEDをセットアップし、フィジェット・ハウス・スタイルのトラックをリリースするようになりました。そして、同レーベルから’05年にリリースした「A Bit Patchy」が、翌’06年に大ヒットを記録。昨年は、M.I.Aのアルバム『カラ』のプロデュースにも参加しました。ちなみに、彼はベースメント・ジャックスと親交が深いことでも知られています。なお、現在はコールドカットの新作に参加している模様。
SINDEN(シンデン)
スイッチ一派のアーティストで、本名はグレアム・シンデン。デイヴ・テイラーと共にレーベル、COUNTERFEETを運営しています。ソリッド・グルーヴとの連名でリリースした「Din Da Da EP」(’06)や、次に紹介するハーヴとの連名、シンデン&カウント・オブ・モンテ・クリスタル名義でリリースした「Everybody Rocking EP」(’07)などが有名です。このEPからは「Beeper」がクラブ・ヒットしました。昨年、シンデン名義、シンデン&カウント・オブ・モンテ・クリスタル名義で、大量のリミックスを行いました。
HERVE(ハーヴェ)
この人もスイッチ一派のアーティストで、本名はジョシュア・ハーヴェイ。カウント・オブ・モンテ・クリスタル、ブードゥー・チリの名前でも有名。ハーヴェ名義では「See Me EP」(’06/DUBSIDED)、「Cheap Thrills EP」(’07/DUBSIDED)、カウント・オブ・モンテ・クリスタル名義では「Count Of Monte Cristal EP」(’07/COUNTERFEET)などをリリースしています。元スイッチのトレヴァー・ラヴィズとのプロジェクト、スピーカー・ジャンクでも活動を行っており、昨年ジミヘン・ネタの「Foxxy」(’07/DUBSIDED)が話題に。また昨年は、セバとのユニット、デッド・ソウル・ブラザーズ名義でアルバムも発表しました。多作ですね〜。
TREVOR LOVEYS(トレヴァー・ラヴィズ)
一時期デイヴ・テイラーと共にスイッチのメンバーだった彼は、実は’90年代初頭から活動を続けるベテラン・プロデューサー。マニアックなUKハウス・ファンならば記憶があるかもしれませんが、ハウス・オブ・909、ソウル・モーティヴのメンバーとして、ディープ・ハウス〜ニュー・ハウス(NU HOUSE)・シーンで活躍していた人物だったのでした。本人名義では「Organ Grinder」(’07/DUBSIDED)を、ジョシュア・ハーヴェイとのプロジェクト、スピーカー・ジャンクでは「Scratch Up The Music」(’07/SPEAKER JUNK)、「Foxxy」(’07/DUBSIDED)をリリースしています。
JESSE ROSE(ジェシー・ローズ)
彼もスイッチ一派に属するアーティスト。現在はドイツを拠点に活動中。DUBSIDEDから「Let’s Start Again EP」(’05)、「You’re All Over My Head EP」(’06)らをリリースしています。トレヴァー・ラヴィズやグレアム・シンデンとの共作曲もアリ。ただし、彼は自身のレーベル、FRONT ROOMとMADE TO PLAYでミニマル〜テック・ハウス系の音も手がけており、他のフィジェット・ハウス勢とは一線を画するサウンド・スタイルが持ち味です。作風にも幅があるので要注意。
以上が、フィジェット・ハウスを代表するアーティストです。というわけでフィジェット・ハウスの実態は、実はスイッチとその仲間達だった!のでした。それぞれがウエスト・ロンドン周辺を活動拠点にしており、実際ジェシー・ローズとシンデンは、ブロークン・ビーツ・レーベル、LOUNGIN’を現在も運営中。彼らのサウンドにあるマッシヴでフィジカルなグルーヴ感、つまりブレイクビーツ感やテッキー感といったものは、そんな彼らのルーツが生み出していたのですね。
ところで、DUBSIDED周り以外にフィジェット・ハウスはないのか? もちろん、そんなことはありません。フランス出身のブロディンスキとヤクセック、イタリア出身のユニットで、ディスコ・フィジェットとも形容されているクルッカーズ、FOOL’S GOLDレーベルの人気アーティストで、カナダ出身のA-TRAKなどは、フィジェット感を持ったアーティストとして現在注目されています。チェックしてみてください。