Idjut Boys『Cellar Door』インタビュー


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ダン・タイラーとコンラッド・マクドネルからなるUK出身のユニットで、DJハーヴィーと並びハウス・ミュージック以降のディスコ・ダブ・サウンドを開拓してきたイノベイターとして知られるイジャット・ボーイズ。’90年代初頭に音楽活動を開始し、U-Star、Noid、Discfunction、Droidといったレーベルを通じて、様々な音楽性要素が融合したサイケデリック&ダビーなダンス・ミュージックを送り出してきた、知る人ぞ知る人気アーティストです。

そんな彼らが、なんと単独名義では初となるオリジナル・アルバム『セラー・ドア』を9/10にリリースします。彼らとは旧知の仲であるアンディー・ホプキンス(G)、マルコム・ジョセフ(B)、ブッゲ・ヴェッセルトフト(Piano)、ピート・Z(Keys)、サリー・ロジャース(Vo:ア・マン・コールド・アダム)らを呼び寄せ、彼らと共にレコーディングし完成させたという本作。その内容は、アルバム・トータルの流れを重視した、ナチュラルでアトモスフェリックな音世界を堪能できるものとなっています。

レイドバックしたサウンドを堪能できる本作の内容について、ダン・タイラーとコンラッド・マクドネルに話を聞きいてみました。


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IDJUT BOYS

ディスコ・ダブのパイオニアが遂に完成させた、
パーティー最深部のエモーションを捉えたファースト・アルバム

__早速ですが、最新作『セラー・ドア』について教えてください。まず、イジャット・ボーイズ単独名義のオリジナル・アルバムというのは、実は初めてなんですよね。

ダン・テイラー「ほっとしたよ。つくれて本当に良かったと思っているし、レーベルであるSMALLTOWN SUPERSOUNDの人達も、僕らを信頼してくれて良かった。いろんな意味で、自分達が思っていた以上の作品をつくれたと思っているよ。ダンス・トラックだけを集めたアルバムじゃなくて、たぶんみんなが期待していたような、ちゃんとした“アルバム作品”をつくれたと思う」

__これまで、あなた達は別プロジェクトやリエディット・アルバムは出してきましたが、オリジナル・アルバムをリリースしてこなかったのには、何かこだわりがあったんですか? 単なるタイミングの問題ですか?

ダン「やっぱりDJをずっとやっていたからじゃないかな。僕らはDJをやって、リミックスをやって…という繰り返しで生活してきたからね。なんでこんなに時間がかかったのか、自分達でも分からないけど、もしかしたらそれも良かったのかな、って考えているよ」
コンラッド・マクドネル「僕らは、その時のフィーリングで物事を決めていくしね。で、そうやって物事を進めていくと、DJをやって、リミックスをやって、オリジナルの曲をつくっても12インチで出だしてといった感じで、アルバムをつくる時間なんて全然取れないんだ。なんか、いつも忙しくしてね」
ダン「僕らは、DJでいろんな国に行くのも好きだから、ミックスCDを出したりすると、またDJが忙しくなっちゃうんだ。だって他の国に行って、大好きなDJをしてお金がもらえるなんてさ、止められないよ(笑)」
コンラッド「(日本語で)はい!(笑)」

__分かりました(笑)。で、本作はSMALLTOWN SUPERSOUNDからリリースされますが、制作がスタートしたのは、同レーベルからリューネ・リンドバークと共にメンダーサルズ(Meanderthals)名義で『DESIRE LINES』(09)を発表したことがきっかけだったんでしょうか?

ダン「確かに、まずメンダーサルズのアルバムをつくってみて、その経験から“自分達のアルバムもつくった方がいいじゃないか?”とは思ったよ。そうしたら、SMALLTOWN SUPERSOUNDサイドが、僕らにアルバムをつくる話を持ってきてくれたから、せっかくの話だし、ぜひやってみようってことになったんだ。それで、その後もっと具体的な話をしていったんだ。SMALLTOWN SUPERSOUNDから出す、という話がなかったら、きっと実現してなかったと思う。今回、もしこの話がなかったら、また15年くらいアルバム・リリースが延びていたかもしれないね(笑)」
コンラッド「SMALLTOWN SUPERSOUNDは、“とにかく君達が満足できるものをつくってくれ”って言ってくれたんだけど、これって稀なことなんだよ。彼らが制作費用を出してくれるのに、注文や文句、余計な口も出さないなんてね。彼らは、いろんなタイプの音楽が好きだから、どんな内容のアルバムでもかまわない、というスタンスなんだ。だから、今回は自由にアルバムをつくることができた」

__本作の中心的なレコーディング・メンバー、キーボードのピート・Z、ギターのアンディー・ホプキンス、ベースのマルコム・ジョセフ、ピアノのブッゲ・ヴェッセルトフト、ボーカルのサリー・ロジャース(ア・マン・コールド・アダム)といった人達は、皆さん昔からの知り合いかと思いますが、今回のアルバムに彼らを起用した決め手は何でしたか?

ダン「みんな、基本的にはかなり昔からの友達だね。例えば、アンディー・ホプキンスはもう15年くらい一緒に仕事している仲だよ。彼のギターは一番さ」
コンラッド「ピート・Zは、ダンス・ミュージックのことがよく分かっているヤツなんだ。で、ブッゲは、ちょっと違う次元にいるプレイヤーだね(笑)。ジャズ方面ではスーパースター的存在だから、今回一緒に仕事ができて光栄だったよ。彼は、人間的にも謙虚で良い人物だった」
ダン「あと、マルコム・ジョセフは、本当に古い友達だね。一番古い友達かも。彼は、グレイス・ジョーンズやトム・トム・クラブ、ブライアン・フェリーなんかと一緒に仕事をしているから、最近はもう僕らなんかと一緒にやってくれないんだ…っていうのは冗談だけどね(笑)。この間、マルコムが出ていたから、トム・トム・クラブのライブを観に行ったよ」

__サリー・ロジャースも、昔からの知り合いですよね?

ダン「そうだね。ア・マン・コールド・アダムとは、音楽をやり始める前からの友達さ。実は、彼らのスタジオとはお隣同士で…」
コンラッド「隣が空いていたんだよ(笑)」
ダン「一緒にお茶を飲んだり、すぐに“何やってるの?”って聞けたり、メリットは多いよ(笑)。だから、サリーに歌ってもらうのは自然の流れだった。彼女の歌声っていいよね。彼女の声って、人生経験を感じ取れるような雰囲気があって、とても深みがあるんだ」

__レコーディング自体は、ジャム・セッションのような形で進めていったんですか?

ダン「まずレコーディングは、いろんな場所でやっていったよ。僕らのスタジオでもやったし、アンディーのスタジオでもやったし、ノルウェーでもやったね。で、いろんな音楽をかけたりながら、曲を形にしていったよ。そこは、友達同士の良さというか、特に何か説明しなくても、お互いに感じ合って、いろんな要素を出し合っていったんだ」
コンラッド「例えば、僕らが一歩踏み出すと、みんなそれを感じてくれて、“きっとこんな感じでいきたいんだな”って、言葉に出さなくても理解してくれるんだよ。で、ある段階まで進んだら、“今度はこの楽器かな”とか、“次は、こんな曲はどうだろう”って感じで、音楽的にお互い通じ合いながら、アルバム全体を形にしていったんだ」

__なるほど。で、最終的に、そうやってレコーディングした素材をカチっと編集して、一枚の作品としてまとめたわけですか?

コンラッド「とにかく、音源の数はたくさんあった。だから、選ぶのも大変だったし、エディティングにも時間がかかったし、アレンジし直すのにも時間がかかった。僕らは、音楽的な勉強を特にしてきたわけじゃないから、あくまでも自分達のフィーリングを頼りにやっていくしかないんだ」
ダン「この作品は、12インチではなくLP、アルバムだから、これまでに出してきた僕らの曲とは、構成とかが違っていると思うよ。アルバムとして聴けるように、全体の長さにも気を配ったし。12インチだったら、もっとジャムっぽい仕上がりにしていたと思う。例えばDJだと、このレコードのこの部分をプレイしよう、このレコードのこの部分をミックスしようって感じで聴いたりすると思うけど、この作品は、一度レコードをセットしたら、最初から最後まで通して聴けるような構成にしたかったんだ」

__楽曲の構成はもちろん、アルバム・トータルの構成も考え抜いた作品になっているんですね。

ダン「でも、よく考えると、今はiTunesとかで、アルバムの中からこの曲とこの曲を買おう…みたいな形で聴くんだよね、みんな。だから、世の中の流れをすっかり無視したアルバムにしてしまったかもしれない(笑)。もちろん、このアルバムに入っている曲は、12インチのロング・バージョン、7インチ・バージョン、ダブ・ヴァージョン…みたいな感じでも出せるし、実際バージョンがいくつもあったりするんだけど。アルバムのテイストと合わないから、外した曲もいっぱいあるし」

__そうなんですか。結果的に、本作の内容は、生演奏のテイストを軸にした、メロウでレイドバックした音世界を楽しめるものとなっています。あなた達が思い描いていた理想のアルバム像というのは、どのようなものだったのでしょうか?

コンラッド「例えば、クラブに最後の時間まで残った人達には、みんなで分かち合いたいと思っているフィーリング、エモーション、エナジー…というものがあると思うんだけど、このアルバムでも、そういうものをつくりたいと思っていたね。僕らは、“何が自分達を突き動かしているか”ということを、分かっているつもりだから」
ダン「DJを長年やっている経験上、クラブで一晩プレイすると、みんな朝方の時間帯を覚えているものなんだ。最後の、ちょっと落としていくあの時間帯をね。あのフィーリングって大事だったりするだろう? だからアルバムでも、そのフィーリングを大事にしたよ」

__本作にあるレイドバックしたムードというのは、そういうことだったんですか。

ダン「そうそう。あの朝の感じさ。クラブ帰りの車中とか、家に帰ってきてから友達とコーヒーを飲んでいる時とか、そういった時間帯の音楽でもあるかな」
コンラッド「でも今言ったことは、あくまでも僕らが感じていることだから、このアルバムに対して、みんなそれぞれ自由に感じてもらいたいな」
ダン「そうだね」
コンラッド「音楽って、どういうタイミングで、どういう環境で、誰と一緒に聴くか…といったことで、いくらでも印象が変わるものだからね。例えば、今回のアルバムの曲を、もしみんながガンガン踊っている時間にプレイしたら、意外と自然にハマってしまうかもしれないし、DJって、どんな状況でも上手くミックスしちゃうものだしね」

__そうですね。

ダン「あとは、バハマのコンパス・ポイント・スタジオでつくったようなサウンドのフィーリングも出せたらいいな、って思っていたよ。…これは、僕らの夢なんだけどね(笑)」
コンラッド「ハハハ。僕ら、コンパス・ポイントの音楽が大好きなんだ」

__あなた達がコンパス・ポイントでつくられたサウンドをリスペクトしているのは、もう音楽好きなら自明のことだと思いますよ(笑)。ディスコでダブなサウンドのルーツなわけですから。

コンラッド「あと今回は、森の音とかを録音して、そこからインスピレーションを得たりもしたよ。森からリズムを感じ取ったりしてね」
ダン「そういった音から、新しいエフェクト・サウンドをつくり出せるかもしれないし」

__確かに、そういったアンビエントなフィーリングも、このアルバムにはありますね。では、本作のアルバム・タイトルを、“セラー・ドア”(cellar door:直訳すると、貯蔵庫~地下室の扉、ですが、英語の中で最も美しい響きがある言葉、英語圏の人が美しいと感じる言葉、として知られています)としたのは、どうしてですか?

ダン「うーん。この言葉には、いろんな意味合いがあるんだ。だから、みんなにもいろんな風に解釈してほしいな」
コンラッド「実は、フランス語でこの言葉を言うと、もっとカッコいいんだよ」
ダン「…僕らは、しゃべれないけどね(笑)」

__分かりました(笑)。最後に、今後の活動予定を教えてください。

ダン「このアルバムの制作中にできた、いろんなバージョンを出していけたらいいと思っているよ。アイディアも含めて、とっても良い曲なのに、良いパートなのに入れられなかった…ってものがたくさんあるんだ。このアルバムでは、いろいろなことを学べたと思う。そして、またアルバムをつくりたいね」
コンラッド「そうだね。早くまたアルバムつくってみたい。このアルバムをつくるのは、そのプロセス自体がとても楽しかったからね」


【リリース情報】

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IDJUT BOYS
Cellar Door
(JPN) calentito / CLTCD-2005
9月10日発売
HMVでチェック

tracklisting
1. 
Rabass 

2. 
Shine 

3. 
One for Kenny 

4. 
Going down
5. 
The way I like it
6. 
lovehunter
7. 
Le Wasuk
8. 
Jazz Axe

【オフィシャルサイト】
http://calentito.net/artists/idjutboys.html
http://www.facebook.com/pages/Idjut-Boys/38225928093

【試聴】
04 Idjut Boys – Going down by calentitomusic

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