Jazztronik『Dig Dig Dig』インタビュー


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野崎良太が率いる、特定のメンバーを持たない自由なミュージック・プロジェクト、Jazztronik。’03年にメジャー・デビューを果たして以来、ジャズやハウスをベースにした華麗なクラブ・サウンドで、シーンの垣根を越える活躍を見せてきた人気アーティストです。個人名義を含め、プロデューサー、リミキサー、ミュージシャン、DJとして、葉加瀬太郎、布袋寅泰、Mondo Grosso、m-flo、TRF、クリスタル・ケイ、ゴスペラーズ、山崎まさよし、椎名林檎など、数多のアーティストとコラボレーションを重ねる一方、近年はドラマ音楽、映画音楽の分野にも活動の幅を広げています。

そんな野崎良太のJazztronikが、オリジナル・フル・アルバムとしては『JTK』(’08)以来約2年半ぶりとなる、最新作『Dig Dig Dig』をリリースします。AISHA、Eliana、Giovanca、JAY’ED、Maia Hirasawa、Mika Arisaka、Tommy Blaize、YUKIなど、国内外の個性的なシンガー/アーティストをフィーチャーした楽曲と、野崎良太こだわりのインストゥルメンタル・トラックを収録した、過去のJazztronik作品の中でも、とりわけ多彩なサウンドが楽しめる注目作です。

新たなる一歩を踏み出したJazztronikサウンドが楽しめる『Dig Dig Dig』。本作の内容について、野崎良太に話を聞きました。


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Jazztronik

新たな境地からリズムとメロディーを奏でる、
野崎良太のコアでポップなクロスオーバー・ミュージック

コアで多彩な『Dig Dig Dig』

__現在(5月初頭)、正にアルバム制作の大詰め段階だそうですね。あと、どのくらいで完成するんですか?

「まぁ、ほぼでき上がってますね。ただ、最終的にどの曲をアルバムに収録するのか、という部分が、まだ確定していない状況です。“この曲を入れようかな”って思っている曲は、だいだい上がってきてますよ」

__今作『Dig Dig Dig』のために、何曲くらい楽曲を用意したんですか?

「このアルバムつくっている最中に、他のいろんなプロジェクトがあったんで、曲自体はすごく沢山つくっていたんですよね。だから、候補曲として上げられる曲数自体は、40~50くらいあったと思います。だから、本当は沢山曲を入れたいと思っていたんですけど、CDという時間の限られたフォーマットにはどうしても収まりきらないんで、最終的には16曲くらいでしょうか」

__もともとは、そんなに候補曲があったんですか?

「ええ。なんで、選曲の部分は…例えば半年前にフル・アルバムを1枚出していたら、もっと悩まずにできていたとは思います。ただ、今回“約2年半ぶりのオリジナル・フル・アルバム”ということになっていますけど、実際は、去年『Bon Voyage!』(セレクトショップ、TOMORROWLANDとのコラボレート作品)という、ピアノとダウンビートのアルバムを出しているんですよ。あれは、どういう位置づけになるんだろう?(笑)。でも、歌モノが入っているような作品ということでは、確かに『JTK』以来、2年半ぶりです」

__最終アレンジやミックス作業も、これから行うんですか?

「そうですねぇ。その辺は、たぶんしめ切りギリギリまでやっていくと思いますね」

__では、現在思い描いている今作全体のイメージとは、どのようなものですか?

「このアルバムが『Dig Dig Dig』というタイトルなのは、当初、僕が影響を受けてきたダンス・ミュージックをふり返る作品をやってみよう、って思っていたからなんですよ。“そういえば、僕はどんなものが好きだったっけな?”というのを、ちょっとやってみたかった。で、そこに新たな参加アーティストをどんどん乗せていったら、面白くなるんじゃないかなって思って、作業を進めていたんです」

__なるほど。

「そうしたら、その新たな参加陣がですね、なかなかパワフルな人達ばかりで、つくっていくうちにそれだけで満足しちゃって、当初イメージしていた作品とは、ほんのちょっと違うものになっているんですよね、今(笑)。当初は、もっとコアな作品になるんじゃないかって思っていたんですよ。もちろん、どんな人が聴いても楽しめる作品にしよう、とは思ってましたけどね。でも結果的に、予想をはるかに上回る、コアなことをやりつつも、良い意味で楽しいアルバムになったと思います。参加してくれたシンガー、ミュージシャンのパワーのおかげですね」

__ラフをいくつか聴かせていただきましたが、確かにかなりカラフルでバラエティーに富んだ楽曲が揃っていると感じました。

「歌モノ曲の並びに関しては、おそらく過去のJazztronikの、どのアルバムよりも充実してるんじゃないかって感じていますよ。本当に、いろんなタイプの歌が楽しめるんじゃないかな。で、本当は、こういった歌モノに対して、正反対のトラック曲をもっと入れたいと思っていたんです」

__よりコアなタイプのトラック、ということですね。

「はい。でも、そういった曲が、CDに入りきらないんです。だから、そういったトラックは、このアルバムが出た後に、例えば配信などで出していけたらいいなって考えてます」

個性的でパワフルなシンガー達

__もともとは、野崎さんご自身が影響を受けてきたダンス・ミュージック、音楽的ルーツを振り返ってみるアイディアがあった、ということですが、今作の曲づくりで特に意識していたことは何でしたか?

「歌モノの曲にも、ポイントポイントにちょっとずつは、そういった要素を入れていますよ。まぁ、僕がもともと好きだった音楽は、テクノから始まって、ジャズ、ブラジル、ハウス、学生の頃はヒップホップも好きで聴いていたし…という感じなんで、そういった音楽を自分なりに集約してアルバムに表現していくことが、本来ずっと好きだったんです。ただ今回は、それを、より色濃く出せたらいいなって思っていたんですよ」

__はい。

「でも…世の中には、いろんな才能がいるなぁって。Maia HirasawaやGiovancaは、日本でも音楽好きの人達なら知っている名前だと思うんですけど、いわゆるJ-POPのシーンで活躍しているJAY’EDのようなシンガーも、こういったトラックの上でこんなに歌えるのか、という驚きがありましたね。すごく上手い。あと、AISHAも、本当に歌が上手い。彼女はすごいですよ」

__今回の参加アーティスト陣は、原曲のテイストに合わせて、野崎さんがチョイスしていったんですか? それとも、参加アーティストが決まってから、それに合わせて曲をつくっていったんですか?

「今回は、歌ってくれる人の声を聴いてからつくった曲が多かったと思いますね。やっぱり、各シンガーの声の特徴を生かしていかないと意味がないんで、そこの部分は気をつけました。Giovanca、Maia Hirasawaは、参加が決まってから曲をつくっていきましたね。JAY’EDの場合は、曲がまずあって、ぜひ彼に歌ってもらいたいと思って声をかけたんですけど、一度スケジュールの関係で流れちゃったんですよ。でも、諸事情で制作日程が延びた結果、歌ってもらえることになりました。あとトミー・ブレイズは、海外の男性ボーカルがどうしても欲しいということで、一緒にやっていたイギリス人ミュージシャンから紹介してもらった人でしたね。彼も、抜群に歌が上手いですね」

__では、単にフィーチャーリング・ボーカリストとして参加をお願いしたというよりも、ある種、各シンガーのために用意していったような楽曲が多いんですね。

「そうですね。これまでも、この人と一緒じゃなきゃできない、という曲をつくってきたつもりですけど、今回は、僕もさすがに色々とやってきたからなのか、歌モノに関しては、より歌に曲を任せる、ということに重点が置けた気がします。でも、そういう作曲は、個性的で歌唱力のあるシンガーじゃないとできないことなんですよ」

__なるほど。

「じゃないと、例えばバックのオケが凝ってたりしたら、その中に声が埋もれていっちゃったりしますから。でも今回は、そういったことが全くなかったですね。だからバック・トラックも、逆にポイントポイントで遊ぶことができたんですよ。かといって、それで歌が負けちゃうこともない。なんで、いわゆる“歌モノです”という曲とは違う、面白い楽曲をつくることができたんじゃないかなって思います。しかも、どの歌モノもシングル曲って感じなんで、各曲につき4バージョンずつくらい出していきたいくらいなんですよ、本当は」

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味のあるにぎやかなサウンド

__サウンドメイキング面では、どんなことを意識しましたか?

「そうですね…。『JTK』を出した後、コンピューター内で制作を完結できる、ソフト・シンセやソフト・サンプラーに興味を持ったことがあったんですね。で、一時期それを使いながら制作をしていたんですけど、やっぱりどうもしっくりこなくて、結局またハードの機材に戻った、っていうことはありましたね。だからこのアルバムでは、部分的にソフト・シンセも使いましたけど、すごく重要な音には使いませんでした。ドラムやベースの音は、ハードの機材を使って、つくっていきましたね。全曲共通して、そうですね」

__PCのソフト・シンセでは、どういった部分がしっくりこなかったんですか?

「どうしても音が立体的にならなくて、しっくりきませんでした。コンピューターの中だけでやった音って、どうやっても奥行きが出なくて、平面的になっちゃうんですよ。最近のダンス・ミュージックって、PCでチョコチョコっとやるだけでできちゃったりしますけど、まぁ…それは既に他の人がいろいろやっていることだから、べつに僕がやらなくてもいいんじゃないかな、とも思いましたし(笑)」

__特に、Jazztronikのような音楽性ですと、コンピューター内で完結した制作には、限界があるのかもしれませんね。例えばテクノのようなタイプの音楽だと、PCオンリーでも問題ないのかもしれませんが。

「でも、テクノにしても、やっぱり好きなアーティストの曲を聴くと、ハードを使ってますよね。シーンの中で埋もれていってしまうアーティストには、やっぱりそれなりの特徴というものがあって、それは、結局どれも同じ音ってことなんだと思うんですよ。例えば、シーケンス・ソフトの使い方が同じだったりとか。そういうわけで、僕の場合はそこを経て、またハードに戻りました。PCのみだと、あまりにも簡単にでき過ぎちゃうんで、つくる段階での苦労が足りないって感じもしましたし」

__なるほど。

「その辺の感覚は、僕ってけっこう古くさい人間なのかもしれませんね(笑)。でも、昔ながらのプロダクションには、それなりの良い味というものがあるわけで、そういった味というものは、今の時代にもちゃんと生かしていきたいって思ってます」

__ちなみに今作のサウンドは、最終的にはどのような雰囲気に仕上がりそうですか?

「にぎやか、ですね。YUKIさんの歌っている「ベッドタイムストーリー」(映画『死刑台のエレベーター』主題歌)に関しては、昨年リリースしたものなんで雰囲気が違いますけど、他の曲はにぎやかです。「ベッドタイムストーリー」とか、『JTK』に入っていた「Reminiscing」って、本当はダブステップにしてみたかったんですけど、強力に反対されましたね(笑)。でも、ドラムンベースの曲を入れるつもりでいます。僕の後輩、MAKOTOと一緒につくったトラックなんですけど、僕としてはこれが裏リード曲ですかね(笑)」

自分自身を見つめ直した制作期間

__ドラムンベースの曲も収録するということですが、歌モノ以外では、どんな楽曲を収録しようと思っているんですか?

「NHKの『サタデースポーツ』『サンデースポーツ』という番組で使われている「Walk on」って曲があるんですけど、この曲は、アルバムではサルソウルのようなハウスになってますね。大編成のストリングス、ブラス、ピアノが入った、すごくにぎやかなものにしました。アルバム全体のこと、この作品で初めてJazztronikの音楽に触れてくれる人達のことを考えると、さすがにバスドラムとハイハットだけが鳴っている曲じゃいけないなって、思ったんで(笑)。あとは、ケンイシイさんが今制作しているアルバムの中に、僕も一曲提供させてもらっているんですけど、そのトラックのJazztronikバージョンを、このアルバムのためにつくってます。この曲も、自分の中では裏メインっぽいものですかね」

__どんなサウンドのトラックになる予定ですか?

「ピアノと、アフロと、テクノと、アシッドが混ざったような曲ですかね(笑)。僕の中では、どうしてもテクノって、アフロとつながっていくものなんですよ。どっちもビートのループで押しつつ、そこに何かしらの音が延々鳴っているという音楽なんで、感覚が似ているんですよ。で、聴いていると、そこにどんどんハマっていくという…」

__歌モノの楽曲も、インストの楽曲も、最終的には“Dig Dig Dig”というタイトルに相応しい、Jazztronikの音楽的ルーツに根ざしたサウンドに仕上がりそうですね。

「はい、上手いことやりますよ」

__野崎さんが、数ある音楽の中でもテクノ、ジャズ、ハウス、ソウル、ファンク、ディスコ、ブラジルといった音楽に魅力を感じてきた理由とは、何だと思いますか?

「僕の好きな音楽って、人間の欲求がさらけ出されているようなものばかりだと思いますね。まず、ビートに関しては、勝手に身体が動き出してしまうような、ツボを押さえたものばかりですよね。で、例えばジャズなどは、とても賢いアレンジャーが、そこに音を乗せるわけですよ。それがカッコ悪いはずないじゃないですか。言わば、肉体派と頭脳派の集合体、知恵の結晶ですよね。魅力を感じない理由がない」

__本当ですね。では、今作の制作で一番大変だったのは何でしたか?

「この数ヶ月間で、大きな震災が起きて、原発の問題が発生したりして、いろいろ考え方が変わったことでしょうね。まわりで大きな出来事が次々と起こっているのに、その間も家で一人曲づくりをして、レコーディングを続けなきゃいけないという状況は、ちょっとキツイものがありました。やっぱりある程度心に余裕がないと、制作ってできないものなんですよ。“こんなに追いつめられた状況でも、音楽ってやらなきゃいけないのかな”とか、いろいろ考えてしまいました。もしこのアルバムがインストのみの作品だったら、もっとドロドロした内容になっていたもしれません。だから、参加してくれたシンガー達の歌に救われた部分が、実はかなりあったと思います。で、制作をしていく中で…作品が売れるにこしたことはないんですけど、ヘンにCDを売ろうみたいな気持ちが、以前にも増してなくなっちゃいましたね」

__分かる気がします。

「自分の将来とか、その他いろいろな物事を見直さなくてはいけない、すごいタイミングでの制作だったなって思います。このアルバムには、ポップなものにしろ、すごくコアなものにしろ、“こういう風にしたら、もっとより多くの人に聴いてもらえるんじゃないか”って思ってつくった曲は、一曲も入ってないですね。音楽に取り組むそこの姿勢は、すごく変わった気がします。だから今後の活動も、変わっていくんじゃないかなって思いますね」

interview & text Fuminori Taniue


【アルバム情報】

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Jazztronik
Dig Dig Dig
(JPN) Knife Edge / PCCA-03414
6月8日発売
HMVでチェック

tracklisting
01. Flash Light feat. JAY’ED
02. Deja vu intro
03. Deja vu feat. AISHA
04. Walk on <NHK「サンデースポーツ」「サタデースポーツ」テーマ曲>
05. Today feat. Giovanca
06. Apathy feat. Maia Hirasawa
07. The Seventh Sense
08. Vamos la
09. Now’s the time feat. Tommy Blaize
10. Dare feat. Mika Arisaka & Eliana
11. 守破離 <LEXUS CT200h 発表・披露会 挿入曲>
12. Resolver
13. Humming Bird feat. Mika Arisaka & Eliana
14. Epiloque ~ march of the toys ~
15. ベッドタイムストーリー <映画「死刑台のエレベーター」主題歌>
Bonus Track.
16. BRA.Steppers feat. Rob Gallagher

【オフィシャルサイト】
http://jazztronik.com/

【VIDEO】

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