LCD SOUNDSYSTEM ディスコ・パンクの旗手が描き出す、究極にして最後のアルバム!?


ジェームス・マーフィー(DFA)率いる、2000年代型ディスコ・パンクの先鞭をつけた人気プロジェクト、LCDサウンドシステムが、通算三作目のオリジナル・アルバム、『ディス・イズ・ハプニング(This Is Happening)』をリリースします。ディスコで、パンクで、ノーウェイブな音楽性をさらに極めた、充実作となっております。

というわけで、早速ジェームスさんに本作の内容について、さらに活動休止情報の真相についても話を聞きました。


――サード・アルバム『ディス・イズ・ハプニング(This Is Happening)』の完成、おめでとうございます。まずは、本作のテーマについて教えてください。

「まず、最初のアルバム『LCD Soundsystem』(’05)っていうのは、自分のアイディアをとりあえず発表して、みんなに知ってもらうためのものだった気がする。で、2枚目『Sound Of Silver』(’07)は、そのアイディアが正しいんだってことを、もうちょっと証明するようなものだったね。そしてこの3枚目、『ディス・イズ・ハプニング』は、少しリスクを冒す、ということを試してみたくなった作品かな」

――“This Is Happening”というタイトルの由来について教えてください。

「このタイトルは、英語のイディオムみたいなものなんだけど、自分達に起こったことが、自分達でも…..なんていうのか、信じられなかったんだよね(笑)。ある意味、僕達は成功したわけじゃない? そういう事態って、全然予想してなかったのに、“ホントにそういうことが起こってるよ!(= This is happening)”ってことになって、それが面白かったから、このタイトルにしたんだ。自分達にとっても驚きだった、ってことさ」

――デビュー・アルバム『LCD Soundsystem』は、グラミー賞にノミネートされましたし、続く『Sound Of Silver』は、各メディアでその年のベスト・アルバムに選定されましたもんね。で、本作の制作には、約一年もの期間をかけたそうですが…。

「いや、そうとも言えないよ。制作作業には、結構な間があったんだ。まずはロサンジェルスで3ヶ月くらいやって、それからニューヨークに帰ったんだけど、しばらくサントラの仕事(編注:ノア・ボーンバッハ監督作品『Greenberg』のサウンドトラックを制作したほか、ロバート・ルケティック監督作品『21(ラスベガスをぶっつぶせ)』にも「Big Ideas」という楽曲を提供しています)をしていたからね。で、それからまた2ヶ月くらいかけて、このアルバムを完成させたんだ。だから、トータルの制作期間は5ヶ月くらいかな。あ、一月に風邪をひいて声が出なくなったことがあったから、結局は6ヶ月くらいかかったかもしれない(笑)」

――なるほど(笑)。先ほど“少しリスクを冒す”と表現していましたが、本作のサウンド面で特に重要視したことは何でしたか? LCDサウンドシステムらしい、ディスコでパンキッシュでノーウェイブ的な音楽性を、さらに極めた内容となっていますね。

「基本的には、これまでのアルバムと同じだったよ。まずは、作業するのに適した環境を上手く構築する、ってことことが重要だった。で、次に機材面だね。いつも僕は、自分が快適に作業できる環境をつくり上げることから始めるんだ。だから、何について書こう?みたいなことって、最初は全く考えてないよ。とにかく、快適に作業できるかどうかが重要でね。あとは、自分の中にある“葛藤”…かな」

――葛藤、ですか。では、本作を完成させるにあたって、一番時間を要したプロセスは何でしたか?

「たぶん…やっぱり、いろいろとクヨクヨしたりすること(笑)。僕は曲づくりをしていく時、クヨクヨと考え込むことに一番時間をかけてると思う(笑)。“良いものができるだろうか?”とか、とにかくクヨクヨと…」

――成功したわけですし、自信たっぷりに制作しても問題ないように思えますが、それは違うんですね。

「僕は、いつもそういう心配ばかりしてるんだよね(笑)。でも、自分の作品についてアレコレ気を遣わなくなると、でき上がるものって、本当にヒドくなっていくと思うよ。他の人の作品を見ていて、そう思うから。だから、自分の作品に関しては、いつまでもクヨクヨしていたいんだ(笑)」

――分かりました(笑)。シングル・カットされる「Drunk Girls」は、どのようにして誕生した曲ですか?

「おかしいんだけど、このバンドにいるメンバーってほとんど男なのに、一人だけいるの女の子が、僕らのことを“ガールズ”って呼ぶんだ。だから、僕らが酔っ払ってる場合は、“Drunk Girls”ってことなる(笑)。それが面白くて、曲名に使いたいと思ってね。アルバムの曲をトータルで聴き直していた時、“このレコードには、もっとバカみたいな楽しい曲が必要だ”って感じたし。それで、この曲を最後に書いたんだ」

――本作の日本盤には、ボーナストラックとしてペーパークリップ・ピープル(カール・クレイグ)の名曲「Throw」のカバーも収録されていますね。とても面白い試みですが、このトラックをカバーしようと思った理由は何ですか?

「「Throw」は、もう何年もライブでプレイしてきた曲でね。ある時、シンセが壊れちゃって、弾こうと思ってた曲がプレイできなくなったことがあったんだけど、その時ベース・プレイヤーがとっさに弾き始めたのが「Throw」だったんだ。で、みんな知ってる曲だったんで、ベースに合わせてプレイしたら、それがすごく楽しくてね。以来、そのまま何年もプレイするようになったってワケさ」

――そうでしたか。ちなみに、本作の中であなたが特に気に入っている曲って何ですか?

「それは難しい質問だね! 毎日好きな曲が変わるからな(笑)。今の気分で選ぶと、「I Can Change」かな。理由は…はっきり分からない。上手く説明できないんだけど、同じ曲でも、面白く思える時と思えない時があるんだ」

――それで、本作をもってLCDサウンドシステムのプロジェクトは終結させる、との情報がありますが、本当ですか?

「うん、そうだね」

――もうLCDサウンドシステムとしての使命は全うした、ということでしょうか?

「自分としては、今はそう思っている。自分にとってすごく重要なことなんだけど、変わらなきゃいけないような気がしてるんだ。このバンドとプレイしていくことは、すごく楽しいし、気に入ってるよ。このLCDサウンドシステム以外に、一緒にプレイしたいと思うようなバンドなんて存在しない。でも、僕は生きていて、他にいろいろやりたいことがある。レーベルの運営とかDJとか…本当に、やりたいことがたくさんあるんだ。そんな中、このバンドは、あまりにも僕の時間を独占しすぎる存在になってきてしまった」

――なるほど。

「だから今は、LCDサウンドシステムでできる限り最高の音楽をプレイしたいって思う気持ちと同時に、LCDサウンドシステムを僕の人生の全てにしてしまうことはできないって気持ちもあるんだよ。それで、妥協して中途半端な作品をつくっていくんだったら、今ここで止めておいた方がいいんじゃないかって思ったんだ。もうちょっと小さなスケールで、自分の気の済むように音楽をやっていく方が、自分のやりたいことができるように思うし」

――それでは、現在のあなたにとって、最重要課題は何ですか?

「もちろん、これからLCDサウンドシステムのツアーに出るから、それが最重要課題さ。最高のツアーにしたいって思ってるよ。そして、DFAレーベルからどんどん良い作品をリリースしていきたいね。あとは、できたら文章を書きたいって思ってるんだ。スタジオ機材のデザインもやってみたいな。やりたいことは、たくさんあるよ」

――現時点までのLCDサウンドシステムとしての活動の中で、一番印象に残っている出来事は何ですか?

「たぶん…最初のショーかな? でも、このバンドでやってきたことは、何でもすごく楽しかったよ。全部ね。そんなことになるなんて全然思ってなかったのに」

――“This Is Happening”ですね。では、フジロックでお待ちしておりますので!

「うん、フジにはまだ行ったことがないから、すごく楽しみなんだ。少し時間を取って、日本に滞在したいとも思ってるよ。今後は、パーティーの企画なんかで、年に1〜2回は日本に来たいとも考えてるし、もっと日本でいろんなことがやれるといいなって思ってるところさ」

translation Nanami Nakatani
photo Ruvan Wijesooriya

アルバム情報

lcd_jk

LCD SOUNDSYSTEM
This Is Happening
(JPN) EMI
TOCP-66945

01. ダンス・ユアセルフ・クリーン
02. ドランク・ガールズ
03. ワン・タッチ
04. オール・アイ・ウォント
05. アイ・キャン・チェンジ
06. ユー・ウォンテッド・ア・ヒット
07. パウ・パウ
08. サムバディーズ・コーリング・ミー
09. ホーム
10. ノー・ラヴ・ロスト
11. スロー

【OFFICIAL HP】
http://www.lcdsoundsystem.com/

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