Of Montreal『False Priest』インタビュー


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 米ジョージア州アセンズ出身のサイケデリック・ポップ・バンド、オブ・モントリオール。前作『Skeletal Lamping』(’08)で新境地を切り開き、一気に知名度を高めた彼らが、通算10作目のアルバム『False Priest』をリリースしました。その内容は、従来のサイケでグラムなテイストはそのままに、ファンク~ディスコ的なフィーリングも加わった、よりグルーヴィーな音世界を表現したもの。ソランジュ・ノウルズ(ビヨンセの妹)とジャネル・モネイも参加した、話題作となっています。

そんな『False Priest』の内容について、バンドの中心人物、ケヴィン・バーンズに話を聞きました。


__前作『Skeltal Lamping』は、チャートアクション的にも評価を得た作品になりましたね。近年のオブ・モントリオールをとりまく音楽環境については、どんな手ごたえを感じていますか?

「(『Skeltal Lamping』に対するリアクションは、)すごく満足できるものだったよ。あのアルバムはすごく型破りな作品だったから、商業的成功を収めるようなことは、ほとんど予想してなかったんだ。でも結果として、セールスは驚くほど良いものだった。新作『False Priest』のリリースも、すごく楽しみだね。ここ数ヶ月、これから始まるツアーのために、入念なステージ準備もしてきたし、新曲を早くプレイしたくてたまらないよ。他じゃお目にかかれない、魔法みたいなステージが準備できたと思う」

__では、最新アルバム『False Priest』について教えてください。まず、作品のテーマは何でしたか?

「テーマっていうほどのものはなかったね。ただ、一年ちょっとかけて書いた僕の曲が、何曲もあったってことさ」

__“False Priest”(偽の/偽りの聖職者)というアルバム・タイトルに込めた意味とは何ですか?

「自分を偽っていたことに対して打ち勝って、人間性を祝福する、といったようなことさ。人と人とをもっと結びつけて、みんなを癒せるようなアルバムにしたかったんだ。一枚のアルバムでそんなことができたら、本当にすごいことだよね」

__楽曲面では、よりファンク~ソウル的なフィーリングを生かした楽曲が増えたように感じました。本作の曲づくりで特に重要視したことは何でしたか?

「一番の影響源となったものは、パーラメントやスライ・ストーン、プリンス、フィリップ・K・ディック、それにクラシックの作曲家、クシシュトフ・ペンデレツキやチャールズ・アイヴズだったよ。このアルバムにおける僕にとっての大きな挑戦とは、ファンクやソウル・ミュージックの生々しい感情的な爆発を、たった一人で、一つ一つの楽器を重ねながら再現することだったんだ」

__どういうことですか?

「ほとんどの古典的なファンク~ソウル・アルバムのサウンドは、それをレコーディングしたミュージシャン達のコラボレーションという要素から生まれてきた。スティーヴィー・ワンダーとプリンス以外の、ほとんどのファンク~ソウル・アルバムは、複数のミュージシャンが、部屋で一緒に生演奏しているところから生まれてきたものなんだ。で、僕はそのサウンドを、完璧にバカげたやり方で、全部自分一人で再現しようとしたのさ。もっとも、それが自分の普段やっている作曲方法だから、そういうやり方じゃなければ、このアルバムは完成できなかったんだけどね」

__なるほど。ちなみに、本作は初めて本格的にスタジオ・レコーディングした作品でもあるそうですね。実際のレコーディングは、どのようなものだったんですか?

「実際のところはそうじゃなくて、アルバムの85%は、僕が一人で、自宅スタジオでレコーディングしたものなんだ。それからLAのジョン(・ブライオン)のところに行って、いろんなシンセやキーボードを足して、さらに素晴らしいセッション・ドラマーにも参加してもらい、すべての曲にドラムを入れてもらった。だから、ほとんどのパート、そして全ての作曲的な要素は、LAに行く前にもうでき上がっていたんだよね」

__部分的に、本格的なスタジオ・レコーディングを導入したわけですね。

「LAでレコーディングした部分は、とてもイキイキしていて、エキサイティングだったから、すごく満足しているよ。あそこでレコーディングを完成させられて、良かったと思ってる。数多くの名作が録音されたオーシャン・ウェイ・スタジオで作業することができたのも、素晴らしかったね。あのスタジオは神秘的で、何か強いエネルギーがある場所のように感じられたよ」

__今作のプロデューサーに、フィオナ・アップルやカニエ・ウェストとの仕事で知られるジョン・ブライオンを起用した理由は何だったんすか?

「実際には、彼がこのアルバムのプロデュースをしたわけじゃないんだけど、LAに行った時、彼が“手伝おうか”って申し出てくれたから、僕はそのチャンスに飛びついたんだ。今回、彼からは、エンジニアのやり方とか、ミックスする際の機材の使い方なんかをたくさん学んだよ。彼は本当に才能のある人だと思う。彼と一緒に仕事ができたのは、素晴らしい経験だったし、光栄なことだった」

__では、今作のサウンドメイキングで特に意識したことは何でしたか?

「ジョンと一緒に仕事をしたことで、より幅広い音のパレットが手に入ったから、このアルバムにはいろんな可能性が生まれたし、大胆な決断をできる機会も生まれたよ。圧倒されるような瞬間をたくさん入れたいって思っていたんだけど、ジョンのミックス技術のおかげで、自分のヴィジョンをたくさん現実することができた。いくつか例を挙げると、「Coquet Coquette」のエンディングとか、「Around The Way」の終盤にあるストリングスなんかがそうかな。こういう部分では、僕らは爆発しそうなポイントまでスピーカーを酷使したよ。それを聴いたリスナーが“一体何なんだこりゃ!?”って感じるような瞬間を、たくさんつくり出したかったんだ」

__今作には、「Sex Karma」にソランジュ・ノウルズ、「Our Riotous Defects」と「Enemy Gene」にジャネル・モネイという、ちょっと意外とも言えるR&B系アーティストも参加していますね。それぞれ、どのような経緯で参加してもらったんですか?

「彼女達二人とは、数年前に友達になって、それ以来それぞれ一緒にコラボを続けているんだ。ジャネルのアルバム『ArchAndroid』(’10)に一曲書いたし、ソランジュにも何曲か書いているよ。僕らは、ライブで何度も一緒にプレイしているし、とにかく良い友達なんだ。彼女達は、どちらも凄く才能のあるシンガー、そしてパフォーマーだと思う。このアルバムで歌ってもらえて、心から嬉しい。今回のツアーは、ジャネルと一緒にまわることにもなってるから、最高のツアーになるよ!」

__本作の中で、あなたが特に気に入っている楽曲をご紹介ください。

「僕のお気に入りの一つは、「Sex Karma」かな。このアルバム用に最初に書いた曲なんだけど、歌詞の中の一節、“you look like a playground”(君って、プレイグラウンドみたい)は、僕の三歳になる娘の言葉でね。そのフレーズがすごく冴えてるって思ったから、それをもとに曲をつくったんだ。もともとは女性にボーカルをやってもらおうって思ってたんだけど、結局自分で歌うことにして、ソランジュにコーラスで参加してもらった。最近、TV番組でコレを演奏した時には、娘がデザインしたタンバリンを振りながら歌ったよ。「Sex Karma」は、子供にふさわしい曲ってわけじゃないとは思うけど、この世界自体、完璧に子供にふさわしいものでもないからさ」

__ところで、今作のジャケットは、前作同様、凝りに凝った豪華なアートワークになっていますね。あなた達が、アルバムのアートワークに力を入れている理由は何ですか?

「これは単に、僕らがプライドを持ってやってることなんだ。ファミリーの中に、僕の兄弟であるデヴィッドと、パートナーのニナという、驚くような才能のイラストレーターが二人もいるのは、とても幸運だと思うしね。デヴィッドとニナは、本当にうまく作品をつくってくれていると思うよ。僕は、アルバム・カヴァーには、いつも愛情と理解を持っていた。例えば、アートワークのイメージなしに、ビートルズの『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド』を思い出すのは難しい」

__そうですね。

「僕は、アートワークとは、作品にそういった想像力や魔法みたいな、別の要素をつけ加えてくれる、とても強力なツールだと思っているんだ。いろんな意味で、アルバムの中に込められた芸術の顔となるものが、アルバム・カヴァーだからね」

__わかりました。では最後に、オブ・モントリオールの次なる目標を教えてください。

「もうすぐ北米、ヨーロッパ、南アメリカをまわる、長いツアーに出る。で、来年の春にはEPを出して、それ以降もツアーをし続けるよ。未来の目標は、曲を書き続け、探究し、探検し、祝福し、勇気づけ、励まし、そして楽しみながら、夢を見続けていくことだね」

translation Nanami Nakatani
text & interview Fuminori Taniue

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【アルバム情報】

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OF MONTREAL
False Priest
(US) Polyvinyl (KSR) / PRC-2002

Tracklisting
01. I Feel Ya’ Strutter
02. Our Riotous Defects (feat. Janelle Monáe)
03. Coquet Coquette
04. Godly Intersex
05. Enemy Gene (feat. Janelle Monáe)
06. Hydra Fancies
07. Like a Tourist
08. Sex Karma (feat. Solange)
09. Girl Named Hello
10. Famine Affair
11. Casualty of You
12. Around the Way
13. You Do Mutilate?

【Official Website】
http://www.ksr-corp.com/label/artists.php?artist_id=18
http://www.ofmontreal.net/

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