SALVA『Complex Housing』インタビュー


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アメリカ西海岸のエクスペリメンタル・ヒップホップ/ベース・ミュージック・シーンで活躍するビートメイカー、サルヴァ。Low End Theoryや、自身が主宰するFrite Niteでキャリアを積んできた、注目アーティストです。

そんな彼が、海外ではFriends Of Friendsからリリースされ、既に高い評価を獲得しているアルバム『コンプレックス・ハウジング』を、この度日本でのみCD化しリリースしました。時代を超越した多様なサウンドが盛り込まれた、正に現在進行形のビートメイキングの世界が楽しめる注目作です。

ここでは、その『コンプレックス・ハウジング』の内容とその音楽的背景について、サルヴァに話を聞いてみました。


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SALVA

米西海岸の注目ビートメイカーがつくり出す、
あらゆるビートを飲み込んだファンキー・コズミック・ミュージック

__まずは、あなたのプロフィールについて少し教えてください。あなたはサンフランシスコを拠点に活動をしていますが、どのような音楽環境で育ってきたのでしょうか?

「僕は、シカゴとその郊外で育ったんだけど、自分の原点は間違いなくあの街になるね。ハウス・ミュージック、フリースタイル、そして当時ゲットー・ハウス——今はジュークとかフットワークと言われるけど――と呼ばれていた音楽にハマっていたんだ。で、高校を卒業した後は、音楽と暖かい天候に引き寄せられて、マイアミに移り住んだ。そこでエレクトロやオールド・スクールなマイアミ・ベースにハマって、TR-808に恋をしてね。ウィンター・ミュージック・カンファレンスでもパーティーを組んだりしてたから、エイフェックス・ツインやオウテカといった、当時のIDMにも興味を持っていたし、USでのドラムンベースは、この頃がピークだったね」

__シカゴとマイアミにいたことがあったんですか。

「その後、ミルウォーキーに少し滞在して、師匠と呼べる人のもとで、ヒップホップ、ファンク、ジャズ、ターンテーブリズムなんかを勉強していった。ボーカルのプロダクションとか、ステージ・パフォーマンスなんかもね。それからサンフランシスコに移って、グライムやUKのダブステップを聴きながら、LAの新しい実験的なインスト・ヒップホップにも興味を持って、これらの全てが、僕のやりたい音楽につながっていったんだ」

__トラックメイキングを始めたきっかけは何でしたか?

「一番最初にサンプラーとターンテーブルを手に入れたのは、15歳の時だった。DJとターンテーブルを使ったパフォーマンスには、ハマったよ。高校を卒業して間もない時も、ターンテーブルのTVばっかり見てて、Q-Bertの『Wave Twisters』(’01/DVD作品)ばかりを聴いてた気がする。で、18か19歳の頃に、MPC-2000を手に入れて、そこからプロダクションとかトラックメイキングに入っていったよ。あれで世界が開いた感じだった。以来、ずっとやっているわけさ!」

__現在の西海岸は、エレクトロニカ、ヒップホップ、ダブステップなどが融合した、独特のエレクトロニック・ミュージック・シーンが形成されていて、<Low End Theory>といったパーティーなどは、世界的に知られた存在となっていますね。あなたがつくり出すサウンドも、そういったシーンとリンクしたものですか?

「最近LAに移ったとはいえ、自分の<Frite Nite>も含めて、サンフランシスコのストーリーを伝えようと思っている。ベイ・エリアには、評価されていない勇者達がたくさんいるんだ。その多くは自分の仲間で、自分がプロモートしようとしているような人達さ。<Low End Theory>はこれからも発信地になるだろうし、どんどん進化していくと思うから、そこに参加し関わりを持っているのは、嬉しいことだよ。でも自分のサウンドは、もっと踊れるものにしたいと思ってる。もっとヘビーで、ファンキーで、バウンスのある感じにしているつもりさ」

__なるほど。

「このアルバム『コンプレックス・ハウジング』には、部屋でビートばっかり聴いているキッズに、もっとアップテンポでファンキーなエレクトロニック・ミュージックに触れて欲しい、という意図があるんだ。僕や、このような音楽をやっているミュージシャンにとって、ジャンルやスタイルって関係ないけど、まだまだリスナー側の心や聴き方を開けると思っているんだよね。レーベルのFriends Of Friendsは、幅広いセンスを持っているから、僕の音楽にもピッタリだった」

__では、そのアルバム『コンプレックス・ハウジング』(Complex Housing)について教えてください。“アップテンポでファンキーなエレクトロニック・ミュージックに触れて欲しいという意図の他には、どのようなテーマやコンセプトがありましたか?

「このアルバムは、タイトルからして言葉遊びなんだ(編注:“Complex Housing”の“house”は、ハウス・ミュージックのことも指していると思われます。もともとは、“housing complex”で、団地・集合住宅の意)。昔のデトロイト・テクノ、ファンク、ハウス、エレクトロ…そういった自分が聴いてきた音楽の要素を抽出しつつ、全てをモダンな解釈で、新しい音を構築したつもりだよ。歴史を辿っている、という部分もあるね。808や909の音がたくさん入っているし、コードの入れ方なんかもそうかな。ファンキーなアナログ・シンセが、ゆっくりとした重低音のトラックの上を流れている…というね」

__音楽的には、バラエティー豊かなビートと、メロディックでコズミックなシンセ・サウンドが結合した、カラフルなトラックが楽しめるものとなっていますね。曲づくりや音づくりで重視したことは何でしたか?

「最近大きな影響を受けているのは、親しい仲間で、よくコラボレートしているB. Bravoだね。彼は、ファンク、ジャズ、ブギーといったディープなバックグラウンドがあるヤツなんだけど、ここ数年、お互いに影響を与え合ってきたと思う。僕は、彼にエレクトロニック・ミュージックの、近未来でコズミックな部分を見せられたと思うし、反対に僕は彼から、シンセのソウルフルでエモーショナルな使い方を学んだ気がする。僕の今の課題は、メロディーとフィーリングを向上させることなんだ。良いビートは、必ず出てくると思う。DJにも使いやすい感じをキープしつつも、もっと音楽的に深めていきたい」

__曲づくり自体は、どのような方法やプロセスで制作していきましたか?

「良い曲は、だいたい自然発生的に生まれるね。一つのセッションですぐ終っちゃう感じ。僕は、最初にコードとリズムを録って、その上にメロディーをソロ・ラインとして乗せるのが好きだよ。で、その後にパーカッションをいじったりする。今回のアルバムでは、色々と実験して、その結果をあえてそのまま残したものもあったね。深夜、早朝までの作業でできた曲が多かったかな(笑)。「Wake Ups」なんて、正にその名の通りだった。そうした作業方法だったから、正直あまり覚えていないんだ! だから、凄く気に入っている曲も、“あれ?これどうやって書いたんだ?”って感じさ(笑)」

__では、あなたの音楽制作におけるインスピレーション源とは、どのようなものですか?

「このアルバムを制作している時は、人生の中で最高な気分だった。ハワイで結婚して、その直後に「Beached」を書いたり、ジューク・ミュージックにハマって、そこから「Issey Miyake」のような曲が生まれたり、グライムの影響から「Icey」のような曲が生まれたり、ブロークン・ビーツにも影響を受けて「Baroque」が生まれたり…とかね。それにアルバム制作前と途中で、僕はジャズ・ピアノを学んだりもしたんだ。「Blue」は、あるレッスンの後に書いた曲さ。普段と違って、先にメロディーが浮かんでね。で、以前リリースした「American Grime」という曲のドラム・パターンをどこかで使い直せないかと思っていたんで、それを少しエディットしてから、他のパーツを重ねていったよ」

__ちなみに、「Issey Miyake」のタイトルの由来は何ですか?

「当然、あの日本のファッション・デザイナーの名前から取っているんだけど、彼のUSで出しているフレグランスが昔から好きでね。この曲は、未来のファッションな感じがするんだ。すごくモダンだと思っている。そこが共通している気がして、このタイトルをつけたんだよね。実はラップがサンプルされたバージョンもあるんだけど、取り外したよ」

__「I’ll Be Your Friend」は、同名のRobert Owensのハウス・ミュージック・クラシックにインスパイアされてつくった曲ですか?

「その通りさ。ボーカル部分を僕が歌いなおして、少し実験的な解釈をしたんだ。昔、大好きな曲だったんだよね」

__本作の中で、あなたが特に気に入っているトラックと、その理由を教えてください。

「僕にとって「Wake Ups」と「Blue」は、このアルバムを象徴する曲だろうね。シンセのメロディーとか、ジャズのコードとか、今の自分の力を最大限に出せた曲になったと思う。友達のZackey Force Funkとやった「40 Karats」も大好きな曲だよ。「40 Karats」は、例の深夜のトリップ状態で書いたヤツさ。超キラキラした、ゲットーでグロスなラップ曲をつくりたかったんだ」

__分かりました。では最後に、あなたの次なる活動目標を教えてください。

「Friends Of Friendsから12インチを出す予定で、その後はUSツアー、海外をツアーする感じかな。自分のレーベルでも新しい音源を出したいと思っているし、西海岸での大きなイベントも、いくつか計画中さ。新しい音源も頑張ってつくっているところさ。日本に近々行けたら最高だよ!」


【アルバム情報】

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SALVA
Complex Housing
(JPN) P-VINE / PCD-93410
8月3日発売
HMVでチェック


tracklisting
01. Beached
02. Wake Ups
03. 40 Karats featuring Zackey Force Funk
04. Keys Open Doors
05. Issey Miyak
06. Baroque
07. I’ll Be Your Friend
08. Icey
09. Weird Science
10. Blue
11. Wake Ups (B. Bravo Remix)
12. Keys Open Doors (Machine Drum Remix)
13. Blue (My Dry Wet Mess Remix)
14. 40 Karats featuring Zackey Force Funk (Lando Kal Remix)

【Official Website】
http://p-vine.jp/artists/salva
http://www.myspace.com/salvabeats
http://soundcloud.com/salva
http://www.fritenite.com/
http://www.fofmusic.net/

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